15.血戦
「ふんっ!」
酒呑童子が腕を振り、刺さっていた手裏剣を、善住坊へと投げ返す。
善住坊は刀で防ぐが、次の瞬間、異様に伸びた酒呑の腕が、その足を掴んだ。
「なっ……!?」
「甲賀者も、所詮こんなもんかぁーーっ!?」
今度は腕が急速に収縮し、善住坊を引き摺りながら、その体へと戻っていく。
善住坊は咄嗟に刀を地面に突き刺し、その動きに抗った。
「ちっ……!」
酒呑童子は手を離すと跳躍し、今度は宙から、善住坊へと襲いかかる。
善住坊もすかさず手裏剣を放ったが、禿姿の小ぶりな鬼は、皮膚一枚の差でかわしてしまった。
「ひゃははははっ! んな玩具、当たんね……ぐっあがっ!!?」
鬼の背中を、手裏剣が襲った。
善住坊は日頃から、万一避けられても、必ず逆旋回して相手に当たるよう、手裏剣を打っていた。
この技は甲賀の中でも秘中の秘とされ、限られた忍びにしか出来ない芸当であった。
善住坊が、さらに二枚の三方手裏剣を放つ。
「ぎゃあああーーーーっ!!」
今度は二枚ともが正面から当たり、酒呑童子の両肩に喰い込んだ。
「むんっ!」
すかさず、善住坊が右腕の万力鎖を投げつける。
両端の分銅が円弧を描いて絡みつき、酒呑童子の動きを封じた。
「もらったぞっ!」
「クッ……クソッタレがぁぁぁーーっっっ!!!」
善住坊の刀が、首を一文字に斬らんとしたその刹那。
四尺(約一二〇センチ)に見たぬ弟の体が、急激に膨張していった。
体中の筋肉が隆起し、ブチブチと、万力鎖が引き裂かれていく。
「なっ……!?」
千切られた鎖は弾幕となって善住坊を襲い、その行手を阻んだ。
「ぬうぅ、小癪な真似を……ああっ!?」
彼が再び構えを取った時、目の前には、真紅の体に青と黄色の両腕、白黒の両足という、極彩色の鬼が立っていた。
その容姿は、禿から青年のそれへと変化していた。
「くっ……こ、これが貴様の、本当の姿……」
「はぁはぁ……へへへ、やるなぁ。伊賀忍の奴らは、さっきの姿のままで余裕だったんだぜ? さすがは、世に聞こえた杉谷善住坊……信長がしつこく尻を追いかけたのも、なるほど頷けらぁ」
「無駄口を叩きおって……どんな姿になろうと、貴様の命はこれまでだっ!」
「ははははっ! お前の方こそ、どの口がそんな事言ってんだよ!? 分かってんだぜ? もう手元に、まともな忍器は残ってねえんだろ?」
「………」
「お前らと一緒の時、どいつからも、動く度に微かな金属音が聞こえた。俺さまぐらいの鬼じゃなきゃ、とても気付かねえだろうがな。今のお前は……そうだな……鎖帷子は着てねぇな? あとは手裏剣が四枚と、さっきの分銅が左腕に一本ってとこか?」
「……試してみるか?」
「おっ!? いいねぇ、そうこなくっちゃ。この姿に戻るのは久しぶりなんだ。せいぜい、楽しませてくれよ……なっ!」
酒呑童子は力強く地面を踏み込むと、凄まじい勢いで善住坊へ飛び掛かった。
(早い……!)
鬼の姿となったその動きは、禿とは比べようも無いほどの速度であった。
善住坊はなんとか防ぎ止めようと、刀で構えを取る。
「……遅いぜっ!」
「ぐわぁあぁぁーーっ!?」
酒呑童子の爪が、野良着ごと善住坊の脇腹をえぐった。
辺りに、大量の血飛沫が舞い落ちる。
「アっははははッ! やっぱ鎖は着てねえなぁ!? ほらほら、武器の方も見せてくれよっ!」
「く、くそったれがぁっ……!」
善住坊は、刀を無造作に一振りし、班色の鬼を牽制した。
酒呑童子が体をかわすと、その隙に、背中を見せて必死で後方へと退いていく。
「あんッ?……おいおいっ!? テメェ、まさか逃げんのかよっ!?」
酒呑童子がそう言い放った刹那。
善住坊は再びくるりと前を向き、三枚の手裏剣を、別々の方向へと打ち放った。
「はあぁ!?」
酒呑童子が呆れるのも無理はなかった。
手裏剣はおのおの、見当違いの方角へと外れていったのである。
だが、鬼の体を通り過ぎると、今度はそれぞれが大きく旋回し始めた。
続けて、善住坊は万力鎖を前方へと投げ放ち、同時に、酒呑童子の頭上高くへと跳躍した。
杉谷家に伝わる秘技、五陣剣である。
左右後方から手裏剣、正面から万力鎖、そして上空から刀ごと飛びかかることで、必ず相手を仕留める必殺の法であった。
「もらったぁーーっ!!!」
善住坊の刀が酒呑の脳天を捉えた時である。
異形の鬼はその口を大きく開いたかと思うと、勢いよく火柱を噴き出した。
ゴオオオオォォーーーーッ! という音を立て、燃え盛る火炎の渦が、善住坊に襲いかかる。
「なっ!? ぐ、ぐあああぁぁーーーー!!!!」
善住坊は空中で体を捻ったが、野良着ごと火だるまとなり、そのまま地面に落下した。
それを見た童子はニヤリと笑うと、悠々と、他の飛び道具をかわしてしまった。
「む、むむむむ……」
善住坊が、地面に這いつくばって唸り声を上げる。
体中が焼け付き、跳躍はおろか、まともに立つことすらも出来ない状態であった。
「くっくっく……いい線行ってたけどな。そんな小手先の技でやられる俺じゃねーんだ。ったく、舐めてんじゃねえよ。これで、残る忍器は手裏剣一枚ってとこだろ? もう打つ手なしだなぁ、はーっはっはっ!!」
「……お、俺の……俺の銃、さえ……あれ……ば……」
「あん? お前の使えねぇ火縄かよ。信長は外すわ、初は殺しちまうわで、全く役に立たねえ代物だろ?」
酒呑童子は辺りを見回すと、低い茂みから頭を出す、突き立った火縄銃を見つけた。
「あれか、お前の銃は」
酒呑童子がつかつかと茂みまで歩んでいき、グッと地面から銃を持ち上げる。
その黒光りする銃身をマジマジと眺め、再び善住坊へと視線を戻した。
「こんなんいくらあっても、俺は殺せねーってんだよ」
「……くっ、くっくっ……こ、これ見よがし過ぎたかと思ったが、ぞ、存外、かかるものよの……」
「あん?」
酒呑童子が不思議そうに顔を傾けた時である。
善住坊は、まだ火の残る野良着を破ると、最後に残った手裏剣に素早く巻き付け、酒呑の足元に放擲した。
「なんっ……」
ドッッッカアアアァァァーーーーーーンッッッ!!!!
第16話は、明日木曜日に投稿予定です。
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