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闇鍋(短編集)

期末試験狂詩曲-その後

作者: Aihpos

友人どもでの持ち寄り企画

・「まあ、そうなるな」を序盤に含み、終盤に「ふぁっ!?何でや?」を含む事

・お題「付き合う30分前」

・登場人物はこれと同じです(同作者別作品への誘導)

https://ncode.syosetu.com/n2196er/

 期末試験を無事乗り越え、そして俺達には当然のごとく縁のなかった、ツタと煉瓦が印象的な球場で行われる風物詩が始まった頃。

『なぁ、今度の日曜、栄山神社の祭りでも行かん?』

 つい、勢いで送ってしまった。送った後に気がついた。そして、早速あいつとのラインに付いた、既読の二文字。送信取り消し機能を使うまでもなかった。


 当然と言うべきか、しばらく待っても返事はない。

「……まぁ、そうなるなぁ」

 そう呟いて、明日の練習のメニューを考える。


 翌日、練習を終え、更衣室で着替え終わり、荷物を教室に取りに行くと、そこに篠田がいた。ドアを開けるおとに気付き、こちらを見ると、アイツが話しかけてきた。

「あ、そうそう渡辺」

「あん?」

「そういえば、日曜、何時にどこ行けばいいんだっけ」

「ふぁっ!?何で?」

「いや、誘ってきたの、渡辺じゃん」

「まあそうだけどさぁ、本当に来るんだって」

「いやぁ、渡辺”くん”のお誘いとあらば、ねぇ?」

 そう悪戯っぽく笑う篠田の顔を見て、苦笑いが漏れた。こう言う時にしか見せない、相変わらずのわざとらしい”君”呼びにも、慣れたものと言うべきか。

「んー、部活が終わってから、って考えると、6時ぐらい?」

「オッケー、分かった」


 件の待ち合わせ当日、だだっ広い校庭で監督に散々扱かれた後。アスファルトが溶けるような暑さの中、途中のコンビニで買った氷菓を頬張りつつ、俺は駅への道を歩く。

「えっと、ここからは3駅ぐらい、だっけ?」

 駅の路線案内図と料金表を眺めつつ、ICカードの残額を思い起こす。

「えっと、足りたっけ?まあいいや」

 そう言いつつも、つい先日にチャージを済ませていたらしく、無事改札をくぐれた。いつもの癖で乗り間違えないようにしつつ、俺はそのまま、自宅とは反対方向の電車に乗る。

 車内放送の間の抜けたような声を聞き流しつつ、俺は窓の外をぼうっと眺める。三角形に骨組みが組まれた鉄橋を通って、電車が栗田川を越える頃。一つの考えが首をもたげた。

 急に外出の誘いなどして、あいつは迷惑じゃなかっただろうか。アイツの都合も考えてから聞けばよかった。

 そういえば、待ち合わせた時に怒られたのは、いつの日だったか。『ごめん、付き合わせて』とこっちが言ってから、少し不機嫌になったアイツの顔が思い浮かんだ。

 両頬を平手で軽く叩き、思考を打ち切った。このままの顔でアイツと会っても、また不機嫌にさせそうだ。

 再び外の景色を流し見ていた時に、ラインの通知音が鳴った。案の定、アイツからだった。全く、タイミングがいいのか、悪いのか。そこにはこう記されていた。

『ごめん、ちょっと遅れる』

 アイツらしくもない、どうしたのだろうか、とは思ったが、詮索はしないのが華と言う奴であろう。

『了解、待ってるわ』

 そう返し、すぐ返ってきたものは、アイツがよく使う、ペンギンのキャラクターのスタンプ。それが頭を下げていた。


 そんな事で時間が潰れたのか、気がついたら、栄山駅に着いていた。そして、駅舎の中にあるベンチに座り、一息ついた。そして、スマホを取り出した。

『こっちはついた。待ってる』

 そう送ってから、割とすぐに返事が来た。

『今電車乗った』

『オッケー、じゃあ後20分ぐらいかな?』

『多分』

 やり取りを済ませ、俺は駅の自販機でペットボトルのお茶を買いに行く。元のベンチに戻り、それをちびりちびりと口に含む。

 アイツが乗っているであろう電車のドアが開く。開いて目に入った彼女の姿は、予想外であった。

 慣れない服装のせいか、少しおぼつかない足元。

「おぅ、気合入ってんなぁ……」

「ごめん、待ったでしょ」

「んぁ?全然」

「……嘘だね」

「えっ……何で?」

 そう聞き返すと、彼女は少し困ったように笑って、俺の右手を指差した。

「そのペットボトル、そこで買ったものでしょ?もう飲み終わってるじゃん」

 そう言って彼女が指差したものは、俺がさっき飲んでいたペットボトルであった。

「いや、元から買ってたものかもしれないじゃん?」

「それならベンチの側の地面に水の跡はつかないでしょう?」


余談。最後にこの二行を足してもいいかもしれなかった

「えっ」

「だってそれ、そのお茶がまだ冷たかったって事だから」

ADVのシナリオにするならともかく短編だといらないかなって

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― 新着の感想 ―
[良い点] 日常の、ちょっとした一コマ / 上手く切り出したスケッチ とでも呼ぶべき風景が素敵です。 あえて夏祭りとか浴衣とか言った言葉を使わずに表現している点は、作品に合っていると感じました。 [気…
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