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駄目(俺+魔女)  作者: モンチャン
54/168

54 同窓会 (みっちゃん)

同窓会 (みっちゃん)



美智子は、ナオミや姉の登喜子と同じ学園を卒業していた。


当然? 同窓会はある。

姉の登喜子は、良く出席していた。

もう一人の姉的存在のナオミは、殆ど出席などしなかった。

酒の誘惑に負けて、一度だけ出席したことはあったが・・・



美智子はナオミと同じ考えだった。

「同窓会など、くだらない。」

出席したことなど、無かった。




しかし、今回の同窓会に美智子は出席することにした。


美智子の数少ない学校でのお友達、宮城県の魔女、梓に誘われたからである。

梓が副幹事なので、仕方なく出席するのである。



梓は鬼女の美智子の同級生である。

宮城県の不動産屋の娘であったが、東京にも支店が有り、美智子と同じ学園の中学から大学まで一緒だった。


「結婚したんだから、みんなに報告してよ。」


美智子は面倒臭い事は嫌いだった。

結婚したことは、ほんの僅かな知り合いにしか連絡していなかった。


「1回同窓会に出席すれば、それで済むのか?」

そう思って出席したのである。




同窓会の場所は、姉たちが以前同窓会を開いた「大学の近くの新しく出来た高級ホテルのラウンジ」だった。


夫のつよしに言うと、「終わる頃、ホテルに迎えに行くよ。」と言われた。


「お願いね。」

美智子は嬉しかった。

同窓会の後、夫とデートが出来るのだから。






美智子は姉に電話で聞いてみた。

「同窓会にどんなのを着てったの?」


「美智子が同窓会って珍しいわね。 ナオミと一緒でそんなの気にしない方じゃない。」


「結婚したから、今回だけ出席する事にしたんだ。」


「美智子だから、ナオミと同じ様な格好で良いかな?」



登喜子から、ナオミが同窓会に出席した時の説明を聞いた。


「ありがとう。 じゃあね!」




ナオミと同じに、ちょっとお洒落にドレスを着た。

その上に薄手の軽いコート。


ちょっとヒールの高い靴を履いた。



美智子を溺愛する新しい母親に言われた。

「みっちゃん! 素敵! モデルさん以上に美しいわ。」


「帰りはつよしさんと一緒に帰ってきます。」


母親に手を振って玄関を出て行った。



普段は履かないヒールなので、一般の交通機関の利用は止めた。


指をならすと、新しいホテルの横に立っていた。



ホテルのロビーで梓と待ち合わせ。




ホテルの外を見ると、見たことのある車が停まった。


降りてきたのは、財閥の御曹司であった。

3人兄弟の末っ子で、兄二人とは出来が違って「ワル」だった。


兄二人とは母親が違うのではと思われるほど、出来損ないだった。



美智子は運転手のおじさんを知っていた。

執事の田中さんである。


「ワル」の二歳上の兄が姉の登喜子の同級生で、美智子が姉と付き合ってくれたらと思うほどの良い男だった。

美智子が高校生の時、その優秀な男を迎えに来た運転手のおじさんが、田中さんだった。


3兄弟の母親は、3人目を産んでからは病気がちになり、子供達の対応は、執事のこの男、田中さんがやっていた。



田中さんは温厚で、紳士、、男嫌いの美智子でも、素敵だと思った。



こんなに優秀な男が付いているのに、末っ子だけは出来が悪かった。

二人の兄は、みな、紳士で、優秀なのに・・・



「ワル」が学校で問題を起す度、執事のこの男、田中さんが謝りに来ていた。

財閥の息子であるだけでなく、この執事のお蔭で、大学まで卒業出来たのである。




美智子に気付いた執事の田中さんが声を掛けた。

「美智子お嬢様、お久しぶりです。」



優秀な男である。

顔と名前を確実に記憶していた。


本当は、もっと細かに会った人の特徴を記憶出来たのである。

営業マンになっていたら、簡単に高い地位に進めただろうに。



「もう、お嬢様ではなくなりました。 結婚しましたので。」

美智子は左手の指輪を見せた。


「これは、これは。 奥様になられましたか。 おめでとうございます。」



ロビーを歩き始めた「ワル」が、執事を怒鳴った。

「サッサと帰れ! 勝手に帰るから、迎えに来るな、クソジジイ!」



「お騒がせして申し訳ございません。 失礼致します。」



「田中さん、気を付けてお帰りくださいね。」

そう答えた美智子は、執事の男に皺が増えたの見た。


苦労しているんだな・・・




執事の車を見送ると、梓が現れた。



梓もナオミと同じ「交通手段?」の様だった。



ラウンジの受付でコートを預ける。


結構、集まっている。




美智子の目的はただ一つ。

自己紹介が終わったら、飲むだけ飲んで、つよしと「おデート」!




