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第8章 死の訪れ

 改めて(かすみ)の脈、心音を確認した乱場(らんば)は力なく首を横に振った。

 河野(こうの)の手から滑り落ちたカップが床に落下して、破裂音とともに砕け散ったが、その音に誰も注意を向けようともしない。全員の視線は、乱場によってそっと床に寝かせられた、笛有(ふえあり)霞の亡骸に注がれていた。

 朝霧(あさぎり)は一度立ち上がったが、すぐに目眩を起こしたように倒れ込み、汐見(しおみ)に体を受け止められた。

 村茂(むらしげ)は立ち上がりかけの中途半端な姿勢のまま停止しており、同じような体勢だった高井戸(たかいど)は、ゆっくりとソファに座り直した。

 飛原(とびはら)は右手にフォークを持ったまま微動だにしていなかった。

 足音が近づいてきた。かなり速歩(はやあし)のそれは、リビングに姿を見せた笛有庸一郎(よういちろう)のものだった。


「今の音は何です――」


 庸一郎は、床に横たえられた霞を目にして絶句する。直後、飛び付くかの勢いで娘の亡骸に駆け寄って、


「か、霞……霞!」


 声を張り上げながらその両肩を揺するが、もの言わぬ娘は、父親に揺さぶられるまま首を転がすだけだった。


「きゅ、救急車――」ようやく村茂が言葉を発したが、「電話がないのか!」


 ソファの肘掛けを拳で叩いた。汐見は懐から取りだした携帯電話を、ダイヤルしては耳に当てる動作を繰り返すが、「くそっ!」と毒突いて懐に戻した。河野も自分の携帯電話を見て、


「駄目、やっぱり圏外……」


 電波が届いていないことを確認して嘆息した。すると突然、庸一郎が立ち上がり、脱兎の如くリビングを抜け出ていった。皆、呆気に取られていたが、乱場だけはすぐに彼のあとを追って駆け出し、それを見て私も走った。振り返ると、村茂を先頭に全員も私のあとを追ってきている。

 庸一郎は廊下を走り、一階奥の部屋に飛び込んだ。乱場もドアが開け放たれたままの敷居を跨いで室内に入り、私たちもそれに続いた。そこは庸一郎の寝室のようだ。豪華なキングサイズのベッドがまず目に入った。そんなに大きなベッドが設えられていてもまだ、私たち全員が入る余裕があるほど広い。

 庸一郎は部屋の隅に設えられた戸棚を乱暴に開けると、中に手を突っ込んで何かを取りだした。螺旋状のコードに繋がれたそれは、電話の受話器のように見えた。すぐに激しくボタンを押す、いや、叩くような音が数回聞こえ、


「おい! 誰か! 出ないのか!」


 庸一郎が受話器に向かって怒声を発する。


「笛有さん!」


 乱場は飛び付き、半ば無理やりに彼の手から受話器を取り上げて耳に当てた。が、すぐに戸棚に手を突っ込む。ボタンを何度も押すような作動音が聞こえる。恐らくフックスイッチ(受話器が置かれることにより押されるスイッチ)を何度も叩いているのだろう。その動作を何回か続けたが、


「……どこにも通じていません」


 乱場は受話器を持ったまま反対の手を戸棚に手を入れて、螺旋状のコードで受話器と繋がれた電話機本体を取りだした。それは今どき珍しい受話器を上に載せておくタイプの、いわゆる黒電話に酷似していた。はっきりと「黒電話」と言い切れないのは、その電話機正面のデザインにある。通常の電話機であれば、そこにはテンキーもしくはダイヤルが配されているはずなのだが、その電話機の正面には、大きめのボタンがひとつ付いているだけだった。


