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駄目(俺+魔女)  作者: モンチャン
64/169

64 その後

その後



金曜日の朝、いつも通りに起床。


部屋の中にナオミはいない。

下のキッチンで、オフクロとナオミの声がする。


顔を洗ってダイニングに座ると、目の前にハムエッグとサラダ、それとクロックムッシュが並べられた。


「結構なボリュームだね?」

そう言うと、ナオミが答えた。


「夕食を少なくして、朝と昼を充実させた方が良いんだって。 お昼のお弁当、豪華にしたよ。」


用意されたお弁当の包みを見ると、いつもより1.5倍ほど大きい。


「色々言っているが、夕食は居酒屋メニューじゃないか。」

と声に出さないつもりだったが、音が漏れていた様だった。


「え? 何て言ったの?」


すかさず言った。

「考えたお弁当、有り難う。」


ナオミが納得したようなので、大丈夫だろう。



「行ってきま~す。」

と、自分でも元気だなと思える感じで、家を出た。

週初めの月曜日と違って、明日が休みの金曜日はとにかく嬉しい。



頑張らなくても良いのに、いつも自転車に乗ると頑張ってペダルを踏んでしまう。



いつも通り、ジムに寄って、頑張らない様に頑張った。



オヤジの知り合いで、一緒にジムで頑張っているオジサンの言葉が、頭の片隅に残っていた。

「若い時、やたら重い重量で歯を食いしばっていたら、奥歯が割れた。」


そんな事は、と思ったが、重量挙げもやっていたオジサンで、マウスピースの大切さを教えて貰った事もあった。


ちょっとだらしない感じだが、口を半開きにすると防げると言われたが、お湯に入れて噛み締めると出来上がるマウスピースを探してみようと思っている。

よく、濃~い青色とか物凄い色のマウスピースをしている人をみるが、基本は透明に近いものだろうと思う。

そのまましている人に夜道で会ったら、気の弱い俺は卒倒しそうである。



運動終わりにプロティンドリンクを飲んだ。

朝食が充実し過ぎていたのか、同じ量なのに腹がイッパイになった。



いつのも駅から電車に乗る。

珍しく、運が良いのか席が空いていたので、座らせてもらった。



いつもは座れないのだが、座れてしまうと物思いにふけってしまう。

思い出さなくても良いのに、ナオミが見た「悪夢?」を思い出した。


エロビデオやパーティー会場での出来事で、夢の出来事は殆ど当てはまった。


特に、ナオミに親切だった「田中さん」は、近所のナオミが大好き・ナオミも大好きのおばあさん(田中さん)の娘さんだと言うのは、直ぐに分かった。

俺も、オヤジとオフクロが北海道に行った時、「作りすぎた」と言っては野菜の料理をご馳走してもらった。

ナオミが俺の奥さんだと言い切って一緒に暮らし始めた後も、ナオミに料理を教えてくれたり親切にしてもらっている。

ただ、娘さんとは言っても年齢は俺のオフクロに近いはずで、その旦那さんが新聞記者で、お子さんの息子さんは大学生、娘さんは高校生である。



しかし、ただひとつ気掛りな事があった。

ナオミが妊娠した部分である。



何か釈然としないまま、電車から降り、会社に向かった。



難しい顔をしていたのか、会社の連中は、あまり話しかけてくる者はいなかった。


トイレに行って鏡を見ると、眉間に皺がよっていた。

思わず可愛く笑ってみたが、自分自身で気持ち悪かった。



珈琲豆を挽いて出来上がるコーヒー自販機で、一番濃いものを選んで、席に戻った。



部長から言われた。

「何、悩んでるんだ? お前のことだから仕事じゃないな。」


流石、上司。 お見通しである。


「お前の美人の奥さんの事か?」


す、鋭い・・・


「でも、心配するな。 お前の奥さんだって言うより、 総務の山口さんの妹さんって事で、みんなビビってるから・・・」


よっぽど、姉は怖がられているらしい・・・?


