117 露天
露天
朝、ゆたかはいつも通りに起きます。
ジムに寄るので”いつも通り”とは言っても、些か早いです。
それでも、ゆたかの奥さんであるナオミは、早起きして朝食とお弁当を用意してくれています。
有難い話です。
まあ、お弁当を持っていくのと、お酒のお付き合いをしないので、その分”お小遣い”は少ないのです。
ゆたかの父親は、会社の役員でもあるので、当然お小遣いは息子のゆたかよりも多いのです。
金額は、おかあさんが管理しているので、ゆたかの知るところではありません。
しかし、同じくお弁当を持ってくのに、妹であるきららの方が”お小遣い”は多いらしいのです。
女の子、それも高校生ですから、お付き合いも大変なのだとか ・・・
きららのお小遣い等の管理は、ナオミではなくおかあさんの方なので、それはそれです。
ゆたかはナオミと一緒になった時から、お弁当を持たされ、ナオミから渡された”お小遣い”で生活しています。
余計な事をしない所為か、お小遣いが足りなくなった事はありません。
まあ,いざとなれば「カード」で支払うという手があるのも事実です。
いつもはナオミとゆたかだけなのですが、今日の朝はみんなが起きています。
ナオミ。
「らら! 今日、帰ってきたら、おかあさんのところに行くから、寄り道しないようにね。」
きらら。
「うん。 何処に行くんだっけ?」
おかあさん。
「草津温泉。 毎回同じ場所なんだけど、”草津温泉”って言ったら、誰も反対しないのよ。」
ナオミ。
「日本の魔女って、”草津温泉”が好きよね。」
おかあさん。
「白濁の温泉、最高よ!」
ゆたか。
「俺、時間だから出掛けるよ。」
ナオミ。
「あ! 本当だ。 夕食は準備しておくから、帰ってきてから食べてね。」
ゆたか。
「うん、分かった。 じゃあ、行ってきま~す。」
おかあさん + ナオミ + きらら
「行ってらっしゃ~い。」
久々と言うより、みんなに見送られたのは初めてかもしれません。
いつも通りに自転車で出掛けます。
因みに、おとうさんは洗面所で顔を洗っています。
おかあさん。
「おとうさんは、夕飯はいらないわよね?」
おとうさん。
「おう。 今日は専務と一緒に新橋に行ってくる。」
そうして、ゆたか以外の全員で、朝食をいただきます。
きらら。
「おねえちゃん。 おねえちゃんと私は、なにで草津まで行くの?」
ナオミ。
「魔法よ。」
きらら。
「わたし、魔法で”瞬間移動”ってしたことが無いんだけど。」
おかあさん。
「大丈夫よ。 ナオミと一緒だもの。」
ナオミ。
「ちゃんとららの手を握って離さないから、大丈夫よ。」
おとうさん。
「魔女の瞬間移動って、小さい頃からしてるんじゃないのか?」
おかあさん。
「”瞬間移動”って、魔女の魔法の中でも”高等技術”なのよ。 おかあさんが教えるより、ナオミが教える方がいいと思うわ。」
おとうさん。
「へ~ ・・・ 」
普通の人間のおとうさんには難しい内容なので、おかあさんは詳しく話しません。
朝食が終わって、先にきららが、次におとうさんが歯磨きを終わらせます。
おとうさん + きらら
「行ってきま~す。」
おとうさんときららも、近くの駅まで自転車です。
おとうさんはゆたかと一緒で、いや、ゆたかがおとうさんと一緒なのか、きららよりも身長はありますが、足の長さは負けています。
きららの自転車と並べておくと、サドルの高さが違うので、恥ずかしい感じです。
そして、歳を取ったのか、おとうさんはきららに追い付けません。
駅から渋谷までの電車は、二人は一緒です。
でも、特に話題が無いので、殆ど並んで立っているだけです。
普通の親娘と同じです ・・・ ?