「それは……電話?」


 私が訊くと、乱場も首を傾げながら、


「ええ。でも、ご覧の通り、ただの電話機ではありませんね。これは恐らく、緊急用の電話回線ですね」

「電話回線? でも、ここには……」

「はい、電話は繋がっていない。ですが、それはあくまで表向きのことだったのではないでしょうか。こんな、携帯の電波も入らない山奥に車も持たずに生活をしていて、外部との連絡手段が一切ないというのは、普通に考えてあり得ません。この館には電気は通っていますから、その電線に紛れさせて、電話回線も実は引いてあったのでしょう」乱場は、ボタンひとつだけが配された独特なデザインの電話機を見ながら、「受話器を上げて、このボタンを押せば、どこかに通じるようになっていたのですね。ボタンがひとつしかないことから考えて、この電話機、いえ、この館の電話回線が通じるのは、たった一箇所だけなのでしょう」

「一箇所だけに繋がる電話……警察か救急?」

「分かりません。ですが、現在この電話機は使用できなくなっているようです。電話線が切断されているのではないでしょうか? この電話機自体に異常は見られませんし、コードも問題なく壁に繋がっていますから、切られているとすれば恐らく、屋外の線でしょう」


 乱場が話す間、庸一郎はずっと床に両手両膝を突いて身動きひとつしなかった。


「笛有さん」村茂が前に出てきて、「どうして、こんなものがあることを黙っていたんですか。橋が流されてしまったことを知ったときに、どうしてこの電話があることを教えてくれなかったんですか。いえ、そもそも、どうしてこの屋敷に電話はない、なんて嘘を……」


 熱っぽく語りかける村茂だったが、庸一郎は彼の言葉など耳に届いていないかのように、じっと項垂(うなだ)れているだけだった。


「村茂さん、彼を責めても仕方がありません」乱場は村茂と庸一郎の間に割って入り、「どのみち、この電話も使えなくなってしまっています。外への連絡手段がないという状況は、何も変わっていないんですから」



 私たちはリビングへ戻った。

 庸一郎は一向に寝室から動こうとはしなかったが、乱場の「霞さんの遺体を確認しないと」の言葉に反応して、足をふらつかせながらも立ち上がったのだった。


「……外傷はないわ」


 河野が言った。汐見、朝霧と三人で霞の遺体を検めてもらった結論だった。三人で、とはいっても、朝霧は手が震えて満足に霞の体に触れることもままならなかったため、実際は河野と汐見の二人で行ったようなものだったようだ。


「そうすると、やはり……」


 乱場は床に散乱したカップの破片と、こぼれたコーヒーに視線を動かした。


「毒……」


 彼の視線を追った村茂が呟いた。


「彼女の、霞さんの飲んだコーヒーに毒が入っていたというの?」


 河野の言葉に乱場は頷いた。


「あるいは、ケーキとか」


 高井戸は、床に落ちて無残な形に潰れたショートケーキを見た。乱場もそれに目をやると、


「誰か、霞さんが倒れる瞬間を見た人はいますか?」


 目撃者を(つの)った。が、私も含めて皆は首を横に振る。


「物音がして、気が付いたときにはもう、霞さんは床に倒れていたんだ」


 村茂のこの言葉には、今度は全員が首を縦に振った。次に河野が、


「霞さんの座っていた椅子は、私たちが囲んでいたメインのテーブルから離れた位置にあったから、誰の視界にも入っていなかったんじゃないかしら」


 これにも全員が頷く。

挿絵(By みてみん)

「そうですか」と乱場は、「僕も気が付いたのは、すでに霞さんが倒れてしまったあとで……」そう言って少し沈黙してから、「今、残っているコーヒーとケーキは、いくつありますか?」


 中央のメインテーブルと、ソファの横にあるサイドテーブルを順に見た。サイドテーブルは二つあったが、そのうちのひとつは霞が倒れる際に巻き添えをくらって転倒してしまっている。現在、床に散乱しているのは、そのテーブルに載っていたカップと皿とグラス、そして、その中身であるコーヒーとケーキと水ということになる。全員が視線を左右に這わせて、メインテーブルと残されたサイドテーブルにあるコーヒーカップとケーキの載った皿を数えていく。


