21 出張(長野)
出張(長野)
朝5時頃目が覚めた。
隣にナオミがいない。
バスタオルがないので、大浴場に行ったらしい。
カードキーは持って行ったようだ。
ナオミの帰りを待っていると、暫くして帰ってきた。硫黄の香りを漂わせて。
「昨日の分をしよう!」とナオミが言ったので、昨夜の分と、今朝の分の2回戦を繰り広げた。
終わってグッタリするより爽快感でイッパイだった。
ナオミの「もう一回風呂に行こう!」で、二人で大浴場に向かった。
大浴場からの帰り、二人でエレベーターを待っていると、既に朝食を終え日曜出勤の会社員が降りてきた。
思わず「ご苦労さん!」と言いそうになった。
着替えて、フロント前の食事処で朝食を食べる。バイキングである。
二人揃って、朝食券をおばさんに渡し、トレイに箸やスプーンをのせる。
大きい皿を二つトレイにのせ、沢山の種類のおかずをのせていく。納豆、海苔も忘れずにのせた。二人とも。
窓際のテーブル席におかず満載のトレーを置くと、ご飯とお粥とパン3種類をそれぞれテーブルに運んでいく。
牛乳、味噌汁、ヨーグルトも忘れない。
二人揃っての「いただきます」で朝食開始。
ご飯は揃っておかわりをした。
大満足で、最後にコーヒーを飲んで楽しい朝食は終了。
朝刊をもらって、部屋に戻った。
代わる代わる歯磨きをするつもりであったが、歯ブラシセットを持参して、もう一回二人で大浴場に行った。
絶対、元は取れている二人だった。
折角借りたキャンピングカーだったが、ここの温泉は外せなかった。
チェックアウトをして、駐車場から車を出した。
向かうのは小布施。
県道を進み、国道から上信越道に乗った。
小布施のPAのスマートICで高速道路を降りて、小布施の街中の駐車場に車を停めて、貸し自転車で町を巡った。
岩松院で寝転がって北斎の鳳凰図を見たり、栗おこわのコースを堪能したり、目一杯楽しんだ。
上信越道に戻って、向かった先は諏訪湖SA。
車を駐車場の端に停めて、釜飯を買ってきて車の中でノンビリ夕食。
釜飯の空を返して、諏訪湖の夜景を見ながら、コーヒーを楽しむ。
お風呂セットを持って、ハイウェイ温泉に向かう。
終了時間まで浸かったので、いささかのぼせたが、夜風が気持ち良かった。
今夜はキャンピングカーの本領発揮である。
バンコンだが、屋根が持ち上がる。ただ、今夜も頑張る二人には、必要のない装備ではあった。
翌朝、ゆっくり起床。
会社の長野営業所に行く日だが、今居るのは諏訪湖SA。急ぐ必要はない。
レストランで、ノンビリ食事をする。
飽きずに、二人して10時から営業開始のハイウェイ温泉に浸かってから出発。
一般道から再び上信越道で長野に向かう。
ほてった頬に窓全開の風が気持ち良かった。
ナオミの運転で長野に到着。
長野営業所の近くで俺だけ車から降りた。
俺はパソコン等の荷物を持って、営業所へ仕事に向かう。
ナオミは宿泊予定のホテルに行き、車を停めさせてもらって、市内観光。
ノンビリ歩いて善光寺に行った。お戒壇巡りをしてみた。
真っ暗闇のなか、ナオミの眼には全てが見えた。
暗闇の長い通路の両側に暗視カメラが設置されている事や、「極楽の錠前」の位置も形も。
さらに「キャー!」と言って彼氏に抱きつく女性の姿も。
絶対旦那とここに来て「キャー!」と言って抱きついてやると決めた。
長野営業所には、入社したときに親切にしてもらった先輩がいて、俺の事をよく知っていた。
殆ど酒が飲めない事も。
建築会社である。まず酒を飲ませればOKの世界である。
お蔭で何回も吐いた。吐いた次の日も頑張って仕事をしようとしたが、午前中は死んだも同然であった。
それを知っている先輩は、仕事に支障を来すと、歓迎会は行わなかった。
主役のいない歓迎会は開催された様ではあったが。
ホテルのチェックインの確認をすると言って、早めに営業所を後にした。
ホテルで待ち合わせて、荷物を置いてから長野駅の方に向かった。