美智子はナオミと同じで、みんなとワイワイやる方ではなかった。

カウンターに座った。

一人でいても何ともなかった。

結婚する前は特に。


結婚してからは、一人はイヤだった。

夫、つよしと一緒にいたかった。


今日、つよしとデートをする。

ウキウキだった。




学生時代、男嫌いだったので、男性は殆ど挨拶には来なかった。


逆に女の子からバレンタインにチョコレートを貰う美智子だった。

そんな訳で、挨拶に来るのは女性だけだった。




美智子の友達、梓は男女問わず話しかけて盛り上がっていた。

流石、副幹事である。

実家の不動産屋の優秀な営業ウーマンである。

ゆるふわ系の女性で、男の扱いは上手で、不動産屋の営業もしているので、話し上手だった。



梓が一回りして、美智子の隣に座った。




程なくして、幹事の男性が自分から自己紹介を始めた。

近況報告である。

引っ越ししたり、結婚したりして、変化のあった人だけの報告で良いとのことであった。

無理にやる必要はないとの説明もあった。


それを聞いて美智子は、来なくても良かったのにと思っていたら、梓からご指名をいただいてしまった。


仕方がないので、皆に向かって近況報告。

「三浦 美智子になりました。」



ナオミお姉ちゃんも姓は「三浦」である。

当然、お兄ちゃんのゆたかも。

ゆたかとつよしは親が兄弟である。

従って、美智子の姓はナオミと同じ「三浦」となったのである。



初めて「三浦」と名乗ったので、ちょっと恥ずかしかった。


クールビューティと言われた美智子が照れているのは可愛かった。


男性陣からだけではなく、女性陣からも 「可愛い!」と声が掛かった。


赤くなった顔を隠したくて、くるっと回って、カウンターの方を向いて座った。


ドレスを着ていたので、お姫様の様に裾をひるがえした。


「ホ~!」と男女問わず、感嘆の声が漏れた。


人気者である。





会場が美智子で盛り上がっている中、一人コソコソ悪いことの準備をしている者がいた。

先程の「ワル」である。

良さそうな女性を引っ掛けるべく、「睡眠薬」を準備していた。




今回、梓は同窓会の副幹事である。

会場の動向はチェックしていた。


まして、梓は魔女である。

「ワル」のチンケな行動など、お見通しである。



梓はカウンターの下で指を鳴らした。


隣に座っていた美智子が気付いた。


「どうしたの?」


「あの「ワル」がさ、睡眠薬か何かを準備してやがったんだよ。 ふざけやがって!」


「ぶっ殺しちゃおうか?」



美人の二人である。

可愛い二人である。

しかし、梓は魔女、美智子は鬼女である。

まさか、二人がこんな会話をしているとは、周りの人間は思いもしないだろう。



「一応、砂糖に替えておいたけどね。」


よく、魔女が呪文を唱えて魔力を使うと言われているが、本当の魔女はそんな間怠っこしい事はしない。

呪文を唱えなければいけないような者は、魔法使いであって魔女では無い。

やりたいことを思い浮かべて、指示するだけである、、自分の魔力に。


因みに、指を鳴らすのは「格好良い」ので流行っているのである。




その後、梓から美智子は嫌な話を聞いた。


「執事の田中さん、大変だったらしいよ。」


「何があったの? あの「ワル」の所為?」


「婦女暴行をやらかしたんだって。 田中さんが被害者と警察を説得して、示談にしたらしいけど。」


「示談か~! 親の力より、田中さんのお蔭だろうね?」