「コーヒーカップが七、ケーキが八、ね」


 河野がいちはやく結果を口にした。確かに彼女の言葉どおりだ。カップはメインテーブルに六つ、サイドテーブルにひとつ。皿はメインに七つ、サイドにひとつ残っている。


「水が入ったグラスも、六つあるぞ」


 村茂が言った。確かに、コーヒーとケーキの他に、透明なグラス――言うまでもなく薬を飲んだ人が使ったものだ――も六つ残されている。これはメインに五つ、サイドにひとつという分配だった。転倒しなかったサイドテーブルには、カップ、皿、グラスがひとつずつ載っており、当然それ以外は全てメインテーブルの上にあるということになる。


「このサイドテーブルにあるのは、全て俺のだ」


 そう言ったのは飛原だった。彼の声を満足に聞くのは実に久しぶりな気がする。皆の輪からひとり外れたようにしていた飛原は、サイドテーブルひとつを独占して、そこに自分の分のものを載せていたのだ。まるで隔離するように。

 乱場は、改めて私たちの人数を数えていき、床に散らばった食器の破片も見て、


「コーヒーカップ、ケーキが載った皿、そしてグラス、それぞれひとつずつが、倒れたサイドテーブルの上に載っていたということですね。倒れたサイドテーブルを使っていたのは誰ですか」

「霞さんだ」


 私が答えると、それを補足するように、


「ああ、彼女も、飛原と同じように、倒れたサイドテーブルをひとりで使っていたと思う」


 村茂が発言した。


 乱場はすぐに、


「数が合わないですね。残っているカップは七つ、僕たちは九人、ということは、割れたカップは二つあることになるはずですが。破片の量から見て、倒れたサイドテーブルにコーヒーカップは一つ――当然、霞さんが使っていたもの――しかなかったようですから」

「あ」と声を上げて河野が、「私よ。落として割ってしまったの……その……霞さんが、あんなことになったから、驚いてしまって……」


 そうだった。乱場が霞の死を確認したことを告げた直後、彼女は手にしていたカップを取り落としてしまっていた。霞死亡時に河野が座っていたソファの前には、砕けたコーヒーカップと、こぼれたコーヒーが広がっていた。「そうでしたね」と乱場もそのことを思い出したのか、納得したように頷いて、


「霞さんが口にしたのは、自分の飲食物だけですね? 他人のものに手を付けたということは……」

「なかった、と思う」


 高井戸が言うと、乱場はそれを確認するように全員の顔を順に見回した。誰も否定意見を述べるものはいない。すると村茂が、


「ということは、やっぱり霞さんの死因となった毒物は、彼女のコーヒー、ケーキ、水のいずれかに混入されていたということか?」

「はい、ですが」と乱場は村茂の考えに一旦は賛同したが、「僕は、毒物が入っていたのはコーヒーで間違いないと思います」

「どうして?」

「霞さんの遺体からは、僅かにですがアーモンド臭が漂っていましたし、死亡時の苦しみ方、即効性からみて、使われた毒物はシアン化カリウムと断言していいと思います」

「シアン化カリウム……青酸カリというやつだな」


 高井戸がシアン化カリウムの通俗的な呼び名を口にした。


「はい」と乱場は続けて、「青酸カリ。シアン化カリウムというのは、強い苦みを持つ物質です。無味の水や甘いはずのケーキに混ぜたら、舌に触れたとたん、苦みを感じてすぐに口に入れるのをやめてしまうはずなんです。この場にある飲食物で、その苦みを誤魔化せるのはコーヒーだけです」

「そういうことか。詳しいな、乱場くん」


 高井戸が納得とともに感心した声を上げた。乱場は、「はい」と答えて、ちらと私のほうを見た。乱場が今披露した毒物に関する知識は、かつて乱場が事件に関わった際、青酸カリの知識が必要になったことがあったため、ワトソンである私が調べて彼に教えたものなのだ。


