27 妹
妹
ナオミになついた美智子は時々より多めに俺の家に居る。
「来る」と言うより「居る」。
荷物は宅配便も使わずに送る事が出来るので、楽勝である。
週の半分以上は、俺の家から大学に通っている。
朝は3人で出掛け、3人でジムに行く。
会社からの帰り、いつもの駅で改札口を出ると、笑顔のナオミと仏頂面の美智子が立っている。
何故か自転車も3台になっている。
妹が出来たナオミは嬉しかった。
いつもは俺とナオミの二人で並んで、食器の片付けをしていたが、今はナオミと妹の美智子の二人だ。
何もしなくて良いのは楽だが、寂しい。
大学が春休みになったので、美智子は俺の家に入り浸りになった。
たまに本当の姉登喜子が訪れてお礼を言われたが、シスコンの呪縛から解放された登喜子は晴れやかだった。
俺の家の近くに川が流れ、遊歩道が整備されていた。
以前はナオミと2人で手を繋いで歩いていた。
今は俺とナオミと美智子の3人ではあるが、「ナオミと手を繋ぐのは美智子とだけ!」と美智子に決められてしまった。
ナオミが嬉しそうなので「良し」とした。
日曜日の夕方、美智子が一人で散歩に行くと言って出掛けた。
以前のような男が襲いかかりたい様な服装は、ナオミの命令で止めた。
美智子は背も高くスタイルも良く、ナオミのサイズに近かった。
「おね~ちゃんの服!」と言って、良く借りて着ていた。
違いはバストサイズで、ナオミの方が大きかった。
美智子はナオミの服を借りて着る度に、「おね~ちゃん! ズルイ!」と言っていた。
夕食の用意が出来た。
ちょっと暗くなってきた。
結構時間が経ったのに美智子が戻ってこなかった。
まさか襲われる事は無い。
男に襲われたら、襲った男には悲惨な結果しか残らない。
「もう少し待ってみようか」とナオミは思った。
俺は嫌な予感がしてリビングの周りを見た。
美智子がウォーキングの時にいつも持って行くポシェットが残っていた。
「ナオミ!」と俺が叫ぶと、いきなりナオミは玄関から裸足のまま外に出て、美智子の気配を探っていた。
「弱い!・・・消えた!」
流石のナオミの魔力にも反応が無くなったらしい。
狼狽えるナオミを抱き締めた。
ナオミは俺を撥ね除けようとしたが、俺は離さなかった。
何故かナオミの中にある美智子への気持ちが俺に移動している様だった。パソコンのデータの様に。
暫くするとナオミは叫んだ「美智子の何も分からない!」。
俺はナオミから離れて言った。「美智子の全ては俺の中にある。待ってろ!」
久しぶりに思いっ切り走った。
以前、一生懸命走っていた。
知り合いの医者に聞いてみた。「走っているけど効果が出てるかな?」
「今と1ヶ月後と2回検査してみよう。」
スポーツ医学にも対応している優秀な医者で、ジム仲間だった。
1ヶ月後の結果に驚いた。
「殆ど痩せていない。筋肉は付いてはいるが。」
「どんな走り方をしている?」と医者から聞かれ、答えた。
「頑張って走っている。抜かれると抜き返す」と。
「殆ど、無酸素運動と同じになっている。痩せたければ歩いた方が良い。」
それからは出来るだけ歩く様にしていた。
今は思いっ切り走る時だ。
美智子に近づいている「気」を感じた。
ナオミの中にある美智子への思いを吸い取っていたから。
かなり重い。
こんなにも、ナオミは美智子のことを思っていたのか。
嫉妬した。
美智子が羨ましかった。
走った。走った。走った。
見つけた。
ベンチにうずくまっている美智子を。
息はしている。
意識は無い。
美智子を抱き上げた。
このまま運ぼうかと思っていたら美智子が目を開けた。
「歩けるか?」
美智子は首を振るだけであった。
何とかオンブして美智子を運ぶ。
走ろうかと思ったが、俺の首に手を回したまま眠っていたので、歩いた。
さっきまでは冷たかった美智子の身体が、暖かくなってきて安心した。
途中、少し美智子の身体がずれたので、体勢を立て直した。
目が覚めたのか、負ぶった美智子から声がした。
「ありがとう。お兄ちゃん。」
暫く歩いていたら、体調が良くなってきたのか美智子から、ちょっと艶めかしい声がした。
「私のバストが当たって嬉しい?」
