プロローグ「消えない炎」
なんとなく書いてみました。よろしくお願いいたします。
ある男が遺した言葉がある。
「──尽きぬ欲望。それこそが人の罪だ」と。
戦火によって全てを喪った少年の心には、そんな復讐心に似た何かが芽生え、彼は決意した。
──戦争を止めてやる。
およそ二十年の歳月を経て、少年は一人前の男になった。
なお、それでも彼の願いは成就せず、達観に似た諦念を抱き始めた頃、ある天啓が舞い降りる。
──人が死ななければ、何も喪われないはずだ。
男が考え出したのは人工的な不死。
肉体を限界まで改造し、機械化し、朽ちぬ身体を作り出すこと。
さらに脳の一部を切り取り、そこにより高度な演算装置を取り付け、肉体に合わせたグレードアップを施す。
極めてシンプルな理論だが、その難易度は高い。
超えねばならぬ壁はいくつもあった。
資金、生命倫理、社会の常識、法律、技術、エトセトラ。
それでも、男は成功を信じていた。
あるいは、すべてを失ったあの夜に、炎に舐められ絶命の声を上げる家族を見たその瞬間から、彼は狂っていたのかもしれない。
さらに、四十年。
ある寒い日の朝、彼は志半ばにして誰にも看取られることなく孤独に死んだ。
後に発見された彼の手記によると、胸を焦がす戦争への憎しみは、度重なる改造によって己の記憶が失くなろうと死の間際まで消えることはなかったという。
彼の亡骸はおよそ人とは思えぬ姿をしていたとか。
天涯孤独の彼の実験を引き継ぐ狂人は居らず、不死化計画は彼の死によって立ち消えた…………かに思えた。
彼の死後五十年経ったある日、全世界へと発表されたソレは、紛れもなく彼の研究を発展させたものだった。
しかしながら『戦争を終わらせて、何も喪われない世界を作りたい』という、その一心で始められた研究は、その本来のあり方を歪めて世界に伝播した。
だが、ある意味ではその大願は成就したと言えよう。
なぜなら──。
──“人”の死なない戦争が始まったのだから。