63話 ルーデイン公爵はご機嫌です
ルーデイン公爵は朝からご機嫌だった。
この中年のおっさんは屋敷の中で鼻歌を歌いながらコーヒーを飲んでいた。
「はははっ。冒険者の屑共が死んでいくのは大層美しい!!」
「ご主人様。お言葉ですがこの行為に何か意味がおありでも?」
使用人がルーデイン公爵に朝食のサンドウィッチを差し出しながら聞く。
「別に意味なんてないさ!! 只私は冒険者という醜い連中が嫌いでね。彼らは貴族の地位欲しさに平民の癖して頑張ろうとする!! そういうのが吐き気を催すんだ!!」
「それはつまり平民が貴族の地位を手に入れる事は許されないと?」
「当然だろう!! 平民は一生平民。貴族は一生貴族。これは世の中の決まり事さ!!」
「しかし冒険者を殺すのに冒険者を雇うとは」
「所詮あれも使い捨ての駒にしかならぬよ。まあ冒険者の中で勝手に昇格すればいい。貴族の地位は与えないさ!!」
「しかしそれを決めるのは冒険者ギルド本部では?」
「だから圧力をかけている。私が依頼した事すら揉み消すためにな!!」
ルーデイン公爵はコーヒーを飲み、優雅な時間を楽しんでいる。
窓の景色を眺めて。
冒険者ギルド本部はこの世界で一番権力がある存在がバックについている。
その存在は誰も知らないが、各地に居る王や皇帝ですら逆らう事は出来ず従う事しかできない。
そして何より自然的に家系が途絶えたのは別として、それ以外の要因で貴族の地位が与えられたり剥奪されたりする要因は全てこの謎の存在の意思にかかっている。
つまりルーデイン公爵ですら圧力をかけても無意味なのだ。
しかしルーデイン公爵は自分に絶大な権力があると思い込んでいる。
その為圧力がまかり通ると思い込んでいる。
しかし実際は圧力など掛けられていないのだ。
実際にルーデイン公爵がした行為は現に冒険者ギルドのデータベースをAランク冒険者に見せただけ。
そんなものはある一定以上の冒険者や権力者であれば誰でも介入できる。
つまりルーデイン公爵は冒険者ギルド本部側より権力が低いのだ。
まあそれを自覚していないのだが。
「それでどれぐらい冒険者は減った?」
「十日ちょっとで千名程ですね」
「ほほう。いい調子ではないか。それにしても私が見込んだ駒なだけはある。実力は大したものではないか!!」
「しかし殆ど殺しているのは新米冒険者ばかり。CランクやBランクなどばかりですが」
「まあ未来の芽を摘んでいるとすればいいだろう。Aランク以降の冒険者殺しは別の実力者に依頼するさ!!」
「では私は家事がありますので失礼します!!」
「偶には私と一日を過ごす気はないかい?」
「ありません!!」
「ははっ。使用人の癖して肝が据わっているな。冗談だ家事を頼む!!」
「はい」
使用人はルーデイン公爵の前から姿を消す。
使用人はルーデイン公爵の妻と娘の面倒を見る必要があるのだ。
「ああ愉快だ!! 平民が必死に貴族の地位を得ようとするのを邪魔する行為は!! 最高だ!!」
ルーデイン公爵は豪華な椅子に座り感傷に浸っていた。
因みに冒険者殺しのルールを定めたのは貴族達ではない。
冒険者ギルド本部のバックについている者である。
あまりこの事実は公にはされていなく、ディーンのように勘違いしている者もいる。
その夜――
「それでどうなのだ? 後どれくらい殺せる?」
ルーデイン公爵は目の前に跪いている【アイアンブリザード】に冷たい眼差しと声で聞いた。
【アイアンブリザード】のディーンが口を開く。
「冒険者ギルド側に俺達だという証拠はありません。全て死体は焼却しています!!」
「しかし現に冒険者が殺された事実は冒険者ギルド側に認知されているだろう? それは何故だ?」
「一定期間冒険者ギルドに顔を出さない、つまりクエスト受注しないと死亡判定が下ります。それで調査隊を派遣し死因を調べるのです」