渋谷駅で、二人は行き先が違うので、お別れです。
きららの「じゃあね!」でお別れです。
おとうさんは、小さく手を振るのが精一杯です。
実の娘のヨーコやゆたかとは、こんな事をした事はありません。
少し恥ずかしいのですが、嬉しくてニヤケしまうおとうさんです。
きららは、いつも通りに学校に向かいます。
おとうさんは、いつも通りに会社に向かいます。
その頃、ゆたかはジムでの運動が終わって、プロテインドリンクを飲み終わって、会社に向かいます。
ゆたかは、いつも会社に早めに到着します。
今日は、おかあさんが草津温泉に出掛けるので、おとうさんは早めに出掛けたのです。
会社の最寄り駅です。
ゆたかはいつも通りに到着です。
おとうさんも早めに駅に到着です。
どういう訳か、駅からの階段で、おとうさんとゆたかが鉢合わせします。
気まずいです。
でも、仕方がありません。
行き先が一緒なのです。
おとうさんはまだしも、ゆたかは父親と一緒なのです。
ちょっと”父親参観日”みたいで、恥ずかしいのです。
それに、おとうさんは役員なので、同じ会社に向かう人に”あいさつ”をされてしまいます。
いつもは声掛けと会釈くらいですが、いつも以上にみんなに”深々と挨拶”されてしまうので、ゆたかは益々恥ずかしいのです。
そんな感じで、二人は会社に到着します。
おとうさんは役員で、ゆたかは平社員です。
当然、乗るエレベーターは違います。
おとうさんの行くフロアーの方が上の階です。
偉い人ほど”高いところ”が好きなのです。
上のフロアーの方が景色は良いのですが、1週間もしないうちに景色は飽きるそうです。
まあ、お客さんの応接室は上のフロアーにあって、晴れた日は喜ばれる様です。
ゆたかはいつも通りにCADで仕事です。
週の終わりの金曜日なので、ある程度の”締め”をする為に頑張ります。
おとうさんは、会議です。
今日は金曜日なので、会議だらけです。
日本の会社は会議が大好きです。
ですから、会議の為の会議も開きます。
会議を開けば安心する体質なのです。
おうちでナオミは、草津温泉で開かれる”魔女・鬼女合同会議”の資料を用意します。
”日本語版「デジタル版魔法システム」”の改良版の説明です。
紙ではなく、スマホに直接送ります。
おばさん魔女や鬼女は、パソコンでは見ない可能性があります。
そんな人達でも、スマホは見るのです。
まあ、”いじる”が正解なのが少し寂しいです。
当該システムはパソコン用で、OS等が変わればシステムもそれに対応する必要があるのです。
当然、スマホでも操作可能になっています。
その為に、ナオミとハルミと美智子の3人で、修正を加えてチェックを終えました。
鬼女の場合は、”日本語版「デジタル版魔法システム・鬼女用」”ですが、タイトルが違うだけで内容は一緒です。
それに関する説明を、合同会議でするのです。
細かい事は言いません。
どうせ、聞いていないからです。
会議が終わった後の、”温泉” や ”宴会”に気持ちが行っているからです。
まあ、おばさま魔女は自分では何も出来ませんから、リモートで対応する予定です。
ワンコのタロウとニャンコのクロは、朝から色々違うので、ちょっと興奮気味です。
でも、ナオミに草津温泉に連れて行ってもらえないと聞いて、拗ねています。
ゆたかやおとうさんが帰って来ると聞いても、二匹はふて寝をしています。
そこで、ナオミが一言言いました。
「良い子にしていれば、”良い事”があるんだけどな~。」
仕方が無いので、二匹はナオミに返事をします。
「ワン!」
「ニャン!」
犬語と猫語ですが、「はい!」と言っています。
午後3時にはきららが帰ってきました。
きららは急いで自分のお部屋に行って、お着換えです。
今どきの、女の子っぽい服装ですが、原宿に行くのではないので、強いて言えば”地味”です。
どうせ、集まっているのは、知り合いのおばさん魔女や鬼女なので、格好つけても始まりません。
その間に、ナオミはきららのお弁当箱を洗ったりします。
