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お嬢様は大変  作者: ニコ
9/11

タダでは終わらせてくれない(ノД`)・゜・。

 テストは一週間かけて行われるんだけど、

 だけど、

 みんな最大級警戒マックスのイカ耳……イカ耳ってネコみたい……で始まったテストは、



 中身は意外と簡単だった(え?)。



 そんなテストも、今日で終わり。

 









 お腹がなってるのに、食欲がない。

 眠い。

 食べるより、寝たい。

 そんな私達、日に日にやつれていくような……(ホラーだ)。

 そんな最終日の科目は外国語。それだけ。

 試験のために儲けられた教室に入る。するともう先に先生が来ていた。結構早く来たから、誰もいないと思ってたんだけど、

 先生は私達を見るなり満面の笑みを見せてくれた。


「おおお、おはようございます皆さん!」

 オペラ歌手なみのバリトン利かせて挨拶してくれるのはいいけど、


 それにしてもこの先生、いつも元気だなー。何食ってりゃそんなに元気なんだ。

 

 おはよーございますと消えそうな声で返す私たちに、先生はしゅばあっ、と座席を指さした。


「さあ! 貴方方の席はここです! ここですよここです!」


 今にも、おおヴィオレッタぁ、と椿姫の一幕が聞こえてきそう。すごい声。

 ありがとうございます。でも根不足の頭に響くのでもうすこし音量下げてください……。












 で、最終テストも終わって。

 みんなで食堂に繰り出した! テストが終わったと実感した途端、お腹がもうすいてすいて目が回るよぉ。眠気が吹っ飛んだ!

 食堂は混んでた。いつもは残ってる定食も早々に売り切れ。ビュッフェもあるんだけどほとんど残ってない。結局それぞれ軽食を頼んで、私たちはテーブルに着いた。

 私は何を注文したかって? もちろんキッパーサンドだよ。

「どうだった?」とピラフを食べつつ聞くアナスタシアに、九割くらい出来たかな? と私。マリニアは七割くらいだそう。

「でも、正直さ、二割もとれるかどうかって心配してたんだ。初めてよ。こんなに分かったの」

 みんなのおかげだよと言うマリニア、チーズたっぷりのキッシュパイを口いっぱいにほおばってる。リスみたい。

「そんなことないよ。マリニアだって頑張ったジャン」

 ちなみにアナスタシアはパーフェクトの自信があるんだとか。だって、レポートの内容に比べたら、全然簡単だったわよって。

 それは言えてる。基礎的なことしか出てなかったし。それは他の教科もそうだった。

 あれだけ凄いレポート課題出したんだから、テストはもっと難しいかと思ってたのに、正直拍子抜け。

 なんか不思議だねと三人で話していたら、アナスタシアがうーんと唸って、スプーンを置いて考え込んだ。どうしたのと聞くと、彼女は言った。もしかしたら、レポートがテストだったんじゃないかしらと。

 どういうこと? レポートがテスト?

「だからつまりね、テストの本体がレポートで、ペーパーテストは建前なんじゃないかしらって」

 アナスタシアは言う。先生方は、提出物が遅れたら、いくらテストの点数がよくても欠点扱いにしますと言ったよねと。

 提出物も、評価の中に含まれますとは言わなかったよねと。


 ほんとだ。


「今まで誰も留年になる子はいなかったって、そういうことじゃない?」


 なるほど……だったら日数区切って来たのも納得できる。

 10日の間に済ませること。


 だってもっと早く課題出してもよかったんだもの。こなす授業はもうだいぶ前に終わってたんだし。

 そして一人一人、課題の中身が違うように工夫されていたこと。写しあいっこは不可だったことも。


 十日間という、時間をフルにつかっての、ながーいテストだったんだ。


「まあ、テストと言うよりは、ちゃんと教えてる中身理解してるかどうか、見るためのレポートだったのよ」


 アナスタシア曰く、ペーパーテストで先生方が出した内容に答えられても、たまたまそれを勉強しただけだったら、ほんとに理解したとは言わないもんねと。

 あのレポート内容をこなそうと思ったら、ほんとに理解してないと無理だものと。


「言われてみたら私、なんか賢くなった気がするわ。いまなら国公立大学も余裕で行けそう」

 と言うマリニア。私はびっくりした。テスト準備期間の時と比べたら凄い心境の変化だ。アナスタシアは、まーたあんたは調子に乗って、と軽くゲンコくらわしてたけど、こんな風に考えることが出来るようになるなんて。

