デート?
クリスマスが終わり、もうすぐで年が明ける。
部活ももう年末年始の休みに入っていた。
そして今日はクリスマスパーティーでの相田さんとの約束を果たす日なんだ。
今日は柳ヶ浦町商店街の公園の噴水前で待ち合わせしている。待ち合わせの時間は午前十一時。そして今は午前十時半。
オレはすでに待ち合わせ場所で待っていた。
なんなんだろうな、美香と一緒に遊びに行ったりするのとは違って朝からそわそわしていた。
でも三十分も早くなんて…寒い…。
「誠二くん?」
「え?あ、相田さん」
寒くて肩をさすっていると後ろから相田さんが声を掛けて来た。相田さんは声を掛けたにも関わらず驚いていた。
「早いね、相田さん」
「誠二くんこそ。わ、私は…その…早く…会いたかったから…」
え?早く会いたかった?そう言ったのか?
「相田さん、今なんて?」
「え!?は、早く遊びたかったからって!や、約束は一日なんだし」
ああ、そういうことか。
それにしても今日の相田さんはかわいい。いや、いつもかわいいんだけどね。
うっすら化粧をしていてなんだか大人っぽく見えた。
「あ、その手袋…」
相田さんがオレの手を見て言った。
「使わせてもらってるよ。すごくあったかい」
「うん!……へへ…」
「ところで、今日は何するの?」
「えっ、あ、あの…特に…決めてない…」
え?何か用事があったんじゃないのか?そういえばさっき遊ぶって…。
「じゃあ…とりあえずアーケード行こうか。ここじゃ寒いし」
「うん!」
それからオレと相田さんはアーケードに向かって並んで歩き出した。
美香以外の女の子と二人でここに来るのって初めてだな。新鮮だ。
相田さんは笑顔でオレの横を歩いていた。うん、悪くない!
どうなんだろう、これってやっぱり周りから見るとカップルに見えるのかな?美香と歩いてた時もそうか。でも、やっぱり違うんだよな。
「ごめんね、誠二くん。私遊べるところとか詳しくなくて…」
「そんな。今日は相田さんに付き合う約束なんだからオレのことは気にしないで相田さんが行きたいところに行っていいよ」
「それじゃあ誠二くんが疲れるだけだもん。誠二くんも何かしたいことあったら言ってね?」
「うん…わかった!」
それからしばらく話しながらアーケードの中を歩いていた。相田さんはここに来るのは初めてなんだろうか、きょろきょろしながら歩いていた。
「相田さん、ここは初めて?」
「うん」
「今日はここに来たかったの?」
「そうじゃないけど、誠二くんの家に近いとこがいいかなって」
オレに気を使ってたのか…。
「あ…イヤだった?誠二くんなんていつも来てるだろうし…」
「そ、そんなことないよ!実は地元だからこそあんまり来ないってのもあるしさ。オレもこの前久しぶりに来たところだったし」
「そっか。あ、あそこ寄っていい?」
相田さんはそう言いながら雑貨屋を指差した。
雑貨か…女の子ってそういうもの好きなんだよな。
もちろんオレは了解してその雑貨屋に向かった。
中はいろんな小物や本、生活雑貨やキャラクター商品などが所狭しと並べられてあった。
「うわぁ、これかわいいよね?」
相田さんが手に取って見ていたものはカエルの形をした弁当箱。ちょっと弁当箱にしては大きいかなっていうくらいの大きさだった。大きい目にまでおかずを入れられるようになっていた。
「そ、そうだね」
かわいいって言えばかわいいけどあんまり実用的じゃないような気が…。いやいや、そんな現実的なこと言ってたら全然面白くないよな。
相田さんはいろいろと興味深そうに見まわっていた。シャレている物よりもかわいい物をよく見ていたな。
そして何かの本をじ~っと立ち読みしていた。
「誠二くん、誕生日いつ?」
「え?六月二十二日だよ」
「…………」
「何読んでるの?」
「えっ、あ、あの…これは…」
相田さんが立っている目の前にはいろんな相性占いの本が並べられてあった。
まさか…オレとの相性を見てたのかな。いや、それを話題にしようってことかも。
「相田さんの誕生日は?」
「し、七月十七日だよ」
ふーん、どれどれ?
「あっ、その本は…」
オレも一冊の本を手に取って相性を調べてみた。
えーと、オレと相田さんの相性は…。
「九十パーセント。相性いいね、オレたち」
「え…えっちだね…。誠二くん」
え、エッチ!?何のこと…?
この本って…。
”身体の相性誕生日占い”
「なっ!」
なんて本を置いてるんだ!だいたい誕生日なんかで身体の相性なんてわかんのかよ!
