蛇の神様
今回は挿絵(図)があります。合わせてお読みください。
「…それで、『Queen』に従わされたと?」
メドゥーは202室で目を瞑りながら言った。
「うん、コウがいなかったら危なかったよ。メドゥー、だから心配するようなことでは…」
ユキがまあまあ、とメドゥーを落ち着かせる。
だが、それはどうやら逆効果だったようだ。
「それだから心配するに決まってんでしょうが!何言ってる訳!?結局従わされてるんじゃない!ミラもミラよ、大人のくせに生徒止められてないし!」
メドゥーが怒りを露わにする。
「メドゥー、そこら辺でいいんじゃないか…?」
「何言ってるの、ナイフ!ミラは能力でそういう心を操る系の能力を防げるのよ!
生徒だからって相手は本気で学校支配しに来てるんでしょ!?ミラ!能力ちゃんと使いなさい!」
「ごめんね、つい油断して…」
「油断しないの!もう、これだからミラは子供に弱いんだから…ナイフ、今度からこういうことがあったらお守りで全員叩きなさい!」
「えっ、と…ああ」
コウが動揺交じりに了承した。ユキとミラはしゅんとして下を向く。
「全く!次こんなことがあったら、あたしは皆に自分の能力を…!」
そう言ってかんざしに手をかけた。
ユキとミラが慌てて、
「ごめんごめんごめん!メドゥー!絶対しないから!」
「あれ辛そうだからやめて…!」
と言った。
それを聞き、メドゥーはため息をついてかんざしから手を離した。
「まあ、みんな無事なだけいいわよ。とりあえず、今日行くんでしょ?港」
メドゥーが腕時計を見た。
現在時刻、夕方6時。もう日が暮れそうだ。そろそろ夏が来る。
「えっと…うん。なるべくなら今日行きたい。1週間は短いし…」
そう言ってユキは廊下を見た。廊下には何人か人がいた。
「どうしたんだい?フォーゼくん」
ミラに聞かれると、ユキは首を振って、
「ううん、なんでもない」
と言った。
「なあ、どうやって自然エネルギーの塊を回収するんだ?」
「どうやってって言われても…普通に倒すんだよ」
「自然エネルギーが無いと、あたし達死んじゃうから。奪うんだよ」
「それは分かるけど…それはそれで、寿命が縮まったとでも思えば…」
「甘いね」
コウに向け、腕を組み椅子に座るミラが緑の目を向けた。きらりと光る。
「甘い…?」
「うん、僕が好きなショートケーキよりもずっと甘い。
僕達がなんで自然エネルギーを集めてるか知ってるかい?
自然エネルギーを集められない小さな子供やお年寄りにプレゼントするのもそうだけど、最大の目的は、貯めてある自然エネルギーを使うことで能力が発動するからだよ」
「…どういう事だ?」
コウが首を傾げる。
「…ナイフ、あんたあんまり勉強得意じゃないね。ミラ、教師なんだから教えたげれば?」
メドゥーがミラに指示を出した。ミラは頷いて、ホワイトボードに絵を描き出した。ユキが黙って見つめる。
「まず、これが一つ一つの町だよ。その町は、自然にエネルギーを作り出してる。
それは「エネルギーの塊」になって、持ち運べたり、口にすることが出来る。それは知ってるね」
大きな横長の楕円形を描き、「町」と描いた。
「次に、この自然エネルギーが無いと使徒の子は生きていけない。ないと衰弱死してしまうからね」
小さな縦長の楕円を描き、「使徒の子」と描く。「町」から「使徒の子」にそれぞれ矢印を描いた。
「でも、自然エネルギーがありすぎると困るんだ。
使い切れないし、エネルギーの塊が保てるまでの期限もある。それに備蓄もした方がいいでしょ?
