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駄目(俺+魔女)  作者: モンチャン
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7 自室にて

自室にて


この女を何処に寝かせるか考えた。


親や姉貴の部屋ではまずい。客間に布団を敷いて寝かせることにして「おやすみ」と言って自室に戻った。



俺のベットはでかい。ダブルよりクィーンサイズに近い。大の字で気持ち良く寝たいと言ってはいるが実は寝相が悪いのでその対策である。


明日は久しぶりの釣りだ。面倒くさがり屋の俺ではあるが、釣りの種類は多分一番面倒臭いフライフィッシングである。



以前、徹夜で信州まで車を飛ばして釣りに行ったが、ロッドは持ってきたのにリールを忘れた。

愕然としてそれでも蕎麦を食べて善光寺近くの七味唐辛子を買って帰った事がある。


「帰りが早いね」と言うオフクロと姉貴に思わず事の次第を話してしまい、「今度はリンゴ」とか訳の分からないことを言われた。

その後、話のネタが途切れると、繋ぎのネタにされている。


同じ失敗はするまいと、なかなか釣行出来ないにも関わらず準備だけは万全である。



以前は現場業務で週一で休めれば御の字だった。

設計部に移ってやっと週休二日になり釣りに行けると思っていた。


3年間の現場期間の後は設計に異動の予定であった。

何故か、現場期間が1年延び4年間となって、昨年の4月から設計部勤務となった。



姉貴は入社試験の成績も優秀で問題はなかったが息子の俺はコネ入社で、上層部の信頼が厚いオヤジに直接言える奴はいなかったが、かなり気にしていた。

設計部に配属替えになると分かった時点で、ある特訓が始まった。


オヤジの趣味は表向きはゴルフであるが、実は1級建築士試験の毎年の出題予想である。


オヤジはパソコンを自在に操り、エクセルやパワポが新しくなると完璧に使いこなす。


以前、半ば強引に会社の若手を集めて講習会を開き全員を1級建築士に合格させ、会社役員全員から技術管理職への昇格を打診された

「まだやることがある」と断っていた。

どうやら「やること」とは俺を1級建築士にすることだった。


法令が改正になり受験資格の緩和が行われたが、現場業務中は時間が忙殺され、気持ちがついていけなかった。

萎えた気持ちのままいつかは受験しようとは思っていたが。


オヤジの予想問題を何度も解いたが、出来の悪さと残り時間の少なさに焦ったオヤジは回答集を作成した。

全部完璧に覚えろと温和なオヤジが鬼に変身しているのが分かった。


生まれて初めて見た鬼のようなオヤジに恐れをなして仕事と寝ている時間以外は「回答集」をひたすら覚えた。

勿論、毎回チェックが入り手抜きは許されなかった。


お蔭で1級建築士に一発で合格し、周りから「結構優秀なんだ」とお褒めの言葉をいただいた。

試験後の感想戦で、こんなミスをしやがってと初めてオヤジの拳骨をいただいた。


そんな昔話を思い出しながら、眠りについた。



うとうとしていると部屋に気配が感じた。


その気配は俺のベットに入ってきて、俺の背中の直ぐそばに移動した。


会社帰りから寝るまでに色々あり過ぎて、頭の中の整理がつかない。そのまま睡魔に負けた。


夜中寝返りを打つと側に誰かが寝ている。

懐かしいようなオフクロとも姉貴とも違う。

間違いなく女性の匂いだが、心から安心出来るその匂いに深く呼吸をした。


無意識に手を伸ばすとあの女である。

思わず両手で引き寄せて抱きしめてしまった。

何故か女も嫌がらず、俺に抱きついた。


腕の中の女から匂いがする。安心出来る匂いが。

2,3回深く呼吸すると意識がなくなった。



3時半にスマホの目覚ましで目が覚める。


睡眠時間は少ないのに変な眠気はない。

俺の腕に優しくしがみついて寝ている女を見て、昨夜の出来事は夢ではなかったと実感した。


そっとベットから出て冷たい水で顔を洗って目を覚ます。

いつもはもう1回寝ようかななどと思うこともあるが、何故か今日は爽快である。


濡れたタオルを絞り女の顔にのせる。

「ビヨ」とかいう擬音と共に目を覚ました。


「おはよう」と声を掛けると、女はガバッと起き上がった。


寝具を整え、昨日用意したウェアーのセットを渡すと嬉しそうに着替えた。

何故か全てがピッタリ。

俺は先にXXLサイズに着替えていた。


「エヘヘ、おそろ」と微笑んでくるっと回って見せられた。

顔を洗っただけで化粧をしていないのに、街を闊歩するオネーサン方より綺麗で光っていた。


「化粧品は持っていないのか?」と尋ねると、「要らない!」と答えが返ってきた。

まだ外は暗いが6月の紫外線は強い。

オフクロの未使用オールインワンなる化粧水を渡してつけさせる。


唇もリップが要らないくらいピンクに輝いている。

「お前の使いかけで良いのに」という言葉を無視して俺の新品リップクリームを渡した。


リップクリームを塗る姿に「綺麗だ」とつぶやく。

「もう一回!大きな声で!」とかえされた。

「綺麗で可愛い!!」と半ばやけになって声を出した。


いきなり抱きつかれて唇を合わせられた。

「これでリップ完了!」と両手を腰に当て胸を張っている。


焦って固まっていると「初キッスか」と笑われた。


中学・高校と男子校。大学は工学部。就職して直ぐ現場。天然のオフクロと小学生くらいから庭に巻藁を設置して「蹴り」の練習をしていた姉貴。

正直、多少以上の女性恐怖症。

それと本当の事を言われて落ち込んだ。


サっと女の顔が変わった。

綺麗な瞳に涙をためて俺に抱きついて「ごめんなさい」と何度も繰り返す。


何だ? 何がどうしたんだ。


朝食は途中のサービスエリアで食おう、そう言葉を紡ぐのに精一杯だった。


女の身長は結構高い。

ドラマなら男を見上げて涙を流すところだが、ほぼ真横で涙を流している。


そばにあったテッシュを取って涙を拭いてやり、女の手を取って出発の準備をした。



ちょびっと長めになりました。

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