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駄目(俺+魔女)  作者: モンチャン
26/168

26 鬼


ナオミに友達は少ない。

性格の所為か、態度の所為か。


ただ、そんなナオミにも親友がいる。

魔女では無い、鬼である。



鬼というと、赤ら顔で大きいとの伝承がある。

多分、日本海で遭難した白系ロシア人をみた昔の人が、そう思っただけである。


しかし、日本全国に鬼女、山姥、般若・・・と女の鬼の伝説が多い。

ヨーロッパでの魔女伝説と一緒である。



鬼は存在した。


鬼も、ヨーロッパの魔女と一緒で、森の奥や山の奥に暮らしていた。


しかし、自分達を目立たなくする方法を思いついた。

人混みに紛れれば良いと。



魔女と一緒で、鬼も恐ろしい顔をしていると伝わっている。

恐ろしい顔は、怒ったときの顔である。人間と一緒で。

人間でも、常に同じ顔をするのは難しい。鬼も魔女も同じである。


普段は人間と変わらない。

美人である。

だから怒った顔が恐ろしい。



魔女と鬼女を比べてみると、共通点が多い。


まず、女性。

顔が怖い?

身体能力が高い。

人間には出来ない不思議な力がある。


顔が怖いは、怒っているときなので当然である。



鬼女は日本の固有種であるのは間違いないが、もしかすると鬼女は魔女の「亜種」かも知れない。



日本の魔女は大陸から流れてきた。

元はヨーロッパの魔女である。



力のあるもの同士は敵対する。


過去には色々争いがあったらしい。

人里離れた場所で行われたので、人間の知るところではなかった。



元々、魔女も鬼女も数が少ない。

こんな連中がワンサカいたら、普通の人間はたまったものではない。


両方とも「絶滅危惧種」である。



自分達の状況を理解していたお互いの長老達は、直ぐに和解した。

そして時は過ぎ、今に至る。




ナオミの親友は登喜子という。

両親は弁護士事務所を開業している。


魔女っ子と鬼っ子が出会ったのは、同じ学園の中学校であった。


美人の二人は、ナオミはクールビューティ、登喜子はホットビューティと言わた。



初めて会った二人は、本能的に敵対した。

しかし、母親同士が友達だった為、直ぐに和解した。


登喜子はナオミに優しく話しかけたが、ナオミの態度は冷たかった。

ただ、それを好む女性も多く、ナオミは人気があった。


登喜子も人気があったが、ナオミのことが好きだった。



同じ教室だったので、良く話をした。

多少、一方通行ではあったが。



登喜子とナオミには違いがあった。

登喜子は長女、ナオミは次女。


登喜子には妹がいて、ナオミには姉がいた。

家族構成は似ていたが、決定的な違いであった。



登喜子は妹を扱う様にナオミに接した。

簡単にナオミの心は氷解し、登喜子を大好きになった。



二人には共通点が多かったが、特に際立ったのは「男嫌い」だった。



二人が高校生の時、男どもが「ミス学園」を学園祭で開催しようとした。


帰宅部だった二人は、サッサと帰ろうとしたが、実行委員会に利用していた教室に呼ばれた。

「男嫌い」を知っていた委員長の男子生徒は、副委員長の女子生徒に二人を呼んでくるように頼んだのである。


椅子に座った二人以外は、男女半々の20名だった。



今年の学園祭の目玉である「ミス学園」に出席して欲しいと全員に懇願された。

皆、どちらが1位になるのか興味津々だった。



女子生徒10人全員が教員室に呼ばれた時、男子生徒10人に更に懇願された。


「是非、出席をお願いします。」

土下座しての男子生徒全員のお願いであった。


必死のお願いだった。ただ、数人の男子生徒にスケベ心があった。

「水着審査もしたい。」



二人はその気持ちが直ぐに分かった。


二人同時に机を叩き、恐ろしい眼で男子生徒を睨み付けた。

