♡ 相合傘するまで出れない部屋
扉を開くと玄関のようになっていた。そしてその先は雨。
「相合傘をして向こうまでいけってさ」
アズサが看板を指でしめした。その隣にビニール傘もある。一本だけ。
「これを使うのか」
開いてみる。特に大きな穴もなさそうだ。
「じゃあアズサ、入って」
「お邪魔します」
アズサがぬれないくらい近寄ったのを確認してから歩き出す。
「アズサ濡れてない?」
「私は大丈夫だよ。でも望がすごい濡れてる。風邪ひくよ」
「へいきへいき! 私からだ丈夫だからね」
雨はちょっぴり冷たいけれどこれくらいどうってことない。
「そう言わずに。貸して」
アズサは私から傘をとると私よりにさしてくれた。
「楽しいこともつらいことも二人で分け合おうよ。私たち恋人でしょう?」
「楽しいことはもちろんいいけど、つらいことはなぁ。アズサのはいくらでも請け負うけれど、私のは」
アズサに迷惑なんかかけられない。そう思うのだ。
「今迷惑だとか考えたでしょ。全然違うよ。私はね、ただ望の全てを知っていたいだけなの。だめ?」
アズサから独占欲のようなものを感じた。それがとても暖かかった。
「だめじゃない。二人で一緒に幸も不幸も分け合いたい」
「よかった。ならこの馬鹿げた部屋も一緒に脱出して楽しいこといっぱいしようね」
「うん。残りの部屋も頑張ろう」
話がひと段落したところで次の部屋への扉が見えてきた。
「次の部屋は何だろうね」
「平和な部屋だといいね」
傘をとじ、部屋の中へと入った。




