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初詣

 新年、明けましておめでとうございます。

 わたくし椿誠二は無事に新しい年を迎えることが出来ました。

 ただ今の時刻は午前五時。

 そして今居るところは近所の神社。

 そう、初詣に来てるんだ。

 毎年、美香、勇介、渉の四人で来てたんだけど、今年は渉はパソコン部の先輩たちと初売りに行くそうなのでいない。今一緒にいるのは美香と勇介なんだ。あとで紗耶香と相田さんもこっちまで来るみたい。

「毎年のことながら人多いよねー」

 ホントに。この街にはこんなに人がいたのかっていうくらいの人が初詣に来ている。

「誠二くん」

「あ、明けましておめでとう、相田さん」

「あけおめ、誠二」

「おう、明けましておめでとう、紗耶香」

 二人が合流した。

「おめでたくないわよ、何でこんな早起きしてわざわざこっちにまで…」

「紗・耶・香・ちゃ~ん?」

「あ~~!早起きって三文の徳っていうしね!」

「そうそう、紗耶香ちゃんもみんなと初詣行きたいって言ってたしね~」

「は…はは…」

 何やら相田さんと紗耶香が微妙なやりとりをしている。ここまでは紗耶香のお父さんに送ってもらったらしい。

「二人とも明けましておめでとう」

 美香も続けて新年のあいさつをした。

「明けましておめでとう。美香ちゃん」

「明けましておめでとう」

 女三人、見事な晴着ってわけじゃなくて残念ながら普段着だ。

「さて、初詣済ませちゃおうか」

「お~い、オレは今年も忘れられてるのか~?」

 勇介の扱いは今年も変わらずってことで。

 ま、これでみんな新年のあいさつも済んだことだし、初詣を済ませますか。

 長い初詣待ちの列にみんなで並んだ。

 それでも思ったより時間はかからずに三十分程度でオレたちの順番はまわってきた。

 チャリ~ン♪

 お賽銭を入れて今年の願い事をする。

 オレの願い事は…世界平和。

 なんてことじゃなく、”みんなといつまでもこの楽しい関係が続きますように”…と願い事をした。

 かっこつけて、なんて言われるかもしれないけど正直な気持ちなんだ。

 美香も多分みんなのこととか願い事してるんじゃないかな。そんなやつだから。

 相田さんはどうだろう?よくわからないな。

 紗耶香は相田さんのことか?

