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駄目(俺+魔女)  作者: モンチャン
55/169

55 お疲れ

お疲れ



美智子は頑張っているのである。


見た目は余裕を見せてはいるが。



ナオミの家に遊びに行っているように見えたが、実は、ナオミとデジタル鬼女システムの開発を行っていた。

魔女用のデジタル魔法システムの鬼女版である。



魔女と鬼女は基本的に変わらない。

鬼女が日本に特化した魔女と言うだけである。


日本の魔女や鬼女は、顔もスタイルも良い。

もしかすると、ヨーロッパ系の魔女の末裔なのかもしれない。



物語にあるギョロ目の鼻の曲がった魔女は、人間が勝手に考えたものである。


実際は、人間と同じ容姿をしていたのである。

違いは魔力を持っていた、それだけである。



鬼もそうである。


昔、日本海で難破してたどり着いた、白系ロシア人を見て勝手に思ったのである。

赤ら顔を見て鬼と思ったのである。


般若、山姥、鬼ババア・・・ 日本にも鬼女の話は沢山ある。


峠の茶屋の女主人が山姥で、旅人が追いかけられたとかの話もある。

本当は、食べた団子の料金を払わずに逃げた旅人が、創った話である。

山菜採りで野山を駆けまわり、足腰を鍛えた女主人が、無銭飲食で逃げた旅人をとっ捕まえて、ボコボコにした。

それを、逆恨みした話なのである。

峠を下りて、ボロボロになった身なりの理由を旅籠の主人に聞かれ、それらしい話をでっち上げただけなのである。



魔女と同じく鬼女も人間と同じ容姿をしていたのである。

やはり、違いは鬼力を持っていた、魔女が魔力を持っているのと同じである。



人間は自分達に都合のよいように思いたかった。

だから、魔女や鬼女の容姿を、おどろおどろしい感じにしたかったのである。




昔は、魔女も鬼女も森の中に住んでいた。


美人が森の中に住んでいる・・・目立つのである。


目立たない方法は簡単であった、人間と同じところに住んでしまえば良いのである。

紛れてしまえば良いのである。


魔力や鬼力を見せなければ、人間には気付かれなかったのである。



だから、魔女や鬼女のセキュリティは、完璧なのである。


ただ、アナログでは、管理が大変であった。


それを改善したのが、デジタル魔法システムである。



鬼女もデジタル魔法システムを採用して、管理しようとしていた。


システム自体に違いは無いが、登録するデータベースのチェックが大変なのである。



どこかの国の○○カードの様に、いい加減な登録をすると、迷惑するのはユーザーなのである。

だから、システムの構築、運営は大変なのである。




美智子が全面的にデジタル鬼女システムの開発を行っていた。

システム的に似通っているとはいえ、孤軍奮闘である。

まあ、ナオミも手伝ってくれてはいるが・・・




美智子は結婚してしまった。

夫がいる。

夫の実家に転がり込んでしまった。



美智子は家事は嫌いではない。

まして、夫のつよしを大好きである。


健気にも、頑張ってしまうのである。




結婚の報告は近親者にしかしなかった。

ただ、伝え聞いた若手の鬼女が、美智子の手伝いを始めた。


みな、口々に言った。

「もう、みっちゃん。 言ってくれればみんな協力するのに。」


有り難く手伝って貰った。


お蔭で、今年度の鬼女の全国大会に、暫定版をお披露目が出来る運びとなったのである。




特に京都の代表は協力的だった。


美智子は打ち合わに京都に行った。

勿論、指を鳴らす例の方法で。


代々、鬼女の代表は京都出身者であった。


京都代表の母親はデジタル嫌いだった。

ただ、彼女は美智子に期待していた。

