クイーン・エリー
昼休み。
先生、生徒が利用する栗瓦高校にしかないカフェテリアでは、ほとんどの場合高校生がその場所を利用している。
中学生は弁当を手に教室をブラブラしているのが普通だ。ただ、その3人は周りに人を寄せつけずに、各々食べたいものを食べていた。
「…普通、こういう時ってうどんじゃないのか」
そのうちの1人、コウが話しかける。
「僕はそば派」
ユキが少しいらっとしたように答えた。
「な、なんで君たちそんなに怒ってるのさ…」
最後の一人、ミラが2人を伺う。
「…まさか、本当にミラだと思わなかったよ。でも、確かに前教えてもらった名前は宮地恭輔で、ちゃんとさっき能力も見せてもらった。ミラで間違いないんだよ」
「じゃあ、なんでフォーゼくんは怒ってるんだい?」
「…俺たち、傍から見たら今日初めて会った間柄だぜ?なのに一緒に飯食ってるし。それが問題だろ。他の人にどうやって説明すりゃいいんだよ…」
「僕としては、学校にいる間はフォーゼって呼ばないで欲しいんだけど」
「そうか…じゃあ、森井くんと桐宮くん、って呼べばいいのかな」
「…まあまだいいか。それで宮地先生、なんでこんな所に?」
コウが肘をついて聞くと、ミラは「行儀悪いよ、桐宮くん」と軽く叱った。
「…あなたは去年までは少し遠い町で体育教師をしていたはずです。でも、今年になってここに来た。何がありました?」
「…森井くんは、見知った人でも先生には敬語なんだね。いい子だ、メイクさんの教育がいいんだろうね」
ミラは窓を見て、昼練を開始した野球部を見つめた。塚崎がユキの知らない同輩にボールを投げる。ボールコントロールはとても上手かったように見えた。
「…元々、11月くらいに言われてたんだ、メイクさんに。
前の学校の付近で使徒の子が殺される事件が多発した。Mの一族でその地域にいたのは僕だけで、たとえその場に居合わせた使徒の子と共闘しても、そのあと使徒の子同士の闘いが始まってしまったら勝ち目がないって。
だからこの学校に来て、どうせならフォーゼくんがいるこの学校で、万全の体制で向かい打てって」
「…母さんが、そんなことを…」
「うん、だからここに来たんだ。あとは、この学校にはフォーゼくんがいるから、何かあった時のストッパーも兼ねてるだろうね。
僕は大人で、君たちは死んじゃいけない子達だ、やっちゃいけない範囲ぐらい分かるよ。まあ、今のところ特に何もなさそうだけど…」
「…そうだな…」
コウは少し考えたあと、あっと声を上げ、
「宮地先生、俺たちがいるクラスなんだけど…」
と言って、自分のクラスの違和感について話し始めた。
「…なるほど、4月の始めとは思えないほど全員の仲がいい、かあ…特におかしいことはなさそうだけど…」
「そうかもしれないが、もしかしたら感情を操作するとか、そういう能力を持つ奴がいるかもしれないだろ?」
「その可能性は無くはないけど、僕達のクラスに常に発動してるならもっと分かりやすいよ。
この学校の自然エネルギーは磨希森市が生成する自然エネルギーの1部じゃなくて、この学校の範囲内だけで生成されてる。
そしてそれはある人がずっと独占してるから」
そういってユキはカフェテリアを見渡した。
そして、小声で「コウ、宮地先生、あの人だよ」と言って、大きな人だかりの中心人物を指さした。
「…うわ、まじか…」
コウがドン引きする。
その人は、多くの女の子を引き連れつつ、長い金髪をなびかせて、青い綺麗な目に模様を作り、スタスタとある一点目掛けて歩いてきた。
「彼女はエリー・クィン。高校2年の先輩で、能力は…いや、とにかく目を見るな!」
ユキが小声で叫んだ。
「「目…?」」
コウとミラが同時に聞いた時、エリーはユキの背中から抱きついていた。
「あら〜、森井くんじゃございませんの!お久しぶりですわ、いつ以来ですの?」
ユキは目を瞑ったまま答えた。
「お久しぶりですエリー先輩。最後にお会いしたのは始業式の日です」
「あらー、そんなに前でしたのね!森井くんから会いに来ても良かったというのに…いつでも来てくださいな、お待ちしておりますわ!」
「待たなくていいです」
「ええー、あなたは私の彼氏ですのに…」
「違います」
「照れちゃってー!今日は新しい髪飾りを付けてますの、あなたにも見て欲しいのですけど…」
