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第九話 赤毛のエイリーク~中世の北極~

「極地探検の実際の大部分を担ってきた漁や狩猟を除けば、「黄金や豊潤なる森」を夢みて北極横断を企てる者はなかった」(アムンゼン『ユア号航海記』)

 紀元後十世紀、赤毛のエイリークは父が殺人罪で追放されるのに付き従い、生まれ故郷のノルウェー王国を離れ、一家でアイスランドに移住した。

 アイスランドにはノルウェーのノルマン人が入植していた。

 ノルウェー人の有力豪族たちがノルウェー王であるハーラル一世の支配を逃れ、自分たちが代々受け継いできた社会をアイスランドで再建しようとしたのだ。


 入植者たちは祖先と同じく土地を所有し、国王のいない自治的な社会を作った。

 そうしてアイスランドでは農業に携わる有力者たちが寡頭制を敷き、自ら統治する自由な男たちとして法的ないし政治的な組織に責任を持った。

 彼らは民会で仲間たちと話し合って定めた法律をきちんと守り、全島集会においてアイスランドの政治が決められた。


 幼かったエイリークはそのようなアイスランドのやり方に直ぐ馴染んだ。

 青藍の短衣に身を包んだ彼は、同い年の少年たちと比べて背が低く、少女のようであったけれども荒々しい赤毛は燃えるようで、角が付いた兜を被り、緑の目には暗い色が湛えられてあった。

 新天地で一家は土地所有者になれたが、過酷な開拓はエイリークを攻撃的な人物へと成長させた。


 先住の豪族が一家の成功を妬み、その奴隷を殺すと、エイリークは報復として相手の親族を殺害した。

 それを訴えられて彼は追放され、財産の保管を隣人ソールゲストに委託した。

 しかし、エイリークが帰郷を許されてもソールゲストは返却を拒んだので、エイリークは盗みによって財産を取り返し、追ってきたソールゲストの息子たちは殺した。


 ソールゲストは民会で訴訟を起こし、エイリークはまた追放されることとなった。

 民会は裁判所の役割も果たしており、訴えのあった犯罪について法律がどう定めているかが発表され、後は一人一人の判断に任せられた。

 エイリークは追放の期間を西方への遠征に充てることにし、それは認められて仲間も集まった。


 確かにエイリークは攻撃的だったが、それは危機に際しては勇ましさになった。

 そのような点を頼られ、エイリークは仲間たちと荒海に乗り出し、広い島を発見した。

 そこは雪と氷に覆われていたが、牛の飼えそうな土地もあり、緑の谷と魚類の豊富な川も見付けられた。


 アイスランドへ戻ったエイリークたちは、西方で発見した島をグリーンランドと名付けて宣伝した。

 たっぷり土地があるという宣伝の文句にノルマン人たちは心を引かれた。

 当然ながらアイスランドの土地にも限りがあり、全ての人間が農場を経営できるわけではなく、貧しい人々はグリーンランドに希望を託した。


 そうしてエイリークが首領となり、ノルマン人の船がグリーンランドに向かった。

 草や木の生えた入り江に辿り着くと、ノルマン人はゴットホープ(ヌーク)市などの基地を開いていった。

 エイリークはキリスト教徒たる妻ショーズヒルドとの間に溝が生じたにも拘わらず、伝統的な神々に対する信仰を守ったまま亡くなった。


 長男レイフは父親の故郷であるノルウェー王国に渡り、ハーラル一世の曾孫たるオーラヴ一世と会見して洗礼を受け、グリーンランドでキリスト教を布教した。

 だが、彼は父と同じく海の男で、漂流経験者ビニョルニからグリーンランドの南方に森や林に覆われた島があると聞き、そこを探検しようと思い立った。

 レイフは氷と石ころだけの島を発見し、上陸してヘルランド(ニューファンドランド)と命名した。


 陸地に沿って南下した彼は、目指していた森や林の土地をやっと見付けてマルクランド(カナダ)と名付けた。

 レイフはもっと良い土地があるかも知れないと考え、更に南へ下り、牧草地が広がって野生の葡萄が生えているヴィンランド(アメリカ)に到達した。

 彼はそこに基地を置いてグリーンランドへ帰った。


 次男ソルヴァルドはレイフの探検話を聞くと、ヴィンランドに植民地を開こうとした。

 彼は大勢の仲間を連れて植民したが、ノルマン人がスクレリングと呼ぶ先住民たちに襲われて戦死し、生き残りはグリーンランドへと引き揚げた。

 三男ソルステインもヴィンランドに航海したが、到達できずに失敗して病死した。


 ソルステインの未亡人グズリーズは商人ソルフィンと再婚し、彼を説得してヴィンランドへ植民させた。

 ヴィンランドに上陸したソルフィンたちは村を作り、グズリーズは息子スノッリを産んだ。

 ソルフィンたちの村にはスクレリングたちも交易に現れ、毛皮を布や槍、刀と交換してくれるよう言ってきた。


 自衛するために必要な槍や刀を渡すわけには行かないとソルフィンたちは断ったが、武器を欲しがるスクレリングたちは、諦められないで盗みに来た。

 そうしてソルフィンたちとスクレリングたちの間で戦いが起きてしまった。

 ソルフィンはヴィンランドを危険な土地であると考えてマルクランドまで戻ったが、最終的に植民は失敗したと判断してグリーンランドへ引き揚げた。


 エイリークの娘フレイディースも遠征したが、上手く行かなくてヴィンランドやマルクランド、ヘルランドなどはスクレリングたちの土地に戻った。

 また、グリーンランドにあったノルマン人の植民地も、経営できなくなっていった。

 生活物資を輸入するノルウェーから遠すぎるばかりか、気候がどんどん寒冷化し、港が凍ってしまったからで、グリーンランドも寒さに強いスクレリングたちの天地に戻った。


 そして、アイスランドさえもがノルウェー王国に併合された。

 ノルウェーはイングランド王とデンマーク王に就いていたクヌーズ大王がノルウェー王も兼ね、北海帝国を築いていた。

 クヌーズ大王の死で北海帝国は分裂したが、その後もノルウェー王国はデンマーク王国およびスウェーデン王国とカルマル同盟を締結し、スウェーデンが離脱してからはノルウェーとデンマークでデンマーク=ノルウェー二重王国を成立させた。


 デンマーク=ノルウェーではデンマーク王国がノルウェー王国を従属させ、アイスランドやグリーンランドもデンマーク海上帝国の宗主下に置かれた。

 やがてノルウェーとアイスランドは独立したが、グリーンランドはデンマークの自治領に留まった。

 ヘルランドとマルクランドはカナダ、ヴィンランドはアメリカ合衆国となった。


 それらの土地を探検したエイリークたちの冒険物語は『サーガ』に加えられた。

 『サーガ』は神々や英雄の話、祖先の活躍などが文章にまとめられてあった。

 ノルマン人たちはキリスト教に改宗して以後も『サーガ』を子孫たちに伝えた。


この時代を題材とした映像作品には『小さなバイキング ビッケ』と『ビッケと神々の秘宝』があります。

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