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駄目(俺+魔女)  作者: モンチャン
25/168

25 兄


姉のヒロミは結婚している。


ヒロミは、結構好き勝手に遊び回っている。

ただ、浮気したり、ましてや夫が浮気出来たりはしない。


魔女の特性である。



姉の亭主のである兄、母の亭主である父。


何となく似ている。

性格も、見た目も、考え方も。

オマケに仕事までも。


職種は違うが、二人とも「単身赴任」である。


親子なので男の好みが似てくるのかも知れない。




小学生までのナオミは、低学年ではそれ程目立った子供ではなかった。

高学年になると、利発で、運動神経が良く、運動会で活躍する優等生になっていた。


私立の中学に入学し、中学でもその傾向は更に進み、美人で、スタイルが良く皆の羨望の的となった。



2年生の時、マセタ男の子がナオミにちょっかいを出した。


男の子は友達に、「ナオミに抱きついて、俺を好きと言わせてみせる!」と宣言して実行した。

男の子の父親は政治家で、ちやほやされて育った。

親の力を自分の力と勘違いしていた。



たくさん生徒が歩いている学校の廊下で、男の子は友達に「今からヤル!」と言って、ナオミに突進した。


ナオミに抱きつく寸前に、男の子は吹っ飛ばされた。


廊下に居る生徒達には、ナオミが投げ飛ばしたと見えていた。

実際は、ナオミは男の子に触れても居なかった。


落ち方が良かったのか、額から血を流す程度で済んだのは幸いであった。


一応、男の子は救急車で運ばれ、精密検査を受けたが、額についた傷だけだった。



男の子の母親は激怒した。

学校に怒鳴り込んだ。


母親の女は息子と同じに、夫の力を自分の力と勘違いしていた。


「うちの息子に怪我をさせる様な乱暴者の娘を退学させろ!」と。

「なんなら、傷害事件で告訴しても良い!」と。



私立の学校である。もしもの為に防犯カメラも設置されていた。



学園長室は広い。豪華な応接セットも用意されていた。

そこに、学園長、中学校長、バカ息子の母親、バカ親に連れてこられた夫の秘書が揃っていた。



秘書の男は乗り気ではなかった。

事の次第を調査していた男であった。

学園長がどう出てくるかを分かっている程、優秀だった。



「仰りたいことはそれだけですか?」

学園長ではなく、中学校長の言葉だった。


無駄に大きいディスプレイに映された、防犯カメラの映像であった。


「あなたのバカ息子が、このお嬢さんを襲おうとしたのは明らかです。」

「息子さんの退学の手続きをするなら、ここに書類があります。」


大きい立派なデスクの上に1枚の書類が載っていた。


「幸い、相手のお嬢さんの親御様からは、何でも無いので! とだけ言われております。」と学園長が言った。



「私の夫を誰だと思っているの!」とバカ女が全てを叫び終える前に、優秀な秘書は深々と頭を下げてその言葉を遮った。

「穏便なご処置をお願い致します。」


「停学、1週間とします。」



バカ親は秘書に促され、学園長室を後にした。


無駄に大きい車の中で、秘書の男に言われた。


「あの程度で済んだのは、大成功です。」

「あの学園長をご存じないのですか?」


女は訳が分からなかったが、本能的に喋ってはいけないと感じていた。


「あなたの夫、私の雇い主、を守る為です。」


「金にはがめつく、権力もある。しかし・・・女性関係の不祥事を忌み嫌う男です。」

「あの男に睨まれたなら、政治家を続けられることなどあり得ません。」


女は思い出した。結構お堅い週刊誌の記事を。

あの学園長の掲載写真を。

肩書きは学園長では無かった事を。



女は家に帰ると息子を叩いた。

