表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/39

体育祭

 夏休みも終わり、オレの高校生活は二学期へと移り変わった。

 まだまだ外は暑くて海の涼しさが恋しくなる。

 夏休みの間、顔を合わせなかった同級生たちは変わらないやつもいれば、どれだけ遊びに行ったんだってくらい、真っ黒に日焼けしているやつもいた。「久しぶり」と声を掛け合うのがどこか気恥かしい。

 そんな新鮮な感じが感じられる二学期で、まず初めの大きなイベントが体育祭だ。

 定期テストじゃ泣き目を見るオレだけど、元陸上部って意地で頑張らないとな。

 体育祭ではもちろんいろんな種目がある。

 100m走、400mリレー、1500m走、障害物競争や玉転がしなんかもある。

 組み分けは各学年のクラスで割り当てられる。

 一年、二年、三年の一組は紅組、二組は青組、そんな感じで一年から三年まで協力し合って競うんだ。

 これだと美香と勇介、紗耶香とも敵同士になるな。

 紗耶香にだけは負けられん。

 まぁでも、体を動かすことは好きだし、純粋に楽しんでいこうと思う。

 その体育祭でオレが出場する種目は100m走、二人三脚、借り物競走だ。

 この種目が決まってから、実はこそこそ走り込みなんてこともしていた。走ることではやっぱり負けたくないからな。

 こんなオレでも中学の時は体育祭ではヒーローだったんだぜ?

 そして二人三脚は男女ペアで組まなくちゃならない。そのお相手は相田さん。どうも相田さんは運動が苦手らしいからな、オレが頑張らないと。

 借り物競走は運だろ。

 体育祭前日はみんなでテントを張ったり、グラウンドの整備や飾り付けや道具の準備など一日慌ただしかった。

 天気は予報では晴れ。雲一つない青空が広がるんだそうな。体育祭日和ってやつだな。


 そして体育祭当日。

 学校へは指定のジャージで登校する。これだけでも特別な感じがするんだよな。

 全校生徒がグラウンドに集まり長々と校長の話しを聞く。

 お決まりのことなんだがこれがないと何でも始められないのかね。

 そして前年の優勝組の代表の人が選手宣誓をして体育祭が幕を開けた。

 その最初の種目である100m走。

 赤組の一年であるオレが先陣切って幸先いいスタートをきりたいもんだ。

「誠二、ここで勝負な」

 なんと、勇介と同じグループだったんだ。

「お前が100mでオレと勝負?オレが元陸上部のエースだってこと忘れたか?」

「そんなの過去の話しだね!ほれ、何か賭けようか?」

 なにがこれほど勇介の自信をかき立てるのか。

「じゃ、負けた方が一日奴隷な。…くっくっく…」

 どれ、目に物みせてくれる。

「や、やっぱやめようかな…」

「いまさら引くなよ、勇介」

 一日せいぜいこき使ってやろうか。

 そしていよいよ勝負の時はやってくる。

 もちろん負ける気なんてさらさらない。勇介専用の秘策もある。

『位置について…よーい…』

 バンッ!

「あっ!水着の美女!」

「なに!?」

 勇介はオレが叫ぶとまんまと周りを見渡しスタートで大きく遅れをとった。

 はっははは!

 ってかマジでだまされるとは思わなかったが。

 オレは勇介との勝負もさることながら、他の人にもある程度の差をつけて一着でゴールした。ふっふふふ、走りこみの成果だな。

 勇介は結局ドベだ。

「ちっくしょー!」

 勇介はかなり悔しがっている。

 ふふふ、勝負は時に非情なものなり。

「水着の美女見逃した!」

「そっちかよ!」

 アホだ…ほんまもんのアホだ。ある意味平和だな。

 勇介は最後までキョロキョロとしながら自分の組へと戻って行った。

 勝負のこと完全に忘れてるな、あいつ。しっかり一日働いてもらうけどな。

 それから自分の出番まで応援をしていた。

 同じ組の先輩では千秋部長がいたんだ。

 走りながらこっちに手なんか振ってたよ。それでいて一着。やっぱり不思議な人だぜ、部長。あえてすごいとは言わないぞ。

 今のところうちの組は成績優秀だ。

「せ、誠二くん」

「ん?相田さん、どうしたの?」

 相田さんがもじもじしながら話しかけてきた。

「いい感じだよね」

 オレたち赤組の成績のことか?

