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駄目(俺+魔女)  作者: モンチャン
95/143

95 ナオミ

ナオミ



♪ 少しだけ優しくしてあげる ♪


ナオミは、気分良く歌っている。

何故なら、大好きな夫、ゆたかと一緒だからである。

ベランダで、二人で洗濯物を干しているだけなのだが ・・・


ナオミは、ゆたかといれば、幸せなのである。

ナオミにそれ以外の望みは無いのである。



でも、来週、ナオミの夫、ゆたか、出張である。

いつもは長野や、北海道とか、北の方である。

しかし、今回は違った ・・・ 九州である。

九州各県にある、支店や営業所を回るらしい。



でも、いまは夫のゆたかと一緒にいる。

だから、いま、ナオミは幸せなのである。


♪ も~の凄~く、優しくしてあげる ♪




ゆたかは下戸である。

社内でも”変”に有名である。

どの様に”変”なのかは、実際に経験した人でないと分からない。


しかし、ナオミの夫、ゆたかは”ガタイ”が良い。

就職先は”建築会社”である。


ある程度の年齢の社員は、若い奴には”酒を飲ませておけば良い”と考える人が多い。

本当は、それを理由に自分が酒を飲みたいからである。

特に地方の場合は、その傾向が強い。


だから、酒好きのオジサン社員は、若い社員に嫌われるのである。

特に「ノミニケーション」などと寝ぼけたフレーズで、若い人と飲みたがる”オヤジ”どもは嫌われるのである。

若い連中は、会社が飲み会のお金を出してくれるのなら、諦めて一緒に行くが、自分のお金を出すとなるとお断りをする。

今時は、そんな事で無理強いをすれば、”パワハラ”や”セクハラ”と言われ、若い社員は最悪の場合会社を辞めてしまう。

そんな時代なのである。



建築関係は、朝が早い。

本当は早い訳ではない。

人間の”集中力”を考慮した、考え抜かれた時間配分をしているのである。


午前8時から仕事を開始する。

朝礼や、ラジオ体操を行うところが殆どであるが、その時間を午前8時からにするか、その前に設定するかは会社の裁量による。

とにかく午前8時から仕事開始である。

午前10時に休憩。


近頃は作業現場内”禁煙”である。

隠れてタバコを吸わない様に、朝、現場事務所にタバコとライター”を預けさせるところもある。


休憩時間に自分のタバコを受け取って”まとめ吸い”をする。

喫煙場所は決まっている。

”嫌煙対策”ではない、,”火災予防”である。


みんな、頑張ってタバコを吸う。

タバコをあずけているが、”必殺のまとめ吸い”。

従って、1日のタバコの本数が減ることはない。


約10分の休憩後、仕事、再開である。

午前12時まで仕事をする。


午前12時から午後1時まで休憩。

少し大きい現場は、仕出し弁当屋さんが出入りしている。

安いし、毎日メニューが変わるし、インスタントのお味噌汁も付いてくる。


ハンバーガーや、洋物を食べたくなっても、腹持ちが悪いし、お金も掛かる。

コンビニ弁当を買いに行く人もいるが、大抵、面倒臭くなって仕出し弁当のお世話になる。


下請け、いや、協力業者ごとに弁当の購入表を作る。

殆どの作業員が弁当を頼むので、会社ごとの現場出席者が分かる程である。


しかし、今はセキュリティ等を考慮したシステムを採用している現場が多くなっている。

それでも、お弁当の注文表とシステムの数量は、殆ど一緒である。


午後1時に仕事再開。

午前3時に、再び休憩。


約10分後に仕事再開。

午後5に仕事終了。


人間の集中力の持続時間が”2時間”以下という事を考慮した、建築現場での”時間配分”である。



都会の建築現場は、交通網が発達しているので、電車通勤をしている作業員も多い。

地方の場合は、交通の便が悪いので、自家用車の登場になる。

それに、現場の立地条件が良くない。

造っている建物が出来上がれば、そこに人が集まるので、バス停とかが出来るが、その前段階の状況である。


結果、車通勤となるのである。


車通勤であるが、地方の人ほどお酒が好きである。

その対応策として”運転代行”がある。


地方の警察、国庫金がたりなくなるのか、定期的に”飲酒運転の取り締まり”を行う。


地方都市ほど”車社会”である。

50~100m先のコンビニでさえ、車で出掛ける。

仕事でも、普段の生活でも、車、そして”運転免許証”は必須である。


今は”健康志向”が広まって、地方都市でもウォーキングをしている人がいるが、以前は歩いている人を見る事は無かった。

自転車も然りである。

自転車に乗っているのは、通学の学生さんくらいである。




話が横道に大幅にずれたので、修正!


