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ヴェホラ 2

 「…だから黒の邪神が目覚めて暴れたところで、別の神がそれを封じるのは間違いない。だが、それは速やかに行われるわけではない。邪悪な力が発動し、それを防がんとする力が働くまでに少し時間が掛かってしまう」

 「なるほど。べつの神が黒の邪神を封じる前に、おうこくは焦土となってしまうということか」

 「その通りだ。だからこそ、黒の邪神を目覚めさせるような召喚の儀式は防がなくてはならないのだ」

 

 「話は分かった。ヴェホラという魔術師がぜんこくおうと何らかのカクシツがあり、その結果、国王のいのちだけでなく、王国への復讐のために黒の邪神をトきハナとうとしているのだな」

 「そのとおり」

 「とうばつたいが、われらをおそったのは、われらが神具、”あいおんの像”をうばう為だな」

 

 「いや…そこが疑問なのだ」クーンツは少し困った顔をした。

 「どういうことだ」

 「我らは、現国王ハーシュ七世殿からオーク討伐の命を受けた。だがその目的は、オークの居住地にある鉱物資源としか聞かされていないのだ」

 「なるほど…ちなみにその現在国王である七世は、そくいしてからどれくらい経つのだ?」英俊は少し思う所があって、少し違う角度の質問をした。

 

 「ん?…まだ半年だが?」

 「前国王のろくせいは偉大だったのか?おぬしらの感想では?」

 「ああ。それはそうだ。王国民も六世殿には尊敬の念を持っていた」

 

 (もしかして…)英俊は考える。

 

 「七世は、いまおいくつだ?」

 「…?御年おんとしか?先日、十七歳になられた。前国王殿が二十五歳の時にお生まれになった」

 

 (六世が崩御されたのが四十二歳か。前の世界基準では少し若いな。この世界ではどうなのかな…反抗期の終わったばかりの十七歳…まだ若さの残る父親に対抗心があったのか?)

 

 「現国王の七世は、そくいしてから父のせいさくをおおきく変えようとしなかったか?」

 

 「なるほど、”偉大な父を超えたい息子”って事か。その点、我とシャルディニーもよく分からないのだ。知ってるかと思うが、貴殿らオーク一族と不可侵状態を指示したのは六世殿だ。大きな改革をみせたい。過去を変えたいという意思表明には最適かもしれんな」クーンツは察しが良かった。

  

 「そう。それを言いたかった」

 

 「確かにそう言ったことも可能性の一つとして有り得るのかもしれん。だが、七世殿が無理な背伸びをして国政を行うのは少し疑問なのだ。七世殿は、父親である六世殿に敬愛と尊敬の念を示していたはず。幼少から七世殿に仕え、近くで見ていた我々を欺いて、御自身の内に秘めている本心を隠していたというのは、少し考えられぬのだ」

 

 クーンツは一息つくと話を続けた。

 「新国王即位の証が欲しくてオーク討伐の命を下したのだろうか。そして偶々《たまたま》それを知ったヴェホラが、七世殿に言葉巧みに近づきオーク討伐にかこつけて貴殿らの神具”アイオンの像”を奪取を目論んだのか。…ヴェホラが七世殿を利用した…いや…それはいくら何でも荒唐無稽すぎる」

 

 「魅了ちゃーむの まほう かも しれません な」

 話を聞いていた”深い川底の魚”が呟いた。

 

 「魅了チャームの魔法?他者を意のままに操る低俗な魔法か。ああ、有り得るかもしれない。だが魅了の魔法を掛けられた人間は、どこか不自然な部分がある。七世殿にはそのような振る舞いは無かったはず。それに魅了の魔法を掛けられたのなら、魔力の痕跡が残り他の王宮魔術師が気づくはずだが…」

 クーンツはまくし立てた。

 

 (そうか。ここは剣と魔法の世界。ゲームで出てくる人心を操る魔法も存在しているのか)英俊は納得した。だが、その魔法は完全ではなく不自然な部分があるらしい。

 

 (妙にリアリティがあるな。魔術は凄いけど万能ではないのか…)

 英俊がそんなことを考えていると、”深い川底の魚”の声が脳内に響く、クーンツに伝えて欲しい事があるようだ。慌てて集中を取り戻し、彼の言葉をクーンツに伝える。

 

 「われらオークのジュジュツシである”深い川底の魚”が言っている。『おぬしらは、しろにモドり現国王と謁見する予定なのであろう?』と」

 その言葉を聞いて二人は頷く。二人が頷いたのを見て、英俊は”深い川底の魚”から託された言葉の残りを伝える。

 

