プロローグ
日本政府が打ち出した政策”イノべーダー計画”実行から十八年。
技術革新が進み、世界からようやく近未来国家として認められてきた日本は関東の都県を合併し新たに首都として≪峰瑠婦都市≫を制定した。
峰瑠婦には壱から拾までの地区が存在しており、ここ第参地区には
多くの学校が集まっていた。
街は高層ビルや学校の校舎がせめぎあっていて、午後になれば学生たちがあふれていっぱいになる。それぞれの青春を謳歌してはにぎやかに街を染めていた。
「まっ万引きだっ!だれか捕まえてくれ!」
日が落ちて街灯がつき始めた近未来的な建物が並ぶ街の一角、場違いなほどみすぼらしい店の初老店主は怒鳴り声では聞くことがない助けを求めた。
周りに路地があふれた場所に構えた
こじんまりとしている小さなその店には生意気にも”新作ゲーム機アリマス”ののぼりが立っている。
学生二人組が盗んだものは十中八九それだろう。
「へへぇ~やっぱこの店はカモやなぁ~」
「警備システムもアラームもなし、店員はジジィの店長ひとりだけ、盗んでくださいって言ってるようなもんだろっ」
以前からこの店を狙っていたのだろう。
あたりが暗くなる時間帯、迷いのない犯行、それはあきらかに計画的な犯行であった。筋肉質な男とその取り巻きの二人は悪びれる様子もなく満足そうに走り去った。
「くそっ!なめやがってガキども...」
ゼェゼェと息を切らせた店の店主はくやしさをにじませ、その老体を引きずり後を追っている。
「...カモはおまえらのほうだっての」
暗がりからぶっきらぼうにつぶやく影が一つ、ぬすっと共と店主を見つめていた。
馬鹿にしたように鼻で笑ってから、走り去る二人組を静かにそして速やかに追跡を始めた。
「ここまでくればジジィもおってこれねぇだろ...結構走ったしな」
「そんなに疲れるほど走ったかぁ?体力ねぇなぁお前」
入り組んだ路地の真ん中―彼らは勝利の喜びを分かち合っていた。
まぬけにも誰かに追われてるとは知らずに
「楽しそうだなおまえら。ちょっと俺も混ぜてくれよ」
今まで走ってきた路地の後ろから突然低く籠った声が聞こえてきた。
暗がりに立っているそれはフードを被り、機械的な手足をしていた。
全体像はハッキリと見えないが、普通の人間ではないことは簡単に理解できた。
「なんだぁおまえ、俺たちに何か用ですかぁ?」
「へっ、なにそれ。ヒーローのコスプレ?変人かよ気持ちわりぃな!」
突然現れたそれに少し焦りを見せつつも、一歩も引くつもりは彼らにはない。
ここで屈っしてしまえば社会的立場が危ない。何よりこの二人の安いプライドがそれを許さなかった。
「ヒーローねぇ...それよりさ、あの店から獲ったもんあるだろ。俺に渡せ」
「見てやがったかヒーローさんよぉ、てめぇと話し合うつもりなんざ微塵もな_」
筋肉質なそのぬすっとは話し終える間もなくその場に倒れこんだ。
「_!?」
少しずつ状況を理解し始めた男は次第に紅潮し、青筋を立て顔をあげる。視界を前方に向けた彼は怒りをぶつけようとした矢先驚愕した。
攻撃を加えられるその瞬間まで元気だった取り巻きが、頭から血を流してそれにつかまれていたのだ。
「誰が話し合うっつったんだよマヌケ。さっさと獲ったもん俺に渡せって言ってんの」
点滅する古い街灯の光でそれは正体を現した。
フード付きのスポーツウェアの下に機械をまとい黒く輝く体にエメラルドのラインが入ったボディ。
指先に吸盤のようなものがついた大きすぎるグローブやスラリと長くかつがっしりとした太ももを持つ脚が履いている厚底のブーツ。
そしてなにかしらの部品が敷き詰められた顔全体を覆う無機質なマスク。
一見それが何なのかはわからなかったが、腹を殴られた怒りから恐怖へ心変わりした男はぽつりとつぶやいた。
「カエル…?」
「そう。蛙だよ。お前らみたいなウジ虫を喰らう蛙だよ」
蛙は少し笑って返した。恐怖する男の顔を眺めながら。
「おいっ!お前らここにいたのか!早く商品をかえせっ!」
声を荒げてこちらに近づく店の店主。執念深くぬすっとを追いかけてきたのだろう、しかし絶望する男にはそのジジィが英雄のように見えてしまった。
「た、たすけてくれぇ!あのバケモンが突然…」
「どの口がそれをいうか!ふざけた罪人をこのわしが許すと思うか!...ん?そこにたっているのは何者だ?もしかしてこいつらを懲らしめてくれたのか?」
蛙はそうだと言わんばかりに大きな手を振っている。いつの間にか片手には、取り巻きから奪った”ゲーム機”がぶら下がっていた。
「おお!ありがとうよおまえさん。あんたのおかげでうちの商品が戻ってくるわ。ところでお前さん見ない顔だが、最近の”ひぃ~ろぉ~”とかいうやつかの。」
「じいさん。勘違いが多いみたいだが、俺は一言もこれを返すとは言ってない。こいつらから頂いた俺が使う。そして俺はヒーローなんかじゃない。あの羽虫を喰う側なんだよ俺は...」
「ふ、ふざけるなっ!わしの店のだそれは!かえせっ!」
「セキュリティが甘すぎるのが悪い、勉強代にでもしなね。」
ジジィやぬすっとたちをあざ笑い、蛙は高く跳びあがって暗い路地へと姿を消した。
そのあとに残されていたのは放心した罪人と被害者、粘液まみれで倒れている取り巻きのぬすっとだけだった。
こちらのほうをプロローグにしましたすみません!