ナオミはダイニングにあるホワイトボードに、夫のゆたかへのメッセージを書いておくのも忘れません。
用意した夕食や朝食についてだけではなく、洗濯についても書いておきます。
最後に「愛しています」の文字も忘れません。
そうこうしているうちに、きららが降りてきました。
ナオミは、タイマー設定の外灯をセットし、施錠を確認します。
勿論、魔法の”危機管理システム (住宅用)”のセットも完璧です。
玄関で、ナオミときららが靴を履きます。
二人とも、鞄は肩に斜めに掛けて、外れない様にしています。
ナオミ。
「じゃあ、行くわよ。」
きらら。
「う、うん。」
ナオミ。
「行き先は、草津温泉の湯畑の近くの人のいないところ。」
そう言って、ナオミはきららの手を握ります。
しっかり握っているのですが、きららにナオミの優しさが伝わってきます。
ナオミ + きらら
「はい!」
本当は、何も言わなくても大丈夫なのですが、二人の息を合わせる為の”合図”です。
二人を白い靄が包むと、ちょっと光って、その後はもう、二人は消えていました。
ワンコのタロウとニャンコのクロは遠くで見ていましたが、二人が消えるとリビングの端に行って、再び”ふて寝”です。
ナオミときららは光の中を進んでいます。
きららが離れると、ナオミが手を引っ張って、きららを抱き締めます。
きららは、大好きなナオミの匂いで、安心感に包まれます。
でも、ナオミを見ると、いつものナオミではありません。
”黒い魔女”のナオミです。
漆黒のミニスカスーツで、同じ色の10cm以上のピンヒールを履いています。
”黒い魔女”のナオミは表情のない顔をしていますが、きららを見る目は優しさに溢れています。
そして、きららが気が付くと、草津温泉の湯畑の近くのホテルの横に立っていました。
勿論、きららの横にはナオミが立っています。
もう、黒い魔女の格好ではありません。
ほんの一瞬の出来事でしたが、きららはスローモーション映像を見ていた様に、全てを覚えていました。
きららも、優秀な魔女だから、そんな事を感じられたのです。
ナオミ。
「らら! このホテルよ。 おかあさん達、いっつもこのホテルなの。」
きらら。
「へ~~。」
きららは来たことがあるのですが、小さかったので覚えていない様です。
多分、このホテルのリニューアル前だと思われます。
ナオミ。
「折角だから、湯畑を一周しよう!」
そう言って、焼き鳥屋さんで”ねぎま”を買って、食べながら二人でお散歩です。
きらら。
「おねえちゃんは、移動している時は”黒い魔女”なのね。」
ナオミ。
「ふ~ん。 ララには私が見えたんだ。」
きらら。
「うん。 おねえちゃん、格好良かった。」
ナオミ。
「もう、 ららったら ・・・ 」
ナオミは嬉しそうです。
硫黄の匂いを楽しんで、気分良く二人はホテルに入ります。
本日は、魔女や鬼女の皆さんで”貸し切り”です。
インバウンドで、海外の旅行者も多いのですが、魔女の団体さんは「お得意様」なのです。
多分、人数よりも、宴会の時の”お酒”の量だと思います。
受付で名前を言って、カギを受け取ります。
近頃の流行で、一部屋でカギは二つ用意されています。
部屋に行って、浴衣に着替えます。
きららは受付の横で、可愛い浴衣を選びました。
ナオミは、部屋に用意してあるものです。
ナオミは、着るものに無頓着です。
でも、スタイルが良いので何でも似合います。
ナオミの夫のゆたかは筋肉が多い”特殊体型”なので、ナオミは自分の事は気にしないのですが、夫の分は気にします。
他の女性に”素敵”と思われたいのではなく、ナオミが自分で満足したいのです。
服を脱ぐと、きららは”可愛い”下着ですが、ナオミはスポブラに”デカパン”です。
きららは学校で体育の時とかは、”可愛い系”の下着です。
ナオミは相変わらず、下着は”おばさん系”です。
きららも慣れたので、ナオミの下着に”突っ込み”を入れる事はありません。
二人ともスッポンポンになって、浴衣を羽織ります。
温泉に入ったら、下着を交換したいので、スッポンポンになります。
