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マーガレイン、少年と出会う


「ふぅ……昨日は、少し羽目を外しすぎてしまいましたね…。」


キラッ


港町の夏の強い日差しが、

マーガレインのマリンブルーのブロンドと

髪を彩るサンゴのティアラに乱反射する。


街中をただシャナリと歩く姿にもどこか気品が感じられて

通行人のうちの幾人かは彼女の姿を追って振り返るほどだ。

しかし、振り返ったやつは間違いなくこの町のよそ者である。


「路銀も少なくなってきましたし、

 そろそろ、何かで稼がないといけませんね。

 ……ひもじくなるのはごめんですの。」


気が付くと、マーガレインの目は屋台に吸い付いていた。

この辺りの磯で採れるカゼカサゴの塩焼き。

見た目は悪いけど、絶品ですの。ちょっと値は張るのだけど…。


「いけません。マーガレイン。我慢、我慢ですよ。

 あなたには崇高な使命があるのだから……。」


渾身の気力を振り絞り、屋台から視線を外したマーガレインは、

人と誘惑の多い大通りを離れて、裏路地へと入っていった。

俗にいうスラム。裏社会のごろつきどもが闊歩する街の暗部である。


裏社会へ続く路地を進む彼女の細腕には、

真珠で煌びやかに飾り立てられた三又の槍が握られていた。

マーガレインの愛槍『 ウェーブグラバー 』である。

背に収めていたそれを、いつの間にか片手に握りしめ歩いていた。


路地の空にかかる洗濯物干し竿も、薄暗い小道を奥へ奥へと進むごとに

その数を減らしていく。この辺りになると、まともな人間など住んでいないのだ。

野盗、物取り、亜人。おおよそ洗濯とは無縁のやつらである。


「うーーん……。見つかりませんね、獲物。

 少し、この街に長くとどまりすぎたのかもしれません。」


見目麗しい人魚の姫騎士、マーガレインが裏路地に舞い降りた目的。

それは、カツアゲである。


「街に来たばかりの時は、こういう薄暗いところに入れば

 羽振りよさそうな筋肉ムキムキのいい悪漢が、すぅっと、

 私の目の前に現れ財布の中身と懸賞金を献上してくれましたのに。」


マーガレインは悪そうなマッチョ男がストライクの肉食系女子だった。

冒険者の役目として代表的な街の自警行為は、

そんな彼女のニーズをパーフェクトに満たす仕事だったのである。


しばし悪漢を求め、裏路地をうろつき回るマーガレイン。

小一時間も歩き回るが収穫はなく、愛槍『 ウェーブグラバー 』を

器用にくるくる回して頭上に掲げ伸びをすると

汚れたレンガの壁に背を持たれて、彼女は深くため息をついた。


「あーあ、本当に、潮時かしら。

 マッチョな海の男がたくさんいて、この街、気に入ってたんですけど。」


瓦礫が転がる路地裏の、混沌とした薄闇の中で目をつむると、

ここはまるで故郷の海底を思い起こされた。

そう感じると、なんとなく離れがたい気持ちになってくる。


「……アビス・クランの連中の尻尾も掴んでいませんし。

 もう少し探りを入れたいんですけど。

 でも、お金がなぁ……」


その時、マーガレインの鋭敏な嗅覚が何かを捕えた。

頭の横についている耳ひれがぴくぴくと反射運動する。

痛烈な汗臭さ。獣臭。入るのならば風呂桶の前に棺桶だと言わんばかりに

湯あみと整容を拒否した野で蛮な泥臭く汚れた雄の香りである!


「見つけたっ!!金ェッ!!男ォ!!」


マーガレインは、駆けた。

すらりと伸びた人魚姫の長い足をばたつかせ、裏路地を疾走した。


「………… 観念なさ……ことですな……」

「……ひひっ……安…しな……大…しく……ひゃぁっ……」

「旦那、早く……ないと……裏……の海蛇が……」


明らかに悪漢と思わしき者どものその声は

マーガレインが路地の壁を蹴り加速するたびに

大きくなり、獲物を確信した槍を握る手には更に力が入る。


「おらぁっーーーーーー!!

 あなたたちっ!観念なさい!!」


ガンッッ!!!!


レンガの壁に愛槍『 ウェーブグラバー 』を突き立てて

怪人蜘蛛女のような格好で柄にしがみつく彼女。

目は血走っておりとても美少女がしていいような形相ではない。


「どうせ、悪いことをしているのでしょう!?

 そんなドスの聞いた悪そうな声と

 ムッキムキでムッチムチの上腕二頭筋を

 しているのですもの!

 今度は、いったい何を……」


「……!?」

「ひっ!?」

「……ほう?」


薄暗い裏路地の袋小路。

マーガレインの狙い通り、7、8人ほどの悪漢達が、

小さな人影を壁際にまで追いつめていた。


「ひ、ひいいーーーっ!!

 出たぁーーっ!!裏路地の海蛇だぁーーーっ!!」


遁走を試みる悪漢達の前に、

槍を振り下ろしながら降り立つマーガレイン。

今度は床のレンガが砕け散り破片が舞う。


ガギッ!!


「おおぉぉーーっとぉ!!

 逃げられません、逃げられませんのぉ!!

 ここは袋小路ですもの、おわすれになって!?」


「ひえぇぇーー!おたすけぇーー!!」


「ふむ、お嬢さん。どなたですかな?」


「あぁんっ!?」


悪漢達のリーダー格と思わしき初老の男。

その風体は執事然としていて、

雑然としたこの裏路地に至っては

似つかわしくないという印象を覚える人物だった。


「なんですのっ、あなたは!?」


「それは、こちらのセリフですね。

 ご自身でそうお思いになりませんか?」


マジレスかよ。マーガレインは鼻白いだ。

なにって、正義の味方が悪漢退治ですの!!

とってもわかりやすいんじゃありませんこと!?


えーと、えーと……

マーガレインは人魚の美貌に備わった

魚並みの脳みそをフル回転させて

自らの行いに正当性を見出そうとしていた。


そういえば、こいつらは

誰かをこの袋小路まで追いつめていたはずですの。


ちらっ


背伸びをして執事風の男の向こう側を覗き込こむ。


「なっ……!?なんてことっ……!?」


マーガレインは驚愕した。


「あなたたち……なんてことを……

 けしかりません……!けりかりませんのっ!!」


そこに居たのは、美少年であった。

可愛い童顔。大きな瞳をくりくりさせて。

黄金に輝くブロンドショートヘアー。


容姿端麗、秀麗眉目。

そんな言葉がうってつけの齢10歳周りの美少年が、

薄汚れた裏路地の袋小路に追いつめられていたのだ。


「こらーーーーーーーーーっっ!!!!

 あなたたちのようなむさくるしい悪漢達が、

 こんないたいけな美少年に、何をするつもりでしたの!?

 許せません!許しませんの!」


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