36 佐野ラーメン
佐野ラーメン
「ナオミは結構な距離歩いているよね?」
「うん。」
「いつも履いてる靴、見た目は綺麗だけど底が減ってきてない?」
「まだ、大丈夫だと思うけど・・・」
「新しいの買ってあげるよ。」
「う~ん。もうちょっと使えると思うけど・・・」
「え~、アウトレットついでに道の駅で買い物して,ラーメンも食べたかったんだけどな~。」
「・・・・・ど、どこのラーメン?」
「佐野!」
「行く!!!!!!」
「餃子も美味いよ。」
「行く! 行く! 行く!!!!!!」
そういうことで、東北自動車道で佐野に行くことになった。
先週の土曜日にテレワークだが仕事をした。
有給の消化もままならないが、基本的に休日出勤は当月中に代休の取得を指示される。
現場業務だと、代休も有給もは取得は難しいが、内勤は取得しやすい。
そんな訳で金曜日を代休とし、承認された。
いつ呼び出しがあるかもしれない、危険?な会社のスマホは、空き缶の中に入れて「圏外」に。
そんなに早起きしなくても良いのに、ジムに行くときと同じ時間に起床。
まだまだガキだな!
眠くもない。
ナオミは既に起きており、朝食の準備万端。
食べながら、打ち合わせ。
「こんなに早く向こうに行っても、何処も開いてないよ。」
「ふふふふふ! 開いているところがあるの。」
「佐野ICの辺りで、指示するね」
運転手は俺で決まりらしい。
「帰りはナオミが運転する?」
「え~! 餃子にはビールでしょう! 飲酒運転は出来ないわ!」
「多分、帰り、東北自動車道の上りは、運転が楽しいと思うけど?」
「何? 何?」
「ナイショ!」
膨れたナオミのほっぺを突いて、出発の準備。
アウトレットは結構広い。
歩きやすい服装で決まり。
首都高速中央環状線から川口線を通って、東北自動車道に入る。
車両数は多いが、進行方向が逆なので渋滞はない。
ただ、右側からの合流・分岐が多いので、確認とスピードの調整は必要である。
まあ、首都高速道路の場合は「度胸」も必要かな?
東北自動車道も車両数は多いが順調に進む。
首都高速も東北自動車道も反対車線の上り方向は大渋滞である。
「このルートを運転している人は、毎日大変だな!」と、気の毒になる。
このところのドライブ中のお気に入りは「ユーミン」である。
丁度、曲が変わって中央フリーウェイが始まった。
ナオミが一緒に歌う。
「・・・・初めて会った頃は、毎日やっちゃったのに・・・」
思わず言いたかった。
「女性なんだから、そんな歌詞に替えるなよ!」
横顔をみると、可愛かった。
気分が良さそうだった。
苦笑いで終わってしまった。
途中、サービスエリア等に寄ることもなく佐野ICに到着。
ETC利用で料金所を通過し、アウトレットと反対方向に向かう。
ナオミの指示通りに進む。
国道50号線は、トラックが多い。
道の駅を通り過ぎ、少し先を左折する。
暫く走ると、みかも山公園の東口広場に到着。
「三毳山」と書く。振り仮名がないと読めない。
そういえば、道の駅の近くに三毳不動尊がある。
「よし!」と言って、ナオミが鞄から、ハイキングマップを取り出す。
色々なハイキング・コースがあり、6コース。
そのコースのうち、結構難易度の高そうな展望ポイントの多いコースを選択。
フラワー・トレインなる乗り合いの乗り物があり、それが通る道は舗装されている。
その他の部分は未舗装で、雨の後は気を付ける必要がある。
結構晴れの日が続いていたので、特に問題はなかったが、粘土質の場所は要注意!
湿地の箇所は木道になっていて、安心である。
東口の駐車場からルートマップに従って出発。
出だしから結構キツい。
ナオミは軽快にのぼっていく。
負けたくないが、無理はしない。
景色の良いポイントで、待っていてくれる。
朝早い所為か、キツいコースの所為か、誰とも会わない。
駐車場も殆ど車がいなかったので、時間が早い方かな?