「あ、相田さん。これは間違えて…」
「私たち、相性いいんだぁ…そっかぁ…ふぅ~ん…」
相田さんは目をトロ~ンとさせて何かつぶやいている。
「あの、相田さん?」
「うふふふふ…」
いかん、相田さんがどっかに行ってしまった!なんだ!?変なスイッチが入ってしまっている!
「あ、相田さん!そういえばお腹空かない?」
「お腹…?あ…空いたかも…」
「ち、ちょっと早いけどお昼にしようか?」
「うん、いいよ」
よかった…相田さんが戻ってきたみたいで…。
「お昼、何にする?」
「誠二くんが決めていいよ」
うっ…。
オレに振られたか…。オレは前にも言ったように偏食がひどいからこんなときは大体人に任せて、その行ったところで食べれるものを食べてたんだ。
「オレ…好き嫌い激しいよ?」
「えー…たとえば?」
「生もの、魚介、野菜全般!」
「…………」
あー…さすがにひかれたか?
「あっははは!なにそれー!誠二くんお子様だね!おっかしー!」
相田さんは腹を抱えて涙目で笑い出した。
「い、いや…だって…」
「うふっ、かわいいとこもあるんだね。誠二くんが食べれるものがあるとこでいいよ、私は好き嫌いそんなにないから」
「じゃあ…ファミレスでもいい?」
「うん!」
相田さんは笑顔で頷いてくれた。相田さんがあんなに笑ったところなんて初めて見たかも。
かわいかったな…。
「誠二くん、顔真っ赤だよ。恥ずかしかった?」
「い、いや…」
まーたやったな、オレ。
「ふふふ、行こう?」
「う、うん」
からかわれてもイヤな気分はせず、近くのファミレスに向かった。
ファミレスに入るとカップルや家族連れで賑わっていた。もう年末年始の休みに入ってるから人が思ったよりも多く、スタッフの人たちは忙しそうに動いていた。
席に案内され、メニューを開く。
「うわぁ、どれもおいしそう」
「決まったら教えてね」
「誠二くんと同じものでいいよ」
そりゃ困ったな。オレが食べれるのなんてそう多くないし…。
「ハンバーグ定食でいい?」
オレは一番無難なメニューに決めた。
「うん!いいよ」
そしてベルでスタッフを呼び注文する。
しばらく相田さんと話しているうちに注文したハンバーグ定食を持ってスタッフがやってきた。
「お待たせしました」
目の前にハンバーグ定食が置かれる。
美香以外の女の子と外食も初めてのことだ。
「いただきまーす」
相田さんはにこにこしながらハンバーグにナイフを入れていく。
なんか、いちいちかわいいよな。
「や、やだよ誠二くん。あんまり食べてるとこ見ないで…」
ぐっはぁ!
いい!いいね!
恥ずかしそうにそう言う相田さんを見て心の中でガッツポーズを決めた。
ハンバーグ定食、オレが食べれるのはハンバーグとご飯こらいなもので、添え物のニンジンとかは食べれない。
「あー、残してるー」
「うっ…」
「いいよ、私が食べてあげる」
そう言って相田さんはオレが残したものをパクッと口にほおり入れた。なんだか子供扱いされてるようで少しだけ恥ずかしくなってしまったんだ。
「ふふふ、誠二くんはお子様だねー」
「そ、そんなこと言わないでくれよ」
「あははっ、恥ずかしいんだ?」
そうやって意地悪そうに言う相田さんにオレは何も返すことが出来なかった。
「こ、これからどうしようか?」
オレはたまらずに話題を変えた。
「えー…うーん…誠二くんは何かしたいことない?」
「オレ…?」
そうだなぁ、二人とも楽しめることがいいよなぁ。
ボウリング…相田さんは運動苦手だし…。カラオケ…なんか今日は乗り気がしないな。ショッピング…相田さんがオレに気を使うだけかも。映画…今何が上映させてるんだ?ゲームセンター…ん?いいんじゃないか?
「ゲーセンでも行く?」
「ゲームセンターかぁ…」
ダメかな?
