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ちょきんぶぅ  作者: やばくない奴
怠惰編
8/31

だらしがないが迷いもない

 午後一時の、とあるアパートの角部屋。その一室は床が見えないほどに服や本が散らばっている。この部屋に足場があるとしたら、それは敷き布団の上だけだ。その布団の上で横になりつつ、一人の少年は漫画を読んでいる。それと同時に、彼は部屋の外にも耳を立てている。

 そして、部屋の扉の奥から足音が聞こえるや否や、少年は狸寝入りをした。



泰造(たいぞう)! いい加減部屋を掃除しなさい!」



 そんな一喝と共に、小太りの中年女性が扉を開けた。彼の母親だ。しかし、泰造は寝たふりを続け、彼女の指示を無視している。

「いつもいつも寝てばかりじゃないか! どうせ本当は起きてるんだろう?」

「…………」

 無反応だ。

「…………頬にキスするよ?」

「そ、それは嫌だ!」

 反応した。世にも恐ろしい警告を前にして、泰造は狸寝入りをやめざるをえなかった。



 彼は八角泰三(やすみたいぞう)――――息をするように惰眠を貪る、ぐうたらな男子中学生だ。その怠惰は身だしなみにも表れており、彼は基本的にボサボサに跳ねた髪を整えない。泰造の母も、彼の怠けぶりには心底手を焼いている。

「毎日少しずつでも掃除をすれば、こんなに散らからないのに」

「めんどくせーな……俺の部屋なんだから別に良いだろ」

「出来ることからやらない奴はね、出来ないことがいつまで経っても出来ないものだよ。成功者も、そこそこの収入を得ているビジネスマンも、先ずは些細な目標をこなしてから徐々に大きなことに取り組むんだよ」

「俺は好きなことには夢中になれるから良いの。掃除には夢中になれない、ただそれだけだ。男は原始時代から狩りの生き物だ…………今も昔も、男はただ一つの目標だけを追うように出来てんの」

 物は言いようだ。

「ああ言えばこう言う。だったら、アンタは狩りの一つや二つでもしているのかい?」

「もちろん。先進国は情報化社会だろ? 俺は日々ケータイにかじりついて情報を狩ってるよ」

 泰造は、欧米のコメディアンがウィットに富んだジョークを言い放った直後のように誇らしげな顔をしている。

 母親はとうとう怒りを覚えた。

「夕方までに部屋を片付けないと、今日のあんたの夕飯、玉ねぎだけにするよ!!」

「うわキッツ…………」

「私とお父さんはすき焼きを食べる予定だよ。あんたも松坂牛を食べたければさっさと掃除を終わらせることだね」

「マジかよ…………」

 これは部屋の掃除をしないわけにはいかないだろう。玉ねぎ地獄と掃除の労力を秤にかけ、泰造はいよいよ重い腰を上げた。



 それから五分もしないうちに、泰造は携帯電話とのにらめっこを始めていた。



(ちょっとくらい休憩しても良いだろ!)

 この調子で夕方までに掃除を終えるのは難しそうだ。

(俺にも漫画の金持ちみたいにメイドとか執事がいればなぁ…………そしたら俺は椅子に座ってるだけで良いし身の回りのことはなんでも他人にやらせられるのに)

 彼は頭に夢物語を思い浮かべつつ、携帯電話の画面をスワイプしていた。彼はトークアプリで友達と話したり、SNSで愚痴を吐いたりしていた。


 その時、彼の背後で、窓を叩く音がした。

「ん?」

 泰造は音のする方へと振り向いた。そこにいたのは、明らかに重力を無視しながら窓に張り付いているちょきんぶぅだ。彼はちょきんぶぅの張り付いていない方の窓を開け、そいつを室内に招き入れた。



     *



「なるほど。ま、注意事項は大体把握したわ」

 ちょきんぶぅの話を聞き、泰造は願い事カタログを斜め読みした。

「それじゃ、願い事をじっくり…………」

「リスクなんてどの願い事にもあるだろ。七千円の『身の回りのことをなんでも無償でしてくれる存在を所有出来る』で頼む」

「き、君は本当に雑だぶぅ…………」

 彼の決断の早さに、困惑せざるを得ないちょきんぶぅ。それに構うこともなく、泰造はそいつの背中に五千円札を二枚入れる。ちょきんぶぅは、背中から千円札を三枚吐き出した。

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