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 「よぉ。南條、おまえさ、バスの中ですら本読んでんの?アニメ?」

 

 神経を逆撫でするような不快な声。聞き覚えのある声……深馬ふかうま啓亜けいあだ。

 

 ……そう、英俊は、ついにクラスの派閥にどこにも所属せず、ヒエラルキーの最下層か、埒外に置かれた孤立した人間を狙うクズに標的にされたのだ。

 高校一年の間は、中学時代から続く『クラスメイトから相手にされない』状態だった。だが二年生に進級し、クラス替えをした時、ついに『苛め』の標的にされた。

 

 深馬によって。

 

 彼は、イケメンだった。顔つきは軽薄そのものだったが、目鼻立ちは整っていた。そして女子に人気のあるテニス部所属。平凡な高校の中では成績がずば抜けて良かった。噂によるともう一ランク上の高校も狙えたらしいが、安全策を取って学校のランクを下げたらしい。

 

 そう言った安全策を狙う性格からか、表立ったような激しいイジメはしてこなかった。いわゆる『イジリ』の『延長線』を狙うような、予防線を引いたような、『せんせー違うんですよぉ。いじめてなんていませんよぉ』と言い訳が可能なラインを狙って来た。臆病で小賢しかった。その代わり執拗だった。事あるごとに絡んできた。こちらの精神を少しづつ削って来る感じだった。

 

 「バスの中」……そう、今日から林間学校。面白くもなんともない。高校生にもなって「林間学校では『二人組』で行動しましょう!」って先生寝ぼけてるのか。……しかも、俺には二人組になってくれる奴すらいないんだよ。先生、組んでくれるか?

 

 林間学校に向かうバスの車中、クラスメイトが楽しそう盛り上がる中、英俊は気が重たかった。結局、林間学校の活動中の『仲良し二人組』の相棒は、長倉ながくらという柔道部に所属する寡黙な奴になった。

 

 彼もまた英俊と同じく『クラスのヒエラルキー』には所属していなかった。英俊の高校は伝統的に柔道部が強く、長倉は、高校には勉強だとかキャンパスライフ()とかではなく、柔道をやりに来ているようだった。

 だからクラスメイトとは、余り絡んだりしなかった。それでも、クラスからは普通に受け入れられていた。本当の意味での『ヒエラルキー外』に居る人間だった。クラスからは、「長倉くんは『そう言う人だから』」と思われているのだろう。

 

 もちろん、クラスメイトは俺のについても、こう思っているだろう「南條くんは『そう言う人だから』」……ただ、『そう言う人』の意味は違うんだろう。恐ろしいくらい違うんだろう。

 

 隣に座る長倉を見る。階級は中量級と言っていた。恐ろしく引き締まった筋肉質な体型。意志の強そうな面立ち。短く綺麗に刈り込まれた頭髪と、潰れた耳から続く、しっかり刻まれた顎のライン。

 半袖の体操服から突き出た腕は、筋肉が盛り上がっていた。頑丈そうな下半身。

 

 (オークみたいだ)

 

 英俊は、自分が好きなゲームに出てくるオークを思い出した。アニメ、小説、ゲーム、映画では定番のやられ役。いろんな造形のオークが出てくる。イノシシとブタの掛け合わせみたいなオークや、ゴリラのようなオーク。破壊衝動を具現化したような原始人に似た風貌の時もある。

 

 英俊は、原始人風のオークが大好きだった。逞しい筋肉。疾走感に溢れた体躯。強い闘争心。自分に持っていない物すべてを兼ね備えていた。だから、長倉の筋肉質な身体や、何事にも動じそうにない顔つきを見て、少し羨ましくもあった。

 

 もう一度、長倉を見る。イヤホンを潰れた耳から垂れ下げて目を瞑って音楽を聞いている。彼は、深馬が英俊を苛めている事に関しては無関心だった。だが、無抵抗主義を貫く英俊(どうやって抵抗すればいいかも見当もつかなかった)に対して、嗜虐心を煽られてイジメに加担するクラスメイトが増えて来ても、一緒になってイジメてくるような事は無かった。

 

 クラス内では、まったく立ち位置が違うが、同じ『ヒエラルキー外の二人』。仲が良いという事は全くないが、境遇だけで『(仲良し)二人組』になった。いや、させられた。

 林間学校のオリエンテーションの時、長倉は英俊に顔を向けて一言、

 

 「こんなん、だりーよな」と呟いた。

 

 文字通りの『孤高の狼』の長倉の一言は、『孤高の狼(気取り)』の英俊を歓喜させた。

 

 「おおう?長倉……くんもそう思う?くっだらねーよな?」呼び捨てしようと思ったが、少し怖くて『くん』付けで呼んだ。それでも、『俺達はクラスメートと違う存在』アピールをしたくて、激しい同意の返事を返した。

 

 返答は無かった。

 

 長倉は、正面を向いていた。英俊には全く興味を払ってなかった。あの言葉は『挨拶』みたいなもんだったんだろう。それでも英俊は嬉しかった。

 

 

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