「うん!行こう!」
相田さんも考えたあとに快く了解してくれたのでゲーセンに行くことに。
「ここは出すから」
レジでオレが会計を済ませようとしていた。
「え?ダメだよ。私も払う」
「ほら、クリスマスプレゼントのお礼ってことで」
「それは今日の…」
「ね?」
「…うん、わかった。じゃあごちそうさま、誠二君」
相田さんは申し訳なさそうに笑っていた。
ファミレスの外に出て再びアーケードの中を肩を並べて歩く。温まった体も外に出るとあっという間に冷え切ってしまう。
寒さも後押ししてオレと相田さんは少しだけ急ぎ足でゲーセンへ向かった。
ゲーセンの中は冬休みだけあってオレたちと同じ年頃の人たちが多く遊んでいた。中は結構広いのにその人の多さのせいもあって窮屈に感じられる。
「誠二くん、あれやって」
入口のすぐそばに置いてあったのはオレが得意としているゲーム、”太鼓の鉄人”だ。
「一緒にやろうか」
「私こういうの苦手だから見てるよ」
一人でやるのか…。まあいい、久しぶりの実戦で腕がなるぜ。
オレはコインを入れ、もっとも得意としている曲を選んだ。
「相田さん、これのルールわかる?」
「うん、誠二くんの家でも見てたし」
なら大丈夫だな、さあ、かっこいいところを見せないと…!
ゲームが始まりオレは順調にリズムを叩いていく。
ドンドンドンドンカカカッドン!
フッ、決まったな。
「すごぉーい!一度もミスしてない!」
当たり前だよ相田さん、オレはこの曲を見なくても叩ける程練習したんだぜ。
「ほら、次は相田さんの番」
「え!?わ、私?うーん…」
「せっかくなんだし」
「…うん、じゃあ一回だけ」
「よっし、有名な曲もいくつかあるからわかるのを選んだ方がやりやすいよ」
「うん。それじゃあ…」
相田さんがそこで選んだ曲はクラシックの曲だった。そうだよな、J-POPの曲よりもクラシックとかの方がわかるんだ。
相田さんは少し不安そうな顔でゲームが始まるのを待っていた。
そして――――
ドン!ドン!カッ!ドン!
うまいうまい!いい感じ!
あっ、ミスった!
…そうそう、リズムに乗って~。
カッカッドン!
「う~、だめ~、やっぱり出来ないよ~」
「あははっ、いい感じだったよ、相田さん」
「そうかなぁ?でも、パーカッションって難しいんだね」
「はは、また違うもんだよ」
「ううん、誠二くんってすごいね」
「相田さんに褒められるなんて光栄だな」
うーん、なんか楽しくなってきたな。
「じゃあコインゲームでもやろっか。二人で出来るし」
「うん!」
それからいくつかのコインゲーム、クイズゲームやリズムゲームをして遊んだ。
うまくいかなくってほっぺたを膨らませたり、うまく出来た時なんかはとび跳ねてはしゃいだり、相田さんのことを見ているだけでも楽しかった。
「あっ、ねぇねぇ誠二くん。あれかわいくない?」
「え?」
相田さんはクレーンゲームのコーナーでカエルのぬいぐるみを見て言った。
またカエルか…。
「相田さんってカエル好きなの?」
「そういうわけじゃないんだけどあれは目がかわいいなって」
そうなんだ。よし、それなら。
「じゃ、頑張ってみますか!」
「誠二くん取れるの?」
「ま、見ててよ」
自信はある。ひっかけやすそうだし。そう…あの目のあたりに…。
チャリ~ン♪
ウイ~ン…。
ここでストップ。
ウイ~ン…。
ここだ!
オレは狙いを定めてクレーンを止めた。
さぁさぁ。
よし、いける!
あっ!
隣のぬいぐるみまで巻き込んでしまった。
くそっ、これじゃあ落ちてしまう。
…あれ?
「あっ!すごい!二つ持ち上げた!」
な、なんかラッキーだがそのままいけ!落ちるなよ~。
そのまま…そのまま…。
ゴトゴトン…。
「誠二くんすごぉ~い!一度に二つも取っちゃった!」
「あ…はは、はい、相田さん」
ま、まぁ狙って二つ取ったわけじゃないことは黙っておこう。
「ありがとう!じゃあ、もう一つのこれは誠二くんの!今日の記念だね」
「う、うん」
カエルの他に取れたぬいぐるみはオタマジャクシのぬいぐるみだったんだ。
相田さんと初めてのゲーセン記念はオタマジャクシでした。
正直、かわいくない…。
「あ、あのさ、誠二くん」
「なに?」
「き、記念ついでにさ、あれ…一緒に撮らない?」
「なっ!?」
相田さんが指差した先にはプリクラブースがあった。
あれは男女ペアなら恋人でしか入れないとされる聖域…。
「プ…プリクラ撮るの?」
「やっぱりイヤ…かな?」
うっ…。
そんなに潤んだ目で見ないでくれ!