「他にも色々あったらしいけど、悪い連中とは田中さんが頑張って手を切らしたけど、 今日もやらかそうとしやがって、、あのクソ馬鹿たれが。」


「ねえ、 要らないヤツは処分しても良いわよね?」


「当然よ。 私たちの同窓会のメンバーに、あんなヤツがいるだけで、反吐が出るわ。」


「梓は副幹事だから、あたしが処分するわ。」


「お願いね。」




魔女や鬼女にとって、人間の一人や二人、いなくなっても関係ないのである。

まして、他人に害を及ぼして平気な輩は、処分するのに躊躇などしない。


まあ、百人でも千人でも同じなのだが。



人種や、宗教が違っているだけで、平気で人を殺せるのが人間なのである。

そう思えば、魔女や鬼女どころの騒ぎではない。



過去には、勝手に魔女だから、鬼だからと言うだけで排斥してきた人間達である。

何も人間に対して悪いことをしていなくても、自分達とちょっと違っているだけで、殺されたりしたのである。



更生するつもりが無い人間を処分するのは、魔女や鬼女にとっては、当り前の事なのである。


魔女や鬼女は過去に人間から迫害されてきた。

口先だけで、更生などするつもりがない人間は、本能的に分かるのである。





美智子が指を鳴らすと、美智子が二人になった。

ドレスを着た美智子と、黒のミニスカスーツを着た美智子である。


美智子の母親は自分を分離は出来ないが、鬼女になると和服を着ていた。

美智子は現代の鬼女なので、魔女と同じ黒いミニスカスーツを好んで着ていた。




ドレスを着た美智子は、優しさが溢れていた。

逆に、ミニスカの美智子は、氷の様に冷たい感じで、触ると凍傷になりそうである。



ただ、黒のミニスカの美智子は、梓にしか見えなかった。

美智子の鬼女の部分を分離したものである。



魔女や鬼女でも、分離出来るのはナオミと美智子だけである。

二番目の魔女や鬼女である二人の特殊能力である。



「みっちゃん、凄いね。」

梓は、分離したのを見るのは初めてである。


「じゃあ、ぶっ殺してくるから。」

黒いミニスカの美智子が言った。

声は地獄の底から聞こえてくるような低い、低い声だった。



ミニスカの美智子が「ワル」の隣に座った。

「ワル」だけにはミニスカの美智子が見える様になっていた。


周りの誰も、鬼女だけの美智子は見えていなかった。

当然、防犯カメラなどに写る筈もなかった。



「ワル」に勧められたカクテルを飲んだ。

良い味なのだが、混ざっていたのは睡眠薬ではなく、砂糖だった。


「ぺっ!」

ミニスカは横にツバを吐いた。

美智子は辛党である。


「マズいな。」

地獄の底からの声だったが、「ワル」には分からなかった。



「ワル」は時計を気にしていた。

薬は即効性で5分も掛からずに効果が出るらしい。


ミニスカはわざと眠い振りをした。



「おい! 良いとこへ行こうぜ。」

「ワル」が下卑た声で言った。


「ふん! 何処へでも行ってやるよ。」


この時点で気が付くべきであった。

こんなに簡単に、女が引っ掛かる筈はないのだから。

まして、同窓会の会場内である。



「俺に付いて来いよ。」


「ああ。」


「ワル」は歩き始めた。



幹事が「ワル」に声を掛けた。


「来た時、受付で会費を払ってないだろう。払ってから出て行ってくれよ。」


「ほら、二人分だ!」

「ワル」は一緒にいるミニスカも会費など払っていないと思ったのである。


幹事に二人分の会費を渡すと、「ワル」は出て行った。


幹事は分からなかった。

一人で出て行ったのに「二人分」?