 「えっけんする際に、これから”深い川底の魚”がわたすユビワを嵌めて行ってほしいのだ。コクオウはまだお若いので、げんわくのまじゅつにかかりやすいのかもしれない。ゆえにマリョクの痕跡をノコサズとも、”魅了ちゃーむ”のマホウに掛かってシマッテいるのかもしれない。コノ指輪は、人心ヲ操る魔法にカカッているかアバく力があるのだ」

 

 英俊がそこまで話し終えた時、”深い川底の魚”は、指に沢山嵌められている指輪の一つを抜き取ると、クーンツの前に差し出した。古びてくすみ、装飾や彫刻もされていない何の変哲もない金属製の指輪。

 

 クーンツは訝し気にその指輪を受け取り、それを指に嵌めようか迷った仕草をした。オークの呪術師にいきなり指輪を渡されて、その言葉を信じてよいのか逡巡しているようだった。

 

 「われ を じんじて くれまいか ? だまし など しない」

 

 彼の態度を見て、”深い川底の魚”が指に嵌めるように促す。その言葉で覚悟を決めたのか、クーンツは薬指に指輪を通そうとし…それが小さすぎて嵌らないため、小指に嵌めなおした。それでも指輪は指の根元までは届かず、第二関節の途中辺りで止まってしまったが。

 

 「かれは言っている。『謁見のとき、コクオウの背後にチュウイしろ。ちゃーむのマホウを掛けた者のカゲがみえるはず』と」

 英俊の言葉に、

 

 「分かった」

 クーンツは短く答えた。

 

  そして、掌を拡げて指輪を興味深げに見た。少し間があった。何か考えを整理しているようだった。その後、話し始めた。

 

 「話を整理したい。ヴェホラは儀式のために必要な”アイオンの像”を奪おうと、現国王殿を魔術で操りオーク討伐の命を出させた。いや、七世殿自らの御意思を知り、その計画を利用したのかもしれない…そして、”アイオンの像”を奪取に失敗した。推測だが、像を再奪取しても、もう儀式には間に合わないらしい。なぜなら彼女は”アイオンの像”を使う事を諦めて、もう一つの方法、人間の魂を使う手段に切り替えたからだ…」

 

 (そうだ。デファンが聞いた言葉。『肉体が滅んでも、”魂”はまだ利用できる』。どういう条件か知らないが、啓亜の魂は召喚の儀式に利用できる価値のあるモノなのか?それは一体どんな儀式なのだ?)

 

 思わず英俊はクーンツの話に割り込んだ。

 

 「すまぬ。そのギシキでタマシイが必要なことについて、ほかになにかシッテイルことはナイカ?」

 「我も詳しい事は分からぬが、皆が知っている古い言い伝えの中に、『黒の邪神との”魂の取引”』というのがある。恐らくこれのことであろう」

 例の古い言い伝えに説明があるのだろう。英俊の問いにクーンツは即答した。

 

 「その”タマシイのとりひき”について…もうすこしクワシイことはしらぬか?」

 

 英俊の言葉に、クーンツは何かを思い出したのか突然ハッとした顔になる。

 「そうか…!『選ばれし男女二つの魂』だ…”神の子ケーア様”の魂が奪われたとなると…当然もう一つの”選ばれし魂”は…!」

 「もう一人の”神が遣わし子”。ユメカ殿だな!」横にいたシャルディニーが叫ぶ。

 

 クーンツは、英俊の言葉によって恐ろしい事実に気が付いたらしく声を震わせた。

 

 (思わぬ展開になったな。粟國の”魂”も、”死穢の禁呪”の儀式に必要なのか。だが、粟國はさっき、騎士団の生き残りと共に脱出したはず)

 

 「シャルディニー…。これはまずいな。ユメカ殿が危険だ…前国王殿は、呪いの他に、継続毒によって体を蝕まれていた。警戒の厳しい王宮、しかも国王という最重要人物に毒を盛る事が出来るのは…」

 「”毒牙”か?ヴェホラは奴らと結託していると?それならば、奴らがこの辺りに潜んでいる可能性もあるわけか…」

 「というと、やはりオーク討伐を画策したのヴェホラという事になるのか…?」

 

 シャルディニーの表情は曇った。英俊は二人の話に置いてかれ、慌てて質問をした。

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