ゆたかの飲酒後の状態は、こうなるのである。

取り敢えずは、シコタマ飲める。

見た目は意識もハッキリしている。

チャンと家や出張の場合はホテルに帰っているのである。


朝も時間通りで出社する。

しかし、その後がいけない。

午前中は”ボ~~”としっぱなしである。

”役立たず”になるのである。

昼食を食べ終わった頃に、初めて目が覚める様な状態である。

つまり、半日が無駄になるのである。


このゆたかの”癖”は申し送りになっており、地方に出張しても、誰もゆたかを酒の席には誘わない。

それでも、出張で支店や営業所に顔を出すと、”歓迎会”が開かれる。

当然、歓迎されるゆたかは”抜き”である。


今回の出張でも、ゆたかの歓迎会は行われた様だが、開催したのを知らないのは”本人のゆたか”だけである。




ゆたかが出張すると、、ナオミが夜中にゆたかの元に現れる。

ナオミ、ゆたかがいないと眠れないのである。


しかし、しかし、今回、ナオミはアメリカ合衆国に出掛けなければいけないのである。

出張みたいなものである。

それも、ちょうど、ゆたかの出張の時期と重なった。


仕事内容は、デジタル魔法システムの不具合の打ち合わせと修正作業である。

デジタル関係の不具合を調べるのは時間が掛かる。

”マンパワー”しか無いのである。

魔女なので”ウーマンパワー”なのかも知れない ・・・


若手の出来の良い世界中の魔女が集まって作業をする。

日本からは、ナオミが行くことになった。

世界中の若手の魔女が集まって作業をするのである。


若手と言っても、結婚している魔女もいる。

久し振りに会う魔女仲間ばかりである。

魔女は”女”である。

作業の休憩時間には、お話で盛り上がる。

作業予定の1週間はみんなで”合宿生活”である。

だから、ナオミだけ夫の元に行く訳にはいかなかった。

それに、アメリカ合衆国の夜は日本の昼間である。



夫の出張が終わる前にデジタル魔法システムの修正が終わったが、魔女は大酒飲みが殆どである。

ナオミ、夫の元に行きたかったが、並べられたお酒を見たら考えが揺らいだ。

ナオミ、お酒の誘いを断れない ・・・

「ちょっと、だけなら ・・・ 」

そう思って、魔女仲間と乾杯した。


お酒を飲む人、飲み始めたら止まらない。

気が付くと、魔女の皆さん、一晩中飲んでいた。


飲み終わって、満足したみんな、伸びをしながら、飲み終わった残骸を片付けて、帰って行った。

勿論、みんな”魔法”で、である。




ナオミも家に帰ってきた。


1階に降りると、おかあさんが待っていた。

「ナオミ、 ご苦労様。」


「おかあさん、ユタちゃんは今日、帰ってくるんだよね?」


「そうよ。 今日の夕方には帰ってくる筈よ。 ナオミ! 疲れたでしょう? 2階で寝たら ・・・ 」


「うん、そうする。」

ナオミ、素直に2階に行って、ベッドに横になった。


1週間の間、毎日2,3時間しか眠っていなかった。

世界中の若手の魔女、みんなが頑張ったので、ナオミも頑張ったのである。

横になったナオミは、直ぐに意識を失った。



暫くすると、家が揺れた。

おかあさん、地震かと思ったが、揺れているのは、自分の家だけだった。

おかあさん、慌ててバリアーを張った。


自分の家、1軒分だから、おかあさんの魔法の力、凄いのです。

他の家の人に気付かれない為である。


おかあさんのバリアーのお蔭で、外からは揺れている様には見えなくなった。


おかあさん、2階に駆け上がると、ナオミが立っていた。


普段のナオミではなかった。

黒い魔女のナオミだった。


ナオミは身体から炎を上げていた。

青い炎や赤い炎。


炎を上げているが、家が燃えることはない。

ナオミの内面から出てくる”気”が、炎の様に見えるのである。




おかあさん、思い出した。

ナオミが産まれる前の話である。


お爺さん、おかあさんの夫、ひろしの父親である。

おかあさんの”義理の父親”である。


おかあさんを、めぐみを自分の子供の様に愛してくれた人である。

過去形にしてしまいましたが、お爺さん、まだ生きています。