梓以外、黒のミニスカの美智子は見えなかったのである。



ホテルの近くにいたタクシーに「ワル」は乗り込んだ。

一人なら乗って直ぐに座るのに、わざわざ運転手の後ろに座った。


運転手には男が一人で乗り込んできたとしか見えなかった。

勿論、車内を撮しているドライブレコーダーにも。



「ワル」はよく女を連れ込むので有名なホテルを行き先に指定した。


タクシーのドアが閉まると、黒のミニスカの美智子に話しかけた。

「もうすぐ、楽しませてやるからよ。」


愛想がない女である。しかし、美人で、スタイルが抜群である。

「ワル」はもうすぐ、楽しい事が起こると思っていた。

まさか、自分がこの世からいなくなるとは、微塵も考えていなかった。



「ワル」は結構話しかけたが、返事はなかった。

ミニスカの美智子は、くだらない馬鹿話に答えるつもりは無かった。

「ワル」はそれを、薬が効いてきたのかと思ったのである。



タクシーの運転手は思った。

やたら独り言の多い客だと。



ホテルについて、女は先に受付に歩いて行った。

タクシーの支払いをしながら、女が逃げたりしないかと心配していたが、そんなことはなかった。



「毎度、どうも。」

「ワル」と顔見知りの店長であった。

金を渡され、「ワル」の犯罪に加担していた。



「お願いされていた品物です。」


結構大きい手提げ袋であった。

何も頼んでいない筈なのに。



キーを受け取りエレベーターで上の階に。

部屋の扉を開けると、ミニスカの女はベッドに腰掛けた。



いきなり、女が話し出した。

「サッサとやりな!」


「ワル」の身体が勝手に動き出した。


「ワル」は訳が分からなかった。



受付で渡された荷物を出し始めた。


受け取った荷物に練炭がたくさん入っていた。

直火禁止のキャンプ場で使用する、焚き火用のスタンドも入っていた。

ガムテープも?



「お、おい! どうなってんだよ?」



身体は勝手に動いていたが、声と首だけは自由に動かせた。

女の方を見ると、誰もいなかった。



首も自由に動かせなくなったとき、焚き火用スタンドに乗せられた練炭に、「ワル」は火を付けていた。


沢山の練炭に火がつくと、ガムテープを手に持って、ドアのすき間を塞ぎ始めた。



「止めてくれ~!」



「ワル」が自由に声を出したのは、それが最後だった。



窓のサッシをガムテープで塞いだ頃には、「ワル」の意識が遠のいていった。




倒れた「ワル」を見ていたミニスカの美智子は、一言言って消えていった。

「ちっ! もっと苦しめたかったのに。」



部屋の小さいデスクの上のメモに「ワル」の走り書きがあった。

「田中さん、ありがとう」

勿論、美智子が書かせたものである。






鬼女の美智子が同窓会の会場に戻ってきた。



美智子がひとつになった時、梓に言った。

「執事の田中さんの事が無かったら、何処かのビルから飛び降りさせたかったのに。」


梓が慰める。


「美智子も結婚して、丸くなったね。」


「梓もサッサと丸くなりなよ。」


「そのうちね。」




そうこうしている間に、受付から美智子が呼ばれた。


「じゃあね、梓。 旦那が迎えに来たから、またね!」



美智子は受付に走って行った。


受付で待っていた、大好きな大好きなつよしに抱きついた。



それを見ていた梓が呟いた。

「良いな~、あれ! 私も丸くなりた~い!」


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