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脱出路 2

 従兵の強い言葉にクーンツは、思わず相手の顔を見つめ返した。クーンツの以外にも他の従兵が控えている中で、上官批判に等しい暴言に近い言動。

 …その言葉を聞いても周りの従兵達は沈黙を守っている。だが、その沈黙には、暴言を吐いた従兵に対して、どこかかばうような…いや、同意する空気を醸し出していた。

 

 反射的に従兵を咎めようとしたクーンツも、周りの空気を察して口に出すのを押し留めた。

 

 (従兵の言葉遣いは、確かに許されるものではない…だが、今までのジョナス騎士団長の言動と態度には皆うんざりしていたのも事実だ…そして、先刻は怯えていたのに、突然意味不明な命令を出して強行させたはいいが…それが原因で討伐隊は崩壊状態に陥っている)

 

 クーンツは、強い意志を秘めた従兵の眼を見つめながら心の中で思った。

 (この従兵はウデラに伝言を託されて、伝令としてジョナス騎士団長の元に報告へ赴いたのだろう。そしてそこで見たのは…)

 

 クーンツは先刻、ジョナス騎士団長が目玉を飛び出さんばかりの表情で、陸に打ち上げられた魚のように、口をパクパクさせていたのを思い出した。

 

 (敗戦濃厚な今、再び頭が真っ白になって口をパクパクさせてるんだろう。そして従兵の報告にまともな返答が出来なかったってところか…)

 

 そこまで考えると、クーンツも従兵と同じ気持ちになった。思い付きとしか思えないような命令を下して、自分の命令で状況が悪化すると立て直すことも考えられずに、一人勝手に恐慌状態に陥っている…。

 

 (ほんと、使い物にならないよな。ジョナス騎士団長は)

 

 そう思った時、クーンツの口から殆ど無意識に言葉が発せられた。

 

 「正直なところ、やってられーねよな」

 

 暴言を吐いた従兵を叱咤するどころか、その反対の言葉を発したクーンツに対して、従兵達は驚いた顔をする。

 

 「そんな驚いた顔をするんじゃない。この状況…俺達や隊全体の命運が掛かっているこの状況だからこそ吐いた言葉だ。もう忘れてくれ」

 

 一息ついてから、クーンツは従兵達を見渡しながら、はっきりとした口調で皆に伝えた。

 

 「俺自身、吐いた唾は飲む気はない。ジョナス騎士団長が指揮不能な状態、そして指揮官隊の中でも余裕があるのは俺だ。騎士団分隊長であるクーンツが、討伐隊脱出の指揮を執る。いいな?」

 

 「はっ!」

 

 従兵達全員が頭を下げ、敬礼の姿勢を取る。そして、信頼する表情でクーンツの眼を真っ直ぐ見つめる。

 

 (指揮できる精神状態でないにしろ、ジョナス騎士団長は健在だ。それなのに、俺は勝手に討伐隊の指揮を執ろうとしている。越権行為も甚だしい。これが王国軍本部に知れたらただでは済まないだろう…だが、ジョナス騎士団長から指揮代行の許可を貰う余裕なぞ無いし、代行させてくれるかも分からない。もう時間がない。どんな罰でも受けてやる。この俺が討伐隊の指揮を執る)

 

 クーンツは決意した。後戻りする気はなかった。

 

 「よし、伝令を出す。撤退準備に移る。脱出路は相手の攻撃を凌げているここ斜面左翼からだ。シャルデニー隊長に連絡せよ。左翼より脱出する。重装歩兵隊は防御しながら少しづつこちらに近づくように伝えろ」

 

 「承知しました!」一人の従兵が、頷くと身を翻して重装歩兵隊に向かって走る。

 

 「よし、お前は…隊中央に行け。脱出準備だ。ユメカ殿をこちらに来て貰う。集めていた軍馬もだ…ついでにジョナス団長も来てもらおう。いいか?」

 

 「はっ!」別の従兵が頷くと、伝令として隊中央部に向かう。

 

 「よし…最後に…」クーンツは、先程暴言を吐いた従兵に顔を向ける。

 「ウデラ隊長の元に戻れ。報告は了解。左翼より脱出する。後方の防御線を整理し、後退戦を行いながらこちらに来てくれと伝えてくれ」

 

 「分かりました!」真剣な表情の従兵はクーンツの眼を見て頷くと、すぐに後方へ消えた。

 

 「よし、お前らもう少し耐えろ!もうじき重装歩兵隊と後方の戦力が、こちらに来てくれる。その戦力を使って左翼の包囲網を破って脱出する。もう少し頑張れ!」

 

 必死で戦う部下の背中に向かって、クーンツは大声を張り上げた。

 

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