「エリー先輩の目を見ると先輩の能力にかかりますので」
「うーん、しょうがありませんわ。そこのあなた方、名前はなんですの?」
エリーはコウとミラを指さした。ユキは「2人とも、名前を教えちゃ…!」と言ったが、彼女が片手で口を抑えた。
「え?ああ…俺は桐宮洸太、こっちは宮地先生…です。初めまして」
とコウが言うと、
「そう!初めまして桐宮くん。早速だけど、『森井くんの目を開けて』?」
と言って、模様が出来た目でコウを見つめた。
だが、
「…はあ?何言ってんすか、エリー先輩」
とコウは怪訝な顔をして言った。
エリーはこの結果に驚いたのか、再度「も、『森井くんの目を開けて』!」と言ったが、コウは動かなかった。
「しょ、しょうがないわねえ…宮地先生?『森井くんの目を開けて』?」
彼女がそう言ってミラの目を見つめた。ミラは何も言わずに食べかけのきつねうどんの汁をユキにかけた。
「ん?な、なんかかかった!?生暖かい水!?」
そういってユキは目を開けると、目の前にニッコリと笑ったエリーがいた。
「あっ…先輩…」
「作戦成功ですわ!さあ森井くん、『この髪飾り、可愛いでしょう?』」
そうエリーが言うと、ユキは優しい笑顔で
「はい、とても可愛いと思います」
と言った。
コウが困ったように
「ゆ、ユキ…宮地先生…」
と2人の体を揺すった。
エリーは満足そうに、
「まあ、今日はこんな所にしておいておきますわ。
桐宮くんー…あなたが持ってるであろう「禁止のお守り」で2人に触れるといいですわ。
本当にたまにいるんですの、あの怠け者…禁止能力『Ban』からもらったお守りを持つ人…怠け者には会ったことありますけどね。
桐宮くん、名前覚えましたわ。ごきげんよう」
と言って、エリーは金髪を左手で払ってから去っていった。
コウはミラに青いお守りで触った。
ミラは夢でも見ていたように目を2回瞬きしたあと、「き、桐宮くん!ごめんね、うっかりしていたよ」と謝った。
そして、ユキに青いお守りで、左頬に触った。
すると、そのお守りが当たった部分だけ、ユキの肌が茶色くなったのだ。
ミラとコウは驚いて、ミラは席を立ち、コウはお守りを頬から離した。
ユキははっとして、
「2人とも…ご、ごめん、エリー先輩は『Queen』で、エリー先輩の願望だの共感だのを強行できる…ってあれ?どうかしたの?」
と言った。
ユキの頭の上にはてなマークが浮かぶようだったが、コウは「…ごめん」と無意識的に言った。
「うーん、エリー先輩の『Queen』が効かないんですね…」
少年は、カフェテリアで起きた光景をカフェテリアの上にある渡り廊下からずっと見ていた。
「これは中々厄介かもです…これじゃあ僕の能力も効かないかも…」
渡り廊下の手すりに腕をつき、うーん、と言って考える。
「まあ、先輩ほど能力が強いわけじゃないですけどね…困ったです…」
少年は手に持っているハードカバー用のブックカバーをなぞった。何回も読んだミステリー小説に付けた、大切なものだ。
「でも、これで自然エネルギー独占してる先輩がユキくんたちに倒されたら、僕もエネルギーを沢山使えるから、必然的に強くなるかも…?
今のままでも十分強いですけどね…」
少年はえへん、と胸を張った。ここでチャイムが鳴る。
「あ、チャイムです。…本、返せませんでしたね。放課後図書館行くです」
少年は持っていた本を廊下にわざと落とした。
そして、
「…ここ、どこです…?」
と呟いた。
先程まで模様ができていた茶色い目は今は模様はない。
拾った本を不思議そうな目で見る少年の本のブックカバーには、小さく「園田奏」と書いてあった。
おはこんばんちは。朝那です。
ところで前に「新キャラが出てきたらイメージカラーでも言う」と言いましたね。塚崎やミキのこと言ってませんね。まあ今言ってもバレへんバレへん!
というわけで、ざっと言っていきますね。塚崎は水色、ミキはオレンジ、奏は茶色、エリーは金、和子はグレーです。あくまでイメージカラーで、その色の服が好きなだけな場合が多いです。塚崎やエリー、和子なんかがそうですね。髪の色は多分茶色や黒ですが、目に関しては作中で言われてない限り黒の目です。ただし、森井家の皆様は赤い目です。
今回は短い!やったね!では失礼。