「そうだね、このままなら優勝かな」

「あう…」

 そのオレの言葉になぜかダメージを受けていた。

「え?なに?」

「わ、私、運動苦手だからこのままだと二人三脚失敗しそうだと思って…。だ、だから練習したいなって…」

 なるほど、このいい流れを断ち切ってしまうかも知れないっていうのが怖いんだな。

「いいよ、向こうの方でやろうか」

「う、うん!」

 そしてテントの裏の方でオレたちは二人三脚の練習を始めた。

 オレが右で相田さんが左。まずは足を固定してっと…。

「じゃあいくよ」

 オレはそう言って相田さんの肩に腕を回した。

「ひゃあっ!」

 相田さんはすごくびっくりしてしまった。

「こらーーーーーー!!」

 うわっ!

 なんだよ…。

「って紗耶香!」

 紗耶香が遠くから勢い良く走ってきていた。

「誠二ーーー!」

 このままドロップキックでも喰らいそうな勢いだな。

「めぐから離れなさい!」

 目の前にやってくるなりそんなことを言い放った。

「離れろったってなぁ、二人三脚の練習してんだよ」

「そんなの本番だけでいいでしょ!」

 紗耶香はふーッふーッと鼻息を荒くして威嚇していた。

「めぐも!本番だけでいいよね?」

「わ、私は練習したいな」

「うっ……、め、めぐがそう言うなら…。誠二!めぐに変なことすんじゃないわよ!」

「しねぇよ!」

 紗耶香は言いたいことだけ言って行ってしまった。

「相田さん、大丈夫?」

「う、うん。大丈夫だから、練習しよ」

 よし、今度はいけそうだな。

 そしてまた相田さんの肩に腕を回した。

 また少しピクンと力が入ったのがわかった。

「相田さん?」

「だ、大丈夫だよ」

「じゃあ、まずはオレが左足、相田さんが右足から、いくよ?」

「う、うん」

 よし、いっちにぃ、いっちにぃ、いっちにぃ、いっちにぃ…。

 うん、ちゃんと出来るじゃん。

 タイミングはバッチリだった。

「じゃあ少しペースあげるよ」

「えっ!?ちょ、ちょっと…」

 それ、いっちに、いっちに、いっちに、いっちに、いっちに…。

 まだもう少しいけそうだな。

「はぁっ、はぁっ…」

「もう少しあげるよ?」

「は、はぁっ…!、え?」

 いちに、いちに、いちに、いちに、いちに…!

 いちに、いちに、いちに、いちに、いちに…!

「はぁっ…!だ、だめ…!誠二く…!」

「いちに、いち…うわっ!」

 ドスンッ!

 あいたたた…。

 ペース上げ過ぎたか…な…。

 サーーーーーー…。

 オレは全身の血の気が引くのを感じた。

「いたた……あっ……」

「い、いや…こ…これは…」

 二人三脚の練習だから当然二人とも転んでしまったんだけど、オレの左手が相田さんの豊満な胸に…。オレは頭がてんぱって固まってしまっていた。

「……誠二くん…手…」

「ごっ、ごごごごごめん!」

 慌てて手をどかす。

「…………」

 ど、どうすればいいんだ?な、なんとか…。

「えっち…」

 相田さんがいたずらそうな顔で見ながら言った。

「い、いや、あの…こ、これはですね…」

「ふふ…。誠二くん、いきなりペース上げすぎだよ」

「う、うん!決して大きかったなんて思ってないから!」

 カアアァァァ…!

 オレはーーーーー!!何を言ってるんだーーー!!

 相田さんは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

「ごっ!ごめんごめんごめん!ホントごめん!」

「……もう…誠二くんってば…いいよ」

 オレが慌てていると相田さんは顔を上げてニコッと笑ってくれた。

 ほっ…。

 お、怒ってはいないみたいだな。

「でも…」

 うっ…。

 な、なんだ?

「今度はゆっくり、ペースアップしてね?」

「あ、う、うん!」

 相田さんが優しい子でよかった。これが紗耶香なら…。考えただけでも天に召されそうだぜ。

「じゃ、じゃあ続きやろうか?」

「うん。…誠二くんじゃなかったら泣いてたよ」

 え?

『二人三脚に出場される生徒はスタンバイをお願いします』

 なっ!

 もうそんな時間か!?

「ど、どうしよう!」

 相田さんはいきなり慌てだした。

 どうするって言っても…やるっきゃない!

 オレと相田さんは足を結んだまま二人三脚の列へと並んだ。

「うぅ~…」

 相田さんは不安そうにしている。なにか…。

「大丈夫だよ、オレも一緒に走るんだし。トップでもドベでもオレも一緒だよ」

「そ、そうか。そうだよね!誠二くんも一緒なんだよね!」

 よかった、不安はどこかへ行ったみたいだ。

 そしてオレたちが走る順番がやってきた。

『位置について…よーい…』

 バンッ!

 いちに!いちに!いちに!いちに!いちに……。

 いい感じ!

 いちに!いちに!いちに!いちに!いちに!いちに!いちに!