そして言った。

「今の生活を続けたかったら、真面目に生きなさい!」



ナオミの母親が怒ったら、政治家一家もろとも抹殺された筈であった。



中学校からの報告を書面で知ったナオミに母親は、ナオミに向かってこう言った。

「こんなものね。今はどうなの?」


ナオミが話した内容は処分されたバカ息子の話ではなく、その後のナオミの周りの変化についてだった。」


「女子生徒が群がるようになった。」


どおりで、近頃ナオミの帰りが遅いと思った。女の子達に誘われて、断り切れない様だった。


バレンタインデーの時の女子会の話も聞かされた。

キャスターに載せたいくらい集まった、ナオミ宛てのチョコレートの処理方法だった、


大きいズンドウ鍋に入れられた大量のチョコレートが溶かされ、ナオミの像が作られたらしい、


固まったチョコレートの像を木づちで粉々にして、20人以上で食べたらしい。

その日の夕食時、ナオミの食が細かった理由が分かった。



中学生の時だけでなく、高校生になっても、ナオミはモテモテだった。女子生徒から。


男は嫌い。


人付き合いも嫌い。


話しかけてもツッケンドン。


しかし、益々スタイルは良く美貌に磨きがかかった。

宝塚状態であった。


ある男に教わっていたので、空手も得意であった。

賞や位には興味は無く、段位は無かったが、恐ろしいほど強かった。


運動神経抜群であった。


運動会でもヒロインだった。


しかし、いくら先生に誘われても「帰宅部」であった。

空手の腕前も相当なものだと感じていた先生達は、自宅から空手道場に通っているのだろうと思い、強くは誘わなかった。



中学、高校と優秀な成績で卒業し、そのまま学園が経営する大学に進学した。



大学の校門の側で、ナオミを強引に誘おうとしたバカ学生がいた。


大学からの入学組で、ナオミの噂を知らなかった。

背は高く、顔も良い。

頭も良かったが、女に対してはバカだった。


見た目や気の利く対応に、女子学生からも人気があった。


当然、声を掛ければナオミから良い返事が返ってくると思っていた。

何も反応が無かった。


こんな筈はない。そう思って、ナオミの腕を掴もうとした瞬間、枝振りの良い植木の上に投げ飛ばされた。

バカ学生には、女の腕に触った感触すら無かった。


ナオミは男を無視して居なくなった。


近くに居たナオミを知っている女子学生に一斉に言われた。

「バ~カ!」


それから噂が広まったのか、この大学内の女子学生から無視される事が多かった。

学園内でその男を見た女子学生からは、「あ!バカが来た。」と言われ、名前では呼ばれることはなかった。




ナオミの義理の兄になる男は、地方出身だった。


親は、3兄弟を都会の大学に通わせられる程は裕福だった。

兄は次男坊だった。


親の負担を減らしたくて、国立大学を狙ったが、ナオミが通う私立大学へ入学した。

結構な有名私立大学だったが、国立大学が目標の兄は申し訳ないと思っていた。


次男坊の気持ちを察したのか、父親は「この位の学費ごとき何でも無い!」と、浪人しようかと考えていた兄を入学させた。

「浪人して、人生の無駄伝いをするな!」とも言われた。


あまり高額なアパートは選ばなかった。

人気の無いユニットバスの4畳半だった。

駅近で、大学にも近かった。


兄は文化系を選ばなかった。

独り立ちが出来ると思い、工学部を選んだ。


親の負担を減らそうとアルバイトを考えたが、甘かった。

実験と、実習、レポート作成でそれどころでは無かった。


ただ、小さい頃からやっていた空手だけは続けていた。


大学のクラブに所属していたが、他校との試合には出場するつもりはなかった。


しかし、空手に関しては天性のものが有り、クラブの優勝に貢献したお蔭で、合宿などには参加しなくても文句は出なかった。

