Mの一族
「な、なんでこんな所に…」
ユキはエネルギーの珠を持っていたバッグにしまうと、こういった。
「それはこっちのセリフだ。お前、Mの一族なのか?」
そういったコウをユキは睨みつける。
「…僕と闘うってんなら、容赦はしないけど。ただ、他のみんなには言わないで欲しいかな」
コウはキャッチしたお守りを見つめ、
「…いや、いい。俺はあまり能力は使いたくないんだ」
と言った。
「んー…でも、能力を使わないなら、どうやって生きていくの?」
「え?なんか問題あんのか?」
「ありありだよ!僕達使徒の子は、自然エネルギーを使わないとどんどん衰弱して死んじゃうんだ!
だから、一族で手を組んで、自然エネルギーを集めてるんだよ。知らなかったの?というか、コウはどこの一族なの?Mの一族ではないよね」
コウはそう聞かれると、困ったように笑った。そして、
「いいか、ユキ。俺は争いたくない。でも死にたくはない。ある程度のエネルギーは転校前に持ってたけど、そろそろ底をつきそうなんだ。どこの一族か教える。だから、見逃してくれ」
と提案した。
「いいよ、僕だって同級生と争いたくはないからね」
「そうか、すまないな…俺は、Kの一族だ。能力に関しては…言いたくない」
「…Kの一族…あの、海の向こうの島を縄張りにするって言う…なんで、こんな所に。あっちの方が居やすいでしょ」
「…なんとなく」
コウが右上を向いた。ユキは気づいていた。
「これから、どうするの?夜は危ないし、闘う気がないなら帰った方がいいよ」
「ああ、ちょっとでもエネルギーの珠を手に入れられれば、と思ったんだがな。大人しく帰るよ。でもどうすっかな、そろそろエネルギー無くなるし、衰弱死…んー…」
必死にコウは悩んでいる。その時、ユキはあることを思いついた。
「あっ!いいこと思いついた!コウ、着いてきて!」
そう言ってコウの右腕を引っ張った。
「ゆゆゆゆ、ユキ!それは着いてきてじゃなくて、引っ張られろだろー!!」
コウのツッコミを聞き流しながら。
「ここは…」
ユキは、コウを1つの建物の前に連れてきた。『森井塾』と書かれている。
「僕のお母さんが経営してる、個人塾。表向きは。裏はMの一族のアジト、みたいなものかな。2階分借りてて、1階にお母さんがいるんだ。それじゃあ行くよ」
「待て待て待て待て!」
コウは掴まれた腕を無理やり離した。
「Mの一族のアジトって、Kの一族の俺が行ったら殺されるだろ!大丈夫なのか!?」
「大丈夫だよ。前にもあったんだ、こういうこと。それじゃ、行くよー」
「ダメだろ!本当に…」
「僕を信じてよ。森井家はMの一族の頭領だよ?大丈夫大丈夫!」
「本当だろうな…」
「もし違ったら、僕を殴るといいよ。あと、狙われたりしたら、僕が君を守るから」
「…どうやって」
「あ、僕の能力、言ってなかったね。僕は、『Metamorphose』だ。どんなものにも変身できる。
基本的に黒猫になってるけどね。奇襲攻撃が得意なんだ、僕の蹴り見てただろ?」
コウは「なるほどなあ」とこぼした。その隙をついて、「じゃあ行こう!」と腕を引っ張った。
「ただいま、母さん」
ユキはコウと共に塾長室にいる40代の女に話しかけた。女は塾のテキストを棚にしまいながら、
「おかえり、フォーゼ。収穫はありましたか?」
と問いかけた。
「フォーゼ?」
コウが聞く。
「うん、ここでは能力名で呼んでるんだ。命が狙われても、その人の個人情報を探せないようにね。僕は長いからフォーゼ」
「…知らない声が聞こえますね、フォーゼ。誰ですか、その人は」
女がこちらを向く。驚いた顔をしていた。
「うん母さん、彼は僕の同級生…に今日なった子で、桐宮洸太くん。コウって呼んでる。