 勇介は…。

「さーて、初詣も済んだし、おみくじでも引きに行こうか!」

 紗耶香はやっと終わったっていう感じで背伸びをして言った。

「おう。でも、あいつまだ願い事してるぞ?」

 勇介だけいつまでもずっと手を合わせたまま境内に立っていた。オレたちのあとにも何人かの参拝客が済ませているのに。

「ほっときましょう。いちいち待ってらんないわよ」

 相変わらず冷たいよな、紗耶香は。

「賛成」

「わ、私も」

 おう、美香と相田さんまで。

「はぁ…一応伝えてくる」

 ま、全員一致だからな。

 そしてオレは人ごみをかきわけ勇介のもとへ。途中、周りの人たちに迷惑がられながら進んで行った。

「おーい、オレらおみくじ引きに行くからな」

「…………」

 聞いてるのか聞こえてないのか。

「伝えたからな」

 オレはそのままみんなのところへ戻った。

 ずいぶん熱心だな、あいつ。どうせろくでもないこと願ってるんだろ。ま、女関係だな。

 神社には売店があって今年の干支の絵馬やお守り、おみくじが売られていた。

 やっぱり賑わっててここも順番待ちだった。

「あーもう、さっさと進んでよ」

 紗耶香はそんな悪態つきながら待っていた。  

「まぁまぁ紗耶香ちゃん。こんなのもお正月らしいよ」

 それを相田さんがなだめる。

 よく見る光景だった。ホントにいいコンビだよな、この二人って。

「本当に仲良いよね、紗耶香ちゃんと恵ちゃん」

「そうだな」

 それを見ていた美香が微笑みながらそう言った。

 こんな、何気ないことなんだけどこれが心地良い。

「置いてくなんてひでぇぞー」

「あんたがいつまでも突っ立ってるからでしょ!」

 それに勇介が加わる。

「だってよー、今年一年の願い事だぜ?いくらでもあるだろ?」

「欲張る奴の願いなんて叶えてくれないさ」

「うっせー誠二。お前は何願い事したんだよ」

「お、教えるかって」

「ははーん、お前だって変な願い事してんだろ?オレと同じさ!」

 お前、変な願い事してたのか…。

 オレのなんて恥ずかしくて言えるかっての。勇介とは違う意味でね。

「ほら二人とも、もうすぐだよ」

 売店の順番が回って来ていろいろ見てたけど、後ろで待ってる人が気になって結局おみくじだけ買うことにした。

 全員おみくじを買って少し人ごみを離れた。

 そしてそれぞれ自分をおみくじを確認する。

 オレは……中吉!

 ま、まぁまぁだな。初めてだ、今まではずっと大吉だったからこういうのって全部大吉なんだと思ってた。

「みんなどうだった?」

「「「大吉!」」」

 おうっ。

 女性陣三人が声を揃えて言った。そんなもんだよなー。

「誠二は?」

「ん、中吉」

「ぷっ、中途半端ね」

「なんだと紗耶香!吉は吉だ!」

「でも私の勝ちー」

 何でも勝負かよ…。

 ん?

「勇介、お前は?」

 勇介は一人肩を落としていた。

「聞くな、わかるだろ?」

「まさか…きょ…」

「…………」

 こいつは驚いた!凶なんて引いたの初めて見たぜ!

「…ぷっ……ゆ、勇介……い、良いことだってあるさ…ぷぷっ…」

「く…笑いたきゃ笑え!」

「ぷっ…ぶぁっははは!」

「てめぇー!!」

「ははははは!!」

 神様!新年早々ありがとう!

 オレは勇介に追いかけられて人ごみに紛れるように逃げ回った。

 そして――――

 残された三人は…。

「もうっ、ほんっとあの二人は昔っからああなんだから」

「あの…み…美香ちゃん」

「何?恵ちゃん」

「あっ!めぐ、私知り合い見つけたから挨拶してくるね!」

「紗耶香ちゃん……うん。行ってらっしゃい」

「じゃあ後でね、美香ちゃん」

「うん」

「…………」

「えっと…恵ちゃん、どうしたの?」

「ちょっと聞きたいんだけど…」

 …この時の二人の話しが、あとでオレを悩ませることになる。

 オレは何も知らなかったんだ。

 …………

「うん…わかった。じゃあ恨みっこなしだね」

「…ごめんなさい」

「いいの。どうせ私だって…」

「はぁっ…はぁっ…あれ?紗耶香は?」

 オレは勇介から逃げてまた戻ってきた。

「なんか知り合い見つけたって挨拶に行ったよ」

「ふーん、あれ?二人ともどうしたの?」

「な、なんでもないよ!」

「あはは…堀川くんは?」

「ん、人ごみの中に消え去ったよ」

 なんとなく二人の雰囲気の違いだけは気がついた。だけど、その時には気にも留めなかったんだ。この時に聞いていれば…。いや、何も変わらなかっただろう。

 それから紗耶香と勇介も戻って来て今からどうしようかと話していた。

「あっれー?みんなお揃いだ!」

「ホントだ~」

 え?

「あ、理恵先輩、アリサ先輩、明けましておめでとうございます」

「あけおめ~」

「おめでとー!みんなもう初詣済んだの?」

「はい、みんな済ませましたよ」

「じゃあ私たちも済ませてくるからそのあとみんなで遊ぼうよ!」

「オレは別に構わないですけど…」

「めぐと私は帰りはバスだから時間あるわよ」

「私もいいですよ。どうせ勇介も暇でしょ?」

「オレは予定があろうとこちらを優先する」

 みんな大丈夫みたいだな。

「決まりですかね」

「じゃあ誠二くん家行こう!」

「何でオレん家!?」

「近いし、行ったことあるし」

「はぁ…いいですけど…」

「じゃ、早いとこ済ませてくるから!」

 理恵先輩とアリサ先輩はどうやってか本当にすぐ戻って来てみんなでオレの家に向かった。

 正月らしい遊びなんて何一つせず、みんなで話してゲームして、いつか見た光景だった。

 新しい年が始まり、気持ちも少し新鮮なものになった。

 オレにとってはこの年が生涯で一番の思い出になった年かもしれない。

 



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