だから、奪うんだよ。自然エネルギーを使って。自然エネルギーを使うと、能力を使えるようになるんだ」
使徒の子から使徒の子に矢印が引かれ、赤いペンで大きな楕円が強調された。全ての矢印に赤い線がなぞられる。
「この赤いのが自然エネルギーの辿る道とでも思って。つまり、自然エネルギーは能力を使うのに必要だし、無いと死ぬし、期限があるんだ」
「まあ、あたし達が食べる食べ物と同じと考えていいんじゃない?実際1週間に一塊食べなきゃいけないからね」
メドゥーが口を挟んだ。その間にミラはホワイトボードの内容を消していた。
「しかしコウ、よくそれを知らないで生きてきたね…自然エネルギーのことについて知らなさすぎだよ」
ユキが聞いた。
「…元々Kの一族に属してたからな。あんまり気にしてなかったけど、自然エネルギーは集めてた」
「へー、元はライバルだったんだね」
ユキが感心する。この時時計のアラームがなった。午後6時半を指す。
「おや、こんな時間になったね」
「「奪いに行く時間」じゃない!」
「皆、準備は出来てる?身元がバレないように、普段と服装変えてるよね?」
ユキが全員に聞く。
ユキ、コウ、ミラは服装は昨日の夜と変わらないが、メドゥーはオレンジの長袖のインナーの上に黄色いセーターを着て、黄色と緑のチェックの巻きスカートを履いていた。
「おう!」「行こうか」「ええ!」
全員が頷く。ユキが扉を開けた。
「じゃあ行こう!悪い奴らから奪いに!」
ユキが大きな声で言った。ユキの目が光った。
午後8時。
もうこの時間では港に人はおらず、港から離れた都市部に光が集まっていた。メドゥーが小さく声を上げる。
「あーあ、もっとパーッと打ち上げいきたいのにー…」
「昨日行っただろ…ビールやらサワーやら何杯も飲んで…」
隣にいるコウが咎める。
「じゃあこれ終わったら打ち上げ行こうよー…」
「それはいいんじゃねえの?」
そう言ってユキを見るが、ユキは口に右手の人差し指を当てるだけで返事はなかった。
彼らが居るのは闇取引をしている男3人の10メートル上、コンテナの上だ。
聞かれたら隠れた意味が無い、ユキはそう言いたげだった。
「…フォーゼくん、間違いないよ。間違いなく、今取引が成立した」
先程から耳を澄ませていたミラが言った。
青いコンテナと赤いコンテナ、人が少ししか入れないほどの通路を挟んだコンテナに2人ずつで分かれているため、その声はユキにしか届かない。
「…突入してもいいかな」
「ああ、いいと思うよ」
ミラのその声を聞くと、ユキは反対側で下を見ているメドゥーとコウに合図を出した。
それを見てコウは青いお守りをコンテナの上に置くと、鉛筆を彼らがいる辺りに投げた。
「わっ!?」
「人はいないはずでは!?」
「おい!誰か、アイツらを…!」
その言葉を聞きつつ、月をバックにユキが腕を組んで叫んだ。それを見て、コウ、ミラ、メドゥーは下に降りる。
「この町はMの一族の支配下だ!そんな町の港でわざわざ自然エネルギーの取引だなんて、聞き捨てならないね!」
ユキはそう言うと黒猫に変身し、暗いコンテナの影に姿を消した。
「くそっ…Mの一族め…!」
自然エネルギーを受け取ったスーツの男が口からこぼした。そして、
「おら、お前ら!Mの一族がどこかにいる、探せ!」
と言って、走り出した。
逃げる速度が異様に速い。が、
「敵前逃亡なんて、馬鹿なヤツだなあ。出来ると思ったのか?」
コウが模様ができた青い目を光らせ、3メートル程の大きさのコンテナの上から男に鉛筆を大量に投げた。
10本は彼の行き先を阻み、2本はスーツを破き、残りは出鱈目な方向に飛んで行った。
「…!お、俺は!」
「俺は?」
「俺は『Run』だぞ!走るのが速いんだ!逃げないでどうする!」
「…知るかよ。マラソン選手にでもなっとけ」
コウが呆れて地面に降り、投げられたナイフを数本手にした。能力は解かれない。
「本当は好きじゃないんだが…餌食になってもらうぞ」
「ひっ、ひい…」
男は手にされたナイフを見て、みっともない声で「お前ら!こっちにも加勢しろ!」と大声で言った。
ユキを探している「アイツら」の半分が男に加勢する。それを見てメドゥーはコウがいた3メートルのコンテナにやってきた。
「あーらら、加勢されちゃってるじゃない」
「あっち行かなくていいのか?」
「大丈夫よ、フォーゼくんもミラも強いから。そんなことより、自分の心配したら?結構強そうよ?」
メドゥーが降り、コウを煽るように見つめた。
「大丈夫だっての。それに…ってあれ?」
コウは持っているナイフを加勢した「アイツら」に投げた。それを見て「アイツら」はサッと避ける。
「おめーのはもう見切ったんだよ!」
そう、「アイツら」はコウに1度敗北した奴らだったのだ。
「やっべ…」
コウはそう言って手に持ったナイフを投げた。が、それは避けられるどころか、彼らの武器になり、襲いかかってくる。
