泡沫
泡沫
むかし夏の暑い日に一杯のソーダ水をはさんで
私たちは無言で
いくつもいくつも次から次へと浮かび上がる泡を見ていた
私たちは鳥の番のように仲むつまじく
ひとつのソーダ水に二本のストローを入れて
泡をすった
けれども二人は知っていた
からだのなかのどこにも
その泡を捉えておくことはできないと
泡は浮き上がっては氷の塊にぶつかって消えた
私たちが吸い上げるよりもっと速く
私たちに吸い上げられた泡は
線香花火のように
ちかちかと体のあちこちで跳ねた
束の間の光を放って
だが力が失せていくのを感じながら
コップの中でコトリと氷が崩れた
最後の泡が消えた
コップの外側にたまった水滴が
涙のようにゆっくりと流れ
テーブルに水溜りが広がっていった