30 うさ耳
うさ耳
近頃、夫がパソコンの画面を見ながら、ニヤニヤしている。
覗こうとすると、物凄い早さで画面を切り替える。
思わず、「こいつも魔法を使えるのか?」と思える程に。
何度かそうした場面に遭遇した。
ナオミは夫の取り扱いは熟知している。
ハッキリ言ってチョロい。
こっそり後ろから近づき、窓の外を指さし、「ア!」と言うだけである。
夫が窓の外を向いたと同時に、画面をナオミの方に向けて確認する。
バニーガールのエロ漫画である。
何で3次元の自分より2次元の方が良いのか分からない。
夫を尋問する。
「私と漫画とどっちが好き?」
「ナオミ!」
よし、10点。
「私の方がすてき?」
「勿論!」
はい、加算して20点。
「私と漫画の主人公とどっちが可愛い?」
「・・・・・」
この野郎!! マイナス30点。
はい! お仕置き、決定!
「私との接触は無期限に停止!」
朝食時も夕食時も、ナオミは笑顔を絶やさなかった。
怒ってくれた方が良い場合がある。
この場合は怖いより、恐ろしい。
いつもの様に駅に迎えに行き、一緒に帰るとき微笑んでみたら、夫は震えていた。
「調査が必要だ!」
ナオミはエロ漫画の画像を消そうと思ったが、何故か消せなかった。
内容が気になっていたから。
「3次元の生身の女性より、2次元の女の子の方が好き!」という男性が多いらしい。
「まあ、絶対文句を言ったりしないからなあ~」
発祥は秋葉原あたりか?
夫が出掛けた後に確認してみた。
なるほど、可愛い。
裸でのセックスの場面より、バニーガールの衣装を着ている場面の方が何倍も可愛い。
要は、裸よりも見えるか見えないかの方がそそるのか?
イヤ、それだけではない。
着ているもの、衣装だ!
両肩丸出し。
ハイレグ。
網タイツ。
うさ耳・・丸尻尾・・・・ハイヒール。
そして見えそうで見えない乳首。
ナオミは姉から貰ったバニーガールの衣装があるのを思いだした。
「旦那を落とす為に使った。」と姉が言っていたものである。
旦那を自分のものにしたので、お払い箱だったが、「ナオミも使ってみ! 効果抜群だから。」と譲ってくれた。
前のパンツ丸出しのミニワンピといい、バニーガールの衣装といい、自分の姉ながら何を考えているか分からない。
以前、捨てようかと思ったが、妹分の鬼女美智子を呼んだ。
「捨てるなら、着てみる!」
美智子にバニーガールの衣装は似合うと思った。
衝立の向こうから声がした。
「おね~ちゃん達! 胸! 大き過ぎ!」
うさ耳と衣装だけだが、可愛い。
健康的なお色気だった。
ちょっと胸の部分に「詰め物」は必要だが。
その日の夕食は、美智子・ナオミ・夫の3人だった。
夕食後のリビングで、美智子がいきなり脱ぎだした。
新しい水着を披露したかったらしい。
ナオミの手は夫の目を押さえたが、夫は股間を押さえていた。
ナオミが一発ぶん殴ったのは言うまでもない。
美智子が挑発。
「おね~ちゃんより、イイデショ~~!」
ナオミは即座に反応してしまった。
「以前、姉と一緒に買ったヤツ!」と言いながら着てきた水着は、美智子と夫を圧倒した。
美智子は「お おね~ちゃん! それ! 殆どヒモ!」。
夫は「・・・・・」。
「お、おね~ちゃん! それを着るなら「ムダ毛処理」が足りない!」
道理で、夫の目がナオミの股間に釘付けになってたわけだ。
ナオミは、その水着?を買って家に帰ってきてから、軽く姿見でチェックしただけだった。
自分の胸の所為で、上からムダ毛が見えなかったのである。
「チラッと見えるのがいいのよ!」ナオミは悔し紛れに言った。
美智子が裏返った声で聞いた。
「ど 何処でそんなの着るの?」
アッサリとナオミが答えた。
「ビーチじゃあ着ないわよ。 ベッドの上!」
いつもは泊まっていく美智子は、赤い顔をしながら早く帰っていった。