クラブとしては、兄が止めてしまう方を恐れた。



兄は、真面目である。くそ真面目である。

兄はお茶の水の古本屋を回る事も好きだった。


勉強している工学系書籍の店には度々訪れた。

そんなに購入するわけでは無かったが、何回も訪れる兄を店主は覚えていた。


あるとき、気に入った書籍を見つけた。

何故かその本の隣に、訳の分からない文字?の様なもので書かれた本が置いてあった。


持ち合わせは少ないし、昼食も近くのスパゲッティ・ナポリタン大盛りを食べたかった。

気になって、気になって2冊一緒に受付へ持って行ってしまった。


「2冊かい?」と店のオヤジが言った。

いつもは1冊しか買わない兄だった。


「あれ?」と言って訳の分からない文字の本を書棚に返そうとした。

「この本はオマケだ!」

訳が分からなかったが、嬉しかった。


「書棚にある本は、全て覚えている筈なのに、この本だけは記憶に無いんだよな?」

「価格も付けていないし、良かったら持って行ってくれ。」


有り難く、1冊分の金額を払って店を出た。


表に出ると、何故か視線を感じたが、温かい視線で悪いものではないと感じた。

「スパゲッティ・ナポリタン大盛り!」と呟いて、神保町近くの喫茶店に向かった。



注文してスパゲッティ・ナポリタン大盛りが出来上がるまで、本を読んで見ようと思った。


タダで貰った本の文字は、どうやっても分からない文字だった。


本を開くと、同じ文字がビッシリ並んでいた。

読めないが、見える。

文字は分からないのに、何が書いてあるのかが理解出来た。


スパゲッティ・ナポリタン大盛りを食べながら、本を見た。

傍から見たら、漫画本を見ながら食べている様だったかも知れなかった。


カチっ!と音がした。

既に空になった大きめの皿にフォークが当たった音だった。


正直、何を食べたのか分からなかった。



「ごちそうさま」と言って支払いをして、表に出た。

結構日差しがまぶしかった。


どの路線を使って帰ろうかと、靖国通りをブラブラ歩いている時だった。

後ろから声がした。


「同じ大学に通っている方ですね?」

見た事も無い若い女だった。

学生服を着ている訳でもなく、学校名の付いた鞄や紙袋ももってはいない。


しかし、不思議な感じはしなかった。


「はい」と答えた。


若い女は「その本、読み終わったら貸してください。私はヒロミと言います。」

それだけを言うと、若い女は雑踏の中に消えていった。


気にはなったが、教えられたのは名前だけ。

住所や電話番号、メールの宛先すらも教えて貰えなかった。

「東京だから、いろんな人が居るんだな」くらいにしか思わなかった。


しかし、美人でスタイルも良くて・・・もうちょっと話していたかったな・・・


「東京の女の人は美人ばかりなのかな」と思って周りを見回したが・・・そうでは無かった。



アパートに帰って、気になっていた本の続きを読む、いや見始めた。


夕食も忘れて見続けた。


外が白み始めた早朝に、全てを見切った。

恐ろしい事にどこに何が書いてあったのか、シッカリ覚えていた。



眠くは無かったので、徹夜のままで大学に出掛けた。

本を読んだ見ただけ、運動したわけでは無い。

若いし、徹夜の1日ぐらい、と思って気にしなかった。


大学からアパートに帰った。


思い出すと、まだ、あの本の内容を鮮明に覚えていた。

魔女に関する内容だった。



工学部の実習室でレポートを纏めていた。

殺風景な部屋だった。


後はパソコン入力で終了というところで、あの若い女が入ってきた。


「読み終わったみたいね、今度借りに行くわ。」

それだけ言うと出て行った。


慌てて後を追ったが、何処にも居なかった。



