28 妹(おまけ?)
妹(おまけ?)
登喜子と美智子との別れ際に、反対のホームに立って大きく両手を振りながら美智子が叫んだ。
「おに~ちゃんチに赤ちゃんが生まれたら、直ぐ手伝いに行くよ~~!」
実はもう少し叫んでいた。
「おね~ちゃんも頑張るんだヨ~~!」
ナオミと二人で、「早く電車が来てくれ」と思った。
それ以来、美智子の「お泊まり」は激減した。
父母に怒られたらしい。特に母親に。
魔女や鬼女の場合、父親は存在感は薄い。俺もそうなりそうで怖い。
「新婚の家に入り浸って、子供が出来なかったら、美智子のせいだ!」と。
流石にこの言葉には納得した。
何度もナオミの亭主を追い出し、ナオミと一緒に寝ていたからである。
しかし、夏休みは別であった。
思いっ切り「お泊まり」をして、十分満足した美智子であった。
大学の4年生。美智子は就職活動もした。
友達が羨ましがるくらい、内定をもらったが、就職しなかった。
ナオミが開発した「デジタル魔法システム日本版」の鬼女バージョンの開発の為である。
「デジタル魔法システム」は米国の魔女が作成した。
その日本版を開発したのがナオミであった。
システムの版権は米国の魔女が持っていた。
ナオミが日本版を開発している時、障害になるものあった。
おばさん魔女のキーボード拒否症だった。
試作版を使ってもらったが「こんなもの使えない!」と、口々に言われた。
システム云々よりも、キーボード操作の拒否症だった。
普通にスマホは使うのに・・・
新しく、慣れないものには、拒否反応丸出しであった。
どんなに良く出来たシステムで使い易くても、慣れてしまった出来の悪いシステムから抜け出せない。
おじさん会社員と同じである。
仕方がないので、ナオミはシステムの大改造を行った。
やりたい事を念じて、魔力を使ってパソコン内のシステムに伝えれば、後はシステムが勝手に対応するものである。
システム改造には、結構時間が掛かった。
バージョンごとに、米国の魔女と打ち合わせ、何度も改造を重ねた。
日本版と米国修正版の両方を完成させ、魔女の国際大会で披露した。
大喝采であった。
ナオミは世界でも珍しい2番目に生まれた魔女であった。
世界中の魔女は、伝承等でナオミの力を知っていた。
2番目の女の子は化け物であると。
力は破壊力ばかりだと思っていた。
皆、優れた頭脳まで持っている事に驚いた。
米国の魔女はナオミがお気に入りだった。
改良された「デジタル魔法システム」の版権はナオミと共同となった。
米国の魔女は、本当はナオミを自分の息子の嫁にしたかった。
ナオミが普通の魔女なら、それも出来たかも知れない。
しかし、ナオミの生涯の相手は、生まれた時に決まっていた。
その相手と結びつかせるものが、ペンダントの「青い石」であった。
何処の国の伝承にも、シッカリ記載されていた。
間違えても、2番目に生まれた魔女に手を出してはいけないと。
親・兄弟・姉妹を問わず、手を出した男の血は抹殺されると。
「デジタル魔法システム」の日本版の版権はナオミのものである。
ナオミは鬼女登喜子の母に提案した。
「デジタル魔法システム」の鬼女版と作る事を。
登喜子の母は、鬼女の代表である。
代々、鬼女の代表は京都出身者であった。
今の京都代表は、あまりに横柄で「京都が日本のナンバーワン!」と言い張った。
各県の鬼女代表に嫌われ、登喜子の母親が選出されたのである。
登喜子の母親は、鬼女全国大会での議題の一つとして「デジタル魔法システム」の鬼女版の採用を提案した。
難色を示す各県代表の鬼女もいたが、概ねは賛成だった。
ただ一人、最後まで前回までの鬼女代表は頑なに反対した。
東京代表である登喜子の母親を罵った。
「西洋かぶれが! 鬼女と魔女は違う。日本古来の固有種だ。」
「何も分かっていないくせに、好き勝手やっているんじゃない。」
京都代表は知っていた。
東京代表が正しい事を。
くだらない意地であった。
自己嫌悪になる一歩手前だった。
しかし、集まっていた鬼女全員は知っていた。
東京代表が中心に動き出してから、鬼女の暮らしが楽になった。
暮らしやすくなった。
鬼女である事を必死になって隠さなくても暮らせるようになった。
自分達は鬼女だから仕方がない。
しかし、自分の子供は、特に男の子は普通の人間と変わらない。
夫も普通の人間だ。
今までは、夫にも鬼女である事を隠さなければいけなかった。
それを改善してくれたのは東京代表、登喜子の母であった。
京都代表のくだらない意地と嫉妬だけであった。
京都代表は娘も連れて出席していた。
「止めてください!おかあさん!」
京都代表の娘は優秀な鬼女であった。
娘は提案されたシステムが必要だと感じていた。
鬼女と魔女が近い種だとも知っていた。
必死になって、母親を止めようとしていた。
そんな時、手を上げて発言する者がいた。
母親と登喜子と一緒に出席していた美智子であった。
丁度大学を卒業したばかりであった。
「これからは鬼女もデジタル化が必要です。」
「また、先程、京都代表からありました発言に間違いがあります。」
「鬼女は固有種ではありません、魔女の亜種です。」
京都代表の鬼女は、怒りを込めて言った。
「小娘ごときに何が分かる!」
「ふざけるなよ! クソババア!」
美智子の言葉に会場は静まりかえった。
美智子が怒っている。誰からも怒りの炎が立ち上がっているのが見えた。
美智子はナオミの家に行く度に、優しく聡明な娘になっていった。
昨年の会合にも出席し、全国の代表から「将来の鬼女代表」と言われていた。
京都代表の鬼女は思い出した。
魔女と同じく、2番目に生まれた鬼女は化け物だと。
鬼女の本場は京都である。
自分が住む京都には鬼女にまつわる伝承が多い。
伝承にも文書にも記されていた。
「2番目の鬼女の怒りに触れた鬼女は消滅する」と。
京都代表の娘は優秀だった。
直ぐに発言した。
「京都代表は交代します。代表はこの私が行います」と宣言した。
鬼女の会議では、宣言は絶対である。
後戻りは出来ない。
元京都代表は力なく、椅子に座った。
自分の娘が母親を守る為に必死だった。
挙手による全員一致で、「デジタル魔法システム」の鬼女版を製作する事が、決議された。
担当は美智子である。
暫定版の完成目標を2年後とする事を決め、会議は終了した。
項垂れて鬼女会議の会場を出ようとする元京都代表と、母親を支えるように歩く2人に走って近づく者がいた。
美智子であった。
「先程は失礼致しました。バカが騒いでいたとお笑いください。」
「先輩の業績は存じております。今後ともご教授、宜しくお願い致します。」
そう言って、美智子は深々と頭を下げた。
新しい京都代表は、ただ驚いていた。
元京都代表は、微笑みながら言った。
「私の方こそ、ご免なさい。」
「もう若い人達の時代です。娘を宜しくネ」
そう言うと、京都の二人は消えていった。
俺の部屋にパソコンのセットが増えた。
2台横に並んだパソコンの前には、ナオミと美智子が楽しそうに作業をしていた。
暫く俺は、テレワークの申請が出来なくなった。




