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マーガレイン、吼える


「男の人は女の人と、女の人は男の人といたすべきですのっ!!

 こんなことっ……!!」


ドカッ、バキッ


「こんなことをしようとして、あなたたちはぁーーっ!!」


「ひ、ひいいぃぃ~~~!!!」

「逃げろっ!!殺されるぞっ!!」


表の大通りの喧騒も届かぬ裏路地。

そこにはサメ映画のサメと化した一人の女修羅が居た。

イワシの小群のように散って逃げていく悪漢達。

しかし、その中で動かぬ者が二人いた。


「これは、随分と厄介なことになったようだ。

 ……タロン。」

「はっ、ここは俺にお任せを」


ガシャンッ!!


大戦斧。タロンと呼ばれた男が肩に担いでいた斧は、

伐採に使うようなきこり斧とは明らかにものが違っていた。

マーガレインに僅かにでも理性と観察眼が残されていたら、

戦斧の装飾に平民のものとはとても考えられぬ

絢爛な彫りがされていたことに気づいただろう。


「おい、お嬢ちゃん。いい加減にしときな。

 少しはやるようだが、あんまり暴れ馬だと痛い目見るぜ?」


「はぁ?なんですの?悪漢の癖に人語を話すとは……

 ……って、うほっ、いい男!」


悪漢達はみな、すでにどこかへ散っていた。

この大戦斧使いと、執事風の初老の男以外は

雇われただけの人数合わせだったのだろう。


マーガレインはタロンと呼ばれた男の発する剣気を感じ取ると、

表情を引き締めた。

こいつは明らかにその辺の雑魚筋肉とは違いますの。

見せ筋ではない、明らかに戦闘に使い込まれた筋肉……。


「そんなに、その美少年とやりたいんですの……!?

 あなたほどの筋肉を持つ男が……!!」


「あぁん?……やりたいって?……まぁ、実のところ、

 一度ヤりあってみたいとは思わないこともないんだがな?」


「出たっ……!男ってみんなそうっ!

 かわいいければ男でもいいんですの!」


「えっと、あのぉ……」


痴女と戦士のかみ合わぬ会話を遮って、

おずおずと美少年が手を挙げた。


「お姉さん、違うんです。僕は……」


「少年っ!!!」


「へっ?は、はいっ?」


「逃げていたのでしょう?

 事情はよく分かりませんが……。

 ここは私が食い止めます!どこへなりともお逃げなさい!」


マーガレインは少年にそう吼えるよう言い放つと

愛槍『 ウェーブグラバー 』のトライデントを横に寝かせ構え、

大戦斧使いの戦士に向かって鋭い突きを放った。


「たぁーーっ!」


ガギッ!!


「おぉっと、なかなかいい槍だな?」


しかし、大戦斧の戦士の左手を覆うガンドレッドは、

トライデントの中槍を掴んで、やすやすと受け止めて見せた。


「ふっ、かかりましたわね……。

 『 ウェーブグラバー 』!『 氷結せよ 』!!」


マーガレインの愛槍、『 ウェーブグラバー 』の

白真珠が薄い青色に発光し始める。


「なにっ!?」


ピキピキピキッ……


異変を察知した戦士は

咄嗟にトライデントの刃を離すが間に合わず

その左手甲は重い氷塊に包まれていた。


「ちぃっ……マジックアイテムかっ!?」


「ふふんっ、今です、少年!!

 今のうちに逃げるのです!!」


「あっ……は、はいっ!お姉さん!」


悪漢達に追われていた少年は、

よろめく大戦斧の戦士の傍らを通り過ぎると

マーガレインの傍にまでたどり着く。


「あ、あのっ、ありがとうございます。」


「ふっ、よろしくってよ。

 いいから早く、おいきなさい。」


「は、はいっ!」


去っていく少年を目の端で追うと、

マーガレインは挑発的な笑みを浮かべながら

大戦斧の戦士タロンに向け、槍を構えなおした。


「さぁて、降参するというのなら、

 許してあげてもよろしくってよ?」


「くっくっくっ……何言ってやがる……。

 ちょうど、楽しくなってきたところじゃねえか!」


タロンは、壁を殴りつける。


ドガッ!!ガキンッ!


左手を覆っていた氷塊が音を立てて砕ける。

そして、右肩と右腕の筋肉を膨張させると

大斧を腕一つで掲げ上げて見せて、戦闘態勢を取った。


「俺はよぉ、強い奴と戦うのが大好きなんだ。

 お嬢ちゃん、とことん付き合ってもらうぜ!」


「フフッ……カマァーン、マッソォー!」


「上等だぁっ! ドラアアァァっ!!」


ズウウオオオオォォッ!!


「い”っ!?」


筋骨隆々とした全身の肉体の力をバネ力に使って、

タロンは斧を掲げあげたまま

ショルダータックルの姿勢で突っ込んできた


斧の一撃を槍でいなす気で居たマーガレインは

そのすさまじい勢いを見て、

即座に作戦を変えざるを得なくなった


ゴドオオオォォォンッ!!!


雷光のような跳躍からの轟雷。

振り下ろされた大戦斧は、一瞬前まで

マーガレインが居た辺りの石畳を

粉々に粉砕する雷鳴となり地に突き刺さっていた。


「フ、フフッ!隙ありですの!」


槍を地面に突き立てて鋭い跳躍力を獲得し

横に跳ねて戦斧の一撃を回避したマーガレインは、

レンガ壁に、瞬間、両足で踏ん張りをきかせると

再跳躍して、敵の間隙をつくために

槍を構えつつタロンへととびかかった。


シュバッ!!


