135 海外旅行-2
海外旅行-2
ゆたかがいつも通りに、会社に向かいます。
ナオミは家の外まで出て、ゆういちと二人でゆたかをお見送りです。
ナオミ。
「ほら、ゆうちゃん。 パパにバイバイして。」
ゆういちは、ゆたかにバイバイします。
でも、まだ喋りません。
男の子なので遅いのでしょうか?
でも、ワンコのタロウやニャンコのクロとは、お話をしている様です。
そして、ゆういちが一番最初に喋ったのは、「ね~ね」です。
「寝んね」ではありません。
きららに向かって喋ったのです。
でも、誰も気付きませんでした。
本当は、ゆたかはナオミと一緒に旅行に行きたいのですが、我慢したのです。
年度末で、仕事が忙しいのです。
旅行の期間は ”1週間” です。
長いのです。
自転車で駅に向かう途中、ゆたかはそれを思い出してしまいました。
ゆたかの好物は ”ナオミのお弁当” や ”プロテインドリンク” ではありません。
”ナオミの喜ぶ顔” 、そう、「ナオミの笑顔」なのです。
夜、二人でベッドの上でも、ナオミは嬉しくて笑顔なのです。
それ程、ナオミは今回の海外旅行を楽しみにしているのです。
でも、ゆたかはその「好物」を一週間 ”お預け” なのです。
それを忘れる為に、ゆたかは一生懸命自転車のペダルを漕ぎました。
駅前の自転車置き場に着きました。
時間が早いので、受付のオジサンはいません。
自転車を置く時、サドルの上に「滴」が落ちました。
ジャケットのポケットからハンカチを出して拭いました。
額ではありません。
目頭です。
勿論、会社に行く前にジムに寄りました。
いつも以上に、ガムシャラに頑張ったのは、言うまでもありません。
そして、いよいよナオミ達が海外旅行に出発です。
一応、パスポートも用意しました。
でも、使う交通機関は「飛行機」ではありません。
魔女は、そんな ”まだるっこしい事” はしません。
魔法の ”瞬間移動” です。
勿論、「魔女の宅急便」などの様に、ホウキ (箒)に乗ったりはしません。
冗談で「電気掃除機」に乗った魔女の漫画を見た事はありますが、何故「ホウキ」なのかが分かりません。
一説では、こんな話も伝わっています。
ヨーロッパの昔のお話です。
お産婆さんは、薬草を使って禁止されていた避妊・堕胎もしていたらしく、教会から危険視されたらしいのです。
でも、貧乏で子供が増えると暮らしていけないのです。
日本でも、男の子なら生まれた途端に首を○○して殺したそうです。
女の子なら、親が子供を女衒に売って、その子は「女郎」になるしかなかったのです。
お産婆さんの多くは農家の主婦でした。
お産婆さんは、お赤ちゃんが産まれると、悪霊が子供に害を与えない様に家の入り口を箒で掃きました。
箒はお産婆さんの ”シンボル” だったのです。
そして、魔女は薬草に詳しく、薬草で出来た「飛び軟膏」を体に塗って箒に乗ると言われてたらしいのです。
やはり、どうして箒に乗るのか分かりません。
赤ちゃんが産まれるとお産婆さんとお母さんと親戚・友人の女性たちだけで祝祭をしていたそうです。
それが「サバト」と結び付いた様です。
サバトとは、ヨーロッパで信じられていた魔女あるいは悪魔崇拝の集会の事です。
母と子の生死を支配し、赤ちゃんをデーモン (悪魔)に奉献しているとして、お産婆さんは、魔女と同一視されていたのです。
お産婆さんはマリアのイエス出産を疑った伝説があるとの事になっています。
何もしないで、「女性だけで子供が生まれる」訳はありません。
でも、キリスト教ではそういう事になっています。
夫のヨセフは何もしなかったのか? ・・・ 疑問です。
お産婆さん達も、当然そう思ったのでしょう。
キリスト教のお偉いさん達にとっては、「危険な考え」だったのです。
そして、お産婆さんは死産の胎児の洗礼を拒絶していたことからも「お産婆さんは魔女」とされていたらしいのです。
要は、キリスト教の考え方に疑問を持っていたお産婆さんが多かったので、キリスト教関係者としては「悪魔の使い」として排除したかったのです。
為政者や教会の人間は、特別に生まれたと信じていたのでしょう。
お産婆さんあたりなら、「魔女だ」として排除出来たのでしょうが、「地動説」を説いたガリレオ・ガリレイのレベルになると、教会が強引に「天動説」に考え方を変えさせています。
その時の有名な台詞が、「それでも地球は動いている」です。
イタリア語では「 E pur si muoveまたはEppur si muove (エップル・スィ・ムオーヴェ)」で、「回っている」ではない方が正解のようです。
宗教家にとっては、自分達に都合が悪い事は全て「悪魔」の仕業なのです。