「確かに、霞さんが倒れる直前に、コーヒーカップが割れる音がしたわ。コーヒーを飲んだ直後に毒が回ったから、彼女、カップを取り落として……」


 河野もそのときの状況を口にした。


「どうして、そんなものが霞さんのコーヒーの中に……」


 高井戸が目を伏せる。


「もしかして、俺たちのコーヒーの中にも?」


 村茂が、ぎょっとした様子でテーブルに残っているコーヒーカップ群を見回した。皆も一様にテーブルを見る。カップに残るコーヒーは、各人飲んだ量が違うため残留量はまちまちだが、どれもがわずかでも口を付けられているものばかりだった。


「頭痛や目眩、嘔吐感のある人はいませんか?」


 乱場が皆の顔を見て確認する。


「シアン化カリウムは致死量を飲むと全身が痙攣してほぼ即死してしまいますけれど、致死量未満でも飲んでしまったら、そういった症状が自覚されるはずなんです」


 私たちは互いに顔を見合わせる。皆は口々に、自分は大丈夫だ、という意味のことを呟く。顔色が優れないものも何人かいるが、これは不安などの心理的要因によるものだろう。乱場は、ほっとしたように嘆息すると、


「では、やはり毒は、霞さんの飲んだコーヒーにのみ混入されていたようですね……」


 倒れたサイドテーブルに近づいて、床にこぼれたコーヒーの染みを見る。


「こぼれている量から見て、霞さんはコーヒーをほぼ飲みきっていたようですね。シアン化カリウムの致死量は200から300ミリグラム。コーヒー一杯に十分溶かしきれる量です」

「ちょっと待ってくれ」村茂が声を上げ、「どうして、霞さんのコーヒーにだけ毒が入っていたっていうんだ? あのコーヒーは、皆同じコーヒーメーカーから抽出されたもののはずだろ」


 言い終えると河野を見た。台所でコーヒーを用意したのは霞と彼女だ。


「そうよ」と河野は頷いて、「九人分、全部続けてコーヒーメーカーから注いだわ。途中で豆を入れ替えたとか、そういったことは一切なかったわ」

「砂糖やミルクは?」

「入れてない。ブラックのまま持って来たのよ」

「コーヒーは、どういう順番で配られたんだ?」


 これを訊いたのは高井戸だ。


「そんなの適当よ。どんどんテーブルに置いていって、みんながそれぞれ自分の分を手に取っていったはずよ」

「そのときに……」高井戸は一瞬言いあぐねるように言葉を止めたが、「誰かが隙を見て毒を入れたんじゃないか?」


 全員の顔を見回した。


「ちょっと! それ、どういう意味?」


 河野は声のトーンを上げる。


「決まってるだろ。俺たちの中に、霞さんを殺したやつがいる――その可能性があるってことだ」


 高井戸は「殺したやつがいる」と決めつけかけたが、河野の反応を考慮して「可能性がある」と言い直したらしい。


「どうしてよ……」


 今度の河野の声は、普段より数段トーンが落ちたものとなった。


「とするとだ――」

「村茂さん!」

「まあ、聞いてくれ」村茂は、ゆっくりとした口調で河野を制してから、「高井戸の言うことが正しいとすると、犯人は、ここへ青酸カリなんていう物騒なものを持ち込んだということになるな。つまり、最初から霞さんを殺すつもりで、この妖精館に乗り込んだということになる。青酸カリなんて、そこらで簡単に手に入る代物じゃないからな」