そう言えば、ナオミや美智子を紹介して欲しいという、社内メールは来なくなった。

まだまだ、ナオミや美智子は俺の妹達と思い込んでいる輩が、社内に沢山いるようである。





部長の電話が鳴った。

「おい、三浦君。 工事本部長のところに行ってくれ。 お客さんが、君に会いたいんだってさ。」


「は、はい? 分かりました、 行ってきます。」



工事部門はフロアが違うので、エレベーターと思ったが、朝から食い過ぎなので、階段を利用した。


うちの本社ビルは高層の建物で、殆どの人は、移動にエレベーターを利用する。

階段室は非常階段も兼ねているので、幅は広いが殺風景である。

階段を上りながら設計部員として何かないかと考えたが、生粋の設計担当ではない所為か、センスが無い所為か、何も思い浮かばないまま目的階にたどり着いた。



工事本部長の部屋の扉をノックすると、「どうぞ。」と本部長の声。


「失礼します」と言って、中に入ると後ろ姿の客人と、本部長とうちのオヤジが座っていた。


オヤジが本部長に何やら話すと、本部長は一言言って、オヤジと部屋を出ていった。

「お客様が三浦君とお話がしたいそうだ。 ちょっと離席する間、相手をしてやってくれ。」


オヤジの座っていた席に座る前に客の顔を見て驚いた。

パーティーで会った、IT企業の双子の上司が座っていた。


ナオミの夢を思い出して、思いっ切り拳を握ってしまった。


工事本部の事務担当のお姉さんが、にこやかに部屋に入ってきて言った。

「三浦君、コーヒーでいい?」


「あ、有り難う御座います。」


気勢をそがれた。


握った拳を広げると、爪の痕がくっきり残っていた。


確か、ジョージという名前だったよな?

そう思っていると、またまた、お姉さんが現れて、俺の前にコーヒーカップを置いた。


お姉さん、俺に耳打ちした。

「三浦君の知り合い? 知り合いだったら後でメアドとか教えてね。」


女ってヤツは・・・ と思っていたら、お姉さん、俺の肩をたたくと、ジョージに向かって微笑みながら部屋を出ていった。



ジョージが立ち上がった。

190cmを軽く越えている。


身構えたら、名刺交換だった。


慌てて胸ポケットから名刺入れを出して、名刺交換をした。


「杉山 ジョージ」と書いているだろう名刺を見ると、「専務  杉本 大二郎」と名刺の真ん中に書いてあった。


「だ、大二郎さんってお名前なんですか?」


「あはははは・・・ オフクロがアメリカ人で、洋風な顔なので、 名刺を渡すと、みんな、三浦さんの様に驚かれるんですよ。」

そう言いながら、ジョージ、いや、杉本さんが座ったので、自分も座った。


「でも、「二」の字が入ってますが、僕は長男なんですよ。」

そう言って、杉本さんは、更に笑った。


「バスケットとか、バレーボールとか、なさっていたのですか?」


「いや、いや、いや・・・僕、ウンチ、運動音痴なんですよ。」


「・・・・・・」


「小学校の頃から背が高かったので、中学、高校と運動部に誘われました。」

「バレーボールでボールを投げられると絶対返せないし、終いには顔でボールを受けて鼻血を出すし、バスケットなんてボールを投げても飛んで行かないで目の前の地面に・・・」


本当に文化系?の人なのが、よく分かった。


「コンピューターとかはお好きだったんですか?」


「根暗なんですね。 椅子に座ってキーボードを叩くのは好きですね。」


「でも、秀でているものがあったから、今の地位にいらっしゃるんですね?」


「まあ、そう言って貰えれば嬉しいんですが、あまりに運動音痴なのを心配してくれたうちの奥さんが、僕を好きになってくれたのが大きいんですよ。」


「ほ~、大学あたりですか?」


「いえ、 中学の2年生の時です。」


「早かったんですね?」


「僕を認めてくれる人が現れたので、一生懸命勉強したお蔭ですね。 妻には感謝しかありません。」


「・・・・・・」


「妻は、三浦さんの奥さん、ナオミさんと多分いっしょの性格で、結構強引なんですよ。」



「は?」

この野郎、俺のナオミの何を知っているんだ?