「この俺に隙はねえええぇーーーっ!!」


タロンの全身の筋肉が再度膨れ上がる。

灼熱する真っ赤な血管が肉体を覆いつくし、

汗は蒸発してそのままゆげを立てているようだ。


ボゴォォンッ!!!


地に突き刺さっていた戦斧が降りあがる

巻きあがる石畳の残骸

岩とつぶての壁が、両者の間を遮った。


「…っ!!あ、『 アイスシールド 』!!」


ドガッベキッドガガガッ!!


跳躍し、既に滞空していたマーガレインは

いしつぶてを避けきれぬと判断すると、

ふたたび『 ウェーブグラバー 』を媒介に魔力を行使して

氷の盾を形成してつぶてをはじき落とした。


「お”わりだあ”ぁっ!ゴラッッッアアァ!!!」


ズゴオオオオオオオ!!!


振り上げた戦斧をねじる体で加速させて、

斧刃を寝かせて扇ぐようにして振り回された

重打がマーガレインを守る氷の盾を叩きつけた!


「……っ!!」


ドッゴオオォンッ!!!

キラキラキラッ


すさまじい衝撃エネルギーに巻き込まれて

氷の盾は輝きと冷気を残して粉々になる

しかし、そこにマーガレインの姿はなかった


「放てっ!!『 氷の矢 』!!」


「なにぃっ!?」


マーガレインは氷の盾を足場にして更に宙に飛んでいた。

魔法の力で放たれた4本のアイシクルボルトが

タロンに向かって降り注ぐ。


「かわいい手品だぁあなぁっ!!」


タロンは避けようともしない。

氷の矢は牽制だと分かっているからだ。

本命は、矢の後ろで烈女の振りかざす氷の槍。

打ち砕けば俺の勝ちだっ!


ガッガガッ!!


3本の氷の槍がタロンの腕と肩に突き刺さる。

しかし、手甲と鍛え抜かれた鋼の筋肉に阻まれて

刺創は浅く、肉を軽く割く程度だ。


「てやあぁぁーーーーっ!!」


マーガレインは、槍を突き出しながら

重力による落下を利用して肉薄する。


「フゥンッ!!」


力を溜め攻撃を待ち構えていたタロンは、

突き出された氷槍『 ウェーブグラバー 』に

大戦斧による渾身の一撃を叩きつけようとした


「フッ!甘いですのっ!」


タロンが斧をフルスイングする直前、

マーガレインは、眼前に突き出していた槍を

静かに引っ込めて、振り回して、

どこかに放り投げた!


ぶぅんっ!くるっ ぽいっ


重い戦槍と華奢な人魚の体は、

空中で十分なモーメントの吊りあいをとって

その反作用の力をうまく利用することで

体は身軽な猫のようにくるりと宙返りをする。


そんな曲芸に距離感を狂わされた斧戦士の重撃は、

盛大に空振りをした


ブオォンッ!!!


「んなぁっ!?」


「食らえぇっ!必殺の……!!!」


マーガレインの華奢な体が宙で2、3転する

その時、彼女の両足が不思議な光をまとい始めた

二本あった足が光の中で融合し、一つになる

そして、辺りには心なし何かの生臭さが漂い始める!


「人魚の尾びれアターーーック!!!」


ビッィィッ


「ぐっ!!!?」


ッタァァァーーーーンッ!!!


「おおおぉぉぉ!!!??」


そう。マーガレインは人魚である。

美麗な二本足は人魚の秘術によって創り出された仮初の姿。

下半身おさかな、それがマーガレインの真の姿であった。


「あうっ、ですのっ!」


どさっ、ぴちぴちっ


「ほう、人魚……。

 なるほど、彼女はシャローシーキングダムの……」


クロマグロは、一日に300kmも泳ぎ続けることができる

強靭な筋肉を有している。人間大の魚類の放つ渾身の蹴りを

受けたタロンのダメージは想像以上であった。


「ぐっ、ぐぐぐっ……

 やるじゃねえか……お嬢ちゃん……」


「フッ、フフフッ、あなたも……

 私にこの奥の手を使わせるとはやりますわね……!」


ぴちぴちっ ぴちぴちっ


マーガレインは槍を杖代わりして体をもたげると

魚体にとぐろを巻かせて立ち上がった。


「でも、勝負はまだついていませんの!」


「タロン。もう、いいでしょう。帰りますよ。」


初老の男は、いつの間にかタロンの傍に立って

自身のモシュターシュのヒゲを撫でていた。


「は、しかし……。いいんですかい?

 坊っちゃんが。」


「まぁ、それは心配ないでしょう。

 それより、これ以上の諍いは

 外交問題に繋がりかねませんから。」


「ちょっ、なんですの!

 戦いの途中で逃げるんですの!?」


初老の男はマーガレインに向き直ると、

慇懃無礼に深々とお辞儀をした。


「ええ、我らはお暇をいただこうと思います。

 それでは姫殿下に置かれては、ごきげんうるわしゅく」


「へっ?」


パアァンッ!!!


突如、炸裂音。閃光。

眩む目を開いたとき、すでに二人の男は姿を消していた。


「……いったい、なんだったんですの?」



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