51 北海道・道東-2
北海道・道東-2
朝5時5分前にスマホのアラームをセットしておいた。
カーテンを閉めているが、季節的に外は明るい。
背中に気配を感じる。
二人、それぞれのベッドに寝ていたはずだが、俺の背中にナオミがしがみつく様に寝ていた。
お風呂が開くのは5時からである。
まだ1時間以上ある。
寝返りを打つと、ナオミと向き合った。
ナオミは、お酒を飲んだだけなら、次の日は元気である。
昨日は1日中運転していた。
流石に、北海道の気分の良い空いた道でも、疲れたのであろう。
唇に軽くキスをしてもう一眠り。
ぎゅうっとしがみつかれた。
起きてはいないようだ。
思わずナオミの頭を撫でた。
寝ているが嬉しそうな顔をする。
どんな夢を見ているのかな? と思いながら寝てしまった。
目覚ましが鳴るちょっと前に、目が覚める。
仲良く一緒に起床。
スマホのアラームを止めて、お風呂に行く。
かけ湯をして、軽く身体を洗う。
階段を降りて下の浴槽に向かう。
昼間は結構暑いのに、朝方は冷える。
低温の浴槽にノンビリつかる。
毎日お湯を落として洗っているのだろう。
大変な仕事である。
洗っていなければ、床がヌルヌルになって歩けなくなるのだろう。
三つの温度の温泉を楽しんで、男湯から出る。
仲が良いのか、ナオミと一緒になった。
部屋に戻ってゴロゴロする。
朝食は7時からで、まだ時間がある。
窓の外を見ていたナオミに呼ばれる。
道を隔てた反対側の郵便局の裏に川が流れている。
そこにエゾシカのツガイらしき2匹が見えた。
「ちょと行ってくる。」
ナオミが部屋を飛び出していった。
窓から見ていると、ナオミがこっそり歩いている。
エゾシカを近くで見ようとしているらしい。
まさか、とっ捕まえてジビエの肉料理にはしないと思う。
そうっと近づいているつもりのようだが、エゾシカからは丸見えである。
ナオミをおちょくったように、4本の足を揃えたままジャンプして遠くに離れていった。
4階の窓からでも、ナオミの悔しそうな顔が分かった。
ナオミが帰って来た。
残念そうである。
「撫でたかったのに・・・」
おい! それはダメだろう!
「でも、大きいね!」
奈良の鹿は肩までの高さが85cmと言われている。
エゾシカは肩までの高さが130cmである。
近づけば大きさに圧倒されるかもしれない。
よくあるらしいが、車と衝突すれば、車のダメージも大きい。
お茶を飲んでいる間に7時になった。
朝食券を持って食事会場へ。
夕食と同じ場所である。
バイキング形式で、大きいお皿を2枚、トレイに乗せて色々の料理をのせていく。
サラダもシッカリのせる。
自由席だが、昨夜と同じ席を確保。
それから、ご飯や味噌汁を取りに行く。
朝風呂に入った所為か、朝っぱらから食欲旺盛である。
コーヒーを持って、部屋に戻る。
ゴロゴロしながら休憩。
もう一回お風呂に行く。
ガッツリ、硫黄温泉を堪能する。
部屋に戻って出発の準備。
使用済みの衣類は纏めてビニール袋へ。
グルグルっと丸めれば、空気が抜けて小さくなる優れものである。
最後のホテルで、お土産と一緒に東京へ送る算段である。
受付で、支払いを終えて駐車場へ。
荷物をトランクに入れる。
郵便局の裏にエゾシカがいた。
お見送りをしているように見えた。
エンジンを掛け、ナビに行き先を登録する。
目的地は、標津のサーモン科学館である。
運転は、今日もナオミである。
右手の中指をウインカーレバーに乗せている。
学習効果、バッチリである。
川湯温泉を出発する。
道道52を軽快に進む。
暫くして右折し、R391である。
R391を左折してR243、摩周駅近くを通って、虹別から道道13へ。
北海道の地名で「別」がつくものが多い。
アイヌ語で「ペッツ」と言うらしく、「川」の意味らしい。
道道13から緑町でR272へ。
中標津空港近くを過ぎ、海までもう少しのところを左折して、標津サーモン科学館に到着である。
駐車場が広い。
小学生が見学に来ているのか、大型バスが停まっていた。
サーモン科学館に入った。