鬼女の将来を担うのは、美智子だと分かっていたのである。



若手はパソコン等の操作は慣れている。

美智子は京都代表である娘より、その母親をターゲットにしていた。


「デジタル鬼女システム、使ってみてどうですか?」


「う~ん、どうも・・・」

京都代表の母親の感触は良くなかった

システムよりパソコンに対する拒否症だった。


「おばさま、スマホはお使いになります?」


「まあまあ、使うわよ。」


「分かりました。 スマホを子機として利用出来るように改良します。」



結果的に美智子は仕事を増やしてしまった。


しかし、使って貰えなければ、開発した意味がないのである。

美智子を手伝ってくれている、若手の鬼女達にも申し訳ないと思っていた。




美智子は大学の専攻は情報科学だった。

コンピュータシステムに興味があったのである。

所謂、リケジョなのである。



ナオミも同じ学部だった。

当然、先輩である。



ナオミに、スマホを子機として利用出来るようにしたいと聞いてみた。


「みっちゃん! それよ、それ!」


ナオミもおばさんの魔女に、システムを使わせるのに苦労していたのである。



ナオミと美智子で、システム開発を頑張った。



何とか暫定版を完成させ、京都の鬼女代表の母親に使って貰った。


「良く出来てるわね~。 美智子さん、見込んだとおりだわ。」


大好評だった。




美智子は真面目である。

家事の手抜きはしなかった。


食事の用意も、お弁当も、確実に・・・



ただ、夜は眠かった。

睡眠だけが美智子の頑張りを支えていた。



つよしは美智子が忙しいのは分かっていた。

姉的存在のナオミからも情報は聞いていた。



美智子は、お風呂から上がって、ベッドに入ると、睡魔に負ける日が続いていた。


夫のつよしは優しかった。

いつも美智子が先に寝てしまっても、美智子のおでこにキスをするだけで、そのままつよしも眠っていた。






今年度の鬼女全国大会が開催された。

毎年、開催地はかわる。

今回は九州博多である。


登喜子の母は、鬼女の代表である。


登喜子の母親は、鬼女全国大会での議題の一つとして「デジタル魔法システム」の鬼女版の採用を提案していた。


姉の登喜子は出席しなかったが、美智子はシステムの開発状況の説明等で、大会に出席していた。


登喜子の母親が出歩けるのは、登喜子が実家の弁護士事務所の全てを取り仕切っているからである。




システムについて、がたがた文句を言う各県代表がいた。

若手ではない、おばさん鬼女である。



そんな中、一人の鬼女が手を上げて壇上に向かった。


京都の代表の母親は、元鬼女の代表である。

その人が壇上に向かっていたのである。


文句を言っていた各県の代表達は、自分達の代表が現れたと思った。

自分達の先頭に立って、システムに文句を言ってくれると思ったのである。



「色々な意見がある様だけど、みんなスマホは使ってるんだよね?」

開口一番の声だった。


「今どきは、おばさんだってスマホくらい使うわよ。」

文句を言っているおばさん鬼女達の声だった。



「あたしも、システム開発とやらを手伝っているんだよ。 スマホ版はなかなか使えるんだがね・・・」

言いながら、おばさん鬼女達を睨み付けた。


自分達と同じ様に文句を言うと思った京都元代表が、スマホ版のシステムを使っていたのである。



「みんな、忘れたんじゃないだろうね。 私たちが、鬼女である事を人間に知らせない為に苦労してきたことを。」


そうなのである、魔女や鬼女だと人間に知られてしまえば、間違いなく迫害されるのである。

ちょっと違うだけで、迫害するのが人間の性なのである。



自分達だけなら仕方がない、鬼女なのだから。

夫は、子供はどうしたら良いのか?