「そんな……だって、ここにいる全員、霞さんとは初対面のはずでしょ。何の理由があって殺さなきゃならなかったっていうのよ」

「村茂さん、そうと決めつけるのは早計かもしれませんよ」と高井戸が、「もしかしたら、犯人は毒をこの妖精館で入手したのかもしれません」

「だったとして」さらにまた河野が、「霞さんを殺す動機は、なに?」

「動機はなかったのかもしれない」

「なんですって」

「霞さんが殺されてしまったのは、犯人のミスという可能性もある」

「ミス……」

「ああ、犯人は、霞さん以外の誰かに毒入りコーヒーを飲ませるつもりだった。が、手違いから、犯人が毒を混入したコーヒーは霞さんの手に渡ってしまったんだ」

「そんな……」

「落ち着け、高井戸」村茂が今度は高井戸を制して、「どれもこれも、みな憶測でしかない。今確かなのは、霞さんが毒入りコーヒーを飲んで死亡してしまった、かつ、毒は霞さんが口にしたコーヒーにしか入っていなかったとみられる、ということだけだ。もしかしたら、俺たちの分のコーヒーにも、体調に異変を生じさせない程度のわずかな青酸カリが入っていたのかもしれんしな」

「でも、そんなことは確かめようがありませんよ」

「そうだ。だから、ここは待とう」

「待つ、って」

「外部との連絡が取れるようになるのを、だよ。そうすれば、警察が乗り込んできて、残されたコーヒーからこの屋敷まで、つぶさに調べることになる。毒が何に混入されていたのか、他に毒が保管されているのか、いないのかまで。そうすれば全てがはっきりするさ。乱場くんは、霞さんの死の直前の症状やアーモンド臭から、使われた毒が青酸カリだと断定したが、それも霞さんの遺体を解剖してみれば分かるはずだ」


 そこまで村茂が言ったとき、がたりと音がした。霞の遺体の横で膝を突いていた庸一郎が立ち上がったのだ。


「警察が……来る」

「そ、そうです」


 村茂は庸一郎の声に答えた。が、庸一郎の言葉は、誰に問うともない独り言のような呟きに等しい口調だった。彼もそれを察知していたのだろう。答える声に若干の戸惑いがみられた。


「とりあえず」と今度は汐見が、「霞さんをベッドにでも寝かせてやらないか? あのままじゃ、あまりにかわいそうだぜ」


 霞の遺体はリビングの床に横たえられたままでいる。


「警察が調べるのであれば、ご遺体はあまり動かさないほうがよいのではありませんか?」


 朝霧が言ったが、それには乱場が、


「いえ。河野さんたちに外傷の有無を調べてもらうため、もう霞さんの体はかなり動かされた状態になっています。死亡時の状況は、ここにいる僕たちが証言できますから、あとは解剖して死因を特定するだけなので問題ないでしょう。丁重にベッドに運ぶべきです」

「それじゃあ」


 と村茂と高井戸が腰を浮かせ駆けたが、


「私が運びます」


 庸一郎に拒否されてしまった。彼は、その痩躯のどこにそんな力があったのかと思うように、霞の遺体を両腕で抱え上げると、まっすぐにリビングの出入り口に歩いて行った。


「俺たちも行こう」


 村茂が立ち上がった。「そうね」と河野も、


「せめて、霞さんのご冥福を祈らせてもらいましょう」


 そう言って腰を浮かせ、他の全員もそれに倣った。霞の亡骸を抱えた庸一郎を先頭に私たちは廊下を進む。まるで葬列だった。途中、台所によって冷凍庫から保冷剤を持って来た。霞の遺体の周りに並べ、少しでも痛むのを防ぐためだ。ベッドに横たえられた霞を前にすると、私たち全員は手を合わせた。それが終わると、庸一郎は自分の寝室に籠もってしまい、私たちは再びリビングに戻ってきた。

 全員が深いため息をついてソファに座る。ひと息ついたところに、村茂が、


「それにしても、凄いな君。朝の水門へ行く道の足跡のことといい。何者なんだい? ただの高校生じゃないだろう」


 乱場を見て言った。


「彼、乱場秀輔(しゅうすけ)は、我が本郷(ほんごう)学園高校が誇る名探偵なんです」


 私の言葉に、村茂、高井戸、河野の三人は、ほほう、と声を上げ、隠れるようにソファにじっとしていた飛原は少しだけ体を震わせた。

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