木立に囲まれたエリアは、湿地が多く、木道が整備されている。
そろそろ木道のメンテナンスが必要なのか、腐っている箇所もあった。
ナオミが夫の手を強く握って、コケないようにアシストする。
ずっこけて、洗濯物を増やさない為である。
藪に近い部分もあるが、通れる様に枝が払ってある。
山道の途中、景色の良い広い場所で、ナオミに追いつく。
あの鞄の何処に入っていたのか? という大きさのステンレスボトルから、直接水を飲んでいた。
「飲む?」と言ってボトルを渡された。
俺も直接口を付けて水を飲んだ。
「間接キッスだ!」
俺がそう言うと、ナオミが叫んで走り出す。
「きゃ~! 襲われる~!」
「待て~! 食っちゃうぞ~!」
「人妻だから、許して~!」
楽しく走る。
おバカな二人であった。
他に人がいなくて良かった。
おバカな走りのお蔭で、早めに山頂に着いた。
こっちは結構ゼイゼイであるが、ナオミは楽勝の顔である。
低い山である。
周りに高いものが無い所為か、木立の間から遠くまで見通せる。
しかし、達成感はあった。
気分は最高である。
ナオミは両手を広げて走り出した。
「キーン!」と言いながら走るアラレちゃんのように。
途中で滑った。
前に向かって1回転した。
見事な着地を決めた。
ナオミが笑いながら後ろを振り向くと、「心配」が凄い勢いで走ってきた。
抱き締められた。
何も言われなかった。
ただ、抱き締められた。
ナオミは魔女である。
例え、崖から落ちても怪我一つしない。
心配は要らないのである。
「大丈夫だから! 心配しなくても!」
そう言おうと思った。
だけど言えなかった。
幸せだったから。
こうしているだけで幸せだったから。
神に祈った。
ナオミは魔女である。
神や仏など、糞食らえである。
それでも祈った。
もう少し、もう少しだけ、恋愛期間が続きますように・・・
もう少し、もう少し・・・二人だけの幸せが続きますように・・・
・・・・・永遠に、愛し合えますように・・・
ナオミと夫は出会ったと同時に結婚した。
させられた?のかも知れない。
最初は、相手の男を好きでも嫌いでもなかった。
ただ、この男と一緒に居るのだと思った。
何故かず~っと一緒に居たいと思った。
ナオミは恋愛をしたことはなかった。
興味もなかった。
男嫌いだったから?
好きな男の人はいた。
「父」と「義理の兄」だった。
夫と一緒に暮らすうちに、好きになった。
大好きになった。
夫は、決して見た目の良い男ではなかった。
見た目の良いだけの男は、大学生の時に沢山見た。
でも、本気でナオミを気に掛けてくれる男に初めて会った。
死んででもナオミを守ってくれる男に。
手を繋いで山を下りた。
山頂から少し下りると、舗装された道が完備されていた。
山頂に登ったので、結構時間が経っていた。
ヘアピンもある舗装路を歩いている年配の人が増えていた。
挨拶を交わして通り過ぎていく。
近くに住宅はないので、車で散歩に来ている様だった。
繋いだ手を大きく振りながら、駐車場に戻った。
多少、駐車している車の台数が増えていた。
殆ど、お年寄りの車だった。
若い二人の車は出発。
来るときに通り過ぎた道の駅に向かう。
冬から春の時期には、イチゴが沢山並ぶという。
国道をもう少し行った先に、沢山いちご園があるからだ。
地元の農家さんが直接持ち込んだ野菜が沢山並んでいた。
ほうれん草と、大根をメインに色々買い込む。
「常夜鍋」狙いである。
朝取れなので、新鮮で日持ちもする。
沢山買い込んで、マイバッグに入れようとした。
店員さんに「あっちにダンボール箱があるから、好きに使って!」と言われた。
有り難くダンボール箱をいただいて、野菜を入れて後ろの席に置いた。
10時を少し過ぎている。
アウトレットは営業開始しているので、出発。
駐車場に着くと、平日で時間も早いのに、結構混んでいる。
「みんな有給休暇なのかな?」
手を繋いで、ブラブラ歩く。
敷地が広いのか、駐車している車の割に、人が少なく感じる。
スポーツ系の店でナオミのスニーカーを購入。
アウトレットの店だが、最新型だった。
アウトドア系の店でトレッキングシューズを購入。
これも最新型らしい。
購入して夫がひとこと。
「これで、キーン!をやっても滑らないかな?」
「よし! また、あそこで試してみよう!」
ナオミはグッと拳を握った。
ワインの店があった。
白ワインの辛口と、赤ワインのフルボディを6本ずつ。
結構な量なので、配送を頼んだ。
一回りして、時間も丁度良い。
佐野ラーメンの店に向かう。
たまに不定休あり。
今日は大丈夫、、の筈。
のれんが出ている。大丈夫であった。
テーブル席と座敷。
テーブル席をチョイス。
ビ、 ビ、 ビ・・・・
餃子でビールが・・・・飲みたい!