二人とも、釣りが好きである。
特にフライフィッシング大好きなので、鱒系の魚が展示してあり、興味津々である。
写真で見るより、本物は迫力がある。
小学生の団体を避けながら、釣りの対象魚を専門に鑑賞した。
「魚ごとに、どういうフライやルアーが良いのか、書いていてくれればいいのにね。」
釣りバカの戯言である。
「北海道なら、あんな大型魚が釣れるのかなあ?」
おバカな二人は、そう思いながら科学館を出発した。
「あんな大きいの釣ったら楽しいだろうな~。」
そう思いながら、走り出した。
案の定、ウインカーとワイパーを間違えて、晴れているのにワイパーを動かした。
「もう! ちゃんと「おまじない」をしてくれないから、間違えちゃったじゃない!」
八つ当たりである。
「ご免、ご免!」
直ぐに謝る。
勝てない相手と喧嘩するのは、バカッタレである。
家庭円満の秘訣でもある。
オープントップで快適に海沿いの道を進む。
R244からR335へ、海沿いの道である。
暫く進むと、羅臼の町である。
そのまま直進して道道87を進む。
右側は直ぐ海である。
普通の家と言うより、番屋のようだ。
同じ景色が続く。
羅臼の町から30分くらいして、どん詰まりの相泊橋に到着する。
橋を渡ったところに駐車場がある。
オープンカーだが、車を降りると、潮の香りを強く感じる。
ナオミが伸びをする。
海が輝くように綺麗である。
二人以外、誰もいない。
ただ、ゆたかは周りを警戒した。
途中の看板に「熊出没注意!」の看板が多かった。
無駄に動物的勘もある。
何かを感じる。
ここら辺に熊さんがいないとは限らない。
ナオミなら大丈夫だろうが、自分は熊さんに勝てる自信が無い。
熊さんがダッシュを決めれば、あの身体で60km/h近くで走れるのである。
風が結構強いので、熊さんの気配が分からない。
ゆたかはちょっとビビっていた。
こういう場合は、強いもののそばにいるのが安全である。
ナオミと腕を組む。
「どうしたの?」
まさか、熊さんが怖いとは言えない。
「君と離れたくない。」
歯の浮くような台詞を言ってしまった。
「しょうがないなあ~。」
満足げなナオミに安堵する。
二人で岩に腰掛けボ~っとする。
「羅臼で、ウニイクラ丼、食べようよ。」
「オッケ~!」
そういうことで出発した。
二人がいなくなってから暫くして、雄の熊さんが現れた。
ゆたかだけだったら、一発かましてやろうと思っていた。
しかし、熊さん、、ナオミを見てしまった。
遙かに自分より強い化け物が、弱っちい人間の横にいたのである。
動物的勘である。
本能でもある。
弱っちい人間を襲う前に、一撃で殺されると分かっていた。
怖かったのである。
だから、茂みに隠れて出てこれなかったのである。
またあの化け物が戻ってくるかもしれない。
そう思っただけで、熊さんは震えた。
もう、相泊橋の近くに行くのは、止めようと決めた熊さんであった。
自分達が出発してから熊さんが出て来たとも知らずに、快適に道道87を羅臼に向かっていた。
羅臼の道の駅に車を停めた。
1階のお土産屋さんには目もくれず、2階に急ぐ。
食堂の窓際の席が空いていて一安心。
お目当ての「ウニイクラ丼」を二つ注文する。
景色を見ながら、ウニイクラ丼をかっ込む。
「ほら! ほっぺに付いてるぞ!」
ゆたかのほっぺたに付いた飯粒をナオミが取ってくれた。
「えへへへへ・・・」
優しいナオミが大好きである。
熊さんには化け物に見えたが、ゆたかには優しい女神にしか見えなかった。
ちょっと休んで、出発。
やはり、運転はナオミである。
R334をのぼって行く。
知床横断道路である。
FRスポーツの本領発揮である。
「イエ~イ!」
ナオミの運転で、知床峠のパーキングまで、一気に突っ走る。
風が強い。
その代わり、雲が吹き飛ばされて、景色が良い。
チョロッと休んで出発。
今度は下り。
「ウ~ン! やっぱりマニュアルだったら・・・」
そう言いながら、エンジンブレーキを使って下っていく。
右に知床自然センターが見える。