「僕と妻は同い年で、大学を卒業する前に結婚しちゃったんです。」

「向こうの両親に反対されたんですけど、妻が両親を黙らせて、婿養子にされちゃいました。」


「三浦さんも婿養子ではないのですか?」


「あ、あはははは・・・ 」 笑いが乾いた。

「そう見えちゃいました。 うちは、奥さんの方が私の両親と仲が良過ぎるので、そう思う人が多いんですよ。」


「あ、失礼しました。 先程もお父様がナオミさんのことを「うちの娘」「うちの娘」と仰っていたものですから・・・」


「いえ、うちのオヤジもオフクロも、息子の私より、嫁の方が可愛いみたいですよ。」


「仲がよろしくて羨ましい。 うちの義理の父は、剣道の達人で、私の運動音痴を諦めてもらうのに苦労しました。」


「杉山、いや、杉本様の会社は、株式を上場していないようですが?」


「結構、大きい会社なのですが、同族会社なんですよ。」



ジョージ、いや、杉本氏のスマホが鳴った。


「お気になさらず、電話に出てください。」


そう俺が言うと、杉本氏は立ち上がって窓際に行き、小声で電話し始めた。



暫くすると、杉本氏が椅子に座って、冷めたコーヒーを飲み干した。


「大変ですね。 何処までも電話で追いかけられて・・・」


「そうなんですよ。 今も妻からなんですが、帰りにデパ地下で色々買ってこいって電話なんですよ。」


「まあ、今日は金曜日ですから・・・」



その後の杉本氏の話の内容を聞いて驚いた。


「自宅での食事関係は、全て僕がやってるんですよ。」


「お料理をするのがお好きなんですか?」


「い~え、 家の中で僕が一番暇なのと、会社での地位も僕が一番下ですから。」


「お、奥様は・・・?」


「副社長ですね。 会社も、家庭も、お金のことは全て妻が取り仕切っています。 僕の1ヶ月のお小遣いは1万円なんです。」


「い、1万円?」


「僕は、お酒もタバコもやらないし、毎日お弁当とポットを持っていくので、1万円でも余りますよ。」


「会社の帰りに何処か寄るとか?」


「真っ直ぐ帰ります。 早く帰って、保育園に子供を迎えに行って、夕食の用意をしなければいけないんですよ。」


「は、はい・・・ でも、買い物の支払いとかは?」


「あ、それは別にカードがあります。 毎日買ったもののレシートを渡すと、妻が家計簿をつけてくれるんです。勿論、パソコンですよ。」


「それじゃあ、杉本さんの趣味に使うお金とかは?」


「僕の趣味は妻なんです。 愛しているんですよ・・・」


杉本氏の目は遠くを見ていた。



「間違えても、浮気、いや、他の女性を好きになるとかは・・・」


杉本氏に速攻言われた。

「う、浮気なんて、とんでもないですよ。 妻以外の女性なんて恐ろしくて・・・」


「何か嫌な事でもあったのですか?」


「一種の女性恐怖症なんですね。 話したりする事は出来ますが、女性に近寄られたり触られたりすると鳥肌が立ちます。」


「は?・・・?」


「この前のパーティーでも、三浦さんの奥さんや妹さんの美智子さんが近づいて来た時、寒気がしましたもの。」


呆れたので、美智子が本当の妹ではないことを指摘出来なかった。


「でも、でもですね。 妻だけは違うんですよ。 ちゃんと子供が二人いるし、もう一人も妻のお腹にいるんです。 僕は世界一幸せ者です。」


何と言って良いのか言葉が出てこなかった。

本部長! 早く帰って来てくれ! とひたすら祈った。



祈りが通じたのか、暫くすると本部長が戻ってきた。


本部長。

「もう暫く、お話をされますか?」


「いえ、三浦様に色々聞いていただいて、楽しかったです。 今度、家の方にも遊びにいらしてください。」


「はい、 有り難う御座います。 じゃあ、私はこの辺で仕事に戻ります。」

そう言って、やっと解放された。



階段を歩き、設計部へ向かいながら考えた。

「ナオミのみた夢って、もの凄いぶっ飛んだヤツなんだな・・・ ジョージじゃなくて杉本さん、全然違うじゃん?」



モヤモヤが解決して、仕事が捗った。



野菜が多い、ボリュームタップリのお弁当を食べて、腹一杯。

歯磨きをして自席で仮眠。