夫の言葉を思い出す。
「帰りの東北自動車道は楽しい・・・?」
お土産がある。
それで我慢をする!
クッソ~!! 家飲みだ!!!!!
店員さんが来た。
ナオミが注文する。
「ラーメン 2つ! 片方和風で!」
「餃子 う~ん 3個を2つ!」
「ビ ビ ビールはいいや!」
心で チクショ~!
「あ! ラーメン、煮玉子のっけて!」
「え~と、、、あと、お土産ね。」
「お土産のラーメンセット、全部入り6人前!」
「お土産の焼き餃子、5個を6人前!」
「おつまみもお土産に出来ます?」
「大丈夫ですよ。」
店員さんの有り難いお言葉に、感謝!
「メンマ 3人前」
「それと~、 チャーシュウ4人前」
「以上で!」
餃子が先に出てくる。
大きい。
普通のお店の餃子の倍はある。
ラーメンだけでなく、餃子も美味しい店だ。
殆どの客が餃子も頼む。
注文前に段取っているのか? 早い!
餃子! うっま~!
失敗した。5個にすれば良かった。
ラーメンが来た。
見た目では、どちらが和風か分からない。
香りが違った。
生姜が効いている。
和風はナオミの前に。
これよ! この麺!
スープも美味い。
レンゲで夫の普通版も確かめる。
「麺も食べないと分からない!」
ムリヤリ器ごと奪う。
結構な量を一気にススる。
「このくらいにしといてやろう!」
夫に返す。
夫が和風版を狙っている。
「美味しいだろう?」
スープだけを飲ませて終わり。
夫は、ナオミに奪われて少なくなったラーメンを大事そうに食べていた。
トレッキングをした所為か?ナオミの食べるスピードは早かった。
自分の分は平らげていた。
「スキあり!」
夫が大事に取っていた最後の餃子を奪う。
餃子がでかい。
一口では入らなかった。
仕方がないので半分返してやった。
レンゲでチマチマ、スープを掬っている夫に言った。
「折角運動しているんだから、食べ過ぎ・飲み過ぎは駄目よ!」
口をとがらす夫に支払いを任せ、出発の準備。
支払いのレシートを見て驚く。
これだけ食べたり、お土産もシコタマ。
「安~い!」
側道から、国道へ。
左側を進む。
立体交差を過ぎると、佐野ICである。
一番左側通る必要はない。
ICへの道は2車線である。
右側の方が東京へ向かうには都合が良い。
東北自動車道を快適に走る。
車両数が少ない。
夫が標識を指で示していた。
「高速車120km/h」
「これか!」
ナオミは「100km/h+」から「120km/h+」に気持ちを切り替えた。
快適!
エンジン音が違う!
いささか、悪魔的である。
「ケーカー曰く、240km/hくらいは保証された仕様の車だって。」
夫が蘊蓄をのたまう。
「その半分でも、気分最高!」
「アウトバーン! 走ってみたいな!!」
魔女の国際会議がドイツで開催されると良いなと考えながら・・・
東京に近づくに従って車両数が増える。
ちょっと混雑してきたな、というところで夫が提案。
「蓮田SAに寄っていこう!」
トラックの間をぬって、左車線から蓮田SAへ。
新しい場所に造り直したエリアである。
駐車スペースも建物も広い。
それでも「空」の表示でない駐車エリアがある。
当初予想よりもかなりの利用者数なのであろう。
普通車用駐車エリアの真ん中辺りで、空きを見つけてラッキー!