誰も声を出せなかった。皆、殺されると思ったのだから。



女子生徒が教室に戻ってくると、既に二人はいなかった。


ただ、跪いて固まったまま、失禁して股間を濡らし、白目をむいたままの男子生徒がいるだけあった。


「まあ、そんなものよね!」と女子生徒達は平然としていた。



「水着審査」の件は、学園長のカミナリで出来なかった。

「ガキのくせに! 大学生になってからやれ!」


凄い剣幕だった。



10人の男子生徒は、大人になってからもその時の夢をみるという。

うなされ、失禁し、洗濯物をその度増やしていた。



二人が高校生になったとき、登喜子の妹が同じ学園の中学校に入学してきた。

可愛く、愛らしい子だった。


ただ、姉の登喜子に似て、男嫌いだった。


性格は姉とは違い、ナオミと同じ冷たい性格だった。



たまに、原宿などでナオミと登喜子はお茶をした。


いつもは2人席で額を寄せるようにしていたが、そのうち4人席になった。

登喜子の妹、美智子が中学生になると、一緒に姉に付いてきたのである。



愛想の無い美智子ではあったが、妹が欲しかったナオミは美智子が好きであった。

自分の幼い頃と似ていた美智子が。


しかし、美智子はナオミには懐かなかった。

美智子は極端なシスコンだった。


登喜子は美智子が好きだった。片時も離れたくない美智子にやりたい様にさせていた。




時は過ぎ、ナオミと旦那が歩いていた。

人通りが殆ど無い公園の近くで手を繋いで歩いていた。


近くに人の気配がした。

美智子であった。


姉に言われた。

「一人で出歩く時は、鬼力で作ったボディーガードを連れて行け」と。

美智子の側には、屈強な男2人が並んでいた。



もう、大学生になっていた美智子は、姉よりも美人でスタイルも良かった。


ナオミも登喜子もシックな服を好んで着ていた。

そんな姉たちへの反発か、美智子は派手好みで、胸を強調したり、はいていなくても同じくらいの短いジーンズショートパンツを好んでいた。


今日も美智子の格好はそれであり、ボディーガードは必須であった。


ナオミは美智子の格好を見て、眉をひそめたが、直ぐに笑顔で、腰の辺りで手を振った。


「親友登喜子の妹さんで、みっちゃん、イヤ、美智子さんよ。」

ナオミが紹介してくれたが、美智子はほぼ、ガン無視だった。


「登喜子さんの妹さん! お姉さんに似て美人だね。」

社交辞令も含んだ、そんな言葉だった。


ちょっと美智子に俺は近づいた。

ナオミと手を繋いでいたので、それ程近づいた訳では無かった。


いきなり、ボディーガードの男に羽交い締めにされた。


男達は何も発しなかったが、美智子が言った。

「近づかないでヨ!」


冷たい言葉だった。

普通の男なら、言葉だけで怯むくらいに。


ナオミは平然としていた。

こんな場面に慣れている様だった。

「みっちゃん! そのくらいにしておいてね!」


しかし、美智子は超男嫌いで、自分の知り合いの女性と手を繋いで喜んでいる男が気にいらなかった。


美智子は顎で、男達に合図すると、俺はもう一人の男にボディブローをくらった。


「みっちゃん! 止めなさい!」とナオミが叫んだ。




俺の腹筋は分厚い。


高校生の頃、海外のボディービルの雑誌を読んでいた。

国産のそれ系の雑誌では満足出来ずに、お茶の水の書店で購入した。


掲載写真では無く、海外の奴らが、どんなトレーニングをしているのかに興味があった。

何としても理解したい。

そのお蔭で英語の成績は上がった。



海外雑誌を机の上に開いたままにしておいた時、姉が興味深そうに眺めていた。

「チ! 男の裸か!」

そう言って、俺の雑誌なのに直ぐに投げ捨てられた。


姉は英語が堪能である。

どうも、海外のイヤラシイ系の雑誌と思ったらしい。

新しいテクニックを吸収しようと思ったらしいが、呆れる。



雑誌の特集記事にはこう書いてあった。

