怖い話をするまで出れない部屋
「次は何の部屋?」
「真っ暗だね」
ユキが言った通り、部屋の中は真っ暗で中央にある蝋燭以外に明かりはない。
蝋燭の周りを見る限り、いちおう部屋の色は白らしい。
「これはカードを探すのが大変だよ」
「手分けして探そうか」
中央にある蝋燭は動かせないので、部屋の端から端まで床を触って探す。
ときどきユキと手が当たる。不快だ。手を洗いたい。
「あった。やっと見つかった」
硬い感触があったので拾い上げる。
暗くて読めないがこれがお題だろう。
蝋燭のそばに行き、お題を読む。
「ええっと『どちらかが怖い話をするまで出れない部屋』だってさ」
「わざわざフォントまでお化け屋敷でみるようなやつに変えちゃって」
怖い話か。
あいにく僕はメリーさんしかホラーな話のレパートリーがない。
ここはユキに任せよう。
「ユキ。どうぞ」
「ちょっと怖いのと、ふつうに怖いのと、めっちゃ怖いの。どれがいい?」
「ちょっと怖い話」
「あれ? もしかしてビビってる?」
「そういうのじゃない。はやく終わらして次の部屋に行きたいの」
「まあそういうことにしておくよ」
ユキは一つ深呼吸をすると語り始めた。
「まず目を閉じてね。そして想像する。時刻は7時25分。今すぐ家を出ないと学校に遅れる時刻だ。両親は仕事ですでに家を出ていたので誰も起こしてくれなかった」
かなりの大ピンチだ。
だが全く怖くなりそうにない。
「千夜は急いで着替えて家を出た。走って、走って、走りに走って駅に向かった。運良く電車に間に合い乗ると同時に扉が閉まった。あなたは息を整える。そしてふと思った。『僕、家の鍵をちゃんとしめたっけ?」
地味にぞくっとする話だった。




