60話 デビルメイデン最後のチャンス
【デビルメイデン】は窮地に陥っていた。
無能と罵倒し追放したラークがいなくなったことでまさかのBランクまで降格していた。
最早ここまで信頼度を落とし降格してしまうと、簡単なクエストの積み重ねではAランクにさえ昇格するのは数年後である。
だが傲慢なバレッド達は絶対にそんな積み重ねの道を選んだりしない。
焦りもあるが何より自分たちは常に最強で最高で世界中の全ての人々から祝福されるべき存在だと自負しているからだ。
もし仮に数年後にAランクに昇格できてもSランクに昇格するには数十年、いや寿命が尽きてしまうかもしれない。
そんな選択はあり得なかった。
今すぐSランクに昇格して貴族の地位を得たいという願望が強いのだ。
まあ【デビルメイデン】が再びSランクどころかAランクに昇格することさえ不可能なのだが。
バレッド達はその事実を知らない。というか無意識に受け入れないようにしている。
都合の悪い事は。
「一発で昇格できるクエスト受注するぞ!!」
「そうね。一発で昇格できる高難易度クエスト受注しましょう!!」
「そうだね。僕たちに相応しいのは高難易度クエストさ!! 雑魚専のクエストではない!!」
「同感です。私も早く昇格したいですしお金も欲しいですから!!」
「魔法研究を行うにはもっともっと多額の資金が必要だからね!! こんな所で足踏みをしている暇はないのさ!!」
「よっしゃ探すぞ高難易度クエスト!!」
バレッド達は経験から何も学ばない。
そしてクエストボードから高難易度クエストを探す。
そしてバレッド達は一つのクエストを見つけた。
それが以下だ。
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サンダードラゴン討伐 金貨100枚
危険度★★★★★★★★★★★★★
待遇 最強回復薬×5、強魔力回復剤×10、豪華馬車
依頼主 レーステア王国鍛冶師
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「おお俺達に相応しい丁度いいクエスト発見!!」
バレッドは盛大に喜んだ。
そしてそれを手に取ろうとする。
その時、背後から誰かがその腕を掴んだ。
「それはやめた方がいい。Sランク冒険者でも未だにドラゴン系は手を焼いているんだ。その中でもサンダードラゴンは危険な部類に入る。君達Bランクでは死ぬのが関の山だ!!」
「ああっ!! 誰だてめえ!! 俺達はデビルメイデン様だぞ!!」
「調べたところ元Sランクだそうだが、今は降格してBランク。絶対にやめた方がいいと思うよ!!」
「ふざけんじゃねえ。俺達はこんな所で燻ってる人間じゃねえんだ!! おい行くぞお前ら!!」
忠告してくれた男の腕を振り払い、クエストボードからクエストの紙を取る。
忠告した男は大きな溜め息と共に憐れんだ。
バレッド達は後悔する事となるがそんな事は彼らはまだ知らない。
「おいこれを受注する!!」
「これですか!? しかしこれはデビルメイデン様の実力に見合う物ではありませんが!!」
「ああっ!! お前も何か文句でも!!」
「あのう、前にも言いましたが暴力や暴言は冒険者資格剥奪になりますので御注意ください!!」
「ちっ!!」
バレッドは受付嬢の胸倉を掴もうとした腕を寸前で引き戻す。
語気も落ち着かせた。
流石のバレッドも冒険者資格剥奪は不味いと分かっているのだ。
「本当にクエストを受注するのですね?」
「ああそうだ。俺達ならやれる!!」
「こちらとしましては構いませんが一つデビルメイデン様にはお伝えしなくてはいけない事があります!!」
「ああっ!! 何だよ?」
「最近クエスト失敗率が高すぎます。Bランクに降格してからもクエスト失敗続きです!!」
「だから何だ?」
「ですのでこのサンダードラゴン討伐クエストに失敗した場合はCランクへと降格してもらいます!!」
「は!?」
バレッド達は受付嬢の言葉を聞いて驚きの余り静止した。
静寂な空間が作られる。
「俺達がCランクに降格だと!? 笑わせるな、何かの冗談だろうが!?」
「いえ真実です。冒険者はそんなに甘くはありませんので!!」
「な!? 何でだ!? 俺達は凄い実力があるだろうが!!」
「それを第三者に証明していただかないと意味がありません!! 自分で言うのなら誰でも出来るのです!!」
「ぐっ!!」
「まああくまで今回のサンダードラゴン討伐クエストを失敗すればの話です。もし討伐成功すればAランクはおろかSランクに一気に昇格出来ますよ!!」
「先にそれを言え!!」
受付嬢は常識的に考えて分かるだろと内心突っ込んだ。
受付嬢は内心バレッド達を憐れんでいるが口には出さない。
これも受付嬢としての仕事である。
「まあ兎に角俺達がサンダードラゴン討伐すればいいだけだ!! さっさと受注させろ!!」
「本当に宜しいのですね? ゴブリン討伐とか、オーク討伐とかではなくて?」
「さっきからしつけえな!! そんな雑魚が行うクエスト受注する訳ねえだろうが!!」
「ではサンダードラゴン討伐クエストの受注を承りました。頑張ってくださいね!!」
「すぐにSランクに舞い戻って来てやるぜ!!」
バレッド達は浮かれた気分でサンダードラゴン討伐クエストを受注する。
一発逆転を狙って。
「これでやっとSランクに戻れるな!!」
「そうね。運はこちらに向いているようね!!」
「全くだね。さあさっさとやっつけようか!!」
「私達なら楽勝ですよ!!」
「これで私の実験がフェーズ2に移行する!!」
【デビルメイデン】はこの日超高難易度クエストサンダードラゴン討伐クエストの依頼を請け負った。
後にこの選択がバレッド達を窮地へと追いやり、屈辱を味わわせるのだが、当の本人たちはまだ気づいていない。
【デビルメイデン】のメンバーは全員サンダードラゴンを討伐できると思い込んでいる。
ダークドラゴンすら無理だったのに。
♦
受付嬢ははあ~と大きくため息をついた。
そしてある冒険者にお願いする。
「冒険者を無闇に殺させるとこちらに責任が降りかかる恐れがありますので、どうかデビルメイデンが危険に陥った時助けてください!!」
「さっき止めたんだけどね。あれは傲慢すぎて自分の意見以外を受け入れないタイプだ」
「取り敢えず私の為にお願いしますね。失職だけは避けたいので!!」
「分かってる。君を失職させるのは僕としても困る」
「それは私が可愛いからですか? それとも優秀だからですか?」
「僕の経歴に傷がつくからかな。Sランク冒険者が受付嬢を失職させたなんてニュースが世間に出回ったら、築いてきた地位が終わる」
「それは私が言いふらすと言いたいのですか?」
「君、口軽そうだしね」
「さっさと行ってください!! くれぐれも死なせないでくださいね!!」
「そんな強調しなくても大丈夫だよ。まあ彼らは死んだ方が身の為かもしれないけどね」
そう言って受付嬢の前から黒髪の男は姿を消す。
受付嬢は再び大きくため息を吐いた。
「最悪な疫病神とは正にこの事ですね!!」
【デビルメイデン】は思わぬ場所にも被害を与えていた。
ろくでもないパーティーである。
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