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内情

 

 

 

 (居た…!彼に間違いない!…良かった。食事中だったのか)

 幸いなことに食堂には目的の彼と、部下らしき若い魔術師の二人しかいない。クーンツにとって非常に好都合だった。奥のテーブルについた一人の王宮魔術師。彼の顔を見た瞬間、すぐに彼の影を探した。

 

 椅子の下に燭台の光によって彼の影が伸びている。魔術師の制服のローブの影。注意深く観察するが、本人自身の影だった。それを見てクーンツは、ホッと安堵した。

 言伝を頼んだ若い魔術師が、クーンツがもくした人物に近づき、小声で話しかけている。

 

 若い魔術師が自分の事を伝えたのだろう。顔を上げるとこちらを見た。怪訝な表情だ。

 

 (流石にこちらの事は憶えていないか。お互い王宮を出入りする身分だが、接点なんてあんまりないからな)

 

 それでも彼はこちらをじっと見つめたまま、記憶を呼び起こすような表情を続ける。ふと、何かを思い出しかけたような眼になる。

 時間が惜しい。クーンツは相手が思い出すのを待っていられなかった。

 

 (待っていられない。構うものか!)

 

 無礼を承知で食堂に入り、彼の顔を見つめたまま近づいていく。断りなしに入室したクーンツに少し驚いた表情のまま、彼もまたクーンツの顔を凝視する。

 

 突然、彼の表情が変わる。…激変と言って良いくらいだった。驚愕の余り余り眼球が眼窩から飛び出さんばかりになった。

 

 (思い出したようだな…それにしても、”あの時”とおんなじだな。非常に分かりやすい。魔術師というのは、もっと狡猾で食えない奴ばかりだと思っていたが…あれじゃ三歳の子供より感情を隠すのが下手だぞ)

 

 クーンツとプアニの様子を見て、見習い魔術師は気を遣うかのように、慌てて席を外す。足早に食堂から姿を消した。内密に話をしたかったクーンツにとっては好都合だった。

 パニックに陥っている王宮魔術師にクーンツは気にせず話しかける。

 

 「王国軍第三騎士団分隊長を務めるクーンツと申します。急な無礼をお許し頂きたい。どうしてもお伺いしたい事があって参りました…そこで大変失礼なのですが…先ずは貴殿のお名前を教えて頂きたいのですが」

 

 礼を失しているどころの騒ぎではない。”どうしてもお伺いしたい事がある”と言った割に、名前を知らぬから教えてくれと言っているのだ。

 ただ、クーンツの有無を言わさぬ圧力に、王宮魔術師は完全に屈していた。言い返すことも無く、震えながら自分の名を名乗った。

 

 「お、王宮魔術院所属の王宮魔術師、プアニと申しますが…騎士団が、わ、私に一体何の用ですかな…?」

 

 「プアニ殿か…なるほど。それで、プアニ殿。一か月ほど前、貴殿とケーア様が立ち話をしていた件で伺いたい事があるのです」

 時間が無い。クーンツはどんどん切り込んでいった。この哀れな王宮魔術師は震え上がっている。余裕を与えずに畳み込んでいった方が、真実を話すだろう。

 「…確かに話してはおりましたが…」王宮魔術師の表情は相変わらず上ずっている。

 「大変失礼ながら、ケーア様をお迎えに行った時、私の耳に話の一部が入ってしまったのです」

 「……」

 「その事が、現在、オーク討伐隊に置かれている状況と関係があると思われるのです」

 「……」

 「あの時ケーア様と話していた貴殿は、今と同じような表情をされていました。目玉が飛び出しかねないくらい顔を引き攣らせておられた」

 「……」

 「教えてください。なぜ、魔術師ヴェホラは王宮魔術院の職を辞して、王国を出奔されたのですか?貴殿のあの時の表情…何か重要な理由があったのではないですか?」

 

 クーンツの眼を凝視しながら震えるプアニ。”言って良いものか、言わない方がいいのか…”そんな心の中のせめぎ合いが見え隠れした。

 

 (プアニの知っている情報は、王宮魔術院の中で噂になっているたぐいのものか?もしそうなら他の魔術師に聞いた方が早いか?いや、ここまで来たら、プアニ殿から情報を引き出した方が良い。この顔だ。他にもいろいろ知ってそうだ)

 

 そう思いながらプアニの顔を鋭く見つめ、何か言うのを待つ。プアニは陥落寸前だ。クーンツには自信があった。

 

 「い、一体何の話ですかな…」プアニはクーンツの視線から逃れるように、下を向き眼を逸らしながら答える。ダメだプアニ殿!下を向いてはいけない!飛び出した眼球が床に落ちてしまう。

 

 「隠すのはやめて頂けますか?私には貴殿が何か重大な秘密を知っているのが分かります。教えて頂けますか?」

 「ケ、ケーア様が私に尋ねた内容ですかな?」

 「そう。その事です。私はケーア様が、貴殿にヴェホラが王国を出奔した理由わけを尋ねた。その時あなたは今と表情をされ、答えるのを拒まれた」

 「そ、それは…」

 「王国火急の件に関わるのです。教えていただけますでしょうか?」

 「…」

 「教えて頂けますね?」クーンツは強い態度に出た。プアニは観念したように話し始めた。

 「噂…あくまでも噂ですぞ?王宮魔術院と王宮内の一部の人間しかしらない噂…」

 「分かりました」

 「私の口から口外したというのも伏せて欲しい。御約束してくれますか?」

 「大丈夫です。口外する様な事は致しませんから」クーンツは誠実そうな表情を作り頷いた。横で聞いているデファンも、紳士然とした態度で頷く。

 二人の態度を見たプアニは絞り出すように言葉を発した。

 

 

 

 「実は…前国王殿とヴェホラ殿は…密かに逢瀬を重ねていたのです」

 

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