「ローマンチェアで30分以上シットアップをする。」


ジムには殆ど備わっていない器具である。


早速、ローマンチェアを購入しようと思ったが、高額だった。

仕方なく、自作する事にした。

作ってみたが、自分の不器用さに、自分で呆れた。


母はDIY大好きだったが、電動工具は勿体ないと「手動派」だった。

「図面があったら、作ってやる!」

母にお願いした。


丁度、オヤジのドラフターがあった。

俺は不器用でも、作図は上手かった。


オフクロは器用だった。

使い勝手も良く、丈夫なローマンチェアが出来上がった。


「身体の当たる所に、古いタオルを巻いておけ!」と言われた。


「古いヤツをいつまでも取っておくな!」

オフクロは断捨離も好きだった。


俺が描いた図面は出来が良かったらしく、「大学は建築学部に行け!」とオヤジに命令された。




流石に殴られると、鍛えていても痛い。

思わず「グエっ!」と呻いてしまった。


殴った男も、羽交い締めしている男もかなりの力だった。


いつもは優しいナオミに叱られた。

いつも優しいお姉さんなのに!

姉だけのシスコンではなく、ナオミにもシスコンになっていた。


訳が分からなくなって、美智子は叫んでしまった。

「ウルセー!ババア! こんな醜男と手なんか繋ぎやがって!」


ナオミは「ババア」は我慢したが、俺を醜男と言ったのには我慢出来なかった。

自分の事では我慢が出来るが、旦那を揶揄される事は許せなかった。


親友の妹、しかも、自分の妹のように可愛がっていた。

間髪問わず!のナオミでも、少しの躊躇があった。


しかし魔力を発動する前に、思いがけない事が起こった。



俺は怒った。


俺を醜男というのは甘んじて認めよう。

しかし、ナオミを「ババア」と言ったのは我慢がならなかった。


「クソ!」と思った瞬間、渾身の力で下げた俺の腕で、羽交い締めにしていた男の腕が砕けた。

間髪を入れずに、前にいた俺を殴った男に蹴りを入れた。男は腹から裂け、二つに分かれてしまった。


暫くすると、男達は2匹の大型犬の死体に変わっていた。

2m近いボクサー犬だった。



俺は、動けないでいた美智子の首根っこを掴んで、座らせた。

「やった事より、言った事が許せない! 何を考えているんだ、バカ女!」


延々と説教は続いた。

俺の悪い癖である。

しつこい。


近くで呆然としていたナオミであった。


旦那はてっきり指輪の魔力を使ったと思った。

旦那が指輪の魔力を使うと、自分の指輪から信号?が来るので分かる筈であった。

しかし今回は旦那だけの力の様だった。


美智子の鬼力の強さは知っている。


2番目に生まれた鬼女の為か、2番目に生まれた魔女と同じに化け物の力を持っている。

それをいとも容易く、叩き潰してしまった。

「うちの旦那様! 凄い、世界一! 大好き!」との思いでイッパイになった。


ナオミは思い直した。

直ぐに旦那の説教を止めなければ。

明日まで続いてしまう。


旦那をよく知っているナオミであった。



出来るだけ優しい声で、ナオミは言った。


「もう、そのくらいにして!」


「ほら、みっちゃんも泣かないの・・・」

ナオミは優しく美智子の頭を撫でた。


俺が「うん」と言って、犬の死骸を見ていたら、ナオミの指が鳴るのと同時に消えていった。

流れた血液すら残っていなかった。


「じゃあ、みっちゃんを送っていくから」と言って、ナオミは美智子の手を繋いで歩いて行った。

傍目からは、仲良しの姉妹が歩いている様にしか見えなかった。


「あ~あ!一人で散歩か・・・ つまんね~な~!」

愚痴を言いながら、ひとり寂しく帰宅した。




暫く経った土曜日に、俺とナオミは、ナオミの実家に遊びに行った。


実家の近くに美味しいケーキ屋さんが出来たという事で、お土産はケーキに決まっていた。


どれも美味しそうで目移りする。

「やっぱり、ショートケーキ!」とナオミが決めて、決定!