特に男の子は普通の人間と変わらない。

今まで、平穏に暮らしていたのに・・・



「このシステムとやらは、セキュリティってやつも完璧なんだよ。 私たちを守ってくれるんだよ!」


「言ってる意味が分からないヤツは、私が許さないよ!  例え、二番目に生まれた鬼女の美智子が許したとしてもね。」



京都は鬼の本場である。

東京の代表、美智子の母親が鬼女の代表になってからも、影響力は絶大である。


京都には鬼女にまつわる伝承が多い。

伝承にも文書にも記されていた。

二番目に生まれた鬼女は化け物だと。



その化け物と、京都元代表を敵に回すものは、この会場にはいなかった。




美智子はつよしと結婚して、かつての強引さはなくなった。


皆の意見を聞いて、相手を納得させる努力をした。



元京都代表の鬼女は昔の美智子を知っていた。

自分に敵対する存在だと思っていた。


しかし分かったのである。


二番目に生まれた鬼女の凄さを。



初めは鬼力が強いだけだと思っていた。


自分の娘、新しく鬼女の京都代表と打ち合わせしているところを見てしまった。


真面目である。

頑張り屋である。


特に驚いたのは、他人(他鬼女?)を思いやる気持ちが凄いのである。



自分の娘が優れていると、思っていた。

実際は、自分の娘を遙かに超える存在だったのである。


鬼女の代表である美智子の母親が羨ましかった。



以前システムを美智子だけが開発していた頃、自分の娘との打ち合わせが終わり、美智子が挨拶をして帰っていった。


直ぐに娘に命令した。

美智子を全面的にバックアップしろと。

若手の鬼女にも連絡して、美智子をバックアップしろと。



元京都代表、元鬼女代表の鬼女は、美智子がお気に入りになってしまったのである。




挙手による全員一致で、「デジタル魔法システム」の鬼女版のスマホ対応を製作する事が、決議された。

担当は美智子である。


暫定版の完成目標を1年後とする事を決め、会議は終了した。




鬼女会議の会場を出ようとする元京都代表と京都代表の母娘がに走って近づく者がいた。


美智子である。




「先程は有り難う御座いました。」

「先輩のお蔭で皆様が使いやすいシステムを構築出来ます。 今後ともご教授、宜しくお願い致します。」


そう言って、美智子は深々と頭を下げた。



元京都代表は、微笑みながら言った。

「あなたは鬼女期待の星なの。」

「娘と一緒にあなたを盛り立てていくわ。」


美智子は言った。

「頑張ります。」


元鬼女代表から、美智子には予想外の言葉が返ってきた。

「頑張っちゃ駄目よ。」


「え?」


「美智子ちゃんにとって、一番大事なものは何?」


「システムを、良いシステムを構築することです。」


「違うのよ。 あなたにとって一番大事なものは、あなたの旦那さん。」

「システムの構築は、二番目か三番目かしら? それ以下で良いのよ。」


娘の京都代表が言った。

「みっちゃん、一人で頑張らないで。 みんなでやりましょう。」


「あ、有り難う御座います。」



おばさん鬼女に囲まれていた美智子の母親が、京都の二人に頭を下げていた。

母親が顔を上げたとき、涙が溢れているのが見えた。



手を振りながら、京都の二人は消えていった。





美智子は疲れていた。

周りからは元気そうに見えてはいたが。


母親の真佐子は分かっていた。

美智子が限界ギリギリだっていう事を。


母親は美智子を飛行機に乗せた。

「指一発」の移動は危険と判断した。

自分と一緒ならともかく、美智子一人ではちゃんと帰れないかもしれない。


母親は鬼女代表である。

鬼女会議後の宴会があったのである。



羽田空港には、夫のつよしが待っていた。

車で首都高速道路を走っていた。

美智子はレインボウブリッジが綺麗だというところまでしか記憶がなかった。




家に帰って、美智子は気力を振り絞った。


夕食の時、美智子は父親とビールを飲んで盛り上がっていた。

「取り敢えず、今年の大会は終わりました~!」


つよしには、いつもより盛り上がりが足りないのは分かっていた。



つよしはリビングで寛ぐ美智子を、一番最初にお風呂に入れた。


そして、お風呂から上がってきた美智子を、サッサと自分達の部屋へ行かせたのである。




美智子はつよしが大好き、 つよしも美智子が大好きである。


つよしは美智子に選ばれた、 鬼女の美智子に。


好きだからだけで選ばれたのではない。



魔女や鬼女の生涯の相手は、魔女や鬼女をどうしたら幸せに出来るのかを知っているのである。


今、そしてこれから、・・・



そして、守ってやらなければいけないのである、自分より強大な力を持つ魔女や鬼女を。



だから、つよしは美智子を守る定めなのである。


美智子を守ってくれる大切な存在なのである。




つよしがお風呂から上がって、二人の部屋に戻ると、既に美智子はベッドに入っていた。



鬼女のデジタルシステム、鬼女の全国大会、美智子は大忙しであった。


鬼女の全国大会は、滞りなく終わったのである。



つよしの夜のお相手も滞っていた。



つよしがベッドに入ると、美智子は何も着ていなかった。


つよしを受け入れようとしていたのである。



つよしが美智子を優しく抱き締めた。


抱きながら美智子の頭を撫でた。


「美智子、 おやすみ 。」


つよしの腕の中で、直ぐに美智子は寝息を立てた。



「ふふふ・・・」


美智子は夢を見て笑っていた。


夢の中でも、つよしに優しく抱かれていたのである。


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