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突破

 デルガド分隊が全滅に近い被害を受け、前方で主力同士が衝突するという事態になり、メランダーは様子を見るためにデルガド隊の救出を諦めた。

 それは、デルガド隊の僅かな生き残りを見捨てることに他ならなかったが、討伐隊全体の事を考えると、その判断は間違ってはいなかった。

 

 程なく、デルガド分隊はオークに磨り潰され全滅した。そして防御を固めたメランダーの方へと殺気だった顔つきで向かってきた。

 生き残りの一班、二班が盾を構え守りを固めた。兵が足りず、薄くなっている部分を三班が突出して守備を固める。ラハナーのいる四班は第二列で、前線を支援する隊形だ。

 

 そして、その時に総攻撃命令が発せられ、ほぼ同時に後退命令が出されたのだ。

 

 …全く逆の命令が同時に発せられた。ただでさえ狼狽うろたえていた討伐隊は、この背反した命令によって完全に混乱状態に陥った。隊列と陣形は完全に乱れた。各分隊長と班長は声を枯らして陣形を整えようとするが、討伐隊の統制は失われつつあった。

 

 「中央に穴が開く! マズいぞ!」誰かが叫ぶ。その声にラハナーは振り返って後ろ(ラハナーの位置的には)を見た。

 味方が大勢いるので、隊の状態は分からなかった。だが、谷の斜面がチラッと目に入った時、緑の影が、狼の群れのように走り下りてくるのが見えた。

 

 (オークだ…オークが中央を狙って突っ込んでくる…)

 

 「隊中央へ豚どもが突っ込んでくる!」思わずラハナーが絶叫した。同時にオークの急襲に気が付いたメランダーも即座に命令を発する。

 

 「ロダルテ! オーベリソン! 二隊は斜面から急襲してくるオークに対応!コルバソフは、そのまま後方のオークに対処だ! 隊の分断は全滅に繋がる。お前ら心して掛かれ!」

 

 メランダー隊長の命令と、それに続く命令を伝えるラッパ手のフレーズ。聞き慣れた第5番フレーズ。命令内容は「その場に留まり敵を殲滅せよ」だ。

 ラハナーの位置は第二列。まだ命は繋がっている。ただ兵力が減っている第一列が破られそうになったら、すぐに前線に飛び出さないといけない。

 

 ラハナーの前にいる兵士は…正直…ラハナー以上にビビっていた。後から見ても身体が緊張して状態が浮き上がった構えを見せている。彼らの肩や頭の隙間から見えるオーク達は対照的だった。殺気を撒き散らし、姿勢を低くしながらも全身に力を漲らせ戦意高揚、やる気に満ち溢れながら隊列を組みながら近づいてくる。

 

 そんなヤル気満々のオーク達。第一列だけでは到底防ぎきれないだろう。どうやらラハナーの出番はすぐにやってきそうな雲行きだった。

 

 (マジか…神は気まぐれだった…今度こそ死ぬ…あの野蛮な豚に殺されるのか…俺は…)

 

 ラハナーがそう思いながら緊張で乾いた唇を舐めたとき、彼の背後で猛烈な衝突音と叫び声、そして武器が交わる激しい金属音が聞こえた。

 

 「負けんな!踏みとどまれ!分断されるぞ!」

 「頑張れ!押し返せッ!」

 

 急襲地点付近に配置された…オーベリソン分隊かロダルテ分隊…いや両分隊の班長達だろう。部下を叱咤する怒鳴り声がラハナーの耳まで届いた。その声は切迫して悲痛な声色まで加わっていた。

 

 「おい!逃げるな!下がるんじゃないっ!何やってるっ!」

 「まずい!分断された!バカ!下がるな!」

 「合流するんだよ! 馬鹿野郎! 攻撃だ! 下がるな!」

 

 焦りの声が続く…混乱した兵達の士気は低い。完全に浮足立っていた。叫び声からすると隊は分断されたらしい。ラハナーはその悪いニュースを伝える叫び声を聞いて体が震えた。

 

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