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謁見 2

クーンツはデファンと囁き合うと、改めて望楼からこちらを見下ろす連隊長と目を合わせた。とにかく城門内に入らないと話にならない。しかも早急にだ。

 

 「バドサ連隊長殿!国王殿の御食事を邪魔するのは心苦しいのだが、時間が無いのです。至急お伝えしたい事があるのです!開門して下さらぬか!」

 「そこまで火急とは穏やかではないな。ならば、まずは我にその内容を申せ。我が国王殿にお伝えする!」

 

 (なんなんだ…なぜ邪魔をする…ヴェホラの仕業か?それとも連隊長の元々の性格か?)

 

 連隊長の性格の悪さは王国軍中で知れ渡っている。自分の威厳を見せつける為に下らない妨害や邪魔だてをするのは日常茶飯事だった。

 故にクーンツは、連隊長の態度が彼本来の””なのか”操られているからか”の判別がつかなかった。どちらにせよクーンツの焦燥は加速した。痺れを切らしてクーンツが、強い口調で連隊長に反駁しようとしたその時だった。

 

 「バドサ連隊長…何の騒ぎか?」

 

 連隊長の背後に新たな人影が現れた。大柄ながら引き締まった体格。落ち着きのある深い声。その声を聞いて連隊長は飛び上がらんばかりに驚き、背後を振り向き、そこに立つ人物に大慌てで敬礼をする。

 

 「師団長殿!どうなされましたっ!?」

 

 威厳とは名ばかりの安っぽさ満載の連隊長と違い、周囲を圧倒する雰囲気を身に纏った人物。ハーシュ王国近衛師団師団長ロマーノ・オラベリアがバドサ連隊長を鋭い視線で射貫いていた。

 

 クーンツとデファン、一緒に付いてきてくれた追跡者隊隊員も慌てて下馬すると、深々と敬礼した。

 連隊長の前では、『火急の用』として下馬しなかったが、騎士団で分隊長を務めているクーンツであっても、近衛師団師団長など雲の上の存在だ。騎乗したままという無礼を咎められればどんな罰を受けるか分からない。

 

 「師団長殿…なぜ、このような場所までおいでになったのですか?」連隊長は冷汗三斗れいかんさんとだ。自分の安い威厳を誇示するために階級が下の者に嫌がらせをしていたのだ。本人にもその自覚があったのだろう。

 

 「なに、少しばかり巡回をしていただけだ。そうしたら城門の辺りで大声が聞こえて来たからな。様子を見に来たのだ」

 「師団長殿が気になさるようなことではございません!わたくしで処理致しますので。お気遣いなくっ」

 連隊長は必死で取り繕う。そんな彼を無視して、オラベリア師団長がクーンツの方へ顔を向けた。

 

 「そなたらは…国王殿の命を受けたオーク討伐隊の者だな。伝令か?」

 「はっ。伝令と言いますか…オーク討伐作戦に関して、国王殿に至急御報告したい事がありまして参上致しました」

 「名を名乗れ」

 「失礼いたしました。わたくしは、第三騎士団分隊長のクーンツです」

 「クーンツ…知っておるぞ。上官は討伐隊長でもある騎士団団長ジョナス殿であったな」

 「はい。その通りであります」

 「特別参謀として、”神の遣わし子”ケーア様とユメカ様が随伴されていたな」

 「おっしゃる通りでございます」

 「なるほど、それで火急の用とは?」

 「…出来ましたら、国王殿の前で直接ご報告したいと思っておりまして…」

 「なるほど。重要そうだな。それは構わぬが、軍事作戦の話ゆえ我も同席させて貰うぞ?」

 「はっ。もちろん問題ございません」

 「よし!それならば問題なかろう。…城兵!開門だ!」

 「はいっ!」

 

 城兵が弾かれたように動き出す。連隊長はその場で身体を小さくしているだけだ。さっきの傲慢な態度が嘘のようだ。クーンツは師団長の影を観察する。彼の影は本人と全く同じ姿だ。その影は彼の傲然たる態度を忠実に模していた。どうやら彼はヴェホラに操られていないようだ。

 

 (よし。次は国王殿だ。国王殿が魔法に掛かっているかいないか、それによって報告の内容を変える。下手は打てない。慎重に行くぞ)

 

 少しづつ開かれる巨大な城門を見つめながら、クーンツは国王に何を言うべきか、心の中で何度も予行演習を行った。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 厩務師に軍馬の世話を頼むと、クーンツらは急ぎ王宮内に足を踏み入れた。薄暗くなり始めた城内を、多くの女中が忙しそうに据え付けの松明や燭台に火を入れている。

 小走りに走り回る女中達の足元に伸びる影。どれも問題ない。ブラウスにスカート、頭部の三角巾…落とす影は、その姿を忠実に表している。

 

 クーンツは思わず安堵の溜息をつこうとしたが、一人の影を見た時、その溜息は途中で止まってしまった。

 若く可愛らしい女中たちの働きぶりを、腕組をしながら鋭い視線で監視する、猛禽類のような眼をした中年の女中長。その彼女が落とす影が、ローブを着た女性の影だったのだ。

 

 (女中長。彼女もヴェホラに操られているのか。…確かに彼女を操ることが出来れば、前国王の病床まで刺客を引き入れるのは劇的に楽になるだろう。本当に抜け目がないな。ヴェホラ…)

 

 クーンツ達は、鷹のように鋭い眼つきで観察されながら、彼女の横を通り抜けて国王がいる食事の間へと向かった。

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