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対話 1

 巨大な戦槌を持った筋骨隆々のオーク、沢山の首飾りや腕輪、指輪を付け、更には腕と顔に民族的な紋様の刺青を施した年老いたオークの呪術師。そして中央には、大柄だが引き締まった体型をし、この場を支配する様なオーラを発している、目つきの鋭いオーク。

 

 (そうか。この目つきの鋭いオークがリーダーか。すると、こいつがケーア様を倒したのか…)

 

 クーンツはオークのリーダーを観察し続ける。

 

 (確かに。…強そうだ)

 

 ポツンと、彼は思った。正々堂々の一騎打ちでオークのリーダーが勝利しケーア様を倒した。だから、クーンツには、彼に対して憎悪の感情は浮かばなかった。そのあたりは、戦闘を重ねてきた戦士達の共通した感覚だった。

 

 オークのリーダーから眼をずらすと、デファンが立っているのが視界に入った。オークに囲まれているのに、相変わらず落ち着いた雰囲気を崩さなかった。

 

 デファンと眼が合った。

 

 『分隊長殿、問題ありません。落ち着いて対応してください』

 

 彼の眼が、そう語り掛ける。

 

 『分かった。大丈夫だ』

 

 彼の眼を見ながら、クーンツも眼で返答すると、改めてオークのリーダーに向き直った。

 

 「貴殿がオークのリーダーだな? 私は、ハーシュ王国オーク討伐隊所属、第三騎士団 騎兵分隊長のクーンツだ。現在討伐隊の隊長を務めている」

 

 オークのリーダーはクーンツの言葉を受け、こちらを一瞥すると口を開いた。

 

 「くーんつブンタイ長か。承知した。われの名は、この地のオーク一族をひきいる、ひゃくにんたいちょうだ」

 

 驚いたことに、少し話しづらそうではあったが、恐ろしく滑らかに人間の言葉を話しだした。クーンツの想像以上だった。

 

 「……百人隊長。勇猛な名前だ。ところで、百人隊長殿…我ら討伐隊に、降伏勧告ではなく、別の話があるという事らしいが…。この状況で、それ以外の話があるとは思えないが、一体、話とはなんだ?」

 「その話のけんだが、そのまえに…おぬしら人間たちは…先ほど、きょうりょくな魔りょくの波動を感じなかったか?」

 「ああ、討伐隊の歩兵総隊が撤退した後の事だろう。確かに感じた。かなり強い波動だったな。そちらはもう知っていると思うから言うが…」

 

 そう言いながら、クーンツはオークシャーマンの方をチラリと視線を走らせた。『魔術』『呪術』、名称や部族が違っても、結局、それは王国では『魔法』と総称されている。

 そして魔法のスキルを持つ者同士は、その存在を互いに認識しあう。敵味方関係なく。魔術師は常時、無意識に僅かながら魔力を放出しているらしく、それを感応しあっているらしい。

 

 なので、オーク側に呪術師という名の魔術を操る者が居れば、討伐隊に魔術師がいるかどうかは把握済みのはずだ。それを踏まえてクーンツは話を続けた。

 「討伐隊には魔術師はいない。魔法を操れる者は一人も従軍していない。だから討伐隊の誰かが魔術を使ったわけではない。なのでこちらは、オークの誰かが魔術を発動したのではと思っていたのだが」

 

 オークシャーマンは、こちらの顔をじっと見ながら耳を傾けていた。彼もまた、ある程度は人間の言葉を解するようだった。その表情を見れば、それは明らかだった。

 クーンツが話し終えると少しの間押し黙ると、何かを確認するように百人隊長の顔を見た。

 クーンツは、『オークは”心で意思疎通できる”という人間にはない能力』を持っている事を知っていた。だからオークシャーマンと百人隊長が顔を見合わせているのも、心の中で会話しているんだという事が分かった。

 

 どうやらオークシャーマンは、クーンツが言った内容を百人隊長に確認しているようだった。そんな雰囲気だった。そう考えるとオークの中では高い知能を備えているオークシャーマンよりも、戦士たるオークのリーダーの方が高い言語能力を備えている事になる。クーンツは改めて意外な気持ちに捕らわれた。

 

 オークシャーマンはこちらに向き直ると、ゆっくりと一言づつ区切るように言葉を発した。

 

 「われ の な は ふかいみずぞこのさかな だ。おぬし の いうとおり にんげん たち に まじゅつ を つかう もの は いない ことは しっておる」

 

 そこまで伝えると、オークシャーマンは百人隊長の顔をじっと見た。自分の会話が遅すぎる事を気にしたようだった。百人隊長は、彼の顔を見るとひとつ頷くと、その後を引き取った。

 

 「彼…”深い水底の魚”は、こう言っている。”こちらには、呪術…魔術を使える者が何人かそんざいする。だが誰も魔術を発動したものはいない。それはだんげんできる。おークのジュジュツは、人間たちのつかうまじゅつとは、似ているがすこしちがう。あれはおーくのつかう呪術ではなく、にんげんがつかうまじゅつのちからだった”と」

 

 「なるほど分かった。それでは、その魔術の波動は、討伐隊ともオークとも違う、誰か別の者によるものが発動させた。そう言いたいのか?」

 「そうだ」”百人隊長”が応じる。

 「一体誰が?」

 「そのことにかんけいしているのか分からぬが、貴殿らのしきかんの遺体についてだが…。死地から蘇った、そこにいるでふぁんのはなしがある。それはかなり、意味深い情報のようだ。われわれもまだ聞いてはおらぬ。この者が、ぜんいんに聞いてほしいと言っておった。なので、いま、この場があるのだ」

 

 そう言いながらデファンの方を見る。デファンは”百人隊長”を見返すと、軽く頷いた。

 

 「それでは、話を始めても?」デファンも了解を求めるような視線を送る。”百人隊長”は頷いた。それを見て、今度はクーンツと視線を合わせる。

 

 「分かった。話を聞こう」クーンツもまた頷いた。少なくとも討伐隊の命運はデファンの話を聞いてからでも遅くはなさそうだった。

 

 「では…皆さん、話を始めます。聞いて欲しい。私、デファンはオークの狙撃により、額を撃ち抜かれ、生と死の狭間の世界へ送られました。その世界は…」

 

 デファンが良く通る声で話し始めた。

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