表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/18

15.血戦

「ふんっ!」


 酒呑童子が腕を振り、刺さっていた手裏剣を、善住坊へと投げ返す。

 善住坊は刀で防ぐが、次の瞬間、異様に伸びた酒呑の腕が、その足を掴んだ。


「なっ……!?」

「甲賀者も、所詮こんなもんかぁーーっ!?」


 今度は腕が急速に収縮し、善住坊を引き摺りながら、その体へと戻っていく。

 善住坊は咄嗟に刀を地面に突き刺し、その動きに(あらが)った。


「ちっ……!」


 酒呑童子は手を離すと跳躍し、今度は宙から、善住坊へと襲いかかる。

 善住坊もすかさず手裏剣を放ったが、禿(かむろ)姿の小ぶりな鬼は、皮膚一枚の差でかわしてしまった。


「ひゃははははっ! んな玩具、当たんね……ぐっあがっ!!?」


 鬼の背中を、手裏剣が襲った。


 善住坊は日頃から、万一()けられても、必ず逆旋回して相手に当たるよう、手裏剣を打っていた。

 この技は甲賀の中でも秘中の秘とされ、限られた忍びにしか出来ない芸当であった。


 善住坊が、さらに二枚の三方手裏剣を放つ。


「ぎゃあああーーーーっ!!」


 今度は二枚ともが正面から当たり、酒呑童子の両肩に喰い込んだ。


「むんっ!」


 すかさず、善住坊が右腕の万力鎖を投げつける。

 両端の分銅が円弧を描いて絡みつき、酒呑童子の動きを封じた。


「もらったぞっ!」

「クッ……クソッタレがぁぁぁーーっっっ!!!」


 善住坊の刀が、首を一文字に斬らんとしたその刹那。

 四尺(約一二〇センチ)に見たぬ弟の体が、急激に膨張していった。

 体中の筋肉が隆起し、ブチブチと、万力鎖が引き裂かれていく。


「なっ……!?」


 千切られた鎖は弾幕となって善住坊を襲い、その行手を阻んだ。


「ぬうぅ、小癪な真似を……ああっ!?」


 彼が再び構えを取った時、目の前には、真紅の体に青と黄色の両腕、白黒の両足という、極彩色の鬼が立っていた。

 その容姿は、禿から青年のそれへと変化していた。


「くっ……こ、これが貴様の、本当の姿……」

「はぁはぁ……へへへ、やるなぁ。伊賀忍の奴らは、さっきの姿のままで余裕だったんだぜ? さすがは、世に聞こえた杉谷善住坊……信長がしつこく尻を追いかけたのも、なるほど頷けらぁ」

「無駄口を叩きおって……どんな姿になろうと、貴様の命はこれまでだっ!」

「ははははっ! お前の方こそ、どの口がそんな事言ってんだよ!? 分かってんだぜ? もう手元に、まともな忍器(どうぐ)は残ってねえんだろ?」

「………」

「お前らと一緒の時、どいつからも、動く度に微かな金属音が聞こえた。俺さまぐらいの鬼じゃなきゃ、とても気付かねえだろうがな。今のお前は……そうだな……鎖帷子は着てねぇな? あとは手裏剣が四枚と、さっきの分銅が左腕に一本ってとこか?」

「……試してみるか?」

「おっ!? いいねぇ、そうこなくっちゃ。この姿に戻るのは久しぶりなんだ。せいぜい、楽しませてくれよ……なっ!」


 酒呑童子は力強く地面を踏み込むと、凄まじい勢いで善住坊へ飛び掛かった。


(早い……!)


 鬼の姿となったその動きは、禿とは比べようも無いほどの速度であった。

 善住坊はなんとか防ぎ止めようと、刀で構えを取る。


「……遅いぜっ!」

「ぐわぁあぁぁーーっ!?」


 酒呑童子の爪が、野良着ごと善住坊の脇腹をえぐった。

 辺りに、大量の血飛沫が舞い落ちる。


「アっははははッ! やっぱ鎖は着てねえなぁ!? ほらほら、武器の方も見せてくれよっ!」

「く、くそったれがぁっ……!」


 善住坊は、刀を無造作に一振りし、班色(はんしょく)の鬼を牽制した。

 酒呑童子が(たい)をかわすと、その隙に、背中を見せて必死で後方へと退いていく。


「あんッ?……おいおいっ!? テメェ、まさか逃げんのかよっ!?」


 酒呑童子がそう言い放った刹那。

 善住坊は再びくるりと前を向き、三枚の手裏剣を、別々の方向へと打ち放った。


「はあぁ!?」


 酒呑童子が呆れるのも無理はなかった。

 手裏剣はおのおの、見当違いの方角へと外れていったのである。


 だが、鬼の体を通り過ぎると、今度はそれぞれが大きく旋回し始めた。

 続けて、善住坊は万力鎖を前方へと投げ放ち、同時に、酒呑童子の頭上高くへと跳躍した。


 杉谷家に伝わる秘技、五陣剣(ごじんのけん)である。

 左右後方から手裏剣、正面から万力鎖、そして上空から刀ごと飛びかかることで、必ず相手を仕留める必殺の法であった。


「もらったぁーーっ!!!」


 善住坊の刀が酒呑の脳天を捉えた時である。


 異形の鬼はその口を大きく開いたかと思うと、勢いよく火柱を噴き出した。

 ゴオオオオォォーーーーッ! という音を立て、燃え盛る火炎の渦が、善住坊に襲いかかる。


「なっ!? ぐ、ぐあああぁぁーーーー!!!!」


 善住坊は空中で体を捻ったが、野良着ごと火だるまとなり、そのまま地面に落下した。

 それを見た童子はニヤリと笑うと、悠々と、他の飛び道具をかわしてしまった。


「む、むむむむ……」


 善住坊が、地面に這いつくばって(うな)り声を上げる。

 体中が焼け付き、跳躍はおろか、まともに立つことすらも出来ない状態であった。


「くっくっく……いい線行ってたけどな。そんな小手先の技でやられる俺じゃねーんだ。ったく、舐めてんじゃねえよ。これで、残る忍器は手裏剣一枚ってとこだろ? もう打つ手なしだなぁ、はーっはっはっ!!」

「……お、俺の……俺の銃、さえ……あれ……ば……」

「あん? お前の使えねぇ火縄かよ。信長は外すわ、初は殺しちまうわで、全く役に立たねえ代物だろ?」


 酒呑童子は辺りを見回すと、低い茂みから頭を出す、突き立った火縄銃を見つけた。


「あれか、お前の銃は」


 酒呑童子がつかつかと茂みまで歩んでいき、グッと地面から銃を持ち上げる。

 その黒光りする銃身をマジマジと眺め、再び善住坊へと視線を戻した。


「こんなんいくらあっても、俺は殺せねーってんだよ」

「……くっ、くっくっ……こ、これ見よがし過ぎたかと思ったが、ぞ、存外、かかるものよの……」

「あん?」


 酒呑童子が不思議そうに顔を傾けた時である。


 善住坊は、まだ火の残る野良着を破ると、最後に残った手裏剣に素早く巻き付け、酒呑の足元に放擲した。


「なんっ……」


 ドッッッカアアアァァァーーーーーーンッッッ!!!!


第16話は、明日木曜日に投稿予定です。


もし気に入って頂けましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!


面白ければ星5つ、つまらなかったら星1つ、正直なご感想でもちろん大丈夫です!


いいねやブックマークも頂戴できますと、作者が泣いて喜びます(T_T)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