サプライズパーティ
親愛なるお姉さま。近頃寒くなってまいりましたが、いかがお過ごしでしょうか。突然のお便り、さぞ驚かれたと思います。私は一応元気です。
そう言えばこの間、私の故郷ではもう雪が積もり始めていると聞きました。畑の冬支度、間に合っているかな。父様は呑気な人だから少し心配。母様がいるから大丈夫だとはおもうけど。
ああ、すみません、こんなことをお話ししたいんじゃなかった。
実は、お姉さまに折り入って相談したいことがありまして……。お便りを書いたのはそれが理由です。
それは何かと言いますと……。
お城で開かれる新年会のパーティに、私達新入生でサプライズイベントを用意せよと、上級生から言い付けられたのです。その事でご相談に乗っていただきたくて。
聞けばこのイベントは新入生の恒例行事であるとか。
と、言うことは、お姉さまもご経験があるのですよね? 卒業生ですから。
どうか、ご教授願います。本当に困っているのです……その
乙女にとって非常にまずい事態になるくらい……。
それって何って?
それはお聞きにならないでくださいませ……お姉さまの想像に任せます……。
それより、
どうか、お教えください、何かヒントだけでも……
哀れな悩む妹より。愛する姉さまへ。あらかしこ。
それから、五日後のこと。
お昼時の学生食堂で、私はドキドキしながら姉から貰った手紙の封をあけた。同じテーブルにいたマリニアとアナスタシアが身を乗り出す。彼女らは寮の同室の子たち。今回のサプライズイベントでは、一緒に料理を作ることになってる。
手紙をみんなに見えるようにテーブルに広げる。私達三人はしばらく額を寄せ合って手紙を覗き込んだ。すると、
「……ねー、なんて書いてあるの?」
とマリニアが思い切りしかめ面で聞いて来た。フワフワカールの金髪でお姫様みたいな容姿の彼女は、地方の豪族の娘さん。お父様の家が資産家なんだそうだ。
マリニアに言われて、私は姉の字が読みにくいのを忘れていたことに気づいた。どれくらい読みづらいかって? ミミズがのたくったような字と言うけど、まさにその通りなんだよね……ぶっちゃけ、身内にしか分からない。
「ええとね……」
手紙によるとこうだった。
サプライズイベントに姉が用意したのはスイートポテト。山盛り作ったのだそう。
「スイートポテト?」
「うん、揚げるの大変だったって」
ふーん、と言いつつマリニアは、自分のお皿のポテトを口に放り込んだ。
それにしてもスイートポテトとは、姉も洒落たものを作ったもんだ。と思っていたら、
「ちょっと待って、ベアト、スイートポテトって、油で揚げたっけ?」
と言ったのはアナスタシア。腰まである長い銀髪が特徴的な彼女は皇族の一員で、なんと皇太子殿下の婚約者なのだそう。
彼女に言われて私もスイートポテト作る工程を思い出した。
サツマイモを茹でて潰して、バターと卵黄を混ぜてオーブンで焼いて……。
確かに、スイートポテト作る工程に油で揚げるは入ってない。
じゃあ、手紙にあるこれは何? いもフライ?
どゆことだ? 姉さまは一体何をおつくりになったんだろう。でもスイートポテトって書いてあるし……。
マリニアが、何か悩んでるみたいだけどダイジョブ? と聞いて来る。
とそこに、アナスタシアの呆れたような声が。
「あんたの姉さん、お城のパーティに大学芋出したの?」
……。
あ。
そうだ。これ、大学芋だ。姉さま……。
しょーもない見栄はるというか、そもそもお城のパーティにイモ料理出そうと思うところが垢抜けてないとゆーか、なんと言うか……。
仕方ないかぁ。ど田舎の底辺貴族の出身だもんね……。
「あたしたちはもぉちょっーとおしゃれに行きたいわねっ」
マリニアが二個目のポテトを口に放り込み、フォークをブンブン振り回した。悪かったねお洒落じゃなくてっ、と私はちょっと憤慨し、昼食……サーディンサンドの残りをお腹に詰め込んだ。
でも私はふと思った。もしかしたら姉さまのアイデアじゃないのかも。
そーだよ、だって姉さまだって私のようにグループ組んでやったんだろうし。
……。
でもやっぱ姉さまかな。
こうやって見栄張るところを見ると……。
先生の話だと、料理担当の子らは、お城の台所を使わせてもらえることになってるらしい。てか、使わせてもらえると言うよりは、そこしか使えないってことだよねこれ。
だってサプライズパーティだもん。直前まで何を出すのか分からないようにしないと。
完成品運んでるの見られたらマズイ。
となると寮の台所は使えない。ううむ。
慣れない台所って使いづらいんだよねぇー。
周りを見ると、他の子たちも額を集めてわいわい相談し合ってた。盛り上げる出し物をしろと言われたグループもいて、出し物って言われてもどうしよう、何する? ワカンナイ、歌でも歌う? なんて言いあってる。
出し物かぁ。そう言ったセンス全くない上に音痴の私。その役目が回ってこなかったことに感謝。
とはいえ、料理の腕はと言われたら、まあ普通かしら。
あー、何か良い手はないかなー。さっと持って来てぱぱっと作れるやつ……。
皇族のアナスタシアがメンバーにいるから、何かと融通利かせてくれないかなぁ。
でも大学芋だけは避けたい。それだけは。そう思う私だった。