 この学校の先生方ってあらためて凄いなあと実感する私だった。





 そんな感じで、一夜明けて次の日。

 みんなほのぼのムード。うん、それが正解。だってこの小説のテーマもほのぼのだもの(え?)。

 テストも終わったし、今日から試験休みってことで、マリニアがこんな提案をしてきた。

「パパが別荘好きに使っていいって言ってくれてるんだけど、行く?」

 えー、でも、いいの?

「いいってば、遠慮しないで」

 マリニア曰く、別荘地は遊びどころ満載なんだって。近くに遊園地があって、ショッピングを楽しめる場所もあるとのこと。いまだと春先に向けての新作が出てるそう。

 あ、でもちょっと待って。私はお金が……。うう、庶民貴族の悲しさよ。

「だぁいじょうぶ」どんっとマリニアが胸を叩いた。「そこはあたしにまっかせなさいっ」

 何でも昨日、パパに、テストダイジョブだったよーって電話したら上機嫌で銀行に振り込んでくれたんだよねと。

「ちょっとマリニア、それ気が早くない?」

 だってまだテスト帰ってきてないじゃんとアナスタシア。ダヨネ、万が一と言うこともあるしと私も言ったが、マリニアは自信満々だ。

「そーゆーわけで、思い切り楽しんじゃおう!」おーっ、と拳をあげて意気揚々のマリニア。とりあえず今日はお買い物たっぷり楽しんで、明日は遊園地に行って、バーベキューして。

 マリニアの楽しそうな様子見てたら、私もなんか楽観的になってきた。まあ自信はあるけどっ。

 アナスタシアと二人、まあ、いっか、みたいな感じになってた。その時だった。


「一年生は全員、体育服に着替えてグランドに集まってください」


 寮内に放送が響き渡った。


 マリニアの顔もだけど、私の顔も、アナスタシアの顔も凍り付いた。

 普通にあつまるんじゃなくて、体操服?

 一体何が始まるんです?








「ではこれから、聖都一周マラソンを始めます」

 グランドに集められた私達に、先生方の言葉がまるで雷のように。落ちた。


 ど。

 どゆこと?

 どうゆうこと?


 どういうことぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?!


 先生曰く、走るコースは分かりやすく目印してあるから大丈夫よと言うんだけど、 

突っ込むところはそこじゃない。


 隣のマリニアを見る。もうすでに魂が体に無い。目が。目が虚無になっている。

 アナスタシアはかろうじて耐えてる。さすがは元王女様。

 私はって?

 きかないでぇ(ノД`)・゜・。


 聞くと、これはテンペレシオンス学園一年生が必ずこなすイベントの一つで、街はそのために交通規制までかけてるんだとか。


 そんなこと、してくれなくていいから(泣)。


 ブーブーギャーギャー文句集団と化した一年生たち。いやも応もなく校門の前に集められた。


「位置について。用意」


 ぱあん、と先生の持つスターターが鳴り響いた!


 みんなすごい飛ばすんだけどアワワワ。何でって?

 順位で点数決めるぞって言われたからぁぁぁぁぁ。

 つまり、順位の数だけ、百点から引いていくなんて言われたもんだからみんな必死。


 てかちょっと待って。一年生生徒何人いるの?

 百点から引いていくなんて言ってたら、どん尻になったらマイナスじゃないのよ! 


 と、隣を見るとアナスタシアがもうばて始めてる。助けてと砂色の瞳で私を見る。

 ゴメン!

 同じく瞳でそう返し、スピードを上げる私。薄情ものぉぉぉぉぉと声が後ろから響く。

 アナスタシア。分かって。友情はガラスのようにもろいのよ!


