初デート
先輩達を送りだしてから最初の休日、今日はめぐとデートなんだ。
クリスマスの時も遊んだけど、オレの中では今日が初デートだ。
いつもより気合いを入れてオシャレをしている。朝からなんだか落ち着かなくてそわそわしていた。
彼女とのデート…生まれて初めての事だからな。
家を出る時、母さんに「初めては優しくするのよ」なんて言われたけど無視して家を出て来た。
今日のデートはこの前と同じ街中デート。この前と違うのは彼女と並んで歩くこと。どんな感じなのかは想像出来なかった。
待ち合わせは午前十時、同じ公園の噴水でこの前よりも少し早い時間。
そして、今は午前九時ちょうど。
…………
だって緊張して早く起きたし、家に居ても落ち着かなかったから。
どうしよう…めぐにメールしてみようかな…。いやいや、せっかちな男だと思われたくないし。
うーん…。
「せ、誠二くん?何してるの?」
うわ!め、めぐ!?何してるのって…。
オレはさっきから携帯を握りしめて噴水の周りをグルグル歩いていた。
「いつから見てた?」
「うーん…五分くらい前かな。声掛けようとしたら噴水の周り歩き始めたから見てたよ」
…五分もうじうじしてたオレを見られていたのか…。
「何か観察してたの?」
めぐ、かわいいよ。
「いや…それにしても早いね」
「き、緊張しちゃって早く起きたから…」
めぐが恥ずかしそうにうつむいて言う。
「実はオレもそうなんだ」
「そ、そうなの?なんか可笑しいね!」
それにしても今日のめぐは一段とかわいい。
だんだん暖かくなってきてコートはもう着ていない。白いシャツに少し茶色いジャケットを着ていてジーンズを穿いていた。少し化粧もしていて大人っぽく見えて違う雰囲気だけどそれがまたいい!
「めぐ…かわいいよ」
「は、恥ずかしいよ。もう…」
たまらないなぁ…。
「時間早いけど行こうか?」
「うん!」
そうやってアーケードの方に歩き出したところだった。
「あ、待って!誠二くん!」
めぐはオレを引きとめてオレの左手を取り、自分の右手で握った。
「えへへ…行こ!」
なんか…いいなぁこういうの!
そのまま手を繋いで歩いて行く。
このままいつまでも手を取り歩いて行きたい。そう思った。
ただ歩いているだけでも楽しい。
別に何もしなくても、めぐと手を繋いで歩いて、話しして、それだけでも十分だった。
「誠二くん、またあそこ寄っていい?」
この前にも行った雑貨屋だった。
「うん、行こう」
まだこの前見た身体の相性占いの本あるかな?
オレは中に入るとその本を探してみた。
……あった。
全く同じ場所に並べられていた。
今度はめぐが見ていたであろう、隣に並べてある恋人相性占いの本を見る。
オレとめぐは…。
八十五パーセント…。
まずまずだな。っていうか身体の相性より低いってどうよ?
「あっ…その本見てたんだ」
「相性いいね、オレたち」
「…ど、どっちの?」
いやいや、この本見てるじゃん。
「どっちって?こっちだよ?」
そう言って手に持っている本を見せる。
「っていうかどっちって恋人以外の何の相性?」
分かっているけどわざと聞いてみる。
「え…そ…それは…。もう!誠二くんの意地悪!」
「意地悪って…何のこと?」
楽しいかも…!
「もう!知らない!」
えっ!?あ…。
めぐは怒ってどこかに行ってしまった。
調子に乗りすぎたかな…。
ちゃんと謝ろう。初デートでいきなりケンカなんてしたくないし。
どこに行った?店の中にはいるはずだけど…。
しばらく店内を見回っているとめぐを見つけた。
「めぐ!」
めぐはオレの方を見たけどすぐに目線を反らした。
「めぐ、悪かったよ、そんなに怒らないでくれよ」
「知らない」
「どうしたら許してくれる?」
「そうだな…私のお願い一つ聞いてくれたら許してあげるよ」
お願い?なんだろ?めぐのことだから何か変なお願いかもな…。
「い、いいよ。何でも聞くから許してくれよ」
「じゃあ、いいよ!」
そうやってめぐはまたいつもの笑顔に戻った。
「めぐの怒った顔初めて見たけど、怒った顔もかわいかったな」
「そ、そんなこと言ったって誤魔化されないからね」
そう言いつつもめぐは恥ずかしそうに顔を伏せていた。
「それで、お願いって?」
「またプリクラ撮ろう?」
うっ…プリクラか。相変わらず苦手なんだよな。
「わかったよ、じゃああとでまたゲームセンター行こうな」
「うん!」
やっぱり嬉しそうなめぐがいいな…。
その後しばらく店内を見て回っていた。
「ねぇ誠二くん」
ん?