「ちょっと!どんどん投げなさいよ!」
「そしたらアイツらの武器になるんだよ!俺の能力が解けないから!俺は見切られたやつに弱いんだよ!」
「それは普通よ…まあ、見切られても強いやつはいるけどね。とりあえず投げるんじゃなくてそれで切りつけたら?」
「…そうするっ!つーか手伝え!」
コウはそう言いながら2本のナイフを使ってアイツらの内の1人を切りつけた。
その1人の衣服が破け、腕から血が出る。
コウが泣きそうな顔をした。だがそんなことお構い無しにアイツらはコウを追い詰めた。
『Yell』のお陰で攻撃力が増し、『Strong』により攻撃力がさらに増している。
そしてコウは力が増した『Bat』の男に頭を叩かれそうになった。
「…くっそ…!」
コウが小さく呟いた、その時。
「まー、新入りにしてはよく頑張ったんじゃない?」
黒いハイヒールをコツコツ言わせながら、メドゥーがかんざしを髪から抜き取った。
「あとは任せなさい、ナイフくん」
メドゥーの髪が根元から白くなる。
胸ぐらいの長さの髪は無数の白い蛇になり、シャーッ、とアイツらに威嚇した。
その髪を、模様ができた黄色い目のメドゥーが撫でる。コウはその光景を何事もなく見ることが出来た。
「…は?」
そう、何事もなく。
先程コウを倒そうとしていた奴らは全員、石化したのだ。
「すぐには解けないわよー。これで無理矢理砕くと、生身の状態で気絶して出てくるのよね。ナイフで砕いたら?」
コウは暗い夜の白い彼女を見て、身動きが取れなくなっていた。メドゥーが顔を近づける。
「あれ?ナイフくんには使ってないはずなんだけど…」
「…メドゥー、お前って…」
「あ、良かった良かった。完全にはメドゥーサじゃないから、術が中途半端なのよね。
まあ、人を殺さなくて済むのは嬉しいけど、能力を使ってない人にまで被害が及んでたら困るのよ…」
「…メドゥー、お前のその『Medusa』、どういう能力なんだ…?」
「うん?この能力?これは…」
顔を遠ざけ、ニッコリと笑った。
「頭の上にいる、目が合ったら石化させる蛇含め、全ての蛇を統一し、彼ら一人一人の能力をコントロールできる能力…」
メドゥーが撫でた白い蛇が赤い目でシャーッと威嚇した。この蛇が、石化させる蛇だ。
「言わば、蛇の神様よ」
「…やっ!」
ユキは人間の状態と黒猫の状態に交互に変身し、アイツらの半分を奇襲し倒していた。
そのうちの半分は、ミラが昔やっていた空手の技術を駆使して蹴り飛ばしていた。
「…あなたはこの前会ったね、『Pyrokinesis』だっけ?取引のために自然エネルギー集めてたんだ」
ユキが渡していた1人に詰め寄る。
確かにその男は、昨晩出会った『Pyrokinesis』だった。
だが分が悪いと判断したのか、
「チッ…『Sad』、やっちまえ!」
と残りの男に命令した。
その男は黒い目に模様を作り、目を光らせた。
『Pyrokinesis』の男が、勝った、と喜びの表情を浮かべる。が…
「悪いね、僕には物理攻撃以外を専用とする、使いずらい使徒の子がいるんだ」
という声が聞こえた。
『Pyrokinesis』の男が驚いてそちらを向くと、ミラがユキの前に立ち、手の平を突き出していた。
その手の平の先には、『Sad』の男がどんよりとした空気を出している。
「…お前、もしかしてあの『Mirror』か!?」
『Pyrokinesis』の男が声を荒らげる。ミラは模様が出来た緑の目を男に真っ直ぐ向けた。
「ああ。覚えて帰るといいよ。僕は『Mirror』。能力の発動が間に合えば物理攻撃以外をそいつに跳ね返す…つまり、反射させるのさ」
ミラはそう言って、メドゥーのようにニッコリ笑った。
「君は『Pyrokinesis』だよね?炎は反射できる。残念だったね?」
そして、声をわざと低くして、こう言った。
「絶対に、君たちは僕を倒せない」
おはこんばんちは。朝那です。
今回初めて挿絵使いましたけど、やっぱり私の絵は下手ですね。まあ図だし?ミラがホワイトボードに描いたものは果たしてゲテモノなのか神絵なのか…模範は置いておくので自分で想像してください。
さて、ここできっと誰かが言うでしょう。「メドゥーとミラの能力の詳細分かったけど、強すぎね?」と。はい。全くもってその通りです。実は今までアクション物書けなかったのは、アクション考えたり表現するのがとても苦手だからです。だからアクションパート異様に早く終わります。逆に、過去編とかは長くなります。元々感情がグネグネしているのを表現するのが好きなので。なので、アクションパートを見に来た人には申し訳ないです。
あとTwitter(@asana_writer__)始めました。くっそどうでもいいこととか小説のことを投稿してます。よろしくお願いします。では失礼。