右折して道道93へ。
知床五湖への分かれ道までは舗装が良いが、それから先は舗装はしてあるが結構荒れていて、道幅も狭い。
前照灯を点灯させて、ガンガン進む。
すれ違う車は少なく、湯の滝の駐車場的な場所に車を停めた。
滝にのぼって流れる水に触ってみると温かい。
なるほどと納得する。
今回はこれより先は通行止めなので、Uターンする。
路面の荒れた道を進む。
約10kmで知床五湖の分岐点に到着し、知床五湖へ。
五湖を回ろうと思ったが、ツアーの申し込みがイッパイで、木道だけで我慢する。
ナオミがサッサと車に戻る。
「じゃあ、次、行くよ!」
道道93からR334へ。
宿泊するKこぶしに到着。
海沿いの、ここいら辺では一番大きいホテルである。
車を預け、荷物を持って、チェックイン。
思ったよりも早めだな?と思っていると、出掛けるらしい。
二人とも、鞄のみで出掛けた。
着いた所は知床観光船乗り場近くの「オロンコ岩」である。
おバカな二人なので、高いところは大好きである。
ナオミが先に登る。
整備はされているが、170段ちかくある階段は急である。
高いところが苦手な人には向かないところである。
地上から60mの頂上に立った。
結構広い。
季節によってはお花畑になるという。
端の方に立ったナオミが手を広げる。
本当に飛んでいきそうである。
ナオミは動けなかった。
ゆたかがナオミの腰を掴んでいた。
「何処にも行かないでくれ。」
「当り前じゃない!」
ゆたかにシッカリ手を握られて、一周した。
岩の頂上から降りる。
登るときは上を見ているが、下るときは下を見てしまう。
急な階段である。
下の海を見ていると吸い込まれそうである。
「す、凄いな?」
「そう?」
ナオミは軽快に降りていく。
ゆたかは海を見た。
知床ブルー。
濃い青なのに、海の底まで見える。
「ほら、行くよ~!」
ナオミだけである、軽快に降りていくのは。
ゆたかを含め、他の観光客もオッカナビックリであった。
オロンコ岩を降りてほっとする間もなく、ナオミに連れられて道の駅に行く。
でっかい鮭を買うようである。
「二人だけだから、大き過ぎないか?」
「大丈夫! みんな集めてちゃんちゃん焼きをするから。」
宅配便の伝票に住所を書いて、道の駅の中をもう一回りしてからホテルに戻る。
ホテルに戻ると、まず、温泉に向かった。
温泉は最上階である。
さっき登ったオロンコ岩が見える。
「流石に、あの階段は怖かったな~。」
ゆたかの感想である。
「オロンコ岩、楽しかったな~。 高さが倍くらいあったら、もっと面白いのにな~。」
当然、ナオミの感想である。
食事処はリニューアルされ、ちょっと高級っぽくなっていた。
海鮮ものは昼間に「ウニイクラ丼」を食べたので、狙いは「牛肉」である。
何故か魔女は肉が好きである。
魔力を維持するのに必要なのかもしれない。
肉と言えば「酒」である・・・ナオミの場合・・・
牛肉には赤ワイン。
折角なので海鮮ものも狙う。
こちらは白ワイン。
ワインだけでは満足出来ない。
やっぱりウィスキーのハイボールを注文する。
頼む度にウィスキーの割合が増える。
最後は殆どオンザロックとなった。
ナオミは部屋に戻るまではシッカリ歩いていた。
ホテル内に色々なお店がある。
鹿の角の細工物を売っているお店があった。
立派な鹿の角も売っている。
思わず買いそうになったが、「何処に置くんだ?」、と言うことで諦めた。
腕を組んで、楽しく部屋に戻った。
安全?の為に、ナオミが早めに歯磨きをする。
夫のゆたかも歯磨きをしておく。
ナオミが、ベッドにうつ伏せになって、テレビを見ながら足をばたつかせている。
「もう一回、温泉に行く?」
聞いてみたが返事が無い。
歯ブラシをくわえたままナオミを確認すると、やっぱり大の字になっていた。
仕方がないので、一人で温泉に行った。
露天風呂は頭が涼しくて気持ちが良い。
部屋に戻ってナオミをみる。
やっぱり寝顔が可愛い!
「まあ、明日がある。」
そう思って、今日は? 今日もおしまい。




