渡されたもの
飲み込んで、その絶望を飲み込め。
痛みも苦しみも絶望も涙も命も、お前の力として飲み込め。
飲み込めば、腹に入る。
腹に入ればその痛みも苦しみも絶望も涙も命も、全て消化され、エネルギーとなる。
お前を犠牲にしたお前自身を超えろ。
誰も犠牲にしない、お前自身を守れるくらいの力をそのエネルギーに全て込めろ。
....戦う事が間違っている事は判ってる。
全て自分が間違っているのは判ってる。
ただこれは自分自身の為である、俺のたった一度の自分勝手だ。
間違っていても、これは正しい。
間違っている正しい自分勝手なんだ、だからあいつの言葉、飲み込んで力にしてもいいんだ。
さようなら俺、今日で俺は男の真似事はおしまいにする。
勇者になりたかった、俺にさようなら
....なんで雨降ってるんだ。
雨降るなよ.....雨....あ...め...か......
【それが本当の気持ちって事だ、その雨はお前の気持ちそのものだ】
「なら、その雨全部飲む気で拳に乗せる!!!」
限界なんてとっくに超えてる、天井なんてもう既にない。
あるのは空!そしてそれをもぶん殴れる全身全力の拳だけ!!!
「.....魔王として、君と戦えてよかった。」
”ありがとう”
...ああ、さよならだ。
X年X月X日 X時間X分
魔王が倒された。
勇者が討ち取った、勇者の剣が砕け、世界が闇に飲まれたと思われた時に、勇者は自分の本当の力に気付いた。
その気付きが、勇者を苦しめている事を本人はまだ気づいていないが。
────時は過ぎ、数か月後
勇者だった女は男をやめていた。
「はぁ、んで私になんか用ですか?」
私の家に上がり込んで来たのは、昔お城でお世話になったお偉いさん。
何をやってるのかは、正直判らない、だけどいつも書類を机の上に置いてにらめっこをしている。
正直どう接したらいいのか判らない。
不愛想なおっさん、40近く年齢言ってんじゃね?てか完璧おっさんだしなwww
あー笑える笑える....この人が私たちを裏で助けてくれて、この人が居たおかげで仲間はある程度の怪我で済んでいた。
...悪いのはわた....いや、この事を考えるのは今やるべきことではない。
とりあえず、客間に通して話を聞いてみる事にした。
「うん、用というほどではないのだがね、君に渡したいものがあるんだ」
「渡したいものぉ?んなお城のお偉いさまである貴方様が私に何か渡したいんですか?」
「ははは、そうだよ、そのお堅いお偉いさんが勇者だった貴方様に渡したいものがあるって事さ。」
「ちょちょちょ、お堅いまで言ってないでしょーが!」
「君は顔がお喋りなんだよな...ははは、まぁ実際仕事中はお堅い奴かもだな。」
む、この人、私の表情を読んでくるタイプの人だ。
あまり直接話した事はなかったのだが、こうやって改めて喋ってみると案外陽気な人なのかもしれない。
眼鏡を掛けて、髪は整えられてて、如何にもお堅いって顔なのに。
というかその見た目で最後にだな付けるとか色々おっさんっぽいのギャップで笑えてくるからちょっとやめて欲しい。
「顔で判断するのも君の悪い癖かもだな。」
「あ^~、この顔すぐなんか喋っちゃう^~~~」
「....それで、君に渡したいものはこれだ。」
差し出してきたのは、謎の箱だ。
「私は、君に君自身を許してあげて欲しいんだ。」
そうやって開けられた箱の中には....私の古い仲間が大事にしていたペンが入っていた。
「......それを受け取れって言うんですか。」
正直私はこの時の顔を覚えていない、ただ、恐ろしい顔をしていたのは間違いなかったのであろう。
空気が凍り付いた。
魔王は倒したのに、闇が世界を飲む、そんな空気が客間を包み込んだ。
「....本物ではない、見つからなかった。
だが、これはあの子が最後まで大事にしていたものと全く同じもの、レプリカだが君が持つべきなんだ。」
「....帰ってください。」
「だが「いいから帰れ、貴方様は忙しいんでしょう。」
「....判った、だがこのペンはここに置いていく、気が向いたら開けてくれ、一週間後また来るからその時まで空いてなかったら回収しよう」
そう言って彼は客間から出ていった。
申し訳ない事をした。
仮にも一緒に戦った大切な仲間、彼は戦場には出なかったが、いつも私の事を気遣って人一倍私の事を見てくれていた。
そんな彼にあんな威圧的な言葉...正直自分に腹が立つ。
数か月経つのに、まだ立ち直れない。
そんな自分に
─────────
「ローシャ!おい早く上がってこい!ローシャ!!!」
「うるせぇ!こっちもこっちで手一杯なんだよ!お前が降りて俺を手伝え!!!」
「はぁぁぁぁ!?これ全部倒すとかお前正気の沙汰じゃないぞ!?適当に魔法瓶とか使って足止めして上がってこい!!!」
「さっきお前が使えって言って全部使わs───「危ない!」
一瞬の油断、仲間の方に気を取られたその瞬間、地面から突き出て来る魔物に俺は気が付かなかった。
俺を押し出し、生意気だったギルはその魔物に肉を裂かれて内臓をぶちまけた。
グロ過ぎだ...見てわかる即死だった。
その後私は訳も判らず戦ったんだ、ずっとずっとずっと戦ったんだ。
人は一瞬で死ぬ、私の所為だ、魔力に余裕がなかったわけではなかった。
だが魔王の事を考えて少し魔力を温存してしまった。
その判断が仲間を殺した、私が殺した、私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が
───────
ずっと後悔した、魔王を倒した後何度も死のうと思った。
でも...死ねなかった、あいつらが楽して死ぬなよって語り掛けてくるんだ。
お前は生き残れていいよなって、言ってくるんだ。
私があいつらを殺した所為で、あいつらは私にずっとまとわりつくようになった。
「....私に俺を許して欲しい...か、、、、許されるならもうとっくに....あいつらは私を許してくれはしないんだ。」
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