まあ、”面倒臭がり屋”の二人なのです。
温泉に行く前に、部屋に置いてあるお菓子とお茶をいただきます。
お菓子は”温泉饅頭”で美味しいです。
二人で「お饅頭、美味しかったね」と言いながら、お風呂に向かいます。
そして、こう言ってしまいます。
「お土産にも買っていこうね。」
お店の”思う壷”です。
昔は男湯の方が大きいところが多かったようですが、リニューアル工事をする際に、同じ大きさにするところが増えました。
このホテルもそんな感じです。
ホテルを貸し切りですから、男湯にも女性が入れます。
お客さんは”女性”ばかりだからです。
でも、宴会の時間には魔女や鬼女の家族も来ますので、午後5時ごろまでは全てのお風呂が”女性専用”です。
ナオミときららは、男湯に向かいます。
男湯ですが、暖簾は「女湯」となっています。
結構混んでいます。
考える事はみんな同じで、今のうちに男湯に入っておこうという”作戦”です。
脱衣所のロッカーに脱いだ浴衣と、バスタオルやお着換え用の下着を放り込みます。
そして、ナオミは肩に手拭いを乗せて、堂々と前を隠さずに入っていきます。
きららは新品の手拭いで前を隠します。
知り合いのおばさんに声を掛けられます。
まあ、いる人はみんな”知り合い”です。
「ナオミちゃん、 お腹が大きくなったわね。」
ナオミ。
「こんにちは。」
堂々としたまま答えます。
他の知り合いのおばさん。
「あら、きららちゃん。 おねえちゃんのナオミちゃんに似て、スタイルが良いわね。」
きらら。
「は、はい。 有難うございます。」
恥ずかしくて小さい声になってしまいました。
ナオミときららは掛け湯をして、浴槽につかります。
ちょっと、熱めです。
でも、この熱さが好きなので、ナオミは声を出してしまいます。
「う~~ん! これよこれ! きららもおいで。」
前を隠しながらきららが入ろうとしますが、ナオミに手拭いを奪われます。
「もう、 おねえちゃん!」
そう言いながら、きららも湯船に入ります。
きららは硫黄温泉が気持ち良く、両手を伸ばします。
近くのおばさんから声が掛かります。
「きららちゃん、 おかあさんやおねえちゃんに似て、オッパイが大きいわね。」
きららが手を伸ばした時に、オッパイがお湯から顔を出していた様です。
慌ててきららは首までつかりましたが、隣のナオミはお湯から出ました。
「らら! 露天風呂に行くわよ。」
屋内と屋外の露天では、温泉の泉質が違うようです。
だから、みんなは、室内と露天を行ったり来たりしています。
相変わらず、ナオミは堂々と歩きます。
お腹がふっくらしてきたから、尚更かもしれません。
きららもお湯から出ましたが、手拭いはナオミが持って行ったので、隠すものがありません。
きらら、度胸良くナオミの様に堂々と歩くことにしました。
コソコソ前を隠していた時よりも気分が良く、直ぐに慣れてしまいました。
なにせ、周り中のおばさん達は、きららを小さい頃から知っている人達ばかりだからです。
扉を開けると、露天風呂です。
男湯なので”目隠し”の屏等は少なく、開放感があります。
「よーし! 入るぞ!」
ナオミが露天風呂に入ります。
勢いはありますが、滑ってしまうといけないので、チャンと手摺を掴みます。
続いてきららも入ります。
露天風呂、 やっぱり最高です。
室内のお風呂は頭部分も暑いですが、露天風呂は頭部分が涼しいので気分が良いのです。
ナオミときららが楽しくお話をします。
近頃の二人の話題は、きららの学校の事です。
進学やお勉強の話ではありません。
きららが習っている先生達の話題で盛り上がります。
暫くナオミときららの二人で露天風呂を楽しんで、屋内のお風呂に戻ります。
もう、きららはナオミの後を堂々と歩いています。
二人で体を洗います。
背中はお互いで洗い合います。
もう一回、室内と露天の両方の温泉を楽しんでから、お部屋に戻ってベッドに転がります。
最高です!
次回は、いよいよ”宴会”に突入です。