ルーデイン公爵は冒険者ギルドの仕組みにあまり詳しくは無かった。
その理由は冒険者ではないからというのもあるが冒険者ギルドそのものが嫌いだったからだ。
「死因は殺害だとばれているようだが?」
「すみません。それは俺達の失態で。僅かに成分が残ってしまい!!」
「そうか。なら見つからないうちにどんどんと殺せ。いいなこれは命令だ」
「はい。それと……」
「それと何だね?」
「あの約束は?」
「ああ貴族の地位を与えるという約束か。任せておけ。冒険者ギルド本部に今圧力を掛けている」
「あ、ありがとうございます!!」
「では引き続き頼んだぞ!!」
「はっ」
【アイアンブリザード】の連中はルーデイン公爵の前から姿を消す。
そしてルーデイン公爵は豪華な椅子へと腰を下ろす。
「まあ貴族の地位は与えないがSランク位には私の権限で昇格させてやろう!!」
ルーデイン公爵は未だ気づいていない。
幾ら公爵と言えどもこの世界では冒険者ギルド本部のバックについている者が一番権力が強いという事に。
そして何より自分自身が只の公爵であるという事に。
所詮ファイシード国に住む公爵に過ぎないという事を。
冒険者の昇格の権限なんて持ち合わせていないという事を。
♦
冒険者ギルド本部にて会議が行われていた。
「それでどうなのだ。最近の冒険者殺しの犯人については?」
「その件ですがあの方が既に特定しています。犯人はアイアンブリザード。Aランクパーティーですね」
「自己の判断で行っていると?」
「いえ、バックにはルーデイン公爵が付いています。何度も我々に圧力を掛けてきております」
「無駄な事を。あの方に逆らうなどあり得ないというのに!!」
「どうしますか。逮捕しますか?」
「治安維持の為逮捕は必須だろう。誰かに任せるべきではないか?」
「では丁度ファイシード国にいるホワイトアリスに頼むのはどうでしょう?」
「ああ例のホワイトアリスか。最近着々と実績を積み上げているあのパーティーか」
「ええ。丁度いいのでは?」
「あの方は何て?」
「まだ何も相談していませんが」
そんな会話を冒険者ギルド本部長と副部長が話していると、ホログラムで姿を現す者がいた。
魔法投影だ。
「私が命じます。今回の冒険者殺しの件についてはホワイトアリスに任せます。ルーデイン公爵の件もです」
「公爵の地位を剥奪しますか?」
「ホワイトアリスがルーデイン公爵を殺した場合、ルーデイン公爵家の公爵の地位は剥奪します。その家族には安全な生活をプレゼントしましょう」
「殺さなかった場合は?」
「それはそれで報いを受けて貰いましょう。ですがそれはあり得ません。冒険者ギルド側でルーデイン公爵暗殺の依頼をホワイトアリスに出しますので」
「分かりました。至急手配します」
「お願いします」
ホログラムはその場から消える。
冒険者ギルド本部長はふぅーと大きくため息をついた。
「謎の人物だ。シルエットしか見せない」
「まあ神秘的でいいのでは?」
「しかし今ある貴族制度などもあの方が全てお作りになられた。あの方なら完全な平和も望めるのでは?」
「さあどんな考えを持っているのかは私達凡人では測りかねます」
「そうだな。早速ファイシード国冒険者ギルド支部にこの事を伝えなくてはな」
「そうですね」
冒険者ギルド本部側は既に犯人を特定していた。
だが【アイアンブリザード】もルーデイン公爵もまだ特定されていないと思い込んでいる。
特にルーデイン公爵は冒険者ギルド本部副部長に圧力を掛けて揉み消そうとしていた。
調査をしないようにと。
しかしそれは無駄だった。
「私に圧力を掛けても無駄だというのに」
「全くだ」
この後【ホワイトアリス】は重大な依頼を請け負う事となる。
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