「なに?」
「この携帯ストラップかわいいと思わない?」
めぐはそう言って一つのストラップを手に取りオレの目の前に下げた。
「うん、かわいいと思うよ」
「じゃあお揃いでストラップつけようよ!」
「あぁ、もちろん……あっ…!」
自分の携帯を取り出した時に、オレがつけているストラップが美香からもらった物だと思い出した。
「めぐ、ごめん。このストラップさ、美香からクリスマスプレゼントにもらったんだ。イヤなら外すけどつけててもいいかな?大事にしたいんだ」
「……いいよ。じゃあお揃いは別のものにしよう!」
美香がくれた最後のプレゼントなんだ。大事にしたい。
「ごめんな、めぐ」
「いいよ、美香ちゃんは誠二くんにとっても私にとっても大事な友達だもん」
めぐははにかんだ笑顔で答えてくれた。分かってくれてるみたいでよかった。
その後、何かお揃いで物が欲しいと探していたけど、結局また今度ということになった。
「少し早いけど、お昼にしようか」
「そうだな、早く起きたからお腹空いたな…」
「誠二くんが食べたいものでいいよ!」
食べたいものか…。むしろオレにとっては食べきれるものだな。好き嫌い治さないと。
「めぐは好き嫌いないの?」
「見た目がグロテスクなものはダメかな」
めぐらしいな。
それから近くにあったパスタ料理屋に入った。
デートなんだから少しでもオシャレな感じにしようかと思ってさ。
オレは嫌いなものが入っていないぺペロンチーノ、めぐはシーフードパスタだ。オレには絶対無理なパスタだな。
料理が運ばれてくる。
「誠二くん、こんな美味しいの食べれないなんて人生の半分は損してるよ?」
その言葉、もうイヤというほどみんなからも聞いたよ…。
「でも、そんな問題、めぐと出会えたことで帳消しだよ」
好き嫌いとは何の関係もないけど…。
「む~…そうだね」
納得したね、納得しちゃうんだね。
そしてパスタを食べ終えて店をあとにした。
食事はオレのおごりだ。
「誠二くん、デザートは?」
「ん…何食べたい?」
「ケーキ!」
子供みたいに目を輝かせて言った。
少し離れたところに有名なケーキ屋があるのでそこに連れて行く。
途中でめぐは「ケーキ♪ケーキ♪」とホントに子供みたいだった。高校生なんだけどその様子が違和感なく見えたのがなんともめぐらしい。
「うわぁ、人多いね」
「ここ、結構有名みたいなんだ。初めて来たけど」
「ところで誠二くんケーキって大丈夫なの?男の人って甘い物苦手なイメージがあるから」
「甘い物好きだよ。コーヒーも甘いやつじゃないと飲めないし」
「ふふ…本当に誠二くんはお子様だね」
子供になってめぐに甘えたいよ。
メニューを眺めて、オレはティラミスとコーヒーに決めた。
「めぐ、決まった?」
「うん!これがいい!」
ん…超巨大パフェ…。
まぁありがちだよね。
値段は…四千円!?
「ほ…本当にこれにするの?」
「うん。だってほら…」
めぐが指差したところを見ると、”二十分以内に食べたらタダ”と書いてあった。自信あるんだろうな。
そして超巨大パフェを注文すると店員さんが驚いたように確認してきた。あんまり挑戦する人はいないみたいだな。
「楽しみだね!誠二くん!」
「ケーキ食べたかったんじゃなかったの?」
「だって気になるんだもん」
いいんだけど食べきれなかったら四千円だよ?財布の中身を確認したい…。
でも…そんな心配は無用だった。
オレが注文したケーキとコーヒーが届いた。さすがに超巨大なものは時間がかかるようだ。
「先にいいよ、誠二くん」
そう言われたので先に頂くことにした。
ケーキはさすがに有名なだけあっておいしかった。オレはあっさり食べ終わりコーヒーを飲んでいるところでパフェが届いた。
めぐが…めぐが消えちゃったよ。
テーブルを挟んで向かい合って座ってたんだけど、運ばれてきたパフェでめぐが見えなくなってしまった。いや、これ四千円でも安いんじゃないの?普通のサイズの十倍…いや、もっとあるか?中身は全部のデザートが入ってるんじゃないかって言う程ぎっしり詰まっていた。
「めぐ、どうするの?これ?」
「え?食べるよ?」
めぐは本当に「何言ってるの?」みたいな顔で当然のように言った。
「それでは今から二十分間です。よ~い、スタート!」
店員さんの掛け声でめぐは食べ始めた。そんなにスピードは早くないけど、ペースはおちることなく進んで行く。オレは見ているだけで胸やけしそうだった。
そんなに小さい体によく入るなぁ。
うわっ!もう半分…!まだ五分しか経ってないよ?