午後の仕事も快調。 俺だって、杉本さんみたいに、自分の奥さん、ナオミを大好きなんだから・・・何でも頑張れる気がする。



午後3時に、つよしとコーヒー。


つよし。

「今日さ、 美智子がナオミお姉さんと創作料理を作るんだって。 だから、帰り、一緒に帰ろうよ。」

そんな話は聞いていなかったのか、聞き漏らしたのか・・・


「OK!」と言って、コーヒーを飲み干した。



例によって金曜日。

飲みに行きたい連中ばかり。

いつもの事だが、みんな、こういう時の動きは速い。


下戸の俺は、金曜日というと出遅れる。

用事の無い俺がサーバーのシャットダウンを確認する。



案の定、つよしが迎えに来た。

「うちの部長と、兄貴のところの部長達で勝手にやってる「部長会」の例会なんだって。」


「何だ? 例会って。」


「飲み会じゃあ、格好付かないからだろう。 ゴルフの集まりみたいだよね。 あははは・・・」


「うちの親父も入っているのかな?」


「昔は入ってたみたいだけど、北海道から帰ってきたら、ナオミお姉さんがいるから「休会中」みたいだよ。」


「うちのオヤジ、ナオミのこと好きだもんなあ。 実の娘の姉貴が呆れかえってたもん。」


「兄貴のトコも、そうなんだ。 うちもだよ。 まあ、本当の妹は亡くなったけど、美智子は生き写しだもん。」


「まあ、妹さんは残念だったけど、ミッちゃんのお蔭で、叔父さん、明るくなったもんな。」


「もう、大変だよ。 いっつも、美智子、美智子でさ。」


「あ~、 うちの場合はもっと酷いぜ。 俺が婿だと思ってるヤツが近所に沢山いるんだもん。 オヤジやオフクロが否定してくれないんだよな。」


「あはははは、 伯父さん、伯母さんらしいや。」



そんな話をしながら電車を乗り継いで、最寄り駅に着いた。


駅の近くのスーパーで、牛乳を買って、自転車を押しながら二人で歩いた。



家に着いて、玄関を開けたら、叔父さんと叔母さんの靴もあった。


叔母さん。

「ユタちゃん、またお邪魔してるわよ。 おとうさんが、美智子がいないと夕食を食べないってだだをこねるから来ちゃったの。」


俺、つよしに耳打ちした。

「叔父さん、かなりだな。」


つよし、ちょっと呆れた顔をして一言。

「うん。」



部屋に行って着替えをする。

以前は一人で自分の部屋に上がってきたが、近頃はナオミが夕食の準備を中断しても付いてくる。


上着を脱ぐのを手伝ってくれる。

上着をハンガーに掛けると、抱きつかれる。


もしかして、女の人の匂いでもして、浮気のチェックかな? と思っていたら、違うらしかった。


大体、俺が浮気などする筈がない。

こんなに優しくて、可愛くて、美人で、スタイルが良くて ・・・ な奥さんがいるのに・・・・



優しくて、可愛くて、美人で、スタイルが良くてもナオミは魔女だ。

浮気などしたら、直ぐに気付かれ、殺されてしまうかもしれない。



ただ、ナオミが抱きついた時、俺の匂いを、やたら嗅ぐ気がする。

最後に深呼吸をすると、一言言ってキッチンに帰っていった。

「えへ! 着替えが終わったら、直ぐに来てね。」



どうも、残ってはいないようだが、悪夢の後からそうなったので、変な副作用かも知れない。



もっと、もっと、ナオミに優しくしてやろうと思いながら、階段を降りた。

しかし、階段の途中で、思った。

もっともっと、ナオミを甘えさせてやろうかとも思った。

俺は長男とはいても、二番目に生まれて甘やかされた。

ナオミも二番目に生まれたけど、強い魔女だと言われて育った。

甘ったれの俺にどこまで出来るか分からないし、オヤジはまあ大丈夫だろうけど、オフクロには怒られそうだが、思いっ切りナオミを甘やかさせてやりたい。


特につよしの父親を見てそう思った。

ただ・・・ ちょっと方向性は違うかな?


美智子もナオミと同じでシッカリしている。

特別な存在だと言われ続けたのであろう。

しかし、つよしも叔父さんも美智子を甘やかしているが、優しさで包み込んでいる。



でも、つよしと俺との決定的違いを思い出した。

あいつ、つよしは本当に先に生まれた長男である。

つよしの兄としての優しさが、美智子に悪い夢など見せないようにしているのかな・・・?