土曜日と日曜日は授業も実験も無かった。

久しぶりにゴロゴロするかと横になっていたら、チャイムが鳴った。


売り込みだとイヤだな、と思いながらドアスコープを覗くと、あの若い女だった。


休みの土曜日なので、掃除・洗濯をして結構片付いていたので、若い女を部屋に入れた。


Tシャツにストレッチのジーンズ、カーディガンを引っ掛けた、ごく普通の格好だった。


ただ、美形でスタイルも良く、身長は高めであった。

髪はポニーテールで纏め、サラサラなのはよく分かった。



「どのくらいで読み終わった?」

いきなりの質問だった。


「徹夜したら終わった。」

「へえ~!優秀ね!」


「じゃあ、デートしよ!」

「うん!」

自分で言った言葉が分からなかったが、手を繋ぎながら、川沿いの遊歩道を歩いた。


「嬉しい?」

「うん!」


「わたし・・・ヒロミを可愛いと思う?」

「はい!」


「じゃあ、お付き合い決定!」


夢のようなお散歩でよく分からなかったが、ヒロミの握ってくれた手、組んでくれた腕の感触は忘れなかった。

ポワ~ンとしたまま、アパートに帰った。


「これ、借りて行くね」と言って居なくなった。

どうせ、もういないだろうとドアを開けたら、少し離れたところで、ヒロミは大きく手を振っていた。



大学の授業や実験が終わって帰ろうとすると、必ずヒロミが待っていた。

一緒に帰って、夕食を作ってくれた。


夜遅くに一人で帰すのは問題があると思って、「送っていく」と言ったが、毎回「大丈夫」と言いながら帰って行った。


1週間も続いた頃、ヒロミから提案があった。


「どうせ、大学から一緒に帰るんだから、私の家に下宿したら?」

「今のアパート代で食事付き。電気、水道使い放題。」


負けた。何で俺を気に入ったかは分からないが、了承した。


「でも、ヒロミのご両親とかは大丈夫なの?」

「両親からの提案よ。」



次の日、ヒロミの家に挨拶に行った。


大学に入って半年も経っていなかった。


必要最小限しか持っていなかった。

引っ越しは簡単に終わって、大学も役所の手続きも直ぐに終わった。


ヒロミは二人姉妹の姉。両親と4人家族。

父親は単身赴任で、たまに家に帰って来る。

妹を除いては皆愛想が良い。



結構鈍い兄だったが、あの不思議な本に書いてあった魔女の特徴に女性3人は合致していた。

優しいし、皆美人だし、一生懸命良くしてくれるのは分かった。

兄の判断は「魔女だからなんだ!」だった。



面倒見の良いヒロミの母親に色々助けられた。


いつの間にか、自分では、食事・洗濯の類いは出来なくなった。

取り上げられてしまったのだ。

「学業に専念しなさい。」と言われ、授業料免除を目標に勉強した。



部屋数が多い家で、大学にも近く、ヒロミの父親は凄いなと思って、自室でうとうとしていた。


扉が開いてヒロミが入ってきた。


いつもはザックリした感じの服ばかりだったが、胸元が大きく開き、ミニなのか下ははいていないのか分からなかった。

足が長いのだけはよく分かった。


「あたしのこと、好き?」

「はい・・・」


「どのくらい?」

「え~と・・・」


「結婚したい?」

「はい!」

何故かこれだけは即答した。


ヒロミはキスをして、抱き締めた。

兄は性欲ではなく、ヒロミに負けた。



男3人兄弟で、母親以外は女っ気の無い生活であった。

だから、初めて話しかけられた女性を簡単に好きになったかと、思った。


しかし、ヒロミと話すうちに、ドンドン好きになった。

愛してしまった。

こんなに好きになっても良いのかと思えるほどに、好きだった。


学校にいるときはよかったが、家にいてヒロミの存在を感じると、身体の周りから愛が立ち上っているようだった。

結婚してやる!