 ゴーーール!

 なんと!トップだー!

「はぁっ!はぁっ!せ、誠二くん、順位は!?」

 ふふ、一生懸命で周りのことなんか見えてなかったんだな。

「トップだよ、相田さん」

「え!?う、うそ!?」

 相田さんは息を切らしながら目を大きく開けて驚いていた。

「正真正銘、オレたちがトップさ」

「き、キャーーーー!やったーーー!」

 !!!!????

「あ、相田さん!?」

 相田さんは抱きついてきて喜んだ。

 抱きついてきて喜んだんだ、全校生徒の目の前で。

「ちょっと!」

 み、美香!?なんで!?

 一緒に走ってたか?

「恵ちゃん、みんなの前だよ!誠二も迷惑してるみたいだから離れて!」

「えっ!あ、ご、ごめんなさい!誠二くん」

 ほっ…。

 これはいいとして…。

「ふんっ!」

 美香はまた腹をたてて行ってしまった。

「美香ちゃん、なんか怒ってた?私たちがトップだったから?」

「あ…はは…。そうかもね」

 相田さん、自覚がないのも問題だよね。

 あーーーー。

 また面倒なことになったなぁ。

 なんで美香のやつ怒るかなぁ。わけわかんね。

 でも、かなり怒ってたな。 

 どうすっかなぁ。

『借り物競争に出場される生徒はスタンバイをお願いします』

 げっ、続いてかよ。

「誠二くん、頑張ってね」

「ははっ、ありがと」

 借り物競争は途中に置いてある紙に書いてあるものを誰かから借りてきて、ゴールで待っている奈美先生がそれを認めてゴールになる。

 つまり奈美先生がノーと言えばまたやり直しだ。

 借りるものは慎重に選ばないとな。

 そして…。

『位置について…よーい…』

 バンッ!

 ダーッシュ!

 オレは見事なスタートを切ってトップで紙が置いてあるところまでやってきた。

 ここだ。

 変なもの引くなよ?

 オレはいくつか並んでいる紙の中で一番右端に置いてあった紙を取り、中を確認した。

 さあ、何だ!

 …………。

 これはなんだ!?

 中には”美少女”と書いてあった。

 なんじゃこりゃ!

 美少女だと!?誰がこんなことを!

 ぐぐ…、嘆いている暇はないな。

 他の生徒はすでにあちこちに走り始めていた。

 美少女…美少女…美少女……。

 そ、そうだ!

 なんというひらめき!

 オレはある人物を探して走り始めた。

 そして…。

「美香!」

 美香のもとへやってきたんだ。

「なに?」

 うっ、やっぱ機嫌悪いな。

「美香!美香が必要なんだ!一緒に来てくれないか?」

 そう言ってオレは借り物が書いてある紙を見せた。

「えっ、こ、これ…。わ、私でいいの?」

「何言ってるんだ。美香以外いないだろう」

「そ、そんな…誠二…。い、急ごう!」

 そしてオレは美香を連れてゴールへ向かった。

「はーい、椿くんゴール!さーて、中身はなにかなー?」

 奈美先生が確認する。

「ふ~ん…」

「な、なんですか」

 奈美先生はニヤリとしながらこっちを見ていた。

「ま、川口さんなら文句なしの美少女ね」

「そんな、先生ったら」

 美香は両手を頬に当ててくねくねしている。

 うむ、美香の機嫌も直ったようだな。一件落着ー!

 機嫌が直るどころか上機嫌になった美香はそのままオレの組までついて来てしまった。

 そこで一人場違いなことに気付き、慌てて自陣へと戻っていった。

「誠二くん、よかったね。美香ちゃんと仲直りしたんだね」

「う、うん。まぁ」

 その後もいろんな種目や応援合戦なんてこともあった。

 オレの出番は終わってしまったのであとは応援に専念だ。

 序盤はいい感じだったんだけどな、後半からは紗耶香がいる緑組が追い上げてきていた。

 そして体育祭の全種目が終了して結果発表。

 結果は…。

『緑組の優勝です』

 あーあ…、優勝出来なかったか。

 でもま、オレは全部トップだったしね、一応満足。

 なんだけど…。

「あーはっはっは!また私の勝ちね!」

「紗耶香、オレはお前に負けたわけじゃない、緑組に負けたんだ」

「負けたいいわけもよろしいこと!勝ちは勝ちよ!」

 ぐぐぐ…、そこまで言われるとイラッとくるぜ。

 なにはともあれ、これで今年の体育祭は終わりを迎えた。

 今日はいい汗をかいたぜ。

 天気もよかったし。

 中学の時とはまた変わった感じで楽しめた。

 次のイベントは文化祭だ。

 季節は秋に変わる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