⭐︎ 絵しりとりの頭文字で五十音全部使うまで出れない部屋
「絵しりとり?」
絵描きレベル1の人間に要求することでは無いと思う。
「これまた面倒な」
アズサの目も死んでいる。正直やりたく無い。しかしこのまま出れないのも困るので目の前の机にある鉛筆を手に取る。
「あ、最初の文字指定されてる」
「これはりんごかな?」
「なしかもしれない」
「いやりんごでしょ」
アズサがいうにはりんごらしい。なしの方が好きなんだけどな。
「私から描くよ」
アズサがボールペンで何かを描く。たぶんコップだ。
「なるほど。アズサ絵も描けるんだね」
本当になんでもできる。私はそんなに複雑なものは描けないので丸と棒で描けるブドウにした。
「望も描けるじゃん」
「いや、難しいのは描けない」
「そっか」
この相手に伝わる絵が描ける範囲という制限が厄介だった。
絵しりとりが始まってしばらく経った時のことだった。
「し? 醤油とか塩とかあるけど描けないし……思いつかない!」
私が困り果てているとアズサが手で何かを表している。
「こうやって遊ぶやつ。こんなふうに」
アズサは片手を握って机に置き、その上で腕をガタゴトと揺らしている。
「え、何それ?」
「あれだよ。ギッコンガッコンって揺れるな」
その擬音でわかった。シーソーだ。
「正解!」
こうやって何度か訪れる危機も乗り越え無事この部屋も出ることができた。