家中の鍵を閉め、留守電をセットし、全てのカーテンを閉めた。
魔法で指を鳴らせば済む話だったが、些か興奮していた。
エロ漫画を一通り確認してから、バニーガールの衣装を試着。
結構キツい。
漫画をみると、ピッチピチが良いらしい。
皮下脂肪は少ないナオミであったが、漫画のように尻の部分が大きくはみ出す。
問題は胸であった。
姉よりもナオミの方が胸が大きい。
どんなに衣装の中に隠そうとしても、乳首丸出し。
姿見で確認。
結構エロいかなと思ったが、乳首を手で隠してみると、ギリギリ見えない方がエロい。
早速、衣装を脱いで、裸にジャージの上下を着込んで、義理の母親の部屋へ。
裁縫道具とミシンとアイロンを借りた。
衣装の胸の部分の縫い目の糸を丁寧に切り、縫い代イッパイにして縫い直した。
アイロンで折り目を消して完成。
魔法で一発という選択肢は、頭の中から消えていた。
再度、試着。
「うん! わたし器用!」
うさ耳のカチューシャを付け、ポーズの研究。
ウルウル瞳に上目遣い。
目薬も用意しておこう。
「しまった! 上目遣いは難しい。夫とそれ程身長が変わらない。」
膝を曲げたり、腰を曲げたりひねったり。
しかし、身長が低くなる事はない。
部屋の真ん中にテーブルと椅子を用意し、合わせた両肘で上体を支え、首をかしげた顎を両手の平にのせてみた。
「うん!これなら上目遣い成功!」
少しチークをつけて頬を赤くすることにした。
網タイツの向きの調整。
肌のはみ出し具合のチェック。
ムダ毛のチェック。
10cm以上の黒いハイヒール。
白い襟だけと蝶ネクタイ。
折り返しだけの白い袖口とカフス。
我ながら エロい!
「待ってろよ! エロバカ亭主! 3次元のすごさを見せてやる!」
夕方近くなり、買い物に行く時間になった。
半日以上、ポーズや歩き方の研究をしていた。
小物は外して、上にジャージなどを着たが衣装がキツい。
この衣装で駅まで行ったら、お股がすり切れる。
ナオミが指を鳴らすと、左手にスマホが出現。
夫宛に、ラインを送る。
「帰りにスーパーに寄って、以下のものを買ってこい!」
精のつくもの、シコタマ列記。
文面の最後に追記。
「今夜を楽しみに待っていろ!」
夫が帰って来た。
ナオミは平静を装い、二人で夕食。
リビングで寛いで、夫を風呂に行かせる。
1階は全て片付けて、浴室だけ使用中。
2階の部屋に戻り、準備万端。
立ったままだと180cmを超えてしまうので、椅子に腰掛ける。
テーブルに、合わせた両肘を置き、首をかしげた顎を両手の平にのせた。
「ナオミ!」と呼びながら、夫登場。
微笑むバニーガールのナオミを見て、夫はダッシュ!
「ア!」と言う間もなく抱き上げられ、ベッドに放り投げられた。
起き上がろうとする前に押さえ込まれた。
長過ぎる。
ディープキッスの時間が長過ぎる。
夫は、いつ息をしているんだ?
手が2・3本増えたかと思える程、身体中を撫で回された。
ベトベトになるくらい、身体中に、キス!!
何回求められたか分からない。
何度も絶頂に達した。
前から、後ろから。
表から、裏から。
息をするのがやっとだった。
夫の何処にこんな力があったのか?
そういえば、ナオミとの接触無期限停止は1週間続いていた。
今回はナオミの負け戦であった。
翌日の土曜日の朝。
夫の呼び声で起こされた。
「朝食の準備ができたよ~!」
ナオミは身体がヘトヘトだった。
夫より早く起きられなかった。
いつもはユルいTシャツなどを着て寝ていたが、今朝はやたら身体が窮屈だ。
姿見を見て驚いた。
まだバニーガールの衣装のままだった。
急いで衣装を脱いだ。
このままだと夫に襲われる!
ナオミは、必死になってジャージに着替え、何食わぬ顔で台所に向かった。