特に立場の弱い女性が、ハッキリした意見を言うのを嫌ったのです。
男尊女卑なのです。
女性は「本当の事」を言うからでしょう。
そういった女性を「魔女」として、排除したのが「魔女狩り」なのです。
ですから、魔女は宗教を信じません。
でも「信じたフリ」はするのです。
昔のお産婆さんの様に、目立つことはしないのです。
でも、迎合ではありません。
白人の中には「進化論」を信じていない人達がいます。
特にアメリカ合衆国の共和党支持の人達の半分以上は、「我々は神に作られた」と ”本当” に信じています。
キリスト教でも、プロテスタントといわれる考え方です。
そんな人達ですから、「 魔女 = 悪 」という考え方なのです。
ですから、魔女は「目立つこと」をしないのです。
もしもの時に、人間と戦おうとはしないのです。
いくら魔法を使えても、相手が人間では数が多過ぎるからなのです。
さて、ナオミときららは、エディンバラ空港のロビーに現れました。
待っていた、スコットランドの魔女一家と再会です。
ナオミが、スコットランドの魔女夫婦に、ゆういちときららを紹介します。
ゆういちは人見知りをしないので、旦那さんに抱かれてもニコニコしています。
でも、明らかに奥さんの方に抱かれた方が、喜んでいるのが分かります。
ゆういちは、小さいくせに ”女好き” です。
きららは、英語で自己紹介をします。
ナオミが徹底的に勉強させたお陰です。
英会話では、ナオミの口の動きを覚えさせたので、英語を喋るきららはナオミの話し方そっくりです。
パスポートには、ちゃんと記入されます。
受け入れ先の魔女が、魔法で書き込むのです。
次に使う時でも、人間には判別出来ません。
手品などではありません。
「タネ」などはないのです。
人間には分からないのです ・・・ ですから ”魔法” なのです。
空港から、ランドローバーで魔女のお家に向かいます。
折角なので、車によるエディンバラの市内観光も兼ねています。
さて、日本に残された方です。
ゆたかも一人で寂しがっていますが、もっと寂しがっているのがいるのです。
ワンコのタロウとニャンコのクロです。
”ゆういち” も ”きらら” もいないのです。
もう、二人、いや、二匹は居間の片隅で「ふて寝」です。
何故か、おとうさんも寂しそうです。
ナオミときららの合作のお弁当が無いからです。
ゆたかもお弁当はないのですが、折角なので「例の焼き鳥屋さん」に行きました。
久し振りで美味しいのです。
でも、次の日がありません。
一応、社員食堂があるので、そこの「日替わり定食」にすることにしました。
おとうさんは、大好きなナオミときらら合作のお弁当が無いので、朝から不機嫌です。
おかあさんはおとうさんを愛しているのですが、お弁当は早く起きなければいけないので、作りません。
おかあさんはおとうさんにこう言うのです。
「たまには、社員食堂の ”味” のチェックでもしたら?」
おかあさんは「強気」です。
まあ、深酒をしているので、ナオミ達のような ”美味しいお弁当” は期待できません。
ゆたかに甘いジイジが動きました。
朝早く起きて、お弁当を作ってあげたのです。
ジイジが動くと、バアバも動きます。
ジイジだけだと心配なのです。
「ゆたかの為」と言いながら、蛋白質に偏るからです。
ジイジとバアバが二人でお弁当を作ります。
折角なので、ゆたかの分だけではなく、おとうさんの分も作ってあげました。
おとうさん、秘かに涙を流します ・・・ 学生時代を思い出したようです。
「おふくろの味」だったのです。
でも、お母さんは気にしません。
そして、誰も、そんなおかあさんを不思議に思いません。
そんなおかあさんなのです。
ジイジとバアバが早起きをしたので、ワンコのタロウとニャンコのクロもお散歩をさせてもらって、大満足です。
いつの間にか、タロウとクロはジイジとバアバと寝る事になりました。
こんな感じで、残された方は、何とかなっています。
スコットランドの魔女のお家に到着した三人です。
ミルクティーにショートブレッドをいただきます。
残りのパン生地をオーブンで乾燥させて「ビスケットパン」を作るという、中世のレシピから進化したものです。
最終的には、ビスケットパンの酵母をバターに置き換えて、ショートブレッドが生まれました。
お茶の話題は、「どこに行こうか」というものです。
エディンバラの3月のお勧めは、下記の通りです。
エディンバラ城ツアー
ハリーポッターツアー
ネス湖とハイランド地方へのツアー
乗り降り自由の観光バスツアー
スコッチウイスキーツアー
この中のいくつかに行くつもりの様です。
でも、ナオミには考えがあります。