Kの一族らしいんだけど、能力を教えてくれないんだ。エネルギーが底を尽きかけてるらしいから、匿ってあげたいんだけど…」
「なるほど…とりあえず、洸太さん、初めまして。幸道の母の、和子です。能力は『make』ですわ。メイクとお呼びください。以後よろしく」
「よ、よろしくお願いします…」
(こんな喋り方の親、マジでいるんだな…)
コウはそう思いながらテキトウに挨拶した。
「しかしフォーゼ、さすがに能力が分からない人を置いておく訳にはいきませんわね。教えて頂けませんの?」
「…それは無理です。俺は、もう…」
コウが下を向く。
ユキはそれを見て、
「と、とりあえず、僕の部隊にいてもらってもいいかな?そうしたら、面倒が…」
と言った。その時だ。
「め、メイク様!大変です、この前エネルギーを奪った奴らが大勢で復讐しにこっちに…」
1人の男が、塾長室にやってきた。
ユキが、
「何人だ?ミュージック」
と聞く。ミュージックと呼ばれた彼は、
「フォーゼくん、ざっと10人は…!」
と答えた。
「10人…各個撃破すればいけるか…?とりあえず母さん、僕が行ってくるから。僕の部隊も今日はまだ来てないし。コウ、ここで待ってて。僕が…」
「いや、俺も行く。場所はどこだ」
「あっ、えっと…表の通りで…」
「ユ…フォーゼ。行くぞ」
「えっ、あっ、うん!」
コウが先に出発した。扉の前に立つと、喧騒が聞こえるのがわかる。
「コウ、どうやって勝つのさ!僕は奇襲攻撃しないと弱いって!ブーメランは持ってるけど、そんなに得意じゃないし…」
「奇襲攻撃じゃないと勝てないなら、外れたところで黒猫になってやって来い。俺が時間を稼ぐから」
「ど、どうやって…」
「まあ見とけ。行くぞ」
コウが扉を開けた。
「よーMの一族!」
「俺たちから奪ったエネルギーの珠返せー!」
「1番稼ぐやつは集団戦出来ないって知ってんだよ!オラ返せ!」
夜だろうと元気な奴らをコウが前にする。ユキは黒猫になり、2階のベランダでその光景を見ていた。コウが叫ぶ。
「ひとつ聞きたいんだが、お前ら以外の人間は誰もいないな?」
「あったりめーだろ!」
「なんだコイツ、かかれー!」
コウを囲んでいた敵がコウに向かっていく。守らなければとユキがベランダから飛び降りた、その時。
「なら…後悔するなよ」
コウはその言葉とともに、青いお守りを空に投げた。そして、持っていた鉛筆を一人の敵に向け投げた。
「へっ、そんなもんで俺たちに勝てると…」
敵の誰かがそう言った時、すでに投げた先にいた相手は血を流して倒れていた。左肩に、ナイフが刺してあった。敵の勢いが止まる。
「覚えておけ。Mの一族に、こういう奴がいるってことを」
そう言って、鉛筆を敵に見せつけた。
「お、俺たち、そんなに能力強くねえんだぞ…」
そう言って、敵は逃げていった。元の姿になったユキが近づく。
「…コウ、君の能力は…」
コウは、模様が出来た青い目を夜空に向け、お守りをキャッチした。
「…ばらす気なかったけどな。俺の能力は、『Knife』。投げたものを全てナイフに変える能力」
そして、敵が逃げた方向からユキの方を向いて、
「…だ」
と、悲しそうに笑った。
おはこんばんちは。朝那です。
1話を投稿した2時間後に投稿しています。理由として、1話目を見て「次ないなー」って言って読む人がいなくなるのを防ぐためです。…防げるといいですね。次は来週の月曜日に投稿します。
ところで、普段JKとかが使う(偏見)テキトーと、漢字で出てくる適当、違いを皆さんご存じですか?意味は真逆なんです。ただ、会話文以外でテキトーを使うのはちょっと感じが変なので、テキトウとしました。なので、適当とテキトウ、使ってる時は察してください。テキトーに新しい漢字当てろよぉ…では失礼。