おかあさんのお友達、ナオミの母親のメグミが遊びに来た時の事である。


因みに、その時にはゆたかは産まれていました。

そのお爺さんの胡座の中で、ゆたかは遊んでいたのです。


メグミを見たお爺さんはこう言った。

「メグミさん、妊娠しているんですね?」


メグミは言った。

「あら、この前、病院に行って知ったばかりなのに ・・・ 」


お爺さん、ボソッとゆたかに言った。

「ほら、お前のお嫁さんが、アソコにいるんだよ。」


ゆたかのおかあさん、めぐみには聞こえた様だが、メグミには聞こえていない様だった。



その時はそれだけで終わった。


おとうさんのひろしが会社から帰ってくると、お爺さんがおとうさんに言った。

「この家の耐震工事をしろ! 金なら、いくらでも出す。」


おとうさん。

「お金を出してくれるのは有り難いけど、何で?」


「ゆたかの嫁の為だ。 多分無いとは思うが、場合によっては、今のこの家の構造では持たないな ・・・ 」


「どの位の揺れを想定すれば良いのかな?」


「震度8くらいは考えないといけないな。」


「そ、そんなに?」


「色々言うな! ひろし! 耐震の事をもっと勉強して、シッカリ設計してから工事をしろ! 」


そう言って、ゆたかのお爺さんお婆さん、めぐみの義理の父と母は、仕事で海外に行ってしまいました。


でも、その時におとうさんが一生懸命勉強して、耐震工事のエキスパートになったお蔭で、技術部門の役員になれたのです。



おかあさんは、炎を上げるナオミを見て、思い出したのです。


おかあさん、「ナオミ ・・・ 」と声を掛けました。


黒い魔女のナオミ、何故か微笑むと消えてしまいました。



おかあさん、気が抜けて、その場にひざまずいて、暫く起き上がれませんでした。




リビングのソファーに座って、コーヒーを飲みながら心を落ち着けたおかあさんです。

おかあさん、魔法で”魔女のルールブック”を呼び出します。

おかあさんは、”魔女のルールブック”の管理者なので、呼び出す事が可能なのです。


おかあさん、ルールブックを調べます。

いにしえに書かれた、”二番目に生まれた魔女”について書かれた部分です。


ここ、100年以上、”二番目に生まれた魔女”は現れていません。

紙の色は”セピア色に変色しています。

それでも破れる事はありません ・・・ 魔法でコーティングした丈夫な紙だからです。



文字は古の魔女が使っていた文字です。

おかあさん、ある程度は読めるのですが、”魔女の辞書”も利用しないと読めない文字が多い様です。


特に、”二番目に生まれた魔女”についての記載は、古い記載が多く、読めない文字が多くありました。



おかあさん、やっと読み終えて、リビングでコーヒーを飲みました。


今のナオミは「禁断状態」が続いた為に起こった事が原因の様です。

人に危害を加えたり、暴れる事は無い様です。

ただ、”ある事”にならない限り、止まらないと”魔女のルールブック”に書いてありました。


「禁断状態」になった”二番目に生まれた魔女”に対応出来るのは、”最愛の人”だけなのだそうです。


でも、母親であれば、ある呪文を唱えれば「禁断状態」になった”二番目に生まれた魔女”に話し掛ける事が出来ると書いてありました。


この「禁断状態」になった”二番目に生まれた魔女”については、記載事例が少なく、よく分かりません。

でも、大人になれば”二番目に生まれた魔女”自身でコントロール出来る様になるらしいのです。


おかあさんは、ナオミはまだ”子供”なのかなと思ってしまいました。




黒い魔女のナオミ、日本中だけではなく、世界中に現れました。

ただ、一瞬だけだったので、誰もナオミが現れたとは分かりませんでした。


黒い魔女のナオミ、探しているのです。

世界中を ・・・


黒い魔女のナオミ、パニクってしまっているのです。

自分自身が、何をして良いのか分かりません。


でも、探さずにはいられないのです。




おかあさん、夕食の準備をしながら、時計を見ました。

もうすぐ、おとうさんや出張していた息子のゆたかが帰ってくる時間です。



まず、おとうさんが帰ってきました。

