第11章 夜を照らす
ノックの音がした。「はい」と答えると、
「河野よ。そろそろ、お昼にしない?」
河野の声が聞こえた。時計を見ると、確かにもう昼食の時刻になっていた。私たちが何も言わないうちに、ドアの向こうから河野の声が、
「みんなで話したいこともあるから、食欲はないかもしれないけど、下りてきてほしいの。汐見さんと朝霧さんの部屋は空だったから、もしかしたら一緒かしら?」
その二名が「そうです」と返事をしたのきっかけに、私たちは立ち上がった。
私たちはリビングに下りていった。河野、汐見、朝霧の三人は台所に向かい、私と乱場はリビングで村茂、高井戸の二人と顔を合わせた。
「飛原先輩は?」
「部屋から出て来ない。ここから戻った直後と、ついさっきに声を掛けたんだが、ひとりにしておいて欲しい、だそうだ」
私の質問に村茂が答えた。昼食も、いらないと言われたという。
「そんな態度を続けていれば、疑いが深まるだけだから、気が向いたらお昼を食べに下りてこい、と声をかけてはおいたけどな」
村茂も、彼の頑なな態度には呆れているようだ。
「それで」私は乱場と一緒にソファに腰を下ろして、「話したいことがあるそうですが」
「それについては、食べながらにしよう。みんな揃ってからのほうがいい」
私と乱場は承諾した。
「冷凍食材から、消費期限が近いものを選んで使ったから、種類がまちまちなの。好きなものを選んで」
河野が言った通り、食堂のテーブルに並んだ各種料理は、和洋中が見事に混在していた。
「――飛原さん」
高井戸の声に出入り口を見ると、飛原がのっそりとした足取りで入ってくるところだった。一度立ち止まって全員と目を合わせた彼は、小さく頭を下げてから、食卓端の椅子に腰を下ろした。
「庸一郎さんは?」
乱場が訊くと、汐見が、
「呼びに行ったんだけど、全然返事なしだよ。ショックが引かなくて寝てるんじゃないか?」
「庸一郎さんなら」と飛原が、「屋敷の裏、物置みたいなところに出入りしているのを見たぞ。部屋の窓から見えたんだ」
「そうですか」
乱場はそれについても、飛原のことについても何も言及はしなかった。
「切られた電話線を直そうとしているんでしょうか?」
朝霧が言うと、また飛原が、
「いや、そんな感じには見えなかった。工具も持っていなかったし。俺も疲れていて、すぐにベッドに横になったから、ずっと観察していたわけじゃないけどな」
「霞さんの部屋にも出入りしていたみたいよ」と次に河野が、「保冷剤の交換に行ったとき、霞さんの遺体が少しずれていたから。霞さんの頭を撫でたりしてたのかもしれないわね」
「娘さんを殺されてしまって同情は出来るし、泊めてもらってる恩もあるけど、何だか不気味なおっさんだよな」
高井戸が呟くように言った。誰も肯定も否定もしないのは、少なからず皆同じ思いを抱いているからなのだろう。
重苦しい雰囲気を払拭しきれないまま、食事は始まった。
「それで、話したいことというのは、何ですか?」
皆がとりあえず空腹を満たせるまで食べたな、と思われるタイミングで私が話を切り出すと、村茂、高井戸、河野の三人が顔を見合わせ、最年長の村茂が私を向いた。代表して彼の口から話されるようだ。
「今夜のことなんだが、どうだろう、みんな集まってリビングで就寝することにしないか」
全員の箸が止まった。皆の視線を浴びながら村茂は続け、
「こんなことになってしまった以上、バラバラに個室で寝るのは危険だと思うんだ」
「それは、つまり……」と意外にも一番最初に口を開いたのは飛原だった。「この中に殺人犯がいるってことだよな」
「飛原、俺は――」