車道を渡る時、止まってくれた車にお礼を言って施設に到着。
東京寄りのスーパーマーケット的なお店で、柑橘類とミニトマトをかごに入れる。
お肉コーナーで、豚の薄切りを購入。
結構量が多い。
保冷バッグを持参していて、大正解。
「常夜鍋」、準備万端。
パン屋さんに行く。
全粒粉の食パンと、デニッシュを数種類。数も多い。
「2人で食べきれないよ!」
と夫が言う。
「大丈夫!」
の返事。
最後に珈琲屋さんでブレンドを2つ。
運転手交代。
俺が運転する。
ナオミの右手にスマホ登場。
何やらいじって、音楽開始。
どうやら、近頃気に入っている「ピーターポールアンドマリー」の様だ。
「Tonight in Person BBC Four 1965」ユーチューブでは白黒の映像である。(何故 Four ?)
PP&Mのマリー・トラバースはモデル並みの体型で、ナオミが似ていると思ったが、美智子の方が似ているのかな?
顔は違うが、スタイルが。
美智子の方が胸が大きいか?
「when the ship comes in」から始まった。
確かボブ・デュランが元歌だが、PP&Mの方が軽快で楽しい。
料金所を通過して、首都高川口線へ。
料金所の直ぐ左に新しく「川口PA」が出来ている。
「今度寄ってみよう!」で今回パス。
PP&Mの最後の曲で盛り上がる。
「if I had my way」である。
「もし、わたしに定めがあるなら」的な曲名である。
元歌のG.Davisの方は、味がありすぎてどうも・・・
ピーターのギター1本、謎のおじさんのウッドベース、それだけの楽器で十分。
旧約聖書・士師記に登場するサムソンとデリラの物語を題材にした曲である。
サムソンとは旧約聖書に登場するユダヤの士師の一人で、怪力の持ち主である。
ペリシテ人に支配され苦しめられていたイスラエルの民を救うために、神のお告げによりこの地に生まれた怪力の男である。
しかし、ペリシテ人のデリラという女性を愛するようになったサムソンは、妻となったデリラに裏切られる。
そんな歌詞であるが、PP&MらしくなくR&Bの曲調である。
PP&Mの曲には宗教を題材にした曲が多い。
サムソンとデリラの物語に出てくる「ペリシテ人」は異教徒だった。
サムソンを使わした神は、ペリシテ人の殺戮を容認した。
ペリシテ人は確かにイスラエルの民を迫害していた。
サムソンはペリシア人を懲らしめたと言われているが、何万人、何十万人ものペリシア人を殺したとも言われている。
神は自分を信仰しない者達が殺されることを、何とも思わなかったのである。
色々な宗教はあるが、異教徒に対する扱いは、みな、似たり寄ったり。
異教徒を同じ人間として扱いたくないのは、どの宗教も共通している。
だからか? 戦争はなくならない・・・悲しく、情けない。
そんな好戦的な考え方を魔女は否定する。
だから、魔女は宗教が嫌いなのである。
神や仏は糞食らえなのである。
ナオミの場合はデリラの様に夫を裏切る事はない。
夫を裏切ること、それは自分を否定することになるからである。
魔女の場合、自分を否定することは「消滅」を意味する。
魔女にとって夫は自分の一部であるから。
宗教の本質を考えと、人間の弱さ、愚かさに情けなくなる。
まあ、化け物じみたというより、化け物である怪力のサムソンであっても、一人の女性、デリラに敵わなかったと言う事である。
「凄く好き!」
「この曲だけを連続で聞こ!」
スタジオ録音のレコード?と比べて、ライブの方は、恐ろしくノリが良い。
ナオミのフィンガースナップで設定終了。
渋滞していても、盛り上がって関係なし。
そんなこんなで、自宅に到着。
家に入ると、登喜子と美智子が待っていた。
合鍵など必要のない連中である。
何やら準備がしてある。
餃子パーティーの様だ。
いつ連絡したんだろう?
「お土産のラーメンセット、全部入り6人前!」
「お土産の焼き餃子、5個を6人前!」
「メンマ 3人前」
「チャーシュウ4人前」
このメンツなら、このくらいは必要かな?
数が多かった全粒粉の食パンと数種類のデニッシュ。
明日の朝食の分だったのか。
レンチンの餃子。
「やっぱり、焼きたて・・お店の方が上~!」
「でも、、美味しい!」
「メンマ、すご! 美味しいし、量も多い!」
「チャーシュウ、、抜群!」
「うわ~! みんなビールのおトモ!」
「ビール足りない! 買ってきて!」
「ちゃんと冷えたヤツ、買ってきてよ!」
夫は一人買い出しへ。
大騒ぎで夜は更けていく。