自分の息子、ゆたかが出張から帰ってくるので早く帰って来たのではなく、娘のナオミがアメリカ合衆国から帰って来ている筈だからです。

おかあさん、おとうさんのこの行動、いつもの事なのですが、呆れてしまいます。


「おかあさん! ナオミは、ナオミは帰ってきているのか?」

おとうさん、「ただいま」も言わすに、帰って来た”第一声”がこれでした。


おかあさん、料理をのせたお皿を持っていなかったら、おとうさんに”往復ビンタ”をくれていたと思います。


おかあさん、深呼吸をして一言。

「ナオミは今、世界中を探し回っているのよ。」


「え? ナオミは何を探しているんだい?」


「さあ ・・・ 」

おかあさん、「ただいま」も言わないおとうさんに、お怒りです。




そのうち、また家が揺れ始めました。


おかあさんが言いました。

「あら、ナオミが帰って来たわ。」


おとうさん、2階に素っ飛んで行きます。

かなり家が揺れているのに、おとうさんはナオミの事だけが心配なのです。


暫くしても、家の揺れは収りませんし、おとうさんの声もしません。


おかあさん、仕方が無いので2階に上がっていきました。



部屋の真ん中に、炎を上げている黒い魔女のナオミがいます。

扉のところに、跪いて、「アワアワ」言っているおとうさんがいました。


おかあさん、平然とおとうさんに言いました。

「こんなところにいると、邪魔!」

そう言って、おとうさんを蹴飛ばします。



おかあさん、魔女のルールブックにあった”呪文”を唱えてから言いました。

「ナオミ、揺らすのだけは止めなさい。」


黒い魔女のナオミ、家を揺らすのを止めました。

ナオミがおかあさんのことを”母親”だと認識していることを知って、おかあさん、涙がこぼれました。


おかあさん、ゆたかのお爺さんが、この家の耐震工事をさせた意味が、今、分かったのです。



そうこうしている間に、自転車の止める音がしました。

やっと、ゆたかが帰って来たのです。


ゆたか、いつも通りに、うがい、手洗いを忘れません。


ゆたか、「ただいま!」と言いましたが、誰も返事をしてくれないので、2階に上がってきました。



ナオミはまだ黒い魔女のままで、炎を上げています。

炎を上げたままだったので、ゆたかの「ただいま!」が聞こえなかった様です。


黒い魔女のナオミ、世界中を探し回っていたのは、ゆたかを探していたのです。

パニクってさえいなければ、瞬時にゆたかの元に行けたのに ・・・



おかあさん、ゆたかを見ます。

不思議な事に、ゆたかは、炎を上げる黒いナオミを見ても、驚いていません。


ゆたかがナオミに近付きます。


おとうさん、ゆたかを止めようとしますが、腰が抜けている様で、動けませんし声も出せません。


おかあさんは、何も言わずに二人を見ています。

おかあさん、腕を組んで”仁王立ち”ですが、おとうさんは「あわあわ」うめいているだけです。

こういう時、男は役に立ちません。



黒い魔女のナオミが赤い炎を出すと、ゆたかの身体から青い炎が出て来ました。

ナオミが青い炎を出すと、ゆたかは赤い炎を出します。

炎の色で、話し合っている様に見えます。


ゆたかとナオミ、二人が同時に金色の炎を出すと、もう炎は出なくなりました。

それと同時にナオミがゆたかに抱き付きます。


ナオミの目からは、大粒の涙がこぼれ続けています。


黒い魔女だったナオミは、次第にいつものナオミに変わっていきます。



二人、ガッツリ口づけをし始めました。



おかあさんは、おとうさんの首根っこを掴んで、階段を降りていきます。

そしておとうさんにこう言いました。

「いつまでも見ているんじゃないの!」


そうして、おかあさん、おとうさんに口づけをしてあげました。


おかあさんの口づけ、おとうさんには”気付け薬”なのです。



ゆたかとナオミ、なかなか1階に降りてきません。


暫くしてからおかあさんが、2階の二人に声を掛けます。

「夕ご飯、冷めちゃうわよ! 」


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