「だって、そうだろ」飛原は村茂の言葉を遮り、「全員が一緒にいれば、監視の目が多くなって新たな殺人を防げる可能性が高い。個室で寝るのが危険てのは、そういうことだろ」
村茂は黙ったままだが、飛原の言葉が正鵠を射ているのは間違いないだろう。
「……俺は、構わないぜ」
飛原は、だが、村茂の提案に乗ることに真っ先に意思表示した。「あ、ああ」と漏らしてから村茂は、
「他のみんなは、どうだ? 異論のある人はいないか?」
と全員を見回す。
「冗談じゃない! 殺人犯なんかと一緒にいられるか! オレは自分の部屋でひとりで寝るぞ!」
突然、私の隣に座る汐見が立ち上がって叫んだ。私も含めた全員は、ぽかんとした顔で彼女を見つめる。
「……あれ? すべった?」
きょとんとした顔で汐見も全員を見返した。数瞬の沈黙が流れたあと、
「ぷっ」河野が吹き出して、「汐見さん、なにそれ? そんなことしたら、次に殺されるのは間違いなくあなたよ」
声を殺して笑い始めた。高井戸と村茂も、堪えきれなくなったというように笑い声を漏らし始める。忍び笑いは伝播するように食堂に広がっていき、朝霧、乱場、私、そして飛原も笑みを浮かべていた。それを見ると汐見は椅子に座って、
「そうそう、やっぱ食事は楽しく食わねえとな。こんなときだからこそ、な」
ひょいと、乱場越しに朝霧のミートボールをつまみ上げて口に入れてしまった。
「あっ! 汐見さん! やりやがりましたね! 私が〈好きなものは最後に取っておく派〉だということを知っての狼藉ですか! 反撃!」
朝霧も負けじと箸を伸ばし、汐見の皿から摘み取ったコロッケをひと口で口に入れた。が、汐見は涼しい顔で、
「朝霧敗れたり。オレは〈好きなものは最初に食べる派〉なんだよ。そんなコロッケなんて、いくらでもくれてやるぜ」
「ぐむむ……」
口いっぱいにコロッケを頬張りながら、朝霧は歯ぎしり(?)した。
食卓はそれから談笑が混じるようになり、陰鬱な空気は徐々に消えていった。飛原さえも村茂と映画の話題で盛り上がっている。
「ありがとう、汐見くん」私は小声で隣の汐見に、「おかげで重苦しい雰囲気は消えたよ」
「なあに。それより部長、オレのさっきの渾身のギャグ、もしかしてすべってた?」
私は首を横に振った。
「そんなら良かった。あのギャグをかませる状況なんて、一生に一度あるかないかだもんな。この期を逃してたまるかと、思い切ってやってよかったよ」
あはは、と笑いながら汐見も食事を続ける。こうやって進んで道化になって場を盛上げることが出来るのは、彼女の大きな長所のひとつだと私は思っている。
食事が終わり、食器の片付けも終了し、私たちはリビングに移動した。一度河野が庸一郎を呼びに行ったが、手ぶらのまま返ってきた。どうやら物音がするため寝室にはいるらしいが、ノックにも呼びかけにも一切応じてくれなかったという。
女性陣は霞の遺体の周りに置く保冷剤の交換も引き続きやってくれている。私たち男性陣も交代しようと申し出たのだが、亡くなっているとはいえ女性の体だから、と頑なに断られてしまった。彼女たちは塗れタオルで霞の遺体を拭くことまでしてくれているらしい。
リビングに戻ってきた河野が、コーヒーを淹れようかと言ってくれたが、飲むと答えるものは誰もいなかった。代わりに全員は、冷蔵庫に入っていた封のされたドリンクを持って来て飲み始める。
「なあ、乱場くん」と村茂が声を掛け、「何か推理できたことはないか? よかったら俺たちに教えてくれないかな」
「駄目ですよ、村茂さん。名探偵って、最後の最後まで自分の推理は口にしない主義と決まっているんですから」