それには俺の家族、ヒロミの家族、みんなを納得させなければいけない。


頑張った、入試の時よりも頑張って勉強した。

前期の成績はAよりも評価の高いSが殆どだった。



そんな頑張った成績を残しながら、ヒロミと愛し合ってしまった。

避妊具の用意などしていなかった。



丁度、単身赴任の父親が家に帰っているときだった。

朝食の時、皆が揃っているまえで言った。


「ヒロミさんとセックスしてしまいました。」

「結婚させてください。」

「学生の分際で申し訳ありません。」


兄は下を向いたままだった。

後ろで、ヒロミが「Vサイン」をしている事には気付かなかった。



父と母は何か相談しているようだった。

父が言った。


「君は次男坊だよね。」

下をむいたまま答えた。

「はい!」


有無を言わせないような強い言い方で父は言った。

「うちの婿になってもらう!」



それからの展開は早かった。

兄の両親はよばれて、父の提案を聞かされた。

「婿と決定したからには息子だ! 授業料はこちらで出す。」


兄も兄の両親も何も言えなかった。

本当は呆れて何も言えなかったのだが。



兄の両親が帰ってから、家族5人でリビングでコーヒーを飲んでいるとき、ヒロミから言われた。

「妹ともども宜しくね。」


母親がすかさず言った。

「ナオミに好きな人が出来るまでね。ナオミ!サッサと好きな人、見つけておいで!」


父親がボソッと言った。

「アア!あのことね。」

兄は何を言っているのか分からなかったが、あの本に書かれている事を思い出した。


魔女に女の子が二人生まれたら、2番目の女の子は最強の魔女になる。

ただし、2番目の女の子のツガイになる者が決まるまでは、1番目の女の子のツガイが二人を守ること。


俺? 俺が魔女二人を守れるのか?・・・とうつむいて考えていたら、母親の声がした。

「二人を守ると言うよりも、抑える!と言う事ね。」


よく分からなかったが、ヒロミの言葉で諦めた。

「何かあったら、勝手にナオミの側に立っている筈だから。」



一番最初にナオミに呼ばれた?のは、ナオミが高校生の時で、俺が大学生の時だった。

大学の廊下を歩いていたら、気が付くといきなりナオミの隣に立っていた。


薄暗い地下道だった。

向こうからチンピラが3人歩いてくる。

何かを言っているが、ろれつが回っていない。

「金と女をおいていけ!」らしいことを言っているのは理解出来た。


何でナオミも俺もこんなところを歩いているんだと思ったが、今を対処するのが先決だ。

何があっても妹ナオミを守らなければいけない。

こちらは空手の心得どころか有段者だ。


過剰防衛はまずいと思っていたら、3人ともナイフを握っていた。

取り敢えず、ナイフをたたき落として、怯んだ隙に逃げる作戦にした。

そのつもりだった。


ナオミの前に立っていた俺の横を何かが通り過ぎた気がした。


前をよく見ると、3人のチンピラが倒れていた。お互いのナイフに刺されて。

残念ながら、近くに寄らなくても生きていない事は分かった。


ナオミの手を握って、走った。

どのくらい走ったかは覚えていないが、結構走った。


明るい公園のベンチに二人で座っていた。

自販機で買った水を二人で飲んだ。


ナオミが事も無げに言った。

「慌てなくても、誰も気付かないよ。私たちが居た証拠は何も残っていないから。」


兄はイラっとした。

「仮にも人が3人死んだんだぞ!」


「だから?」

思わずナオミの胸ぐらを掴んだ。


二人以外に人が居なくて良かった。

掴んだ手を放し、冷静になって言った。

「魔女だからって、何でもして良い訳じゃ無い。今度からは兄である俺がお前を止める!」


次の日の新聞に「新宿の地下道で、覚醒剤中毒のチンピラ3人が、仲間割れで殺し合った。」と記事にあった。


強姦、強盗、覚醒剤密売、・・・悪い事は何でもやっていた連中だった。

覚醒剤を欲しがるバカどもに匿われていた為、逮捕されなかったらしい。

警察の上層部の失態も明らかにされた事件であった。



何度も同じ様な場面に遭遇させられた。

ナオミが意識的に行動している様だった。



兄は魔女の本当の力を知らなかった。


兄自身が教えられる格闘技、空手を教える事にした。

教えなくても、魔女は自分を守るくらいは楽勝であったが。


家の近くの材木屋に、枝振りが悪く、処分予定のカットしただけの丸太があった。


兄は値段を聞いてみた。

