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対決

 『奴が…討伐隊のリーダーだな? けいあ? ケーアという名なのか…。お前には見覚えがあるようだが…』

 『そう…あんたらが言う”違う世界”で一緒だった奴だ…あんまり性格は良くない…嫌いだったよ』

 『分かる…お前の心の中に、暗い憎悪の炎が燃えたぎって、我の心まで焦がしているからな…気持ちは分かるが熱くなるな。大切な瞬間だぞ』

 『心配しなくても大丈夫。怒りに任せた行動はしない』

 

 英俊は”百人隊長”と心の中で素早く会話する。そしてその時、”百人隊長”の口調に、僅かな動揺らしきある事に気が付いた。普段通りの低い落ち着いた口調の中にある、ほんの少しの心の揺らぎ。短い時間とはいえ、文字通りの『一心同体』だった英俊には気が付いた。

 

 (”百人隊長”こそ大丈夫なのか…?なんか…こう、わざと”冷静ぶってる”感じがするし…なんか心臓の鼓動が激しくなっているぞ?)そう思いながら、”百人隊長”の眼を借りて外の様子を窺う。

 

 (なんだ…?周りのオーク達も様子が変だぞ?さっきまでの”本気の闘志”じゃない…牙を剥き出して啓亜を睨みつけているが…あれは”虚勢”だ)

 

 今まで様子の違うオーク達。弱気などとは無縁の”殺傷力”ですら、闘志に満ちた表情で啓亜を睨みつけてはいるものの、先ほどまでの”豪放磊落ごうほうかいらく”とか”威風堂々”と言った雰囲気とは違い、どこか警戒心を秘めた表情をしている。

 

 オーク達の視線。啓亜を捉えているが、視線が時々動く、チラチラと走らせる視線の先にあるものは…

 

 (啓亜の持っている、あの短剣か…?刀身がなんか青白く光っている…ファンタジーとかに出てくる”魔法強化された剣”なのか…?)

 

 『気が付いたか…? あれは我が一族にとっては、忌まわしくも邪悪な呪いの剣…青玉せいぎょくの短剣だ…あの剣は、人間の黒魔術師ヴェホラと共に消え去ったと言われてたのに…なぜ、奴の手の中にあるのだ?』

 

 ”百人隊長”の低い唸るような呟き。彼の心は驚きと緊張に満ちていた。どんな逆境でも、決して怯まない態度で挑んできた”百人隊長”が、初めて僅かながら怯んだような態度を見せた。

 

 「おい豚ども…さっきの勢いはどうした?これが怖いのか…?」啓亜はにやけたような軽薄な笑みを浮かべると、右手の剣を振りかざした。

 それを見ていたオーク達は、威嚇の唸り声を上げながら後ずさる。何をも恐れぬオーク達が、ここまで怯えるとはただ事では無かった。

 

 そして、”百人隊長”も同じだった。流石に表面上はどっしりと構えていたが、啓亜が短剣を振りかざした瞬間、心臓が飛び跳ねるように拍動したのが英俊にもはっきり分かった。そして、全身が汗で濡れる。冷や汗だ。

 

 (なんだ?オーク達は…ここまでこの剣に恐怖心を抱くのか?)

 『そうだ…我らにとって、あの剣はどうしようもなく恐ろしいものだ…どれだけ勇気と闘志を振り絞ろうとも、身体が言う事を聞いてくれぬ。あの剣にはそれほどまでの呪いが込められているのだ…あの剣は我らに不快と恐怖の念を呼び起こし、触れただけで肉体と精神に強力な怪我を負わす…我が一族にとっては忌むべき邪悪な武器なのだ…』

 

 詳しい事は分からないが、あの剣にはオークに破滅的なダメージを与える剣だと言う事が分かった。

 

 (つまり…なんというか…ファンタジーゲームの序盤に出てくる、”オークスレイヤー”っていう、二倍ダメージ効果の武器の事なんだな)

 

 ゲームの序盤で、村人に頼まれてオークの殲滅を頼まれるとかいうよくあるイベント。オプションで、司祭やら、引退した戦士…もしくは途中の洞窟を探索すると発見できるっていうのが、定番の入手方法なオークスレイヤー。これを装備するとイベントクリアがアホらしくなる位に簡単になる。

 

 (そうか、今は逆の立場なのか…序盤しか使わなくて、あとは使う事が無くって売り払ったり、道具袋の肥やしになるオークスレイヤー…。でもオークの立場からすると、ここまで恐怖心を呼び起こすのか)周りのオークの恐れぶりを見ながら英俊は一人落ち着いて考えていた。

 

 『お前は…お前は平気なのか?』恐怖を押し殺したような”百人隊長”の声。

 『え?』

 『あの剣を見ても…何も感じぬのか?』

 『あ…言われてみればそうだ…何も感じない』

 

 確かにそうだった。肉体はオークだ。だから、痛いほど心臓が脈打たれ、全身を襲う冷や汗、粗くなる呼吸は感じることはできる。でも、心は平静だ。…肉体の動揺が激しすぎて、”明鏡止水めいきょうしすい”の心境とは言えなかったが

”百人隊長”や周りのオークが感じるような動揺は一切感じなかった。


 『僕の精神は…あくまでも”人間”だからかな…そこまであの剣には恐怖や不快感は感じない…』

 『そうか…我はオーク一族を代表する戦士…”百人隊長”だ。あの魔剣から逃げぬ。これから、”けいあ”とやらと一戦交える…だが…もし…』

 ”百人隊長”は一瞬、何かを言い淀んだ。しかし、すぐに決意を固めるように言い直した。

 『我は奴と戦い、必ず勝利する!そして、奴らをこの地から必ず追い出してやる!』自分を奮い立たせるような叫び声。そして気合を入れるように、肉声で大きく吠え声を叫んだ。

 

 その声に勇気を掻き立てられたのか、一人のオークが啓亜に突っ込む。護衛の歩兵の剣を、槍を振り払い啓亜に斬りかかった。必死の形相で。

 

 啓亜は薄笑いを浮かべながら、盾で攻撃を受け流すと右手に持っていた短剣で、オークの脇腹を素早く一突きした。

 

 刺されたオークが有り得ない大きさで絶叫した。勇猛で痛みに強いオーク。先ほどまでの戦いでも、攻撃を受けて情けない声など誰一人として出していなかった。

 

 それが、短剣の一突きで…確かに痛いだろうが、あれほどまでの叫び声を出すとは英俊には信じられない思いだった。

 

 (一族にとって邪悪なる剣…本当なんだな…)

 

 その時、”百人隊長”が咆哮した。地を振るわすような吠え声。自分自身の恐怖を振り払い、啓亜を対峙する覚悟を決めた決意の吠え声。

 

 「は。お前が隊長か…いいぞ。面白い…一騎打ちをしてやろうか…お前を殺れば、お前ら全員の戦意は喪失だもんな…」

 

 口ではそう言いながらも、啓亜は討伐隊の列からは出てこない。討伐隊の防衛線と、オークの隊列には十メートル弱の間隔が出来ていた。”百人隊長”は武器を構えながら、その空間に進み出る。

 

 ”百人隊長”は一騎打ちをする気満々だった。だが、啓亜は口では挑発してくるが、少し様子が変だった。

 

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