 ヒーハー走る私の耳に、他にも、置いていかないでぇぇとか、友だち置いていくのぉぉぉぉとか聞こえてくる。

 あ、そうだマリニアは?と思ったらはるか後方にいた……。


 ゆるせ、友よ!


 田舎の山育ち。こうなったら絶対に百位以内に入ってやる。坊ちゃま育ちの男の子たちなんか、蹴散らしてやるんだから! サプライズパーティで多少鍛えられただろうけど、こちとら子供の時から野山をかけまわっていたんだからね!

 

 お家の敷居を跨げるかどうかがかかってんのよ。死ぬ気でやってやるわよ!


 と、意気込んで走っていた私の視界に、ふと気になるものが。

 はしってる道沿いに、たくさん先生がいて何か書きこんでるの。

 

 なんだろう。タイムかな? でもそんなことしなくても、結果はゴールで分かるし……。

 通過タイムで競うと言う話は出てない。ただあったのは、順位の数だけ点数引くぞと言う、とんでもない内容だけ。

 そんなの聞かされたらみんな必死になる……。必死に……。


 て言うか、立ってる先生多くない? チェックするにしても、道間違わないようにするにしても多過ぎだよね……。


 ( ゜д゜)ハッ!


 まさか……私の思考がぐるぐるまわる。まさか。


 私はくるっ、と来た道を取って返した。そしてゼイゼイ言ってるアナスタシアとマリニアのもとに駆け寄った。

「大丈夫?!」

 私の姿を見た二人。戻ってきてくれたんだと涙ぐむ。ありがとうベアト、ありがと、ごめん、足引っ張ってとウルウルウルする二人の瞳。

 私は横目でチェックしてる先生を見つつ、満面の笑みで答えた!

「ううん、そんな、友だちじゃない。私こそ先に行ってゴメンネ」


 我ながら口がひくひく引きつる。うう、私って意外とハラグロだったんだっっっ。

 

 それからもうほとんど歩いてるのと変わらないくらいの調子で走る私達。最後まで走れるかなとマリニア。

「大丈夫だよ、私が引っ張ってあげる」

 するとアナスタシア。ゴメン、私もと息も絶え絶え。任せて!


 ただ、しばらく三人でそうやって走ってると、さすがに私もばててきた。だって二人も引っ張ってるんだもん。するとなんと男の子がやってきた。背負ってやるって言われて、アナスタシアをお願いすることに。マリニアはと言うと、わりと元気になってきたから走れるとのこと。

 

 走っていたら大きな交差点が見えてきた。そこにも先生が座ってるんだけど、他の先生方がやってきて、紙みたいなの渡してた。

 交差点にいた先生、それで何か集計してる。あああ。

 

 間違いない。つまり、このマラソンで求められてるのはこれだ。


 それはずばり。

 友達との助け合い、なのだ!


 断定するのは早いかも知れないけど、誰もが友達見捨てるような事態をわざと設定してってのがもう怪しいと言うか、だいたい、設定自体が無茶というか。だって一年生だけで二百人いるんだよ?


 

 多分、このマラソン自体に点数はないんだろうな。

 みんながちゃんと仲良くやっていけてるかどうかを見たかったんだろう。あと、極限の状態で何処まで冷静に対処できるかも。

 先生方、すごいなあもう……まるでお釈迦様の手のひらの孫悟空の気分だよ……。





 その日の夕方遅く、マラソンは終了。

 もうバッテバテで、私達はそのまま、ご飯も食べずに寝た。

 今度こそ寝た。

 そのおかげで、大事な試験休み、丸一日消えてしまった。目が覚めた時はもう次の日の昼過ぎだった。

 遊園地貸し切りで予約してあったのにぃビエエエとマリニア。あんまりだぁぁと。


 こうして進級試験は終了。




 晴れて私は、家の敷居を無事に跨げる身となったのであった。

 








 

 





 








 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] バリトンな先生、いいですねえ。 テノールよりもバリトンな歌声の方が好きですもん。 でも、オペラって、主人公女はソプラノ、主人公男はテノールで、当て馬や悪役がバリトンと決まっているのが納得いか…
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