高井戸の言葉に乱場は、「最近の探偵は、そうでもありませんよ」と微笑してから、私の部屋で推理し、確認したことを漏らさず隠さず皆に話して聞かせた。無論、汐見と朝霧との無為なやりとりは割愛したが。
「薬が毒の混入経路ではない、か」聞き終えると、高井戸は顎に手を当てて、「正直、俺も薬のことは疑っていたんだが」
「薬を毒とすり替えたっていう推理も、私はいい線いってると思ったけれど」
河野が言うと、高井戸が、
「誰か、霞さんの薬をすり替えるような、怪しい真似をした人物を見た人はいないか?」
「そんなの目撃してたら、真っ先に話してるはずでしょ」
呆れたように河野が口にする。
「どうする、名探偵くん。八方塞がりなんじゃないのか?」
飛原が声を掛けた。多少挑発するような響きに聞こえる。彼の機嫌が良いのかもしれない。恐らく、自分の深夜の行動を追求されなくなったことに、ほっとしているのだろう。だが、乱場はいったん矛を収めただけだ。いずれ彼は必ず、飛原の行動の意味も看破することだろう。
それから私たちは、男性と女性の二組に分かれ、男性陣は二階から毛布を下ろす作業にかかった。これは当然、このリビングで全員が就寝するための準備だ。ベッドのマットまではさすがに運び込むことは出来ないが、部屋に用意してあった予備の毛布を重ねれば十分敷き布団の役割を果たす。ロングソファもベッド代わりに使えば、全員分の寝床は確保できるはずだ。一方の女性陣は服の洗濯を始める。少なくとも、あと数日間はここにいなければならない。同時に霞の部屋や物置部屋から、皆が使えそうな着替えも探すことにした。庸一郎に許可は得ていないが、あの調子ではまともに話をすることは困難だろう。緊急避難ということにして私たちは自らを納得させることにした。
「お、見事に完成したな」
洗濯から戻ってきた汐見がリビングを見回した。重ねた毛布やロングソファを使った簡易ベッドが配されたそこは、リビングだった面影はすでになく、彼女の言うとおり見事に就寝部屋へと変化していた。
「いちおう、男性女性とスペースを区切ったんだ」
私は二組に分けられた簡易ベッド群を指さした。部屋は中央に広いスペースが空けられ、男性用、女性用と分けられたベッドがそれぞれ左右に寄せられている。
「でも、バランスが悪いな」
「それは仕方ないさ」
汐見の言うとおり、確かにバランスは欠いている。女性と男性の構成人数に差があるためだ。男性用のベッドが、飛原、村茂、高井戸、乱場、そして私の五つに対して、女性用のそれは、河野、汐見、朝霧の三人分しかない。
「乱場のベッドをこっちに持ってこようぜ」
「賛成」と、汐見の後ろからひょっこり顔を出した朝霧も勢いよく手を挙げて、「それなら、四対四で見事なシンメトリーになります」
「だって。どうする、乱場くん」
私は意地悪をする目的で訊いてみた。案の定、乱場は顔を真っ赤にして、
「そ、そんなの出来るわけないじゃないですか……河野さんだって、いるんですよ」
「あら、私なら構わないわよ」
その河野も姿を見せた。
「満場一致で、乱場さんのベッドをこちら側に持ってくることに決定いたしました」
「よし、乱場はオレの隣な」
「あら、汐見さん、何を勝手に決めてるんですか」
「乱場のベッドを移動させる案を出したのは、このオレだぞ」
「ぬう……あ、では、いいです。乱場さんのベッドは汐見さんのお隣にどうぞ」
「何だ何だ、朝霧、お前、妙にあっさり引き下がったな」
「ええ、汐見さんのお隣に置くのは、乱場さんのベッドだけ。乱場さん本人は、私と一緒に寝ます」
「あ! こら!」
「もう、やめなさい、二人とも。ほら、乱場くん、困ってるわよ」