二人で信州牛に舌鼓をうち、ナオミに「二人で絶対に善光寺に行こう!」と約束させられた。
酒に強い女と下戸の男が寄り添いながら、ホテルに戻って、今夜も頑張った。
次の日、俺は荷物を持って営業所で待ち合わせた営業担当者と工事担当者の3人で客先に向かった。
実は仕事は俺だけではなかった。ナオミも仕事である。
長野と近県の魔女を集めての日本語版「デジタル版魔法システム」の講習会である。
集まった魔女は、ナオミの母親と同年齢が多く、パソコン操作が苦手である。
元々の「デジタル版魔法システム」はキーボード操作を必要としていた。
ナオミが母親にシステムを教えようとした時、あまりのキーボード操作の不慣れに呆れ、システムの大改造を施した。
自分のやりたい事を念じて、自分の魔力でパソコンに命令すれば、システムが最適な動作を行うようにしたのである。
しかし、おばさん魔女達を集めた事が失敗であった。
ナオミは痛感した。
話し好きのおばさん達は、ナオミの話に集中してくれない。自分達の話で大盛り上がりになってしまった。
講習会は2日で終わらせ戸隠で蕎麦を食べるつもりであったが、長引いて丸3日掛かってしまった。
まあ、木曜日までに終わったので、良しとした。結構疲れたが・・・。
次回の講習会からは、1県ずつ個別に対応する事にしたのは言うまでもない。
俺は、木曜日の昼過ぎまでに仕事を片付ける。
CADは有り難い。基本データをサーバにたたき込み、「善光寺にお参りしてから、東京に帰る」と営業所の皆に話す。
「新婚さんは、さっさと帰れ!」の大合唱に送られて、善光寺に向かう。パソコン等の荷物は宅配便で送って、ほぼ手ぶら。
善光寺の仁王門でナオミが待っていた。
何故か「何かやってやろう」の雰囲気が満々。
手を繋いで仲店通りから山門、そして本堂の前に立つ。
仏教の宗派が出来る前から存在するお寺である。
ピカピカの「おびんずるさん(賓頭盧尊者)」を見て、もう少し足が長くならないかと足元をこする。
300年も撫でられているというので、場所はよく分からない。
「足でも痛いの?」と聞かれたが、「ちょっと!」と言って誤魔化す。
悪戯っ子の目が、俺のもくろみは分かっている様だった。
既に「本堂内陣券」を2枚握り締めているナオミに引っ張られて、お戒壇巡りの開始。
階段を降りて曲がると漆黒の闇。
おそるおそる先に進む。
落ちていたハンカチか何かを踏んで、「ギョエ!」と叫び声を上げてしまった。
「チ!先を越された!」と手を繋いでいたナオミの悔しそうな声がした。
ご本尊と繋がっているという「極楽の錠前」を手探りで確認する。
ガチャガッチャと動かしてから、少し先に進んでナオミを待つ。
「キャー!」と可愛く叫んだナオミに抱きつかれた。
ゼンゼン怖そうな感じでなかったが、「大丈夫か?」と抱き締めた。
明るい畳の上で、満足そうなナオミを見て安心。
ニコニコ顔で大満足のナオミに手を引かれ、七味唐辛子の店へ行った。
そんなに悩む事もあるまいと思ってみていたが、七味の配合にナオミなりの拘りがあるようで時間が掛かった。
結構沢山買い込んで、ホテルに停めておいた車に入れて、長野駅近くの焼き肉店へ。
会社の皆には単身で来たと思われていたようだ。
会社の連中に見つかるとやばいなと思ったが、居酒屋ではないので、会う事はなかった。
ガッツリ食べようと色々頼む。
取り敢えずは牛タン。これは俺だけで、ナオミは取り敢えず生ビール。
「プハ~!」と息を吐いて、「システムの講習会は大変だった」と愚痴を言う。
ただ、「手間を掛けたネ」と言われ、沢山のアルバイト料?で懐が温かいナオミのピッチは速い。
やはり、牛肉でご飯を食べるのは美味しいな、と思ってナオミを見るとアルコールの方が多い様な感じ。
会計をしようとするとナオミの「ここはあたしが!」で、「ごちそうさま!」
ホテルに帰って、1戦交えて就寝。