「い、嫌じゃないんだけど、恥ずかしいし、よくわからないし…」
「私が全部するから…ね?」
はぁ…相田さんがここまでお願いすることなんてないだろうし…。
「う、うん…」
「やったぁ!じゃあ行こう!」
「うっ、うわ…っ!」
オレが返事をするやいなや相田さんはオレの手を勢い良く引っぱってプリクラまで連れてきた。
「うーん…」
何やら悩んでいるみたいだ。
「どうしたの?」
「どのプリクラにしようかなーって」
たしかにいくつか並んでるけどそんな悩むほど違うもんなのか?どれでも一緒のような気がするんだけど。
「これにしよ、誠二くん」
「あ、うん」
そして相田さんが決めたプリクラの中に入った。
「私に任せてね。えーっと、背景がこれで…明るさはこれくらい…あと…」
設定…なんだろうか。相田さんはてきぱきと操作している。
この狭い空間がなんとも気恥かしいんだよな。
「よし!じゃ、じゃあ誠二くん、撮るよ」
「うん。…え!?うぇ!?相田さん!?」
「さ、最近はこうやって撮るのが流行りなんだよ?あはは…」
相田さんはオレのすぐ隣に座って腕を組んできた。体の半身ぴったりくっついている。
「えっ、でも…」
「誠二くん、カメラ見て」
「あ、う、うん!」
パシャッ!
「じゃあ今度は立ってアップで」
「は、はい!」
もちろん腕は組んだまま…。
パシャッ!
「もう一枚!」
「り、了解!」
パシャッ!
「最後、また座って」
「は、はいはい!」
パシャッ!
お、終わりか?
『らくがきコーナーに移動してね、らくがきコーナーに移動してね』
「誠二くん、お疲れ様。私がらくがきするから誠二くんは座って待ってて?」
「う、うん」
お、終わったぁ…。
一気に疲れたよ…。
らくがきは相田さんがしてくれるそうなのでオレは近くのベンチに座って待つことに。
プリクラ自体久しぶりなのに、それも初めて一緒に遊びに来た女の子と撮るなんてさ。まったく驚いたね。
「お待たせ、誠二くん」
「あ、終わったんだ。見せて?」
「うん…えーと……ダメ」
「え?なんで?」
「あの…ね…う、写りが悪かったからあんまり見られたくないんだ。ごめんなさい」
「えー…っ。まあ、いいけど」
けっこうオレ頑張ったんだけどなぁ。でも女の子なら写りとか気にするだろうし、仕方ないか。
「ごめんね」
「いいよ、写りが悪いんだったらまた今度撮ればいいし」
「え?また?」
「うん。え?何か変なこと言った?」
「ううん!また撮ろうね!」
相田さんは嬉しそうに笑っていた。そうとう好きなんだろうな、プリクラ。
でも、いまさらだけど見せられないくらい写りが悪いってどこまで悪いんだよ。
ゲーセンの外に出ると、もう辺りは真っ暗だった。時間はまだ夕方なんだけど。
アーケードの中はもうお正月のイルミネーションが飾られていて、電球で作られた門松なんかがすごかった。
あんまり遅くなったら相田さんの親が心配するだろうし、そろそろ帰らないとかな。それに相田さんは地元に帰れば一人だし、危ないからな。
「相田さん、暗くなってるしそろそろ帰ろうか?」
「えっ……あ………」
「…相田さん?」
「……うん、そうだね」
相田さんは今までの笑顔がウソのように寂しそうな顔を見せた。
「誠二くん、今日はありがとう。すごく楽しかったよ!」
「うん、オレも」
「…へへ…。じゃあ私帰るね!」
「あ、バス停まで送っていくよ」
「…ううん、大丈夫」
「でも…」
「……これ以上一緒に居たら帰りたくなくなっちゃうから…」
「え?」
なんて?小声でよく聞こえなかったけど。顔を伏せて表情もわからない。
「ううん!じゃあ!」
相田さんは一度笑ってバス停の方へ駆けだした。
「あっ…」
相田さんの後ろ姿を見送っていると、クルッとこっちを振り返った。
そして大きく手を振ってまた駆けだした。
「クスッ…なんだよ…」
オレは相田さんの姿が見えなくなるまでその場で見送り、自宅へと歩き出した。
アーケードの中を通ると今まで隣で歩いていた相田さんがふと恋しくなった。すれ違う人たちの笑い声で余計に寂しく感じる。
「なんだかなー」
オレは一人つぶやいてアーケードを抜けて行った。
一人で歩く道のりはなぜかいつも以上に寂しく感じて、ついつい自分の隣に目を向けてしまう。
それが年が明ける前の冬。
ちらほらと雪が降ってきて、真新しい手袋が暖かかった。