汐見と朝霧の間に河野が割って入った。自分も乱場のベッドを女性陣側に持ってくることに賛成していたことは棚に上げているようだ。その乱場はというと、
「ぼ、僕、夕食の献立を選んできますね」
そう言い残して台所に逃げ去った。その背中を見送って河野が、
「あの、乱場くんって、何だか不思議な子ね。女の子にからかわれて真っ赤になってたかと思えば、突然人が変わったように鋭い推理を見せるし」
「あの二面性が乱場の魅力ですよ」
「そうですとも」
汐見と朝霧は、我が事のように胸を張って答える。心の中で私も「そのとおり」と相槌を打った。
日が暮れて夕食を食べ、入浴も済ませると、私たちは早めに床につくことにした。というもの、全員が一斉に眠るのではなく、交代で見張り要員を置こうということになったためだ。飛原と汐見。乱場と私。高井戸と河野。村茂と朝霧。このペア、順番で見張りをすることになった。男女のペアにしたのは河野の要請によるものだった。彼女が女性全員が寝て男性だけが起きている状態になるのを嫌ったためだ。が、人員の関係上、どうしても男性二人のペアがひと組出来てしまうのは避けられないため、乱場だけは例外とすることにしたのだ。その乱場は自分の相棒に私を指名した。彼のワトソンとして光栄することしきりだ。
現在が午後八時。明日の起床時刻は六時にすることにした。飛原と汐見、乱場と私が三時間。他の二組が二時間、それぞれ寝ずに番をすれば、最後の村茂、朝霧ペアが見張りを終えるのが、ちょうど午前六時になるという寸法だ。まず、一番手の飛原、汐見ペアが起きたまま、他の六人はベッドに横になった。
女性陣は部屋から鞄を持ってきて枕元に置いていた。女性はメイク道具などの身支度に使う用品が手放せないためだろう。その点、男は手ぶらで気軽なものだ。と思ったのだが、ひとり、飛原だけが自分の鞄を持参していた。部屋には残しておけない理由でもあるというのだろうか? 確かに二階の部屋のドアに鍵はなく、ドア内側のサムターンを回すことでしか施錠できない作りのため、部屋に誰もいない状態では施錠できないのだが。彼が夜中に外に出ていたことと関係が? 私はあとで乱場に相談してみようと思った。もっとも、彼のほうでも飛原のこの行動にすでに目を付けている可能性は高いが。ちなみに乱場のベッドは結局、男性側テリトリーに置かれるままとなった。
「石上、起きろ、交代だ」
飛原に体を揺すられて、私は目を覚ました。上半身を起こすと、隣では乱場も同じように、汐見に肩を揺すられていた。
「何もありませんでしたか?」
私が訊くと、
「ああ、いたって静かなものだった」
飛原は答えた。隣では、ようやく乱場が起き上がり、あくびをしながら眠たそうにまぶたを擦っている。汐見は、「大丈夫か? ちゃんと起きてるか?」などと声を掛けながら、どさくさに紛れて乱場の顔やら体をしきりに触りまくっていた。
「じゃあ、あと、よろしくな」
「おやすみー」
飛原と汐見は、私と乱場が完全に覚醒すると、すぐにベッドに入った。
「さあ、乱場くん、三時間の辛抱だ」
「はい」
私と乱場は、ベッドに仕立てるには長さが足りなかった、幅の狭いソファに並んで腰を下ろした。
「乱場くん、正直なところ、どうなんだい。この事件を解決へ導けるような手掛かりは何か掴めているのかい?」
「石上先輩だから正直に話しますけど、全然です」
「そうか……」私は複雑な気持ちになったが、「でも、私は信じているよ、名探偵乱場秀輔が見事、この『妖精館殺人事件』を解決に導いてくれるってね」
努めて明るい声で言った。乱場はこちらを向いて少し笑みを見せると、
「この事件にタイトルを付けるのなら、『妖精館殺人事件』ですか。古風なネーミングですね」