健康管理に気を遣うナオミが、購入する数を確認していた。


「ショートケーキ、ホールで! それとアップルパイもホールで!」

俺が注文すると、客がイッパイ居る所為か、店員の対応が早く、ナオミのストップは届かなかった。



ニコニコ顔で、ケーキの入った紙袋を持つ俺の脇腹に、ナオミの肘鉄が炸裂!


「あ!この前殴られたところがイタイ!」と痛がったフリ。

「エ!ごめんなさい!大丈夫?」

慌てるナオミに「エヘヘヘヘ!俺って丈夫!」と笑うと、今度はグーパンチをくらった。


「こんな大きいショートケーキ! 余っちゃうじゃない!」

「健康管理もしているのに!」

と、実家に着くまでブツブツ言われた。



実家には既に来客があった。

登喜子と美智子の姉妹である。



実は美智子のやった事に責任を感じ、何としても俺に謝りたかったらしい。

ふてくされる美智子にも、シッカリ謝らせなければいけない。

姉心である。



登喜子はナオミの家を、また、ナオミが登喜子の家を訪れるのは、お互い1人である。

だから、わざわざ交通機関は使わない。

その所為で、二人とも交通機関を使うと迷う事がある。


登喜子はナオミが結婚したのは知っていた。

しかし、ナオミは実家に暮らしていると思っていた。

それで、ナオミの実家に妹を連れてきていたのである。



鬼力で普段は訪れるのだが、一人で二人分は難しい。


二人それぞれで鬼力使っても良いが、タイミングが合わないと、干渉してお互い違う場所に行ってしまう事がある。

そんな訳で、電車に乗ってナオミの実家に来ていた。



登喜子はナオミが実家に居ないのに驚いたが、ナオミの母親から「二人がもうすぐ到着する」と言われて、安心した。



「こんな大きいホールのショートケーキ! 健康管理もしているのに!」

ブツブツ文句を言われながら、二人で歩く。

クドクド文句を言うのは、俺に似てきたのかも知れない。



ナオミの実家に着くと、ケーキを食べる人数が多い。

「俺の予感的中だ!」俺が勝ち誇ると、後ろから臀部にナオミの膝蹴りを食らう。

皆に見えない様にする、狡い攻撃である。



挨拶をして、ソファーに座る。


ナオミの母親が、紅茶の準備をしているときに、登喜子が立ち上がった。

登喜子は美智子の首根っこを掴んで、立たせた。


慌てて俺とナオミが立ち上がった。


「この度は、本当に申し訳ありません。ほら、美智子もちゃんと頭を下げる!」

登喜子は言いながら、美智子の頭を押さえた。


なおった美智子の顔は涙ボロボロだった。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」

ここに来る前にも、何度も姉に叱られたのであろう。


直ぐにナオミが美智子を抱き締めて言った。

「あの時は怖かったね。 もうしないよね。 旦那にも怒っておいたからね。」


「おい!違うだろう!」とツッコミを入れたかったが、いきなり美智子がナオミに抱きついた。

「ナオミおね~ちゃん! あたし怖かったの・・・」



姉の登喜子は、もう一回俺に謝ったが、そんな気持ちの無い奴がいた。


美智子は抱き締めたナオミの腕のすき間から、俺だけに向かって舌を出していた。


「この、ガキ!」



それまで登喜子メインのシスコンだった美智子は、それ以来、ナオミメインのシスコンになった。


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