ハイランドギャザリング(Highland Gathering)とも呼ばれる「ハイランド・ゲームス」という、スコットランドのハイランド地方各地で5月から9月にかけて行われる競技会に行きたいのです。
ゲームの方ではなく、バグパイプとドラムの行進(Massed pipes & drums parade)を見たいのです。
そんな訳で、「ネス湖とハイランド地方へのツアー」は今回の予定から外しました。
「乗り降り自由の観光バスツアー」で街中を歩けば、「ハリーポッターツアー」に近いものになるので、「ハリーポッターツアー」も外します。
そして、これも外しました ・・・ 泣く泣くです。
「スコッチウイスキーツアー」です。
ゆういちにオッパイをあげている事もあるのですが、妊娠もしているのです。
ゆたかよりもナオミの希望としては「子供は二人」なのです。
そして「禁酒期間」を最小限にしようとする ”作戦” なのです。
何故かナオミには絶対の自信があるのです。
「次は女の子!」
理由は分かりません。
そんな訳で、「エディンバラ城ツアー」と「乗り降り自由の観光バスツアー」に決まりました。
到着したその日は、のんびり魔女のお家で過ごします。
お家の近くの街を歩くだけでも、日本とは違うので、きららは興味津々です。
夕食はスコットランドの料理です。
メインは「ラムステーキのミントソース焼き」です。
「ハギス」も出されました。
ハギスはスコットランドの国民食です。
伝統的に、羊の心臓、肝臓、肺、玉ねぎ、脂肪、スパイスを羊の胃袋で煮て作られているので、誰もが好む料理ではありません。
でも、スコットランドの代表的な料理なのです。
ナオミは好みなので、美味しくいただきます。
付け合わせのニープス アンド タティーズもいただきます。
「ニープス アンド タティーズ」はマッシュポテトとスウェーデンカブ (スコットランドで一般的な根菜)です。
ナオミが美味しそうに食べるので、きららもいただきます。
「誰でも好む料理」ではないのをスコットランドの魔女は知っているので、横目で見ています。
きららは、ナオミと嗜好が一緒なので、こう言いました。
「あ! これ、美味しい。」
勿論、英語です。
毎日、家庭教師のナオミにシゴカレているので、英会話はお得意なのです。
そんな感じで、エディンバラの二人、いや三人の一日目が過ぎて行きました。
さて、日本です。
ゆたかは寂しく独り寝です。
帰ってきてもナオミもゆういちもいないので、残業してきました。
仕事をしていれば、少しは寂しさが紛れるとの考えです。
でも、まだ寂しいのがいました。
ワンコのタロウとニャンコのクロです。
でも、ジイジとバアバが一緒に寝てくれて、幸せです。
つまり、ゆたかだけが「寂しい」のです。
そんな感じの残された家族達でした。
あ! おとうさんもいました。
でも、今夜はお母さんに愛してもらって、おとうさんも幸せです。
やっぱり、ゆたかだけが「寂しい」のです。
さあ、エディンバラの三人です。
二日目です。
”瞬間移動” のお蔭か、 ”時差ぼけ” はありません。
朝食は「ポリッジ (porridge)」です。
オーツ麦と牛乳で作った日本のお粥のようなもので、そこにバナナやブルーベリーなど好きなフルーツをトッピングして、ハチミツをかけたりします。
ヘルシーで栄養もとれて簡単に作れるポリッジは、満腹感もありスコットランドの人に好んで食べられています。
そして、張り切ってお出かけです。
今日は、「エディンバラ城ツアー」です。
大人の行くところに無理矢理子供を連れて行く事はしません。
そんな訳で、ゆういちは魔女の奥さんとお留守番です。
ツアーガイドもある様ですが、スコットランドの魔女の旦那さんがガイド役です。
世界中の魔女のお姉さんが来た時に案内役をしている様で、プロのガイド以上です。
営業時間?は3月なので「9:30~17:00」です。
朝の9時半から精力的にお城の中を回ります。
大雑把に回っても「2時間」は掛かります。
エディンバラ城(Edinburgh Castle)は、イギリスのスコットランド・エディンバラにあるお城です。
キャッスル・ロックという岩頸の上に建つ古代からの要塞です。
人間の定住は紀元前9世紀前後からといわれています。
お城の中で最も古い建築物は12世紀初期のセント・マーガレット教会堂で、16世紀以前の建築物もいくつかあります。
城の城門に、朝6時から夜9時まで歩哨が立ち、スコットランド王の宝冠の警護に当たっています。
見どころの一番目は「デイヴィッズ・タワー」で、1376年にデイヴィッド2世により建設されたとされ、当時の主流の建築物です。