「いいや!」と俺が答えると、不満そうに言った。
「ナオミおね~ちゃんと比べたら?」
「ナオミの方が大きい。」
それから暫くの間、美智子に頭を叩かれた。
もうすぐ、家に着きそうな場所で、後ろで組んだ右手で左手薬指の指輪に触れた。
「もうすぐ着くぞ!」と思いながら。
家に帰ると、泣き顔のナオミと登喜子が立っていた。
俺は美智子を抱いて家の中に入り、立ったまま言った。
「美智子の準備が始まったのかな?」
二人は驚いていた。
頷くだけだった。
俺の部屋のベッドに美智子を寝かせた。
リビングに戻って、ナオミと美智子に言った。
「無事だ。後で暖かいぬれタオルで身体を拭いてやれ。食事は何でも食べられる。」
ナオミと登喜子に同時に聞かれた。
「何故そんなに詳しいの?」
「ナオミの時にもナオミの母親に色々教わった。美智子は俺の妹だし。」
二人は唖然としたままだった。
「食事は何でも食べられるが、自分からは食べない。」
「赤ちゃんに対するように、優しい言葉を掛けながら、スプーンで食べさせろ。」
「後、俺は別の部屋で寝るから、ナオミが一緒に寝てやれ。」
何回も何回も登喜子にお礼を言われた。
安心した顔で登喜子は帰っていった。
副作用がある事を言い忘れたが、ナオミの場合と同じで、そんなには変わらないと思った。
美智子が倒れた次の日は月曜日だった。
会社に行くと、インフルエンザの疑いがある社員がいたらしく、出来る限りテレワークをするように指示が出た。
いつもの様に駅の改札を抜ける。
ナオミは待っていない。
代わりにラインで、買い物を頼まれた。こんなに長い文章は久々に見た。
シコタマ買わされた。
マイバッグを沢山持っていて良かった。
家に帰って、会社のインフルエンザの話をすると、手をかざされチェックをされた。
陰性だった。
魔女が沢山居れば、医者いらずだな思った。
テレワークの話をした。
キーボードの音さえしなければ、美智子の近くに誰か居る方が安心だということになり、ナオミがキーボードの上に手をかざすと、サイレント仕様に変わった。
美智子は熱が高いうちは、おとなしく寝ていた。
俺はCADの作業の手を休め、たまに振り返って確認をした。
気分転換の際に「可愛い妹、早く良くなれ。」と美智子の頭を優しく撫でた。
俺のテレワーク中、時々ナオミも確認しに来た。
姉の登喜子も来た。
登喜子には、来る度に何度もお礼を言われた。
毎回、「俺の可愛い妹ですから」と言うと、笑っていた。
ナオミの時の経験から水曜日あたりには治ると思っていたら、案の定、副作用が現れた。
美智子の甘えっ子爆発であった。
今までの反動か、甘えっ子全開ではなく、爆発だった。
ナオミで慣れているとは思ったが、強烈な副作用だった。
スプーンで優しく食べさせていたナオミに対してよりも、俺に対する甘え具合が半端ではなかった。
「メロンが食べたい!」
「食事はおに~ちゃんじゃないと食べない!」
「ここが痒いから、かいて!」
色々甘えられたが、次の三つだけはナオミに叱られていた。
「着替えはおに~ちゃんがイイ!」
「身体を拭くのはおに~ちゃん!」
「食べるのはおに~ちゃんの口移しがイイ!」
副作用が収った金曜日に「動物園に行きたい!」と言う美智子の我が儘に、三人で多摩動物公園に行った。
美智子を真ん中に三人で手を繋いで。
大の大人が三人、横に広がって、さぞ周りの人には迷惑を掛けていただろう。
元気いっぱいの美智子に引きずられる感じであった。
ナオミからの連絡で現れた登喜子と園内で、合流した。
遠くから見ていたら、親子三人の様だったと笑っていた。
ナオミと美智子の背の高さは変わらないのに、その様に見えたと言っていた。
「ライオンバスが終わっちゃう!」と美智子に引っ張られて連れて行かれた。
美智子と二人だけでライオンバスに乗って、外にいるナオミと登喜子に手を振った。
後で二人に「兄妹よりも親子だった」と言われ、少し凹んだ。
登喜子と美智子との別れ際に、反対のホームに立って大きく両手を振りながら美智子が叫んだ。
「おに~ちゃんチに赤ちゃんが生まれたら、直ぐ手伝いに行くよ~~!」