俺みたいな甘ちゃんのガキに、つよしの真似が出来るのだろうか・・・心配になった。


そんなことを考えていたら、ダイニングの席はいつもの端の席だった。



「さあ、座って。」の声に、「おさんどん」役の端の椅子に座った。



座って、この前の2次会を思い出した。


それぞれのオヤジ達は、自分の娘の前に陣取っている。

つよしと顔を見合わせたが、「仲よき事は美しき哉」 かな?



もう、ナオミには悪夢の欠片も残っていないようで、取り敢えずビールから始まって、最後はハイボールで締めていた。


夕食の時の「創作料理」は色々な食材をふんだんに使ったバランスの良い料理で、やたらお酒を飲むので、健康志向にしたのかなという料理だった。



夕食後のリビングでは、美智子の新しいケーキがお披露目された。

いつもはコーヒーに合うものが多かったが、今回は紅茶に合う様な味付けに仕上げてあった。



風呂から上がると、オフクロの号令で、みんな、シッカリ歯磨きしてからそれぞれの部屋へ。



例によって、たらふく飲んだナオミの頭を撫でると、俺の横で直ぐに可愛い寝息をたてた。


何度見ても可愛い。

こんな可愛い寝顔を、他のヤツに見せたくないと心底思ってしまった。

優しく、優しく抱き締めて、そのまま俺も眠ってしまった。




翌朝、目が覚めると、俺の腕の中に可愛い寝息のナオミがいた。

早めに寝た所為か、いつもより早く目が覚めた。


いつもの土曜日の起床時間より2時間近く早い。

そういえば、朝はナオミの方が早く起きて朝食の準備をするので、朝の寝顔を暫く見ていなかった。


ナオミは美人であるが可愛い、 夜の寝顔も可愛いが、朝の寝顔はもっともっと可愛かった。

おでこにキスをしたら、顔を俺の胸にうずめてきた。

もう、我慢が出来ないと思う前に、ナオミの香りに包まれて、二度寝になってしまった。



ほっぺツンツンで起された。

「あれ、もう起きる時間?」


「まだちょっと早いんだけど、・・・お話しよう。」

朝から可愛く話しかけられた・・・新手のおねだりか?



何処かの杉本さんと同じで、俺も小遣い制である。

ジムの支払いはカードからなので、プロテインドリンクと、自販機のコーヒー以外にはお金を使わない。



「今、何時?」


「6時くらいかな? 6時半になったら起きるからそれまで・・・ね?」


か、可愛い・・・毎日見てるけど・・・可愛い・・・

「う、うん。」



「この前のパーティーの前にね、ミッちゃんと美容院に行ったの。」

俺の腕の中で甘えるように話し出した。


「お母さんに言われて、カットしに行ったんだけど・・・ えへ、お母さんにカット代、出してもらっちゃった・・・」


「ん?」


「ミッちゃんとさ~・・・子供、どうしようかって話になったの。」


「うん。」


「ミッちゃんとこはさ~、お父さんとお母さん、いるじゃない?」


「そうだね。」


「あたしんちは、もう暫くお父さんとお母さんは東京に戻ってこないって話だったでしょう?」


「そうだね。 だけど早々と東京に戻ってきたよね。」


「あたしはさ~、お母さん達が戻ってきたら子供をつくろうかと思ってたの。」


「うん。」


「でも、お母さん達、戻ってきてくれたから、子供、つくっちゃおうかな~って・・・」


「うん。 どうせ、子供をつくるなら、若いうちの方が良いよね。 子供が大きくなった時、俺達も若いと一緒に色々出来て、楽しそう。」


「それにね、ミッちゃんとも話したんだけど、お母さんがいてくれると安心だよね。」


「うん。 あっちはベテランだもんね。 それに、俺達が遊びに行く時、頼めるじゃん。」


「あ~、 ゆたかって悪いヤツ。」


「べ、別に子連れだって良いんだよ。」


「うふふふふ・・・」



「あとね、ミッちゃんと言ったの。」


「何て?」


「それぞれで、男の子と女の子にして、将来結婚させちゃおうかって・・・」


「そ、それは・・・。 そんなにうまく、産み分けられないだろう?」


「魔法、使っちゃおうかな~・・・」


「・・・・・・」


「うふふ・・・ 冗談よ。 でも、もうそろそろ、良いよね?」


「うん。 今夜、頑張っちゃう?」


「駄目! 美容院で見た占いだと、来週の方が・・・」


「そんなのも、書いてあったの?」


「そうだよ。 あと、頭の良い子にする食事のメニューとか・・・」


「昨日食べた創作料理って、それ?」


「うん。 物凄くバランスの良い料理だったわ。」


「う~~、 健康志向だけだと思うけどな?」


「でも、美味しかったでしょう?」


「ナオミが作ってくれたら、何だって美味しいよ。」

「それに・・・」


「なあに?」


ナオミ、俺の奥さん、やたら可愛い、 それにこんなに可愛いしゃべり方だったかな?