「これはおいくらですか?」


材木屋の答えは意外なものだった。


「処分する予定だから、持って行ってくれれば、タダでイイよ。」

「何に使うんだい?」

「空手の練習用に」

「じゃあ、そこにある藁縄も持ってきな。ついでだ。」


結構重かったが、訓練と思って頑張った。


ヒロミの母親に許可を得て、庭の端に穴を掘って、丸太を埋めて藁縄を巻いた。

結構使い勝手が良く気に入ったが、ナオミはもっと気に入った。

嫌な事があった時の憂さ晴らしにピッタリだったのである。



リビングにナオミと二人で座っているとき、強い口調で説教を始めてしまった。

「もう止めろ! 何度でもナオミを止めに行ってやるが、自分から危ないところにワザワザ行くな!」

「ナオミは大事な妹だ! 兄ちゃんにこれ以上心配させるな!」


驚いて固まっていたナオミであったが、「お兄ちゃん!」と急に抱きつかれた。

なかなか離れないナオミだった。暫く好きにさせておくかと、そのままにしておいた。


その光景をヒロミはしっかり見ていた。

「お兄ちゃんとしては正しい行動だったけど、妻の私としては少し我慢が出来ない。」


そう言うと、腕を掴まれて別室に連れて行かれた。

バッシ!!と結構強く頬を叩かれた。


「お兄ちゃん、大好き!」とナオミに抱きつかれる度に、ヒロミに毎回叩かれた。

腫れた頬を撫でながら、「お兄ちゃん、結構辛いのよ!」とナオミに言ったら、「頑張れ!」だけが返ってきた。



こんなこともあった。


結構広い道路で、暴走族がグルグル回っていた。

4台のシャコタン改造車であった。


特にナオミが狙ってこの場所にいた訳では無かった。たまたまだった。


兄はナオミの横に立っていた。


婦女暴行やATMの強奪、「うるさい!」と言った老人をひき殺した連中として有名だった。

これだけ目立つ連中が捕まらないのは、暴力団も絡んでいる為の様だった。


見てくれる観客?がいないので、面白くないと思っていた連中は、ターゲットをナオミに絞った。


歩道に立つ兄と妹の近くを、何度も行き来していたが、エンジン音や、クラクションの音、タイヤのスリップ音すら聞こえなかった。

聞こえたのは4人ずつ乗った4台の車の中で騒ぐ声だけだった。


ナオミの美貌とスタイルの良さは、騒いでいる男達の嬌声をよんだ。

が、嫉妬した女達の叫びは下卑過ぎて聞くに堪えなかった。


自分達の声しか聞こえない時点で、止めれば良かった。

しかし、狂ってしまった心は、何処にも行き場所が無かった。


ナオミは両手を連中に向けた。

ただ、それだけだった。


年々、ナオミの能力が上がり、殆ど動かなくても、強大な魔力がナオミの思い通り発動された。


4台のバカ車はスピンをしながら、車どうし何度もぶつかり、最後は殆ど原形をとどめていなかった。

音の無い世界での出来事だった。


ナオミの方を向いていた1台の車の、運転席扉だけが辛うじてマトモだった。

残りのバカどもは死んでいたが、運転していた男が窓から顔を出して、何かを言おうとしていた。


もう動かない車であった。しかし、何故かパワーウィンドウのガラスが閉じ始めた。

グシュっと言う音と共に男の首が胴体から切断された。

その後ガラスが砕け散った。


男の生首が兄の足元に転がってきた。


兄は顔色一つ変えずに「仕方が無いな」といってナオミの手を握って、歩き始めた。


慣れというものは恐ろしい。



兄は就職したが、月に1回程度は呼ばれ、ナオミの横に立っていた。


ナオミが大学を首席に近い成績で卒業すると、殆どお呼ばれはなくなった。



ナオミは就職しなかったが、メチャクチャ忙しかった。

例の「デジタル版魔法システム」の日本版作成である。


くそ真面目な性格のナオミを心配したが、義理の父親と同じく単身赴任で忙しかった。

ナオミの母親とヒロミが「今年中に頑張って何とかする。」との報告で、安心していた。



ナオミが大学を卒業してから2年ほど経過していた。

心底心配していた兄であったが、ナオミが結ばれたとの報告にホっとした。



ナオミの実家でナオミの旦那を見て、「俺に似ているなあ」と思った。

姉妹揃って、ちょっと情けないタイプがお好みの様であった。



兄はナオミと旦那の左手薬指に、あの本に書かれてあった通りの指輪が輝いていた。

安心した。


「ナオミ! 俺のいもうと! おめでとう!」


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