「私はクラシカルなのが好みなんだよ」
「石上先輩らしいです。その事件は、石上先輩の一人称で記録されるわけですか?」
「当然だよ。名探偵の事件記録小説といえば、ワトソンの一人称が最適かつ王道さ」
「やっぱり、石上先輩は古風です」
乱場はもう一度笑った。
「乱場くん、犯人、霞さんを殺害した犯人は、やはりこの中にいると思っているのかい?」
彼はすぐには答えなかった。一度、寝静まっている皆の簡易ベッドを見回してから、
「……はい」
そう言い切った。
「そうか……」
「外部犯というのは、やっぱり考えがたいと僕は思います。ただ……」
「ただ?」
「さっき石上先輩が言った、『この中』という括りを、この妖精館全体に広げるのであれば、無視できない人物がひとりいます」
「それは……」
「ええ。笛有庸一郎さんです」
「彼は霞さんの父親だよ。まあ、親子で殺人者と被害者なんていう組み合わせの事件は、それこそ枚挙に暇がないほど起きてはいるけれど」
「はい。でも、動機は別にして、僕は庸一郎さんの隠している何かが気になるんです」
「ああ。それは確かに。彼は確実に私たちに何かを隠している。あの怪しい電話機といい」
「そうです。そう考えると、彼がやけに他人のことを拒むのは、ただ単に人嫌いというだけが理由ではないのかもしれませんね。そのことが今度の事件に関係があるかまでは、まだ分かりませんけれど――」
乱場が急に声を止めた。その理由は私にも分かった。物音がしたのだ。私は乱場と視線を合わせてから、耳を澄ませてみる。……足音。何かの音。これはドアの開閉音か? また足音。何かの物音。これは何だろう?
「――待て、乱場くん」
私は手首を掴んで、立ち上がった乱場を止めた。
「石上先輩は、ここに残って、みんなのことを頼みます」
「何を言ってるんだ。ひとりじゃ危険だぞ」
「危険も何も、僕ら全員がここにいる以上、あの物音を立てているのは庸一郎さん以外あり得ません。大丈夫ですよ」
「彼が犯人かもしれないだろ」
「様子を見てくるだけです。案外、空腹をおぼえて遅い夕食をとっているだけかもしれませんし」
「じゃあ、私が見てくる。乱場くんはここにいろ」
立ち上がった私は、半ば強引に乱場をソファに座らせて、物音がした方向に向かった。こうしている間も庸一郎が立てていると思われる足音は続いていたが、次第にそれは聞こえなくなっていった。遠ざかっているということなのか? 私は足取りを速めた。
廊下を走る私は、完全に物音のした方角を見失って、いや、聞き失ってしまっていた。この妖精館は奥に進むにつれ、無駄に迷路のように入り組んだ構造になっている。一度立ち止まって耳を澄ませた私は、再び何かの音を耳朶にキャッチした。が、それは先ほどまで耳にしていた足音とは明らかに違う。ごうごうという異様な音だった。これは……。
「燃えている?」
思わず私は口に出した。そう、それは何かが燃焼するときの、炎が燃えさかる音に違いないと確信した。廊下を走り丁字路を曲がると窓を見つけた。外壁に接する廊下に出たということだ。迷わず窓に駆け寄る。この時刻は当然、外は暗闇のはずだが、そうはなっていなかった。窓から覗き見える視界の端に昼間のように明るい空間がある。館を取り囲む木々の幹までもがはっきりと視認できる。それを照らしている光源は炎に違いなかった。私は窓を開けて窓枠に足を掛けると、一気に外に躍り出た。
「何をしているんですか!」
叫んだ私の声に、燃えさかる炎を前にしていた人物は振り返ったが、またすぐに炎に顔を向けてしまった。一瞬だけ見えた笛有庸一郎の横顔は、炎の明りを浴び不気味な陰影に彩られていた。




