期末試験狂詩曲-その後
友人どもでの持ち寄り企画
・「まあ、そうなるな」を序盤に含み、終盤に「ふぁっ!?何でや?」を含む事
・お題「付き合う30分前」
・登場人物はこれと同じです(同作者別作品への誘導)
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期末試験を無事乗り越え、そして俺達には当然のごとく縁のなかった、ツタと煉瓦が印象的な球場で行われる風物詩が始まった頃。
『なぁ、今度の日曜、栄山神社の祭りでも行かん?』
つい、勢いで送ってしまった。送った後に気がついた。そして、早速あいつとのラインに付いた、既読の二文字。送信取り消し機能を使うまでもなかった。
当然と言うべきか、しばらく待っても返事はない。
「……まぁ、そうなるなぁ」
そう呟いて、明日の練習のメニューを考える。
翌日、練習を終え、更衣室で着替え終わり、荷物を教室に取りに行くと、そこに篠田がいた。ドアを開けるおとに気付き、こちらを見ると、アイツが話しかけてきた。
「あ、そうそう渡辺」
「あん?」
「そういえば、日曜、何時にどこ行けばいいんだっけ」
「ふぁっ!?何で?」
「いや、誘ってきたの、渡辺じゃん」
「まあそうだけどさぁ、本当に来るんだって」
「いやぁ、渡辺”くん”のお誘いとあらば、ねぇ?」
そう悪戯っぽく笑う篠田の顔を見て、苦笑いが漏れた。こう言う時にしか見せない、相変わらずのわざとらしい”君”呼びにも、慣れたものと言うべきか。
「んー、部活が終わってから、って考えると、6時ぐらい?」
「オッケー、分かった」
件の待ち合わせ当日、だだっ広い校庭で監督に散々扱かれた後。アスファルトが溶けるような暑さの中、途中のコンビニで買った氷菓を頬張りつつ、俺は駅への道を歩く。
「えっと、ここからは3駅ぐらい、だっけ?」
駅の路線案内図と料金表を眺めつつ、ICカードの残額を思い起こす。
「えっと、足りたっけ?まあいいや」
そう言いつつも、つい先日にチャージを済ませていたらしく、無事改札をくぐれた。いつもの癖で乗り間違えないようにしつつ、俺はそのまま、自宅とは反対方向の電車に乗る。
車内放送の間の抜けたような声を聞き流しつつ、俺は窓の外をぼうっと眺める。三角形に骨組みが組まれた鉄橋を通って、電車が栗田川を越える頃。一つの考えが首をもたげた。
急に外出の誘いなどして、あいつは迷惑じゃなかっただろうか。アイツの都合も考えてから聞けばよかった。
そういえば、待ち合わせた時に怒られたのは、いつの日だったか。『ごめん、付き合わせて』とこっちが言ってから、少し不機嫌になったアイツの顔が思い浮かんだ。
両頬を平手で軽く叩き、思考を打ち切った。このままの顔でアイツと会っても、また不機嫌にさせそうだ。
再び外の景色を流し見ていた時に、ラインの通知音が鳴った。案の定、アイツからだった。全く、タイミングがいいのか、悪いのか。そこにはこう記されていた。
『ごめん、ちょっと遅れる』
アイツらしくもない、どうしたのだろうか、とは思ったが、詮索はしないのが華と言う奴であろう。
『了解、待ってるわ』
そう返し、すぐ返ってきたものは、アイツがよく使う、ペンギンのキャラクターのスタンプ。それが頭を下げていた。
そんな事で時間が潰れたのか、気がついたら、栄山駅に着いていた。そして、駅舎の中にあるベンチに座り、一息ついた。そして、スマホを取り出した。
『こっちはついた。待ってる』
そう送ってから、割とすぐに返事が来た。
『今電車乗った』
『オッケー、じゃあ後20分ぐらいかな?』
『多分』
やり取りを済ませ、俺は駅の自販機でペットボトルのお茶を買いに行く。元のベンチに戻り、それをちびりちびりと口に含む。
アイツが乗っているであろう電車のドアが開く。開いて目に入った彼女の姿は、予想外であった。
慣れない服装のせいか、少しおぼつかない足元。
「おぅ、気合入ってんなぁ……」
「ごめん、待ったでしょ」
「んぁ?全然」
「……嘘だね」
「えっ……何で?」
そう聞き返すと、彼女は少し困ったように笑って、俺の右手を指差した。
「そのペットボトル、そこで買ったものでしょ?もう飲み終わってるじゃん」
そう言って彼女が指差したものは、俺がさっき飲んでいたペットボトルであった。
「いや、元から買ってたものかもしれないじゃん?」
「それならベンチの側の地面に水の跡はつかないでしょう?」
余談。最後にこの二行を足してもいいかもしれなかった
「えっ」
「だってそれ、そのお茶がまだ冷たかったって事だから」
ADVのシナリオにするならともかく短編だといらないかなって