思わず、ボ~としてしまった。


「どうしたの?」


「い、いや、 俺の奥さん、こんなに可愛いし、喋り方も物凄く可愛かったんだなって・・・」


「も~、口が上手いんだから・・・ メ!」



朝っぱらからそんな会話があって、悪夢の中の妊娠の話は、ここいら辺が原因のようである。

ナオミは完全に悪夢を消し去った様だが、俺も納得して悪夢の話を忘れられそうである。


話の最後に、ナオミから優しく口づけをされて、悪夢の全てが消えていった。



俺はつよく願った、 ナオミが、この可愛いナオミが一生俺の元にいてくれと・・・





朝から2家族の朝食・・・結構、大騒ぎ。


朝食が終わって、コーヒータイム。

美智子が美味しいコーヒーを淹れてくれた。




「ご馳走様~。」

と言いながら、美智子達は帰っていった。

いつもは車で来るのだが、今日はみんなで散歩しながら帰るようである。




静かになって、何となく寂しく感じる。

掃除や洗濯を終え、ナオミはパソコンを操作している。


俺も、もう1台のパソコンで、ネットニュースを見ていた。

「ナオミ、いつ頃つくるの?」


「な~に?」


椅子に座ったままのナオミを、後ろにまわって抱き締めた。

「子供が出来たら、このオッパイ、子供にとられちゃうのかな?」


「子供にオッパイをあげてる時だけだよ。 元々ゆたかのものだし・・・」


「でも~、子供にオッパイあげたら、今みたいなバインバインじゃあなくなっちゃうのかな?」


「も~、 ゆたかったら・・・  私のはミッちゃんのよりは大きくてバインバインだけど、  って、何? そのバインバインって。」


「い、いや、 俺、表現力が乏しくて・・・」


「それと、Tシャツの中まで手を入れて触ったでしょ!」


「ご、ごめ~ん! 形が綺麗だからまさかノーブラだとは思わなくて、つい・・・」

そう言って、俺が逃げ出すと、ナオミが追ってきた。


「待て~!」


いい歳こいた、大人の二人が走り回った。



丁度その真下の1階のリビングで、オヤジとオフクロが寛いでいる最中だった。

「おとうさん、 上の二人を叱ってくださいね。」


「い、いや、 こういうのは、かあさんが・・・」


「もう! いっつもそうやって、私ばかり悪者になるんだから。 ・・・ ほら、行くわよ。」


「チョット、かあさんの見本を見せてくれよ。」


「最初だけよ。」

そう言って、オフクロが扉を開けた。

オフクロは何も喋らずに立ち尽くした。


「かあさん。 どうした?」


「・・・・・・ え?  ゆ、ゆたかとナオミがいるの。」


「ああ、 俺にもそう見えるよ。」


オフクロ、涙を流した。


「かあさん、・・・どういう風に見えてるんだい?」



オフクロが両手を広げると、二人の前にセピア色の映像が映し出された。

「ほら、 ゆたかとナオミ。 20年くらい前の・・・」


「本当だ。 あの頃、姉のヨーコとヒロミはヨーコの部屋の2段ベッド、ゆたかとナオミはこの部屋の2段ベッドだったな・・・」


「あの頃、二人とも本当の兄妹みたいに走り回ってたのよね。」


「ああ、 懐かしいな・・・ って、かあさん、 二人をどうする?」


オフクロ、優しく言った。

「ほら、ゆたか、 ナオミ、 転んだら怪我しちゃうわよ。」


オヤジも涙声で・・・

「かあさん、えらく優しいね・・・。」



俺とナオミ、思わず立ち止まった。



「仲良くするのよ。」

そう言って、オフクロとオヤジは戻っていった。


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