二番目は「ハーフ・ムーン・バッテリー」で、古いデイヴィッズ・タワーの後に建設された砲台ですが、この壮大な防衛の設備は城の東側を占める規模です。
三番目は「クラウン・スクエア」で、城の頂上の砦です。
四番目は「キングズ・ロッジング」で、15世紀からかつての王族の居室のあった部分です。
五番目は「グレート・ホール」で、1511年にジェームズ4世の命令で建てられ、スコットランド議会のミーティング会場として使われていました。
六番目は「クラウン・ルーム」で、スコットランド王家の宝冠や宝石類が展示されています。
宝冠は1540年に作られ、スコットランド産の金、94個の真珠、10個のダイアモンド、33個の貴石と半貴石でできています。
スコットランド王が代々戴冠してきた、運命の石と呼ばれる「スクーンの石」も展示されています。
七番目は「セント・マーガレット教会堂」で、エディンバラ、また城内の中で最も古い建物です。
12世紀に建設が始められ、デイヴィッド1世が1093年にエディンバラ城で亡くなった母マーガレットに捧げた、王家の私用礼拝堂として建てられたものです。
八番目は「モンス・メグ」で、15世紀に北側に向けて6トンもの巨大な大砲が設置されていました。
150キロの砲丸が使われ、メアリー1世とフランス王太子フランソワ(のちのフランソワ2世)との結婚を祝い1558年に打ち上げられたという事です。
丁寧なガイド付きで、ジックリ見て回りましたから、午後1時近くまで掛かりました。
休憩無しです。
午後1時過ぎに老舗のレストランに行きます。
メインの料理は「フィッシュ アンド チップス」です。
一応、イギリスで最高の「フィッシュ アンド チップス」のお店です。
ナオミは、本当は「エール」か「ビール」を飲みたいところですが、我慢をします。
ハーブを使った ”コーディアルシロップ” を炭酸で割った飲み物にしました。
選んだのは、「ジャスミン&マスカット」で、やさしい香りのジャスミンに、相性のよいマスカットを加えた清々しい味わいです。
ミントをたっぷり入れてモヒートの様な感じで、歩き疲れた時にぴったりの一杯です。
正直言って、スコットランドに限らず、イギリスのお料理は大したことはありません。
日本料理が人気になるのが分かります。
エディンバラ城の催し物の代表は「ミリタリー・タトゥー」で、8月に行われるスコットランド駐留部隊のパレードです。
バグパイプとドラムを演奏しながら行進します。
外国からパフォーマーを招待することもあり、2006年にはウガンダの孤児たちのコーラス隊が、2017年には日本から陸上自衛隊中央音楽隊が参加しました。
パレードのクライマックスは、バグパイプによる「ピルブロッホ」の独演です。
ナオミとしては、「ミリタリー・タトゥー」も「ハイランドゲームス」も気になるところで、どちらにするのか悩んでいる最中です。
魔女のお家に帰ると、ゆういちがスコットランドの魔女と遊んでいます。
魔女は、みんな美人でスタイルが良いので、ゆういちはご機嫌です。
誰に似たのでしょう ・・・ ?
夕食は「トンカツ」です。
レストランからの帰りに、お肉屋さんに寄って、トンカツにベストと思われる "豚ロース” を調達してきました。
ナオミときららが調理をします。
豚ロースは筋切りをして、塩こしょうをふります。
薄力粉をつけ、バットに溶き卵、サラダ油を入れて混ぜ合わせ、お肉ををくぐらせて、パン粉を全体にまぶします。
鍋底から5cmほどに揚げ油を注ぎ150℃に熱して、お肉を入れて4分ほど揚げたら一度取り出します。
揚げ油の温度を180℃に上げ、再びお肉を入れて2分ほど揚げます。
中まで火が通り、こんがりと色づいたら油を切ります。
ナオミがお肉を揚げている間に、きららが付け合わせの準備をしています。
その付け合わせをのせた器に盛り付けて完成です。
魔法で持ってきた ”炊飯器” でご飯が炊けています。
お味噌汁も準備していて、本当に日本の ”とんかつ屋さん” の様な出来栄えです。
ソースは日本から持ってきた厳選した「トンカツソース」です。
お箸を用意していますが、フォークやナイフも並べてあります。
「漬物」も用意しようと思いましたが、好き嫌いがあるので「フリカケ」にしました。
丸美屋の「のりたま」です。
以前、アメリカ合衆国の魔女達にも人気だったので、これにしたのです。
「甘じょっぱさ」が好まれる様です。
まあ、リクエストとして「トンカツ」を所望するくらいですから、ただ ”ショッパイ漬物” よりは良いのでしょう。
という事で、スコットランドの二日目は、みんな大満足で終了です。
因みに、日本の方は ”一日目” と同じ様に、ゆたか一人が寂しいだけの状態なので「割愛」です。




