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"土竜の眼"

 "土竜の眼"は、討伐隊が谷底を一列縦隊で侵入して来た時、『弓兵隊の隊長である自分が、一番自制せねばならないといけない』事を忘れ、手に持った長弓を引き絞りそうになった。

 

 ……そう、隊長である"土竜の眼"と、特別な訓練を受けた十数名だけが、命中率の高い長弓を手にしていた。彼はチラリと横を見やる。しなやかな材質で出来た長弓を手にした精悍な顔つきの若きオークが、谷底を歩く討伐隊をじっと見つめていた。

 

 『狙撃』と言う任務を担う為、普通のオークよりも遥かに自制心と冷静さを持ち合わせている彼だが、自分達の『庭』とも言うべき『蜥蜴の這う谷』を無抵抗で敵に踏み込ませている事に、怒りは隠せないようだった。弓を握る手を見ると、かすかに震えていた。……怒りだ。

 

 『もう少しの辛抱だ……”冷たき血”よ。己の名に恥じぬ振る舞いを見せよ』

 

 "土竜の眼"は、彼に語り掛ける。

 

 『承知している……』

 

 彼の返事が即座に心に響く。

 

 ”冷たき血”に声を掛けた後、"土竜の眼"はゆっくりと周りを見渡す。自分の部下達が短弓を手に木々や岩陰から、谷底を歩く討伐隊をじっと眺めている。

 部下の持つ弓は短弓だ。加工と手入れがしやすく、森や岩場などの狭い場所でも取り回しがしやすく、長弓に比べ圧倒的な速射性を誇る……ただ、短弓本来の性能とオーク達の加工技術の未熟さとで、正確な射撃は不可能に近かった。


 そのためオーク達は、弓兵隊の役割を専ら仲間達の突撃前の支援射撃にしか使わなかった。弓兵達も自分達の短い支援射撃の時間が過ぎると、身に付けている武器を手にして突撃に参加する。

 

 ……それが、今までの戦い方だった。だから"土竜の眼"は、『最後の決戦』になるであろう、この『蜥蜴の這う谷』での迎撃戦でも支援射撃が終われば、弓兵隊を率いて、命を賭して突撃に参加するつもりだった。何度も参加した過去の戦いと同じように。

 

 だが、戦いの前の百人隊長の言葉は何時もと違った。『鷹の舞う地』の戦いで命を一度落とした彼は、振る舞いと言動がいつもと違う事に"土竜の眼"は気が付いていた。 ……いや、幹部のオーク達全員が気が付いていただろう。激しい闘気で部下達を率いて雄々しく戦う以前の彼とは違い、時々ためらうような気配を発していた。そんな百人隊長は見たくなかった。

 

 (……『獅子と蛇』に救われた命が惜しくなったのか……)彼は思った。

 

 (『怖気ついたか百人隊長』)”殺傷力”が叫んだ時、彼もまたその言葉に激しく同意した。

 

 だが、それを諫めた百人隊長は『知略』を用いて、この戦いに勝つという。勝てるのか。そして『知略』とやらが導き出した『さくせん』というのが、血気盛んなオーク達を試す、苦痛をいるものだった。

 

 『忍耐』

 

 百人隊長は、オークの戦士800名にそれを求めた。闘志に溢れ、『見敵必殺』が骨の髄まで叩き込まれているオーク一族に、それは余りにも過酷な課題だった。

 

 『谷底を討伐隊が満たすまで攻撃を控えよ。やつら全員を谷底に引き入れてから一網打尽とする』

 

 百人隊長が、そう言った時、オークの幹部たちは強い拒否の感情を吹き出させた。我らの『生地せいち』に一歩も踏み込ませないつもりでいた。『深淵の森』で、待ち伏せして討伐隊を叩くのだとばかり思っていた。気でも狂ったか百人隊長。

 

 だが、百人隊長はこちらの反駁を厳しい表情で抑え込み、『さくせん』の全貌を語り始めた。それは、今まで我々オークが考えた事も無いような戦い方だった。

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