あらら、店員さんもびっくりしているご様子で。初めてなんだろうな、ここまで平気で食べる人。
あ、ペース落ちてきた。でももうちょっと!
頑張れめぐ!ここまできたら応援しないと!
ほら!もう少し!
よしっ!よしっ!よしっ!
やった!完食だ!
「店員さん、間に合いました?」
オレは時間を確認してみた。
「じゅ、十五分で完食です…」
早っ!めぐは大丈夫なのか?
「あ~、おいしかったぁ」
平気そうだ。
「よく入るなぁ。さっきお昼済ませたばかりなのに」
「甘い物は別腹なんだよ?誠二くん知らないの?」
いや、確かにそう言うけど入る腹は一緒だから。例え別でも無理でしょ。
「そんなに食べてよく太らないなぁ」
「いつもこんなに食べてるわけじゃないよぉ」
その後、店員さんに写真を、と頼まれていたけれど、めぐは恥ずかしがって断った。
「そろそろ行こうか」
「プリクラに?」
うっ…ついにきたか…。
「とりあえずゲームセンターだな」
そしてこの前のゲームセンターに。
その途中も手を繋いで歩く。まだ慣れなくて照れくさいけど幸せな気分だった。
そしてゲームセンターのプリクラへ。
うーん…やっぱりこの空間がなんとも…。
もうめぐとも二回目だから幾分かはマシだけど、それでも落ち着かなかった。
「誠二くん、もう恋人同士なんだから…」
めぐはそう言って背中からオレを抱きしめる形になる。
「めぐ、恥ずかしいよ…」
「えへへ…」
パシャッ!
そのポーズで一枚目。
「今度は誠二くんがして?」
逆になり二枚目。
心臓がバクバク激しい…!背中を通してめぐにわかっちゃうよ!
オレの胸がめぐの背中にぴったりとくっついているから心臓の鼓動が伝わる。
「誠二くん…すごくドキドキしてるね…」
だってこんなに近くにめぐが…それに二人っきりの空間…。
シャンプーの匂いがいい香りだし。
「でも…私もなんだよ?」
そう言って顔を真っ赤にして振り向き照れくさそうな笑顔を見せた。
顔が近いよ…。
さらに心臓の鼓動が高まる。
「誠二くん…」
めぐは上目使いでオレを見る。
「めぐ…」
めぐが体を傾けてオレの方を向く。
「誠二くん…」
めぐが目を閉じる…。
そして…。
キスをしたんだ…。
「ん……」
めぐが小さくもらす。
頭が真っ白だった。
何も考えずに自然とキスをした。
そして抱きしめていた。
その間がどれくらいの時間だったかはわからない。何も考えられなかった。
「誠二くん…。嬉しい…」
「めぐ…」
そうやってまたきつく抱きしめる。
「あっ…。えへへ…。誠二くん大好き」
そうしてまたキスをした。
「めぐの唇、柔らかい…」
「な、なんかえっちだよ?誠二くん」
その言葉にカァッっと顔が真っ赤になるのを感じた。
「そ、そうだ!プリクラは?」
オレは慌てて誤魔化した。
「あっ…。撮影終わっちゃったみたい」
そっか…なんかイチャイチャしてただけだったな。
撮影ブースを出てらくがきコーナーへ。今回もめぐにまかせっきりだ。オレはまた近くのベンチに腰掛けて待っていた。
キス…しちゃったな。
めぐが愛しいよ。
大好きだ。
「お待たせ!」
めぐが戻って来た。今度は出来上がったプリクラを見せてもらう。この前は見せてもらってないしな。
「なっ…!」
四種類のプリクラが出来上がっていて、二種類はお互いに背中から抱きしめているプリクラ。あとの二種類はキスしているプリクラだった。
らくがきには”初デート”とか、”初キス”なんて書いてあった。
「はい!誠二くんの分!」
めぐは備え付けてあったハサミで切り取り、半分を渡してくれた。
オレは渡されたプリクラをじ~っと見つめていた。
「二人の初デート記念だね!」
そう言ってめぐは笑いかける。
「うん。めぐ…大好きだよ」
めぐは顔を赤くして微笑んだ。
「誠二くん…あと、これ…」
「ん?」
めぐは何かをオレに差し出した。
「これって…」
それはこの前二人で撮ったプリクラだった。らくがきには”私の大好きな人”と書いてあった。
「もう見せられるから」
だからあの時は見せてくれなかったのか。
「ふふ…めぐはかわいいな」
その後はまた二人でゲームをした。めぐがムキになっている姿が可笑しくて笑ってしまった。
…
……
「あはは!あー遊んだ遊んだ!」
外はいつの間にか薄暗くなっていた。
もう帰らないとダメなのかな?
もっと一緒に居たい。
そんな雰囲気を感じたのかめぐはうつむいている。
「誠二くん、少し歩かない?」
「うん…」
そうして、歩いて待ち合わせ場所だった公園までやって来た。
もうだいぶ暗くなってきている。
公園まで来る間はあんまり会話はなかった。
二人ともこの後離れなくちゃならないことが分かっていたから。
ベンチに座った。
バス停は公園のすぐ近くだった。
「もう暗いね」
「うん…」
また学校で会える。
そう思うけれどやっぱり寂しい。
「誠二くん。プリクラ、携帯に貼って?それでお揃いにしよ?」
そっか、そうだな。
「うん」
そうやって同じプリクラを携帯に貼った。
「えへへ…。嬉しいな。誠二くんと同じ」
そう言いながらオレの肩に寄りかかってきた。
「少し…寒いな」
「じゃあ…」
オレはめぐの肩に腕をまわして自分の方へ寄せた。
…………
しばらくの沈黙…。
「帰らなくていいの?その…めぐの親は何も言わないの?」
「私…親いないんだ」
えっ!?
そういえば前に何か言いかけてたけどこの事だったのかな?
「ごめん…」
「ううん、いないっていうか、正しくは家に居ないの。結構有名な奏者だからあちこち飛び回ってて。だから家ではほとんど一人なんだ。兄弟もいないし」
そうだったのか…。
「でも、誠二くんの親が心配するでしょ?そろそろ帰らないと…ね」
「うちの親はあんまり…」
「…じゃあ、もう少しこうしてていい?」
「あぁ、いいよ」
それから他愛のない話しをしたりして時間が過ぎていった。
「めぐ、今度家に遊びに来ない?母さんにも紹介したいし」
「えっ!もうお母さんに…?き、気が早いよ、誠二くん」
「……彼女としてね?」
「あっ!そ、そうだよね!あはは……」
…まさか結婚とか考えてたりするのか?
「じ、じゃあ今度お邪魔しようかな。でも迷惑じゃないかな?」
「大丈夫だよ」
「…なんか、誠二くんが”大丈夫”って言ったら安心するな」
まぁ、母さんがいろいろうるさいだろうけど…。
「…そろそろ帰ろうか。あんまり遅くなるとバス下りてからが危ないからさ」
「…うん」
立ち上がりバス停まで送ろうとする。
「…誠二くん」
めぐがオレの服の裾を引っぱっていた。なにやらモジモジしている。
「どうしたの?」
上目使いでオレを見ている。
「キス…して?」
――ぐっはぁ!!
モジモジしながらの上目使いでのそのセリフがこんなに強烈だとは!
「…じゃあ、目つぶって?」
…………
「んっ……」
そして今日三回目のキスをした。
「えへへ……大好き」
それからバス停まで送りめぐは帰って行った。
今日はいろんなことがあった。
めぐの怒った顔も見たし、めぐの異次元の胃袋にも驚いた。プリクラも撮って、そして、キスしたんだ。
今日のことを思い返しながら家に帰っていた。
「ただいま」
「遅かったじゃない。…その様子じゃまだみたいね」
何のことだよ。
夕食中もいろいろ聞かれたけど、今度連れてくるって言って黙らせた。
部屋に行って今日撮ったプリクラを眺める。
まいったな…。
顔が自然にほころんでしまう。
こんな気持ち、初めてだな。
これが恋なんだな。
めぐと付き合うまでは苦しくてたまらなかった。いろんなことが切なくて、苦しくて…。悩みに悩んで…。
でも、今はそれ以上に愛しくて…。
美香が居て、勇介が居て、みんなが居たから今のオレとめぐがある。
そんな気がしたんだ。